リスクオフで円高を招く主役たち

 米景気悪化に伴うドル安・円高のけん引役は、まず日本人自身です。日本は長年にわたり積み上げた貿易黒字、経常黒字分のドルなど、外貨を対外債権として保有する国です。米景気が陰り、ドル安懸念が出ると、日本の企業や投資家がこの外貨を売却したり、ヘッジ(外貨売り)したりします。

 そうして円高になると、売り遅れた日本勢の売りが促され、円高が連鎖的に進みがちです。過去に目立ったドル/円の売り手は、自動車などの輸出企業や外債への為替投資を積極展開した生命保険会社でした。

 別の円高けん引役は海外の投機筋と投資家です。海外投機筋は、米景気が陰ると、日本人のドル売りに先回りして、まずは好景気下の円安局面で積み上げたドル/円ロング(買い持ち)を売り、次にショート(売り持ち)を作って、日本勢の円高不安をあおりがちです。

 海外投資家には、リスクオン時に日本の株高が円安に伴って進むことを踏まえ、日本株購入と為替ヘッジの円売りを同時に行う人たちがいます。リスクオフに転じると、彼らは日本株の売却(円売り)とヘッジ巻き戻し(円買い)に動きます。外国人による日本株の売越額が多い時には月次1兆~2兆円になります。

 一方、為替ヘッジの巻き戻しの円買いは、時にそれをはるかに凌駕(りょうが)します。外国人の日本株投資残高は2018年度末に181兆円でした。その何割かが為替ヘッジの対象と考えても数十兆円になります。このヘッジの加減は株式投資の資金フローより時にはるかに大きくなるのです。

 最近の事例では、2016年初頭に、米景気の自律的鈍化が寒波の悪影響や中国リスクの不安であおられた時、ドル/円は121円台から111円割れへと、わずか9営業日で下落しました。