このように、そもそも売り手の方が儲かることが多い上に、長い間小動きの相場に慣れてしまっていた反動からでしょう。8月21日は逆の状況がやってきました。市場ではそれまでの数週間、S&P500指数で2000ポイントのプットオプションが大量に取引されていました。前日になってもS&P500指数は2036ポイントと、2000ポイントから結構離れていたため、このプットオプションを売っていた人は油断していたのでしょう。多くの市場関係者が夏休みを取っていてまとまった買いが無い中、株式相場はするすると下がり、とうとう2000ポイントを割れて引けてしまいました。8月21日の決済日、当然のことながら2000ポイントでプットオプションを買っていた人はその権利を行使します。するとこのプットオプションを売っていた人は2000ポイントで大量に株式を保有することになります。大量に株式を持たされた人が、次に市場が開く8月24日月曜日に何をしなければならないか、明らかですよね。結果ご覧の通りになった、というわけです。

このように、ヘッジをしていないオプションの売りの状態をショートガンマといいます。簡単に言えば、下がれば下がるほど売らないといけない、上がれば上がるほど買わないといけない状態です。そして現在の市場では、実質的なショートガンマはオプションの他にも存在しています。

例えばマクロのヘッジファンドやCTA等で「トレンドフォロー型」のものはその一つの例です。トレンドを追うので、下がれば下がるほど売るし、上がれば上がるほど買う操作になります。またリスクを一定に保つよう、ポートフォリオをコントロールしている年金等もあります。これはポートフォリオ全体のリスクを一定に保つため、リスクが上昇した資産を自動的に売らなければならなくなります。株式のリスクが上昇するのは相場が下落する時ですので、こちらも下がれば下がるほど売り、上がれば上がるほど買い、という操作になります。恐らく8月下旬から9月末にかけてはこのようなショートガンマが相場変動の主因だったと見てよいと思います。

それではこのようなショートガンマは、どうなれば市場で暴れなくてすむようになるのでしょうか。それは株式相場の変動率が低下することです。変動率が低下すると、オプションが安く買えるようになりますので、ショートガンマはもう市場で暴れなくてすむようになります。むしろオプション購入に費やしたお金を取り戻すために、今度は相対的に「上がったら売り、下がったら買い」の操作をやる人が増えるので、相場はますます安定していくことになります。現在の市場で言えば変動率指数(VIX)が20を割るかどうかがその基準となるでしょう。その意味では、8月下旬に始まったドタバタは、10月5日をもって終了したと見て良いということになります。