テーマ4:制御を超えるテクノロジー

 IT、AI(人工知能)などテクノロジーのメリットは計り知れません。しかし、人類は今、自らの制御能力を超えるかもしれないテクノロジーを発展、普及させつつあります。人の思考判断の領域をカバーし、人の能力を凌駕(りょうが)するテクノロジーは、労働の在り方を根本から変え、企業、投資家、社会システム、政治や戦争に至るまで、意思決定をアルゴリズムに委ねる方向へ向かっています。今後10年、少数のテクノロジー・エリートとその他多数の格差、ハイテクゆえの社会システムの脆弱性などの諸問題が浮上するとみます。

テーマ5:中国の増長と米国の先鋭化

 中国と言えば「覇権」か「破綻」かの両極論が盛んです。今後10年、現実には、その中間のどこかを辿(たど)るとの見方が妥当に思えます。中国は米国の「覇権」を部分的にせよ侵食するでしょう。中国のGDPはドル評価でも2030年前後に米国を抜き、テクノロジーでも先行する分野が増えるとみられます。人権に敏感な西側と異なり、中国では国家が補助する独占的企業が、国内14億人市場でテクノロジーを普及させていきます。豊かになる前の労働人口減少と少子高齢化が危惧されますが、その進行は日本に比べて緩やかでしょう。

「破綻」論に関しては、膨大な国内債務の調整で経済が軋むリスクには注意を払っていますが、中国が国家として回す金融にはある程度の耐性を見込んでいます。逆境に陥れば、容易に経済運営ルールを変え、取引規制を強化できる国です。ITとAIによる国民総監視システムによって、反国家的暴動を抑止する能力も当面は有効でしょう。

 いまだ不均衡など脆弱(ぜいじゃく)性を抱える中国にとって、覇権を挑まれた覇権国(米国)のなりふり構わぬバッシングはリスクです。ただし、中国は追い込まれるほど、西側と一線を画した独自システムの構築、強化へ重心を傾けていくとみています。