一番の問題は「他人との差」

 先の、バリューとグロースの投資哲学が有効に機能するためには、企業価値にせよ、将来の利益成長率にせよ、真の値を「他人よりも正しく」把握することが必要だ。これをどうやって実現するかが運用者にとっての問題となるし、運用者を評価する側では、その実現性のリアリティを判断することが問題になる。

 株式を運用するファンドマネジャーと話をすると、企業そのものを調査することに徹底的にこだわるタイプと、マーケットに参加する人間の観察に重点を置くタイプの二通りの投資哲学があるように感じる。

 有名な運用者でいうと、ウォーレン・バフェット氏やピーター・リンチ氏は企業の価値を重視するタイプだろう。少なくとも、対外的にはそう振る舞っている。

 ちなみに、バフェット氏はバリュー投資家に分類され、リンチ氏はグロース投資家に分類されることが多い。

 他方、ジョージ・ソロス氏のようなマクロで相場を張るタイプや、近年市場で存在感を増している高速トレードを使う「クオンツ」(数量分析を重視する投資家のこと)は、他の市場参加者がどのような間違いを犯すかに着目して、間違いが修正される確率を頼りに市場に参加しているように思われる。

 どちらのアプローチを採るにしても、「他人との差」をどう作ることが出来るかが問題であり、その実現確率を高めることを考えることがテーマになる。

 どちらか一方だけが正しいというものではないし、どちらを実行するにしても、バリュー投資・グロース投資と同様の「飛躍」が必要だが、筆者個人が選択し、個人投資家にお勧めすることが多いのは、人間の観察に重点を置くタイプのアプローチだ。

 株式投資を特集した『週刊ダイヤモンド』の2月8日号で、筆者はインタビューに答えて、個人投資家向けの株式投資のアプローチを3つ紹介している。順に、1.割安な銘柄を探す、2.予想利益の変化が株価に反映されるのに時間がかかる銘柄を探す、3.ニュースを株価に換算してみる、だ。

1.割安な銘柄を探すのは、主に「投資家は人気株を過剰に高く買いやすいから、これを避けることが有効だ」と考えるからだ。

2.予想利益の変化(上方修正)が株価に反映されるのに時間がかかる株には幾つかの傾向性がある。それらの傾向性は、データの判断に関する認知的なバイアス(偏向)に関連しており、他の投資家が判断ミス(過小評価や過大評価)をしやすいポイントに関係している。

3.は、ある種の「イベント投資」だが、ここでも、投資家がニュースに対して、しばしば過剰反応あるいは過小反応するのではないかという、他人のミスの確率に着目している。

「真の価値」を調査するゲームだと思うか、「他人のミス」の可能性を探すゲームだと思うかは、人それぞれだろうが、アクティブ運用は間違いなく「面白いゲーム」だと思う。

【コメント】

 2014年の記事だが、内容に訂正したい点は無い。今後、個人投資家に向けて、現実的で合理的な個別株投資の方法を伝えていきたいと思っている。(2021年8月16日 山崎元)