TSMC

1.2024年12月期2Qは、40.1%増収、41.9%営業増益

 TSMCの2024年12月期2Q(2024年4-6月期、以下今2Q)は、売上高6,735.10億台湾ドル(前年比40.1%増)、営業利益2,865.56億台湾ドル(同41.9%増)となりました。業績好調でした。

表3 TSMCの業績

株価(台湾) 979.00台湾ドル(2024年7月23日)
株価(NYSE ADR) 160.28USドル(2024年7月25日)
時価総額 831,244百万USドル(2024年7月25日)
発行済株数 25,931百万株(完全希薄化後)
1台湾ドル 0.0305USドル(2024年7月26日)
単位:百万台湾ドル、台湾ドル、米ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:TSMCは台湾市場に株式を、ニューヨーク市場にADRを上場している。ここではADRの株価によってPERと時価総額を計算した。
注3:TSMCのADRは普通株5株からなる。
注4:会社予想は予想レンジの平均値。

2.分野別売上高、テクノロジー別売上高

 分野別売上高の前四半期比を見ると、AI関連需要の強さを反映して、最も売上構成比が大きいハイパフォーマンスコンピューティング向け(HPC向け。パソコン向け、サーバー向け、AI半導体などが入る)が前四半期比28%増と大きく伸びました(売上構成比は今1Q46%→今2Q52%)。AI半導体の寄与が大きかったと思われます。ちなみに、エヌビディアのAI半導体「H100」「H200」「BLACKWELL」はTSMC4ナノ(5ナノの拡張版)、AMDのAI半導体「Instinct MI300シリーズ」はTSMC5ナノ、6ナノで生産されています。

 一方で、スマートフォン向けは同1%減となり、売上構成比は同38%→33%となりました。IoT、自動車、デジタル民生機器なども前四半期比で増加しましたが、売上構成比が低いため、全体への寄与は小さいものでした。

 テクノロジー別売上高を見ると(グラフ5、表5)、3ナノが前四半期比ほぼ倍増しました。今年9~10月に発売される新型iPhone(iPhone16?)には全て最新型の3ナノチップセットが搭載されると思われます。今後はアンドロイドスマホ向けにも3ナノチップセットが搭載されると思われます。また、サーバー用CPUでは、AMDが今年後半に発売する「第5世代EPYC」が3ナノになる見込みです。5ナノと拡張版の4ナノはAI半導体だけでなく、スマートフォン、パソコン、サーバー用CPU向けに好評です。また、7ナノは、10ナノ台、20ナノ台からのグレードアップ需要が出ています。自動車向けや各種電子機器向けです。

 このように、3ナノ、5ナノの好調、7ナノの堅調は今後も続くと予想されます。これは2ナノの需要に対して大きな期待を抱かせるものです。

 ウェハ出荷枚数(300ミリ換算)は堅調に増加しています。ウェハ1枚当たり売上高は今2Qに過去最高を更新しました。AI半導体の寄与と思われます。

表4 TSMCの分野別売上構成

TSMCの分野別売上高:前四半期比

出所:TSMC開示の各四半期決算カンファレンスプレゼンテーション資料に記載された分野別売上高前期比(前四半期比)。

TSMCの分野別売上構成比

出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ5 TSMCのテクノロジー別売上高

単位:億台湾ドル、出所:会社資料より楽天証券計算

表5 TSMCのテクノロジー別売上高

単位:億台湾ドル
出所:会社開示の売上構成比より楽天証券計算

グラフ6 TSMCのウェハ出荷枚数

単位:1,000枚、300ミリ換算、出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ7 TSMC:ウェハ1枚当たり売上高

単位:1,000台湾ドル、出所:会社資料より楽天証券作成

3.楽天証券の2024年12月期、2025年12月期業績予想を上方修正する

 今3Qの会社側ガイダンスは、売上高224~232億USドル、1USドル=32.5台湾ドル、売上総利益率53.5~55.5%、営業利益率42.5~44.5%です。ここから会社予想のレンジ平均値を計算すると、売上高7,410億台湾ドル(前年比35.5%増)、営業利益3,223億台湾ドル(同41.3%増)となります。引き続きHPC向け、特にAI半導体が牽引する形で業績好調が続くと予想されます。

 今2Qまでの実績、今3Qの会社側ガイダンス、半導体市場の動向を考慮し、楽天証券の2024年12月期、2025年12月期業績予想を上方修正します。2024年12月期は前回予想の売上高2兆7,600億台湾ドル、営業利益1兆1,500億台湾ドルを、売上高2兆8,000億台湾ドル、営業利益1兆2,100億台湾ドルへ、2025年12月期は前回の売上高3兆4,500億台湾ドル、営業利益1兆5,200億台湾ドルを、売上高3兆5,500億台湾ドル、営業利益1兆5,700億台湾ドルへ各々上方修正します。

 アメリカ大統領選挙の中で、トランプ氏は、台湾、TSMCとアメリカとの関係について、台湾は我々から半導体ビジネスを奪ったとし、より一層アメリカの半導体生産能力を拡充することを主張しましたが、それがTSMCの利益に反すると株式市場に受け取られていると思われます。今回の半導体株の大きな下げの要因の一つは、このような政治的発言と思われます。ただし、TSMCがこれまでに蓄積した技術力と分厚い顧客層をいきなりアメリカにもっていこうとしても無理です。トランプ氏がTSMCの利益に反する発言を繰り返し、仮に次の大統領になったときにそのような政策を実行する場合は、アップル、エヌビディアなどアメリカの大手企業に大きなマイナスの影響が出ることになると思われます。

 また、トランプ氏の対抗馬であるハリス氏が半導体産業についてどう発言するのか、しないのかが注目されます。

 いずれにせよ、TSMCのファンダメンタルは良好であり、アメリカの次の大統領がTSMCのみならず自国経済にとっても破壊的な半導体政策をとらない限り、順調に業績拡大が続くと予想されます。

4.今後6~12カ月間の目標株価は前回の200ドルを維持する

 TSMCの今後6~12カ月間の目標株価は前回の200ドルを維持します。業績が順調に拡大していることを評価しましたが、同時にアメリカ大統領選挙に伴うリスクも考慮しました。

 中長期では引き続き投資妙味を感じます。