トランプの不確実性に中国も迷惑。日本は板挟みに?

 最後に政府ですが、トランプ、バイデン、どちらが来てもメリットとデメリットがあると考えているようです。

 トランプが当選した場合、米国の国内的な劣化や分断は一層進みます。また、国際的には、TPP(環太平洋連携協定)や気候変動に関するパリ協定、国連人権理事会などから脱退してきたように、米国の影響力や信用力が低下する可能性が高いと言えます。このような戦略的境地から価値を見出しているようです。

 中国の発展モデルや対外影響力を向上させ、コロナ対策を含め、世界的にリーダーシップを発揮していく舞台を整えることにつながると考えているのでしょう。

 この点、バイデンが当選した場合、少なくともトランプよりは国際的な協定や条約を重視し、同盟国との政策協調、ルールや規範、人権や価値観を重視しながら米国のリーダーシップを再構築すべく動くでしょうから、中国にとっては邪魔な存在になるのでしょう。 

 一方で過去の四年間、中国政府がトランプ政権と付き合う上で、最も嫌がっていたのがトランプの言動の不安定性と不確実性です。今回私がワシントンDCで話をした中国の外交官は「米中政府間には現在円滑に意思疎通を図るためのチャネルがない」と嘆いていました。

 トランプだけでなく、マイク・ポンぺオ国務長官やピーター・ナヴァロホワイトハウス通商製造業政策局長のように、中国を名指しで、相手のメンツもお構いなしに批判してくる現政権と付き合うことに疲弊しています。

 民主党マニフェストでも公言しているように、バイデンも経済貿易問題、香港問題、台湾問題、人権問題などを含め、トランプに勝るとも劣らない程度で中国に強硬的に出るつもりでしょう。

 とはいえ、仕事のスタイルとして、少なくとも、トランプ陣営よりはまともに話ができる、表立った罵り合いではなく、政府間交渉を通じて解決策を見出していけると考えているようです。

 まとめると、トランプ、バイデン、どちらが来ても厳しい戦いになると中国共産党は見積もっているはずです。米国はすでに中国を修正主義国家と、対中関係を戦略的競争関係と規定しており、この点は政府、議会、ホワイトハウス、シンクタンクなどを含め、米国内における「最大の戦略・政策コンセンサス」にすらなっているからです。

 ただ、どちらが来てくれたほうが、「予測可能性」と「政策安定性」という2点においてやりやすいか、といえば、バイデンのほうが好ましい、中国政府はそのように考えているというのが私の見方です。

 ここで重要なのは、中国政府と市場関係者が、共にボラティリティという観点からトランプの言動やスタイルを嫌がる傾向にあり、逆に予測可能性と政策安定性という、マーケットにとってもプラス材料になるという観点からバイデンを支持する傾向にあるという現状です。
 
 仮にバイデンが勝てば、通商交渉を含め、中国はこれまでよりも腰を据えて、米国側と争いではなく、交渉を通じて合意を作るんだという対話の姿勢を示してくるでしょう。

 逆にトランプが勝てば、これまで同様、通商交渉やコロナ対策を含め、メンツを前面に出し、両政府間で相手を罵り合い、口喧嘩が双方向の制裁の応酬につながり、両国間のディカップリングが加速化するでしょう。

 この場合、米中双方とビジネスをやってきた日本企業も不可避的に巻き込まれます。同時に、業種や分野にもよるでしょうが、ディカップリングがブロック経済化につながる可能性が高い中、米中どちらか一方を選択し、もう一方との取引は放棄せざるを得ないといった状況に追い込まれるリスクも決して否定できません。

 今回の米国大統領選挙、それを中国がどう見て、どう対応するかという問題は、日本のビジネスマンや投資家が関わるマーケットにとっても、軽視できない不安要素を内包している、故に、注意深くウォッチし、的確な理解・分析を試みる必要があると考えるのです。

11月3日、ワシントンDC市内。選挙後の暴動や内乱を警戒する企業の多くが、木の板で店舗を守る対策を取っていた。メキシコ系労働者などは「仕事が舞い込んできてハッピーだ!」と上機嫌だった。