1ドル=150円超えの円安は均衡レートを逸脱

――円安は年内にどのぐらいまで進みますか? 1ドル=200円になるといった予測もあります。

 1ドル=155円を超す円安ドル高になったのはFRBの利下げが後ろ倒しになったからですが、均衡為替レートからすると、この円安は行き過ぎた相場です。

 FRBが現在の利上げ局面に入る前の2022年2月時点では円相場は1ドル=115円台でした。そこから日米金利差が5%まで急速に広がったことで、1ドル=150円程度まで円安になりましたが、それが金利差に見合った均衡レートです。

 米利上げが今後ないなら、円相場が1ドル=170円台や180円台、まして200円台になるとは考えられません。米国経済の競争力が半導体でいくら強いといっても、ドル高が進めば従来型産業は打撃を受けてしまいます。

 ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)から見て、今の円安はいびつです。物価が低い国の通貨は本来上がるはずです。インフレが低く抑えられていれば国際競争力が強くなります。物価の高い米国のドルより、物価が低い日本の円がさらに安くなるのは、経済原則には明らかに反していて、どこかで破裂します。

円安批判の世論高まりで、今後も「為替介入」あり得る

――通貨当局の財務省が4月29日と5月1日に円安に歯止めをかけるため、円買いの為替介入をしたのではないかと報じられています。介入の有無を明らかにしない「覆面介入」だった可能性があります。

「覆面介入」は、1回目はパウエル氏が4月のFOMC後の記者会見で追加利上げを否定した後、2回目は米雇用統計が市場予想を下回った後のタイミングでした。ともに円高に5円以上も振れたので、現時点ではベストな「介入」だったと思います。

 ただ、その後、円安への戻りが見られますが、Fedがいまだ利下げする局面ではないため、自然な動きだと思います。あくまで介入は時間稼ぎでしかありません。もし「介入」をしなかったら、円安にさらに拍車が掛かったかもしれません。そういう意味で正しい選択だったと評価します。

図:最近の対ドルの円相場(買い値)

 前回2022年の介入局面ではもっと円高に戻す効果がありましたが、当時は米国のインフレがピークアウトして、米長期金利もいったん4%台でピークを打って3%台半ばまで下降するタイミングでした。結果的に介入効果が大きくなりました。介入が効くか効かないかも米国の金利次第です。

 今後の見通しは、日米金利差はすぐには縮小しませんが、国内で円安批判の声が大きくなってきているので、岸田政権も放置できず、今後も節目節目で「介入」が入ることになるでしょう。

 円相場はしばらく(一定の変動幅に収まる)レンジ相場が続くとみています。日銀がいつ利上げに動くか、Fedの利下げのタイミングがいつになるのか、神経質な相場が続きますが、総じて動きにくいでしょう。

 円高への潮目が変わるのは夏休み明けですかね。11月には米ファンドが決算でポジションを手じまいますので、円高に弾みがつくやもしれません。

――米経済は低い失業率と高い成長率を維持しながらインフレ抑制を実現しつつありますが、米国がこれだけ高金利にもかかわらず実体経済の堅調が続いている要因はどのように分析されますか?

 何といってもデジタル経済の強さです。米商務省の分析で2017〜2022年の前年比の平均伸びは7.1%でGDP(国内総生産)の2.2%を大きく上回っています。コロナ禍だった2020年も6%超の伸びを記録しており、成長分野に金利は関係ありません。

 GAFA(アルファベット、アマゾン・ドット・コム、メタ・プラットフォームズ、アップル)、テスラ、エヌビディア、マイクロソフトの主要ハイテク企業7社でS&P500種指数の上昇の74%を占めるまでに至っています。

 足元の2024年1-3月期の実質GDP速報値は前期比年率換算で1.6%の上昇で市場見通し(2.5%)を下回りました。しかし、米景気そのものが弱くなったわけではありません。個人消費の伸びが財消費のマイナスで鈍化しましたが、サービス消費は引き続き堅調でした。

 財消費のマイナスがこのまま続くわけではないし、インフレ率も一時より下がっています。米国はサービス経済です。サービス消費の強さが景気の支えになります。