それでも仕組み債が売れるのはなぜか?

 EB債以外にも仕組み債商品は存在するが、基本的な構造は同じだ。

 次に湧く疑問は、実質的な手数料がこれほど大きくて、投資家にとって明らかに効率が悪い商品であるにも関わらず、仕組み債が現実に売れているのはなぜかということになろう。

「投資家のニーズ」は、一般的には「なるべく小さなリスクの下で、なるべく大きなリターンを得たい」というものだろう。しかし、先述のように、一般的などのアセットクラスよりもリスクとリターンの効率が悪いのだから、常識的に考えると、老若男女や運用資金サイズの多寡を問わず投資家の側に「仕組み債に投資するニーズ」自体が存在しないはずだ。

 敢えてニーズを想像すると、先のA社株式によるEB債のようなケースでは、「特にA社の株式については値下がりしない自信があり、A社のリスクなら取ってもいい」という投資家の存在を考えることは出来るのだが、その場合、投資家はA社の株式を株価や期間等に応じて適当な金額で保有すれば良く(デリバティブとはそういったものである)、販売会社のセールスマンはそのようなアドバイスをすることによって、顧客である投資家に年率数%相当の付加価値を提供することが出来る。

 先ほどの質問【2】の答えは、正しい判断が出来ている投資家にとって「仕組み債に投資するニーズはあり得ない」というものにならざるを得ない。

 雑誌のインタビューに載った対面営業の大手証券会社の営業部門を統括する取締役は仕組み債について以下のように言うが、読者はどう評価されるか。

「仕組み債は適合性の原則に基づいて、提携先の地方銀行に出向している当社(筆者注:雑誌では社名)の営業員も含めて、適切に販売していきます。お客さまを知る努力をしながら、しっかりとリスクを管理していきます」(『週刊ダイヤモンド』2022年11月12・19日合併号、p90)。

 この記事の時点で、まだ仕組み債を売ろうとしている会社の方針に先ずは驚くが、そもそも、ニーズがあり得ないのに、投資家の「適合性」を問題にすることに疑問がある。「リスク管理」は顧客にとってのリスクを指すのだろうが、「顧客にとって損な商品だが、顧客が破綻しないようにリスクに気をつけて売る」とでも考えているのだろうか。あたかも、「毒物だが、顧客が死なないように注意して売る」と言っているように聞こえる。

一律に禁止の方がスッキリする

 筆者の意見をはっきり言おう。個人向けの仕組み債の販売は全面的に禁止するべきだ。質問【3】への答えでもある。理由は以下の通りだ。

(1)先ず、仕組み債に合理的な投資ニーズがあり得ないこと。
(2)仕組み債全般で大きな実質的手数料が取られていること。
(3)仕組み債の有利・不利を判断出来る能力を個人投資家が持っているとは思えないこと。
(4)何よりも、仕組み債が現実に売れていること自体が、投資家にあって当該商品への理解が不十分なことの動かぬ証拠であること。

 仕組み債の販売にあって、金融機関の、投資家ごとの「適合性の原則」の適用ぶりや、仕組み債の販売を通じて見えてくる「顧客本位の業務運営」に対する取り組み等も問題であるとしても、これらを観察・評価するために「明らかに悪い商品」であるところの、仕組み債の販売自体を許容すること自体が不適切だろう。

 個人向けの仕組み商品(仕組み債券、仕組預金など)の販売を解禁したのは、1998年の通称「日本版ビッグバン」と呼ばれた規制緩和の一環だったが、これは明らかに失敗だったと評価すべきだ。

 個人投資家は、仕組み債に関してどうすべきだろうか。

 結論は簡単だ。仕組み債に投資しないことと、仕組み債を売りに来た金融機関及びセールスマンと手を切ることの2点を厳守することだ。後者について厳しすぎると思う向きがあるかも知れないが、仕組み債をセールスするということは、仕組み債の不利を理解出来ないくらい専門性が欠如しているか、顧客に不利だと分かっていて手数料稼ぎをしているか(同時に、顧客であるあなたは十分な判断能力がない人だと評価されている!)、の何れかなのだ。