毎週金曜日午後掲載

本レポートに掲載した銘柄:テスラ(TSLA、NASDAQ)

テスラ

1.世界のEV販売台数は順調に増加中

 世界のEV/PHV/PHEVの販売台数は順調に増加しています(EVはバッテリーEV(BEV)、PHVはプラグイン・ハイブリッドで、外部から電源をつないで充電できるハイブリッド車。PHEVはガソリンエンジンで発電しEVとして走行する(ガソリンエンジンによる走行が可能なタイプもある))。3月下旬から5月末までの上海ロックダウンによって、テスラの上海工場が稼働できなくなったため、4月の世界全体の出荷台数は低水準でしたが、5月以降は回復しています。部品不足の影響はありますが、メーカーと車種が増えたため欧米と中国で消費者にとってEVが一般的な選択肢になってきたこと、急速充電器が普及していること、国から購入補助金が出る場合があること、環境に対する人々の意識の高まりなどによって、生産能力を超える需要が発生しています。

 一方で、EV/PV/PHEV販売ランキングには変化が表れています。2022年3月までの世界のEV/PV/PHEV販売台数では、車種、ブランドともにトップは「テスラ」でした。ところが2022年4月以降は、車種、ブランドともトップが中国の「BYD」の月が増えました。これはBYDが今春から複数の車種のEV、PHEVを投入し猛烈な販売攻勢をかけたためです。一方で、テスラはEV専業であるため、PHEVも販売しているBYDよりも販売台数が少なくなり、部品不足の影響も受けたと思われます。

 ただし、BYDの首位が定着するかは、まだ不透明です。今3Qからは上海ロックダウンの影響が小さくなるため、テスラも増産している模様です。一方、BYDや他の自動車メーカーがEV/PHV/PHEVの販売活動を積極的に行うことにより、EV市場全体が拡大し、テスラの販売台数が伸びるという構図も生まれる可能性があります。

グラフ1 EV/PHV/PHEV月間販売台数(世界)の推移

単位:台、出所:CleanTechnicaより楽天証券作成

グラフ2 EV/PHV/PHEV月間販売台数(世界):前年比

単位:%、出所:CleanTechnicaより楽天証券作成

表1 EV/PHV/PHEVの世界販売ランキング(2022年7月)

単位:台
出所:CleanTechnicaより楽天証券作成

表2 EV/PHV/PHEVの世界販売ランキング(2022年6月)

単位:台
出所:CleanTechnicaより楽天証券作成

2.テスラの2022年12月期2Qは41.6%増収、87.8%営業増益

 テスラの2022年12月期2Q(2022年4-6月期)は、売上高169.34億ドル(前年比41.6%増)、営業利益24.64億ドル(同87.8%増)となりました。前年比では、生産出荷台数が増加し、値上げによって出荷単価も上昇したため、大幅増収増益となりました。

 ただし前期比(今1Q比)では、3月28日から5月31日まで行われた上海ロックダウンの影響で、減収減益となりました。テスラの上海工場は、上海ロックダウンの中で3~4月に22日間操業を停止し、4月19日に再開しました。しかし、部品不足により4~5月の生産水準は3月までに比べて低いものとなりました。

 この結果、テスラ車の総生産台数は今1Q30万5,407台から今2Q25万8,580台に減少し、総出荷台数も同じく31万48台から25万4,695台に減少しました。また、今1Qに比べ今2Qは売上高は9.7%減、営業利益は31.6%減となりました。

 クレジット売上高(排出権売上高。アメリカのカリフォルニア州等のZEV規制導入州で、温暖化ガス排出が少ない車種について決められた台数を売れなかったメーカーが規定の台数を売った会社から排出権を買い取る仕組み)を除く実質営業利益率は、今1Q16.2%から今2Q12.8%へ低下しましたが、自動車メーカーとしては高い水準を維持しました。

表3 テスラの業績

株価(Nasdaq)    303.75米ドル(2022年9月15日)
時価総額    944,966百万ドル(2022年9月15日)
発行済株数    3,465百万株(完全希薄化後)
発行済株数    3,111百万株(完全希薄化前)
単位:百万ドル、ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:EPSは完全希薄化後発行済み株式数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前発行済み株式数で計算。
注3:2022年8月25日付けで1対3の株式分割を実施。

グラフ3 テスラのEV生産・出荷台数

単位:台、四半期ベース、出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ4 テスラの実質営業利益

実質営業利益=全社営業利益-排出権売上高。単位:100万ドル、出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ5 テスラの実質営業利益率

単位:%、実質営業利益率は、排出権売上高を除いた営業利益÷排出権売上高を除いた売上高

3.2022年12月3Qから生産販売台数は再び増加へ

 6月1日から上海はロックダウンが解除されたため、テスラの上海工場は6月の生産台数が急速に伸びた模様です。昨年末から年初にかけて稼働開始したベルリン、オースティン(テキサス)の両新工場は部品不足などのために稼働率が低迷していますが、今後回復に向かうと予想されます。カリフォルニア工場は順調に稼働中です。

 この結果、今3Q以降、業績は前期比で増収増益に転換すると予想されます。

 楽天証券では上海ロックダウンの影響と、ベルリン、オースティン両新工場の生産台数増加が当初の期待よりも遅いことを考慮して、今後3年間のテスラ車出荷台数を2022年12月期118万台(前年比26.0%増)、2023年12月期170万台(同44.1%増)、2024年12月期250万台(同47.1%増)と予想しました。会社側は年率50%増の販売台数増加を見込んでいますが、保守的に予想しました。

 テスラ車の実質出荷単価(排出権売上高を除いて算出した)は、今1Q5万2,200ドル/台、今2Q5万6,000ドル/台ですが、部品不足、部品コスト上昇や電池のコストアップの影響で、当面は出荷単価がこの水準で維持されるとしました。年度ベースの実質出荷単価は、2022年12月期5万5,500ドル/台、2023年12月期5万7,000ドル/台、2024年12月期5万7,000ドル/台と想定しました。

 実際には、テスラは今の部品不足とインフレが落ち着けば、現行車種の値下げや低価格車種を発売すると思われます。その時期は2023~2024年になると思われます。ただし一方で、会社側では2023年に「サイバートラック」(EVのピックアップトラック)を発売する計画であり、会社側では2023年半ばの生産開始を期待しています。半導体、各種部材、電池の手配が間に合うのか不明であり、2024年に遅れる可能性もあると思われるため、今回の楽天証券業績予想にサイバートラックは織り込んでいませんが、サイバートラックを発売すれば、脱炭素化の流れの中で好調に売れると思われます。また、サイバートラックを発売する場合は、出荷単価が上昇する要因となり、これも業績上のプラス要因になると思われます。

 なお、電池については、現在の主力電池である2170は今期の生産計画に対して十分な量を確保している模様です。来年から主力になる新型電池4680は生産能力を増強中です。

表4 テスラの売上高内訳

出所:会社資料より楽天証券作成
注:実質売上高は自動車売上高から排出ガスクレジット売上高を差し引いたもの。実質出荷単価は実質売上高を出荷台数で割ったもの。

表5 テスラ:売上高予想

単位:100万ドル、%
出所:楽天証券予想
注1:実質売上高は自動車売上高から排出権売上高を差し引いたもの。実質販売単価は実質売上高を出荷台数で割ったもの。
注2:2023年12月期、2024年12月期の楽天証券予想売上高、営業利益には排出権売上高を含まない。

表6 テスラの生産体制(2022年12月期2Q決算資料)

注:他に計画中の工場が数か所ある。
出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ6 テスラの設備投資額

単位:100万ドル、四半期ベース、出所:会社資料より楽天証券作成

4.今後6~12カ月間の目標株価を410ドルとする

 前述の販売台数予想と、出荷単価が2023年12月期、2024年12月期に向けて維持される前提で、楽天証券ではテスラの業績予想を、2022年12月期売上高760.90億ドル(前年比41.4%増)、営業利益130億ドル(同99.3%増)、2023年12月期売上高1,069億ドル(同40.5%増)、営業利益210億ドル(同61.5%増)、2024年12月期売上高1,535億ドル(同43.6%増)、営業利益340億ドル(同61.9%増)と予想します。前回予想に比べ下方修正にはなりますが、引き続き売上高と営業利益の高成長が予想されます。

 今後6~12カ月間の目標株価を410ドルとします。前回の467ドル(8月25日付けで1対3の株式分割を実施。分割前の目標株価は1,400ドル)から引き下げます。楽天証券の2024年12月期予想EPS(1株当たり利益) 8.2ドルに、2024年12月期予想営業増益率61.9%に対して、保守的に想定PEGを1以下として想定PER(株価収益率)50~60倍を当てはめました。

 長期的には高い利益成長が期待できる銘柄と思われますが、短期的にはアメリカの金利上昇が株価の頭を抑える可能性があり、これを考慮しました。ただし、中長期では引き続き投資妙味を感じます。

本レポートに掲載した銘柄:テスラ(TSLA、NASDAQ)