相対比較と絶対比較。短・中期的には相対比較、長期的には絶対比較が重要。

 ここまで、5月1日(金)から5月8日(金)の間に公表された、サウジの4月の原油生産量、米国の原油在庫、米雇用統計と、この時の原油相場の動きについて振り返りました。

 これらの事例から、現在の原油相場は“予想よりも悪くなかった”ことをきっかけに、“よいところ取り”をして、上昇していると考えられます。“予想よりも悪くなかった”という考え方は、予想を相手とした“相対比較”です。(相対比較は“相手軸の比較”、絶対比較は“自分軸の比較”です)

 サウジの4月の原油生産量は3月に同国が宣言した大増産の規模“よりは”少なかった、米国の原油在庫は事前予想“よりは”増加していなかった、米国の失業率は事前予想“よりは”悪くなかった、などの状況(○○よりは■■だったという比較)は、相手軸の比較(相対比較)です。

 一方、サウジの4月の原油生産は日量1,100万バレルを超えた大増産状態、米国の各種原油在庫は記録的な高水準、クッシング地区の原油在庫はマイナス価格を引き起こす可能性がある、米国の失業率は統計史上最悪、などは自分軸の比較(絶対比較)です。

 上記の状況の中、原油相場が上昇していることを考えれば、足元、原油市場は、絶対比較よりも、相対比較を優先していると言えると思います。

 往々にして、自己弁護をしたり、相場の世界で言えば、難しい環境の中で何とか上昇要因探しをしたりする際、状況が悪ければ悪いほど、相対比較(相手軸の比較)が用いられることが多いと筆者は感じます(想像の域を超えませんが、相対比較の対象となる事前予想は、市場関係者によって作られているため、あえて、過度に悲観的に予想をし、実際の数字が悪かった場合の負のイメージを軽減する、などの行為が行われている可能性は、ないとは言えないと思います)。

 足元の原油相場や株式相場を見て分かるとおり、各種相場は相対比較でも上昇するわけですが、相対比較と絶対比較が与える市場への影響については、短・中期的な上昇は相対比較でも起き得るが、長期的な上昇は絶対比較で材料がそろうことが必要、と整理できると思います。

 その意味では、原油相場は、新型コロナウイルスの感染拡大が世界全体で一巡するまで、相対比較で上昇することは何度もあると思いますが、骨太の、本格的な長期上昇トレンドを形成するために必要な絶対比較の条件は、そろいにくい状況が続くかもしれません。

 OPECプラスが減産を順守する(予想よりも減少した、ではなく、事前に決めたルールに則り、減産を順守する)、米国の各種原油在庫が減少する(予想よりも増加しなかった、ではなく、絶対水準が低下する)、米国の株価指数が上昇する(経済指標が事前予想よりもよくて上昇する、ではなく、経済指標の絶対水準が経済回復を示すふさわしい水準になり株価が上昇する)などの事象が同時に発生すれば、絶対比較の条件が満たされ、原油相場は長期的な上昇トレンドに入ると筆者は考えています。

[参考]具体的な原油関連の投資商品

種類 コード/
ティッカー 
銘柄
国内ETF/
ETN
1671 WTI原油価格連動型上場投信(東証)
1690 WTI原油上場投資信託 (東証)
1699 NF原油インデックス連動型上場(東証)
2038 NEXT NOTES 日経TOCOM原油ブル
2039 NEXT NOTES 日経TOCOM原油ベア
投資信託   UBS原油先物ファンド
外国株 XOM エクソンモービル
  CVX シェブロン
  TOT トタル
  COP コノコフィリップス
  BP BP