前編では、金融教育などにも携わる経済アナリストの森永康平さん、山あり谷ありの投資人生を送ってきたカリスマ投資家のDAIBOUCHOUさん、YouTuberとしても活躍するミニマリストゆみにゃんさんの3人をお招きし、「過去、自分が欲しかったもの」「それによって得たもの、失ったもの」についてお話を伺いました。

 後編では、過去、さまざまに悩んだ末に、納得かつ充実した生活にたどり着いたからこそ見える「欲しいものへの最短距離」と、今だから言える「自分が今、本当に欲しいもの」についてお話を伺っていきます。

自分の「軸」を持つことが大事

トウシル:ゆみにゃんさんもDAIBOUCHOUさんも、1度手にしたものを手放したり、失いかけたりしましたが、今はご自身が思い描いていた理想に近いところにたどりついているように思えます。一方で、途中で目的を見失い、袋小路にハマってしまうような人も少なくないでしょう。森永さんは、その違いはどこにあると思われますか。

森永さん:先ほど、ゆみにゃんさんが、「周りの友人や同僚に負けまいとブランド品で着飾ってみたりしたけど、満足感は得られなかった」とおっしゃいましたが、それって示唆に富む話だと思うんです。つまり、周りと比べることで、自分の価値や存在意義を確かめるクセがついている人は、いつまでたっても幸せにはなれないのではないかと。

 なぜかというと、上には上がいるからです。誰かに勝ったとしても、別の誰かには勝てなかったりする。だから、常に何かを追い求めている状態であり、心が満たされることがない。そういう意味では、自分の「軸」を持っているかどうかがポイントになるのではないでしょうか。

トウシル:人の物差しで自分の幸せを測る癖がついてしまっているということでしょうか。

森永さん:はい、そういうことです。ここまでお話を聞く限り、ゆみにゃんさんもDAIBOUCHOUさんも決してぶれない「軸」を持っているように思います。

 ゆみにゃんさんは、自分にとって大事なものは何か、しっかり掌握されていて、それ以外のものは切り捨てている。だから、周りの雑音に惑わされることなく、幸せを追い求めることができる。

 DAIBOUCHOUさんは、株式市場は長期的には発展するという、ある種の信念を持っているので、今回のような暴落が起こっても動じることなく、フルポジションを維持していけるのだと思います。

DAIBOUCHOUさん:いえ、さすがに今回は動じました(笑)。

森永さん:それはそうでしょうけど(笑)。でも、それで投資スタイルを変えるとか、そういうことはされてないですよね。

 あと、DAIBOUCHOUさんに関しては、個人投資家の間で、絶大な信頼を得ていらっしゃいますよね。投資の勉強会などで何度かご一緒させていただきましたが、多くの人からリスペクトされているのがよく分かりました。それって、ただ稼ぎがスゴいからではないと思うんです。

 DAIBOUCHOUさんは、生き馬の目を抜く株式相場の世界で、何十年も投資を続けている。度重なる試練にさらされながらも、そのたびによみがえり、今日まで生き抜いてきた。少しでも株をやったことのある人なら、それがいかにスゴいことが分かるので、誰もが敬意を抱くのだと思います。

 これは僕の勝手な臆測なんですが、DAIBOUCHOUさんは、今は単に資産を増やしたくて投資しているのではないんじゃないですか? 自分が信念を持ってやってきたことを、みんなが注視してくれる。だから、ここで立ち止まるわけにはいかない。やれるところまでやってみたいという思いがあるのでないでしょうか。

DAIBOUCHOUさん:私自身は、リスペクトされているなんてみじんも思っていませんが、おっしゃる通り、自分がやってきたことを貫き通したい、という思いはあります。このまま投資に集中していると、何十年か後にはより多くの資産を築くことができると思います。

 簡単には実現できないのですが、投資家である限りは大きな山を目指してみようと。その思いが投資を続ける原動力になっているのは事実でしょう。

トウシル:森永さん、お二人のようなブレない「軸」を持つにはどうしたらいいのでしょうか。

森永さん:とにかくいろいろなことを経験することでしょうね。例えばゆみにゃんさんに憧れて、自分もミニマリストになろうと考える人は多いと思います。しかし、ゆみにゃんさんのように徹底できる人は少ないでしょうし、何かあったら、あっさりやめてしまいがちです。

 それは、他人の「軸」を取り入れただけであって、自分の「軸」になっていないからです。ゆみにゃんさんは、20代の頃、真逆の生活をしていたし、いろいろと辛い思いもされている。だからこそ、自分の中に「軸」ができ、今の生活スタイルにたどり着いたのだと思います。

トウシル:若いうちは無理に「軸」をつくろうとせず、失敗含め、いろんな経験を積むことが大事なんでしょうね。そうするうちに、心から共感できたり、幸せを実感できるものと出会える。それを突き詰めていくと「軸」が形成されていくのかもしれません。

森永さん:はい、そう思います。

暴走する欲望をいかに飼い慣らすか

トウシル:本当に欲しいものをつかみ取って幸せになるには、自分の「軸」を確立させることが大事だとよく分かりました。とはいえ、人間には「欲」があります。「欲」に振り回された挙げ句、勝ち取ったものを失うということもしばしばあります。時として暴走する欲望をいかに飼い慣らすか。とても難しいテーマだと思いますが、そのアドバイスをいただけますか。

DAIBOUCHOUさん:そもそも投資というのは「欲」との戦いみたいなものなんですね。投資は、続けることが何より大事であり、暴落したからといって、世界はおしまいだ、と思って全てをぶん投げたら、その時点でアウトです。

 じゃあ、続けるには何が必要かといったら「欲」なんですよ。もっと稼ぎたい、お金を増やしたいという欲望は絶対に必要です。けれど、それが強すぎると、取り返しのつかないことになりかねない。「欲」は強すぎても弱すぎてもいけない。バランスが大事なんです。

トウシル:DAIBOUCHOUさんでもその案配は難しいのでしょうか?

DAIBOUCHOUさん:それはそうですね。今年は円安が進み、借金してでも株を買ったほうが有利だったので、信用取引を多めにしたんです。その結果、今回の暴落で、多大なダメージを負いました。なるべくしてなった結果で、納得はしているのですが、過去に何度も失敗した経験がある身としては、「もうちょっと欲望を抑えるべきだった」とも思います(笑)。

トウシル:欲望をコントロールし、失敗を回避するにはどうすればいいのでしょう。

DAIBOUCHOUさん:投資に関していうと、一つは常に足元に目をやることでしょう。例えば、相場がいいときって、銘柄を見る目がどうしても甘くなってしまうんです。ポジティブな面ばかりに目が行き、ネガティブな面を見落としがちになる。それが後悔や失敗につながったりするんです。

自分にとって心地よい情報だけを選んでしまいがちになるのが人の常。ネガティブな情報にもきちんと耳を傾けることが、欲望をコントロールするカギになる、とDAIBOUCHOUさん。

トウシル:ゆみにゃんさんは、20代前半の頃は、まさに欲望に振り回され、買い物依存症に陥っていたわけですが、振り返ってみて、なぜ抑制できなかったと思われますか?

ゆみにゃんさん:ただ、あの頃は、自分では欲望が暴走しているとは思っていませんでした。最新のiPhoneが出たんだから買うっきゃない、デパートの福袋はおトクなはずだから中身がなんであれ買うべきだ、というふうに何か理由をつけて買っていました。

トウシル:理由を無理やり探して、自分の行動を正当化していたんですね。

ゆみにゃんさん:はい、実際にはまったく必要じゃないものを買ったりしていたわけですが。

トウシル:その後、自分の欲望を見事に飼い慣らし、欲しいものを着実に手に入れるようになりましたね。変わることができた理由は何だったのでしょうか?

ゆみにゃんさん:家計簿をつけ始めたことが大きかったですね。試しにアプリで家計簿をつけてみたら、月に60万、40万と使ってる月があったんです。そこで、お金が貯まらないと会社の先輩に相談したら、「それは使いすぎだからだよ!」と言われて、自分が節約していなかった、ぜいたくしていたんだと気づけたんです。

 それ以降、家計簿をつけていますが、これは大きな転機になりました。自分がいかに無駄遣いをしているかに気づき、お金の使い方を見直すようになりました。

家計簿をつけ始めて、ある意味自分が「壊れていた」ことに気づいた、というゆみにゃんさん。他人と比べる必要はないが、自分の等身大を見つめ直すためには、数字での物差しも有効。

トウシル:なるほど、数値化してみるのは手かもしれませんね。お二人のお話を伺って、森永さんはどう思われますか?

森永さん:自分が欲望に走りすぎていると感じたときとか、自分の行動を数値化というか、定量化してみるのはいいかもしれません。ただ、僕は欲望というのは、消せばいいというものではないと思っています。

 DAIBOUCHOUさんが、投資を続けるには欲望が必要とおっしゃいましたが、それは投資に限ったことではありません。人にとって欲望はエネルギーの源であり、「欲」があるから辛くても頑張れるものです。欲望がなくなったら無気力状態に陥ってしまいます。

トウシル:とはいえ、コントロールすることは必要ですよね。

森永さん:一つ、僕自身が取り入れている方法をご紹介します。欲望を断つ日と、欲望を爆発させる日を分けるんです。

 僕は主として食事で試しているのですが、2週間食べたいものを我慢します。で、1日だけ食欲を爆発させる日を設ける。好きなものが永遠に食べられないと思うとしんどいですが、2週間の期限を過ぎたら、何でも食べられると思うと、けっこう我慢できるんです。

 それに、この方法にはもう一つよさがあります。1日で食べられる量って限界があるんですよ。だから、待ちに待った日がやってきて、さあ、バカ食いするぞとテーブルに向かってもそうは食べられない(笑)。健康を害するようなことにはならない。僕はこの方法で、かなりの減量に成功しました。

欲望=悪ではない、と森永康平さん。自分ルールにのっとって、欲望を開放する日を作ると、ストレスも発散でき、目標までの道のりも安定しやすい。緩急をつけるのがコツ。

トウシル:欲望を全て抑えようとせず、適度に発散させるわけですね。いいやり方ですね。

今、あなたが欲しいものは何?

トウシル:では、最後にもう一つだけ、質問させてください。皆さんは今、何が欲しいですか? 皆さんはもう欲しいものを手にされているので、すぐには思いつかないかもしれませんが、いかがでしょうか。

DAIBOUCHOUさん:お金で買えるものではないけど、一つあります。相場のリバウンド(笑)。なんとか年初の水準まで戻ってほしいですね。

ゆみにゃんさん:いくつかありますが、一つ挙げるとしたら、愛犬に、元気で長生きしてもらいたい。そのためならいくらでもお金を払います。

森永さん:僕はチャンピオンベルトですね。

一同:

森永さん:実は趣味でキックボクシングをやっているんです。アマチュア戦ではありますが、近くタイトルマッチがあるので、何としてもベルトを取りたいなと。

トウシル:昨年の9月に、MMA(総合格闘技)でデビュー戦に挑んでいらっしゃいましたよね。普段の森永さんからは想像できない、想定外の挑戦でびっくりしました。

森永さん:僕には、誰もやっていないことをやってみたいという思いがあるんです。世の中、金融や経済の専門家は多いけれど、その中で格闘技のタイトルを持っている人はおそらくいない。だったら、挑戦してみようと。そんなことをして、何が面白いんだと思う人もいるでしょうけど、僕には大いに価値があることなんです。

トウシル:欲しいものを手に入れるのではなく「要らないものを捨てる」にたどり着いたミニマリストゆみにゃんさん、「お金を増やす」のではなく「投資を続ける」ことに軸足を置くDAIBOUCHOUさん、誰もたどり着いたことのない場所への挑戦を続ける森永康平さん、全てを手に入れているように見える3人が、「今欲しいもの」が、いずれも、お金で買えるものではないということが印象的でした。本日はありがとうございました!

他人の物差しで自分を測ると、冷静さを欠いたり、自分を見失ったりしがち。長い人生、「欲しいもの」はその時々で変化するもの。形あるものや金額換算できるもの以外の、長期目線の目標を一つ、作っておくと、道中、迷ったときに立ち戻れる。

>>前編「SPECIALTALK 前編 私が過去、欲しかったもの 森永康平さん×DAIBOUCHOUさん×ミニマリストゆみにゃんさん」