「今」の特殊性

 資本市場のフェアな取引条件にどれだけ近いかを金融商品の評価基準にするという大原則はほぼ全ての金融商品にあてはまる。

 それでは、大まかには「無リスク資産」、より細かく分けて、「現金」と「国内債券」については、どう考えたらいいのか。

 現時点でこの問題を考えると、短期金利が「ほぼゼロ」であり、長期金利(国際10年物の流通利回り)も1%より低いことが、特殊な条件だ。

 銀行の普通預金は、通常であれば「流動性が高く便利だが、他の商品に比べて利回りが悪い」運用商品だが、現在、リスクが小さい他の商品の利回りがゼロに近いところに貼り付いているので、利回りが低いことの欠点が殆ど無い。これは、いつでも当てはまるわけではないので「一般論」ではないが、現時点では、銀行の普通預金は「便利な上に、資本市場のフェアな条件に近い」運用商品なので、預金保険の範囲内(一人、一行、合計元本1千万円まで)なら、不利の小さい優れた商品だ。

 1千万円を超える額の資産を(ほぼ)リスクなしで運用するための手段としては、MRF(マネー・リザーブ・ファンド)か個人向け国債(主に「満期10年の変動金利タイプ」)が相対的に優れている。

 但し、これは、将来、金利が上昇すると変わる結論なので注意して欲しい。

 過去を振り返ると、利回りの低下局面が多く含まれることもあり、アセット・アロケーション上、「国内債券」や「外国債券」が効果的な分散投資の対象になっていたが、現在の金利情勢を考えると、個人向けには、上記以外に適当な運用商品がないのが現実だ。

【コメント】

 2008年の原稿だが、「考え方」に修正すべき点は見当たらない。運用の手順として、取引金融機関の選定を先にしないことと、「市場のフェアな条件からの乖離」で運用商品を評価することの2つがポイントだ。

 当時、長期金利が1%を割り込んでいて「超低金利だ」と思ったものだが、現在はさらに金利低下が進んでいる。また、ETFと公募のインデックス投信の低信託報酬の商品とのコスト差は現在殆どない。

 今同じテーマで書き直すとすると、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)、つみたてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)など、税制上有利なお金の置き場所を有効利用する手順を付け足すことになるだろう。機関投資家の年金運用のマルチマネージャー管理の考え方を応用して「合計を最適化しつつ、個々のお金の置き場所に最適な運用を割り当てる」やり方でいい。

(2020年11月26日 山崎元)