日本銀行が3月のマイナス金利解除に続いて、7月に追加利上げを決めました。住宅ローン利用者の7割以上が選ぶ変動型金利は、日銀による政策金利引き上げの影響を受けます。住宅ローン金利は日銀の利上げで今後どこまで上がるのか。住宅ローン比較診断サービス「モゲチェック」を運営するMFSのCOO(最高執行責任者)で、住宅ローンアナリストの塩澤崇さんに話を聞きました(取材は8月16日に行いました)。

住宅ローン変動金利が上がるのは来年1月以降

――日銀が7月の金融政策決定会合で政策金利を0.25%程度にする利上げを決定しました。これを受けて、三菱UFJ銀行や三井住友銀行、みずほ銀行が住宅ローンなどの基準となる「短期プライムレート」の引き上げを発表し、9月2日に年1.475%から1.625%に上げます。地方銀行にも同様の動きが広がっています。住宅ローン金利は今後どうなりますか?

 住宅ローンの変動金利は各銀行が定める基準金利から借り手に応じて金利を一定程度引き下げる優遇幅で決まります。借り手の返済能力が高ければ優遇幅が大きくなりますが、この優遇幅は審査時に決まり、完済するまで変わりません。日銀の利上げで影響を受けるのは基準金利です。

 基準金利は短プラに1%上乗せするのが一般的なので、短プラが上がれば基準金利も上がっていきます。短プラは銀行が優良企業に貸し出す際の最優遇金利(プライムレート)のうち、1年以内の短期金利を指します。短プラが上昇し、基準金利が上がると、住宅ローンを変動金利で返済している人の金利負担が増えることになります。

 住宅ローンの変動金利がいつから上がるかということですが、半年ごとに適用金利を見直すものが多く、4月と10月時点で基準金利が上昇していれば、その3カ月後の住宅ローンの返済から新金利が適用されます。

 各行が日銀の7月の追加利上げ決定後に短プラの引き上げを発表しているので、10月には基準金利も上がる見込みです。来年1月以降の住宅ローンの返済から金利が上昇するとみています。

 ただ、来年1月以降にいきなり毎月の返済額が増えるわけではありません。多くの銀行は「5年ルール」と「125%ルール」を採用しています。5年ルールは金利が上昇しても5年間は毎月の返済額を据え置くものです。125%ルールは、5年ルールの期間が終わった6年目に返済額が増えても、今までの返済額の1.25倍に抑える措置です。

 注意が必要なのは、毎月の返済額は5年間変わらず、6年目からも返済額の増加は抑えられるのですが、銀行は毎月の返済額のうち金利を増やして元本を減らす操作をしていることです。元本の返済が進まなくなるので、金利負担の総額は増えることになります。

次の焦点は9月と10月、住宅ローンの新規貸出金利が上がるか

――5年ルールや125%ルールがあると金利の負担総額が増えることになるので、余裕がある人は早く繰り上げ返済した方がいいようにも思いますが、どう考えますか?

 住宅ローンは借り続けるメリットが大きいので、繰り上げ返済でそれを手放すのは非常にもったいない。繰り上げ返済に使うお金があるなら、投資に回した方がいいというのが私の持論です。

 住宅ローン金利が上がるといっても、まだまだ低い水準です。今の経済情勢では、繰り上げ返済で削減できる金利負担よりも、投資で得られる利益の方が多く出ると見込めます。

 逆に繰り上げ返済をした方がいいのは住宅ローン金利が投資の利回りを超えている場合です。住宅ローン金利が3%や4%になって、長期積立分散投資の利回りが2%の場合には、住宅ローンの繰り上げ返済にお金を使った方がいいと思います。

 また住宅ローンを組めば、住宅ローン減税(※)という節税効果が高い国の制度も利用できます。それに住宅ローンを金融機関で借りるとほとんどの場合、団体信用生命保険(※)への加入が必須となります。住宅ローン契約者が死亡や高度障害状態になって支払いができなくなった場合に、住宅ローン残高をゼロにするもので、非常に優れた保障となっています。

 住宅ローンはインフレによる恩恵も受けられます。インフレが進めば、モノの価値は上がる一方で貨幣の価値は下がっていくので、ローンを返済する実質的な負担は減っていきます。その一方で株や不動産などの資産価値はインフレで上がりやすい特徴があり、その恩恵を得られます。繰り上げ返済をすると、そういったメリットを手放すことになってしまいます。

※住宅ローン減税 新築住宅の場合は最大13年間、中古住宅は最大10年間、年末時点の住宅ローン残高の0.7%分を所得税から控除することができます(税額控除)。環境性能が高い住宅や子育て世代などの場合は控除額が大きくなります。住宅ローン減税を受けるには床面積や所得の要件などがあります。

※団体信用生命保険 住宅ローンを返済中に契約者が死亡したり、高度障害になったりした場合に、住宅ローンの借入残高を支払う必要がなくなります。家族は引き続き家に住み続けることができます。住宅ローンの契約と同時に加入する場合がほとんどです。

――塩澤さんは、住宅ローン変動型金利ですでに契約している人の金利は上がる一方で、新規に契約する貸出金利はあまり上がらない可能性を指摘しています。

 住宅ローンを変動型ですでに借りている人の金利は上がる一方、これから住宅ローンを新規に組む人の金利はあまり上がらない可能性があります。

 7月の日銀の利上げによって、変動金利ですでに借りている人の金利が0. 15%上がることはほぼ既定路線ですが、新規の住宅ローンの貸出金利はそうとも限りません。もしすでに借りている人は新規貸し出しで今より金利が低い住宅ローンがあったら、借り換えを考えていくのがいいと思います。

 私は、銀行の金利競争が激化しているので、住宅ローンの変動金利の基準金利を上げても、新規貸し出しの場合は基準金利の上昇分全てを適用金利に転嫁しないのではないかと考えています。

 銀行のビジネスモデルを考えると、金利で得られる収益は今の低金利環境で非常に低い。一方で、住宅ローンの融資実行時には元本の2%程度を融資手数料として借り手から受け取ります。この手数料が銀行の大きな収益源となっています。

 そうすると、既存の住宅ローン貸し出しの適用金利には基準金利上昇分を全て転嫁する一方で、新規貸し出しは融資手数料が入るので金利の上昇幅を縮めてでも、新規顧客を確保したい。この融資手数料は、融資実行時しかもらえません。だから、新規実行件数をどんどん増やす戦略を採る銀行が出てもおかしくはないのです。

 この判断には各銀行の戦略が色濃く反映されます。メガバンクやネット銀行が9月30日もしくは10月1日に新規貸出金利を発表するので見ものですね。

 繰り返しになりますが、日銀が利上げしていく中で、自分が今借りている住宅ローン金利が上がっても、新規貸し出しで今より低い金利があったら、ローンの借り換えを積極的に考えていきたいです。