解散価値といわれるPBR1倍を大きく割り込む銘柄が増えている

 不動産セクターには、業績好調で、含み益が拡大しているにもかかわらず、株価が上がらないため、株価が、解散価値といわれるPBR1倍を割れる銘柄が多数あります。

 賃貸不動産に大きな含み益があるのは、不動産会社ばかりではありません。電鉄・倉庫など、さまざまな業種に「含み資産株」があります。

 なかでも、**実質PBRが0.75倍以下で、今期(2019年3月期)決算で、連結営業利益または経常利益で、最高益を更新する見込み(会社予想ベース)の8社を、以下にピックアップしました。

 

実質PBRが0.75倍以下で、今期(2019年3月期)に、営業利益または経常利益で最高益更新を予想している8社:実質PBRが低い順に配置

  コード 銘柄名 含み益
(億円)
実質
PBR
1 9324 安田倉庫 182 0.35
2 9302 三井倉庫HD 1,144 0.37
3 8818 京阪神ビル 636 0.46
4 8804 東京建物 3,723 0.47
5 3201 ニッケ 531 0.64
6 8802 三菱地所 34,228 0.65
7 8801 三井不動産 24,754 0.67
8 8830 住友不動産 23,281 0.74
出所:各社、直近決算期の有価証券報告書または決算短信より、楽天証券経済研究所が作成。
直近決算は、2018年3月期。
実質PBRは、3月6日の時価総額を実質純資産で割って計算。
実質純資産は、各社の純資産に不動産含み益の7割を加えたもの
 近年、まったく不人気となってしまった「含み資産」株ですが、実質PBRが低すぎる銘柄で、最高益を更新する予想の銘柄は、いつか見直されると期待して、少し買ってみて良いと思っています。

 

**実質PBRとは

 実質PBRを説明する前に、まず、PBR(株価純資産倍率)を説明します。PBRとは、株価が、純資産(自己資本)と比較して、どの程度、割安であるか測る指標です。

 まず、PBRを説明する以下の図をご覧ください。1億円出資し、1億円借金し、合わせて2億円の資産を持って、ビジネスを始める企業を例にとって説明しています。その企業のバランスシートのイメージ図を示しています。

 設立直後ですが、いきなり株式市場に上場できるとします。さて、株式時価総額はいくらになるでしょうか。普通に考えると、1億円になります。まだ何もしていない企業ですから、株式時価総額は、純資産価値と同額の1億円となると、考えられます。

 この状態をPBR1倍といいます。株式時価総額÷純資産=1で計算します。次に、PBR3倍、PBR0.7倍の意味を説明します。

 純資産1億円でも、将来、利益をどんどん稼ぐ期待が高ければ、株式時価総額は3億円になることもあります。この状態が、PBR3倍です。一方、将来、赤字が続くと考えられる株は、株式時価総額は1億円を割り込み、7,000万円となることも、あり得ます。その状態が、PBR0.7倍です。

 さて、次に、実質PBRを説明します。純資産に、保有する含み益の70%を加えたものを、実質純資産と呼びます。含み益の70%を加えた実質純資産を、純資産とみなして計算したPBRが、実質PBRです。

 三菱地所を例にとって説明しましょう。三菱地所には、2018年3月末時点で、3兆4,228億円の含み益が存在します。もし、賃貸不動産をすべて売却すると、3兆4,228億円の売却益が得られますが、売却益には税金がかかります。税率を30%と仮定すると、税引き後で、含み益の70%に当たる2兆3,960億円が残り、自己資本に加えられます。実質PBRは、自己資本に含み益の70を加えて計算したPBRです。

 

***なぜ、2006年以降、ハゲタカファンドは日本から撤退したか

 2005年ごろ、割安な含み資産株をハゲタカファンド(買収ファンド)が買い占めて大暴れしたことがあります。巨額の含み益を有するにもかかわらず利益水準が低く、PBRが実質1倍を大きく割れ、株価が安くなっている企業がターゲットとなりました。一定量の株を買い集めた上で、企業に「含み益のある資産を売却して配当金を大幅に増やすこと」などを強く要求しました。

 ただし、短期的な利益を狙って株主権を濫用するハゲタカファンドには社会的批判が集まりました。敵対的買収への嫌悪感が広がり、2006~2007年には上場企業に買収防衛策の導入ブームが起こりました。そこで、ハゲタカファンドは去り、敵対的買収ブームは鎮静化しました。

 今、株主権をたてに企業に株主還元を強要するハゲタカファンドは少なくなりました。企業と対話しながら、企業価値を高めていくことを目指すファンドが増えています。ハゲタカファンドが去ったことを受けて、買収防衛策を解除する企業が増えました。

 こうして企業と株主の対話は改善されました。一方、含み資産を持つだけの割安株には、長期投資家も短期投資家も、見向きもしなくなりました。巨額の含み資産を保有しながら、株価が割安な銘柄は、割安なまま放置されるようになりました。

 

 

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