今日のまとめ
- 独立系石油会社の多くは海外資産を売却し、国内のシェール開発にシフトしている
- ヘスは一番石油比率が高い
- マラソン・オイルはイーグルフォードとバーケンの比重を高めている
- オキシデンタル・ペトロリアムはカリフォルニア事業を別会社でスピンオフする
- コノコフィリップスは独立系石油会社で最大の確認埋蔵量を誇っている
- アパッチはパーミアンとアメリカ中部に傾斜している
独立系石油会社セクター
独立系石油会社セクターとはオイル・メジャーについてのレポートで紹介したエクソン・モービル(ティッカーシンボル:XOM)をはじめとする大手石油会社に比べ、ひとまわり規模の小さい石油会社を指します。
その特徴は、売上成長率はオイル・メジャーより高いけれど、バランスシートは見劣りし、リスクが高い点にあります。
これらの企業はこれまで主に従来の手法で原油ならびに天然ガスを生産してきました。しかしシェールガス・ブームで彼らより更に規模の小さい、シェールガス開発に特化した業者が次々に成功するのを目撃し、各社とも川下や海外の余計な資産を売却し、米国内のシェール開発に乗り出しています。
各社の確認埋蔵量に占める石油・NGLと天然ガスの比率は下のグラフのようになっています。
現在、米国の原油価格(WTI:ウエスト・テキサス・インターメディエーツ)は$106.77、天然ガス(ヘンリーハブ)は$4.74で推移しています。
仮に原油価格が上昇しはじめれば、上のグラフの中で石油比率が高い企業が有利になり、逆に天然ガスが上昇しはじめれば天然ガス比率の高い企業が有利になるわけです。
なおこれらの企業はいずれもアメリカの会社ですが、アメリカ国内にとどまらず、世界各地で活動しています。
現在、アメリカでは国内で生産された原油をそのまま輸出することは法律で禁止されています。一部の石油会社はこの法律を改正し、アメリカ産原油を輸出できるよう議会に働きかけています。
アメリカの原油生産は1972年の1,185万バレル/日をピークに年々減少していました。しかしシェールオイルのブームで2006年の678万バレル/日をボトムに、それ以降、増産に転じています。2012年の時点では891万バレル/日まで回復しています。
このため米国内では石油のだぶつき感があり、国内価格は海外の価格よりディスカウントになりがちです。アメリカ産原油を輸出しては? という議論が出てきた背景には、そういう事情があります。これが許可されれば独立石油会社にとってはプラスの材料となります。ただ法案成立までには長い年月を要すると思われます。
ヘス
ヘス(ティッカーシンボル:HES)はニューヨークに本社を置く独立系石油会社でノースダコタ州のバーケン油田(シェールオイル)、メキシコ湾、赤道ギニア、マレーシアなどで主に石油を生産しています。
同社のルーツは川下部門、つまり精油所、ガソリンスタンド網などです。緑色の「HESS」のロゴはアメリカ東海岸を中心に消費者に親しまれてきました。
しかし現在の経営陣は利幅の薄い川下部門や中途半端な規模の川上部門の油田をどんどん売却し、上の円グラフにあるような戦略的に重要と考える地域だけに経営資源を集中する戦略を取りました。
このため同社の売上高は減少しています。また事業ポートフォリオが大きく変わっている最中なので、前年比較をする際には注意を要します。
【略号の説明】
DPS一株当たり配当
EPS一株当たり利益
CFPS一株当たり営業キャッシュフロー
SPS一株当たり売上高
マラソン・オイル
マラソン・オイル(ティッカーシンボル:MRO)はシェールオイルの産地として知られるテキサス州のイーグルフォードならびにノースダコタ州のバーケンで操業しているほか、カナダ、赤道ギニア、北海などで石油を探索・生産しています。
同社は2011年に川下部門をマラソン・ペトロリアム(MPC)として分離し、現在では川上部門のみに特化しています。
また同社は非戦略資産の売却を進めており、北海油田も順次手放してゆく方針です。今後はイーグルフォード(去年の生産は+136%)、バーケン(同+34%)などの将来性のある地域に集中的に資本を投下する計画です。
オキシデンタル・ペトロリアム
オキシデンタル・ペトロリアム(ティッカーシンボル:OXY)は1920年にカリフォルニアで創業された石油会社です。同社は立志伝中の実業家、アーマンド・ハマーによって長く経営されてきた関係で「一風変わった会社」と見做されてきました。それというのも米ソ冷戦の最中もハマーはソ連との親密な関係を維持し続けたからです。これは同社の評価にとっては多分、マイナスに働いていたと思います。
アーマンド・ハマーが1990年にリタイアした後はレイ・イラニが会長兼CEOを継ぎますが、イラニも2011年にステファン・チャーゼンにCEOを譲るまで、20年間に渡って采配を振るいます。このようにオキシデンタル・ペトロリアムは米国では異例とも言える、トップの交代が極めて少ない会社です。
現在のCEOであるチャーゼンは、その意味では普通の経営者であり、オキシデンタルの企業統治(コーポレート・ガバナンス)は改善していると言えます。
同社は経営のスピードアップに取り組んでおり、近くカリフォルニアの油田をCRC(カリフォルニア・リソーシズ・コーポレーション)という名称で分離、別会社として上場する予定です。CRCは将来、開発が始まるかもしれないモンタレー・シェールのピュアプレイとして注目されています。
同社はこのほか、テキサス州のパーミアン、中東のオマーン、アラブ首長国連合、カタールなどで事業展開しています。
コノコフィリップス
コノコフィリップス(ティッカーシンボル:COP)は2002年にフィリップス・ペトロリアムとコノコが合併して出来た会社です。その後、同社は川下部門をフィリップス66(PSX)としてスピンオフしています。同社は独立系石油会社では確認埋蔵量ベースで最大の規模を誇っています。
コノコフィリップスの主な活動地域はテキサス州イーグルフォードならびにパーミアン、ノースダコタ州バーケン、アラスカ、メキシコ湾、カナダ、北海などです。
同社は以前、ロシアの石油会社、ルクオイルの株式の20%を持っていましたが、これは2010~11年にかけて処分しました。現在は一連の資産売却で得た資金をシェール開発に再投入しています。
アパッチ
アパッチ(ティッカーシンボル:APA)は1954年にレイモンド・プランクによって創業された独立系石油会社です。
同社は1993年にエジプトの権益を取得し、それ以来、同国はアパッチの中核的な資産となってきました。しかし「アラブの春」以降、同国での操業が以前より難しくなったこと、アメリカ国内のシェールへの投資機会が出現したことなどを受け、事業ポートフォリオの大幅な見直しが行われました。その結果、エジプトの権益はシノペックをジョイント・ベンチャーのパートナーに招き入れることで比率を低下させ、メキシコ湾、アルゼンチンなどの資産は売却しました。この結果、同社の現在の生産プロフィールは下のグラフのようになっています。
同社のアメリカ国内回帰の戦略が成功するかどうかは主にパーミアンとアメリカ中部でのシェール探索・生産の成功にかかっています。