備えるべきリスクシナリオ

 筆者は、相場のメインシナリオを一度定めた後は、それが当たる可能性より、外れるリスクに重きを置いて分析します。相場予測を公表したり、投資ポジションを持ったり、人間はある立場をとった途端、それに好都合な情報を優先的に受け入れがちです。この罠に陥らないため、自分の予想が外れるリスクシナリオを優先して淡々と評価し、その可能性が小さい限りは、元のシナリオを保持するのです。

 さて、2020年、米大統領選挙に向けて、株価、ドル/円の相場が底堅さを保つという予想が外れるケースとして、どのようなリスクシナリオに備えるべきでしょうか。

リスク・シナリオ(1)米中合意の不調(まず11月~数カ月)

 トランプ米政権はこれまで、内外の交渉事で手のひら返しを繰り返してディールを有利に持ち込む戦術を得意としてきました。さすがに、3回の利下げ、大統領選挙戦入りを経て、米景気、市況をさらに追い込むような措置は手控えると判断します。しかし、常識的な予想の裏をかいてきたトランプ大統領のこと、思いがけない打ち手もないとは言えません。米選挙戦は今後1年にわたる長丁場です。例えば、2019年中に早くもリスクオン機運が盛り上がり過ぎないよう、最適な相場ペースを思案するかもしれません。米中合意を小出しにするなどの小手先の措置を講じ、中国と折り合いがつかなくなるリスクも排除できないでしょう。

リスク・シナリオ(2)米景況感の回復不調(11月~3カ月程度)

 トランプ政権の対中姿勢の変転に振り回されてきた製造業が、先行き慎重姿勢を変えず、投資や雇用を控えたままになると、景気は自然とダレていくでしょう。この場合、米金利の低下観測とともにドル安(円高)、やがて株安が進むと考えられます。まず今後3カ月ほどは、米製造業景況感(図2)が景気分岐点以上の回復を示すかどうか、要注意です。

図2:米ISM製造業景況感は持ち直すか

出所:Bloomberg Finance L.P.