8月下旬から9月末にかけて、米国株式相場は大荒れの展開となりました。株式相場が大きく動くと、人々は何が理由なのかを探し始めます。人間は心理的に、理由が分からないことがとても不安になる生き物だからです。そしてメディアはそのような需要を満たそうと、「それらしき」理由を挙げていきます。その結果皆さんが目にすることになったニュースは、中国経済の減速懸念や米国利上げ時期に対する不透明感、さらにはフォルクスワーゲンの排ガス規制に関する不正問題などだったと思います。

しかし中国経済の減速懸念については前号で記した通りですし、米国の利上げ時期など、既に今年初めからずっと市場のメインテーマです。フォルクスワーゲンに至っては、当事者でさえ既に売られ過ぎだと思いますが、ましてやあのような手の込んだ詐欺を外国の他の会社もやっていたかのような株価の反応は、どう見ても行き過ぎでしょう。ただ市場心理が悪化している市場においては、そのような本来反応すべきでないニュースにも反応してしまう傾向があります。これは正に、多くの人がそれらしき理由を付けようとする結果起こる現象だと思います。

株式相場というのはいわば波のようなもので、上がる時もあれば下がる時もありますし、長い間小動きの相場が続いていると大荒れの相場も訪れるものです。人間にはProximity Biasというのがあって、例えば上昇相場に慣れてしまうと下落相場の準備を怠る結果、実際に下落が起こったり、小動きの相場に慣れてしまうと大荒れ相場の準備を怠り、実際に大荒れになったりするものです。そして今回はここ4年近くも比較的小動きが続いた結果の大荒れであって、そこに特に理由はないと考えるのが自然だと思います。それでは8月下旬に起こったのは何かというと、実はこういう事でした。

米国株式市場では株式そのもののほかに、一定価格で「株式を買う権利」(コールオプション)や「株式を売る権利」(プットオプション)が取引されています。オプションの決済日は毎月第3金曜日で、8月の場合だと8月21日金曜日でした。この日の時点で、その権利を買っていた人は、権利を行使した方が有利だと思えば行使するし、行使しない方が有利だと思えば行使しないという判断を下します。権利を持ってる人に選択権があるので、オプションと呼びます。ただ、誰もが権利は欲しいし、義務からは逃れたいものですよ。なので通常、このオプションの価格というのは結構高く、売り手は十分な代金をもらっていることから、長期的にはむしろ、売り手の方が儲かることが多いのです。