即暴落ケースの時間分散

 恐怖に駆られた暴落は、相場を過剰に割安な水準に至らせることが少なくありません。そこを好機と買い向かいたいものの、底入れが見えない相場への参入に二の足を踏むのは人情です。いくらバリュエーション上は買いだと言われても、怖くて手を出せない投資家は多いはずです。

 そうなるのは、追い風に乗る投資という基本スタンスに反するからで、買った瞬間から損失を被るリスクへのちゅうちょがあります。しかし、底の見えない相場でも、さすがに割安の度が過ぎれば、景気・金利サイクルの基本的理解を踏まえて、相場の流れに身を委ねる投資という発想の転換も妙味が増しています。

 図2は、S&P500を例に、現行水準から2022年中にさらに2割下落し、2023年から持ち直す展開を青点線で、これを毎月時間分散買いで積み立てていく場合のポジション・コストを赤線で描いています。注目したいのは、ポジションの損益分岐点(青点線と赤線の交差水準)がかなり低く、比較的早く実現することです。毎月積み立てで増えたポジション量に見合って含み益(青点線>赤線)も増大します。

 日本では2021年後半に、FIRE(投資収益で経済的自立を果たして早期退職)ブームが喧伝されましたが、そんな金融相場終盤に投資を始めれば、時間分散投資であっても、現在かなり厳しいダメージに直面しているでしょう。投資の基本は、暴落を含めて、割安場面で手厚く購入することに尽きます。

 ちなみに筆者は、日々相場をにらみ、時間分散投資の開始初期に発生し得る含み損を抱えることを回避するアプローチをとるでしょう。この図の相場展開があれば、青点線底入れ前後の相場復調リズムを確認して、多めにポジションを構築していくはずです。しかし、図の例では、おそらく時間分散買いのパフォーマンスは、筆者の底入れ確認後参入に負けるものではないでしょう。

図2: ここからの時間分散投資の妙味 ケース1

出所:Bloomberg、田中泰輔リサーチ