本レポートに掲載した銘柄

ソニー(6758)/カプコン(9697)

CEDEC2016聴講記

ゲームの季節が始まる

7月からゲームの世界はポケモンGO一色です。しかし、ポケモンGOだけがゲームではありません(大きな影響を与えているのは事実ですが)。

毎年8月下旬から年末年始までは「ゲームの季節」になります。

まず、日本で重要なカンファレンスと展示会があります。8月24~26日にCEDEC2016(セデック2016)が開催されます。ゲーム開発者向けのカンファレンスであり、ゲーム会社の技術者、クリエーターや大学の研究者の講演会が多数あります。今年のテーマはVR(バーチャルリアリティ)と人工知能です。ソニー(VRの講演会が複数)、カプコン(「バイオハザード7」の講演会が複数)、スクウェア・エニックス・ホールディングス(人工知能など)、バンダイナムコホールディングス(VRなど)などの開発者が講演します。ちなみに、今年の基調講演は「ドラゴンクエスト」の生みの親、堀井雄二氏です。

また、CEDECの特徴ですが、一見してゲームとは関係なさそうな分野の研究者、技術者の講演がいくつかあり毎年人気です。今年はJAXA(はやぶさ2の運用システム)、デンソー(車載インフォテイメント)、NTTPCコミュニケーションズ(人工知能)の技術者が講演します。

9月15~18日は東京ゲームショー2016です。このテーマもVRと人工知能であり、これが今のゲームの2大潮流です。ゲームは先端技術の実験場になっていますが、これはゲームは失敗しても構わないからです。先端技術を満載した最新のゲームソフトが面白くなくとも掲示板で批判されるぐらいで済みますが、自動車で失敗するとそうはいきません。

なお、東京ゲームショーにもCEDECにも、任天堂は参加しません。たまに、CEDECで任天堂のクリエーターが講演する程度です。任天堂は毎年6月にアメリカで開催される世界最大のゲーム展示会「E3」と、毎年3月にアメリカで開催される「ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス」には参加しますが、日本では秘密主義なのです。このため、CEDECはソニーとカプコン、スクウェア・エニックス・ホールディングス、バンダイナムコホールディングスのような大手ゲーム会社が中心となった、非常に先端技術色の濃いカンファレンスになります。東京ゲームショーはこれらの会社にマイクロソフトが加わり、また、グリーのようなスマホゲーム専業も参加します。

またゲームタイトル、ゲーム機も秋から冬にかけてシーズン入りします。任天堂のスケジュールは先週書いたとおりですが、ソニーの「プレイステーションVR」が10月13日、同じくソニーの「グランツーリスモSPORT」(PS4、PSVR対応)が11月15日、スクウェア・エニックス・ホールディングスの「ファイナルファンタジーⅩⅤ」(PS4、Xbox One、後日PS VR対応予定)が11月29日、カプコンの「バイオハザード7」(PS4、PSVR、Xbox One、PC)が2017年1月26日に発売されます。

重要なニュースも出てきました。9月7日にニューヨークでソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE、ソニーのゲーム子会社、旧SCE)がイベントを開催し、6月に同社トップが存在を認めたPS4の上位機種「PS4NEO」とPS4の廉価版を発表するということが報道されています。任天堂はこれまでの報道から、NXではVR対応をしない方向性のように思われますが、VR対応をするという見方も根強くあります。

任天堂の今回の動きは、ゲームの大衆ユーザー層を、グローバルに、新規開拓、再活性化の両面から、より一層増やしてしっかりと固めようという動きと思われます。つまりローエンドとミッドレンジの拡大です。それに対して、ソニー、スクウェア・エニックス、カプコンなどの動きは、ハイエンドのゲームの頂点を極めようという動きと考えられます。この二つの動きは競争しつつも共存すると思われます。ポケモンGOでゲームに関心を持った人の中には、任天堂に興味を持つ人もいればソニーに関心を持つ人もいると思われるからです。ゲーム株から目が離せません。

CEDEC2016の中心テーマは「VR」

ゲームの世界が、このようにかつてなく騒がしくなっているときにCEDEC2016が開催されました。今回のテーマは「VR」と「人工知能」、特に「VR」です。この二大潮流はこれからゲームの世界を大きく変えていくと思われます。特にVRについては、ソニーを初めとした様々なメーカーがVR用ヘッドマウンテッドディスプレイ(HMD)を既に発売しているか、これから発売するところであり、開発者、ゲームユーザーの双方で関心が盛り上がっているところです。

VRが生まれたのは1960年代

VR(バーチャルリアリティ)が始めて登場したのは1960年代で、アイバン・サザランド氏がアメリカで初めてHMDを製作して、VR画像を実現しました。その後、1980年代前半に日本人研究者の舘氏によるテレイグジスタンスの研究(ロボットとVRを連動させる)があり、1980年代後半にはアメリカのNASAで「Virtual Environment」という概念でHMDが実用化されました。ただしこの時期までのVRはHMDの価格が高く、システム全体も大きく高価で、航空宇宙やロボットなどの産業用向けが主な用途でした。

これがエンタテインメントに応用されるようになったのは1990年代に入ってからです。日本で当時セガ(現在のセガサミーホールディングス子会社)やナムコ(現在のバンダイナムコホールディングス)の大型ゲーム店で流行った業務用大型ゲーム機の一ジャンルとして、コンピュータグラフィックス(CG)を使った体感型ゲーム機が出てきました。HMDを使わず、密閉された空間の中で戦闘ゲームを行うもの、大型ゲーム機でHMDを使ってCG画像を楽しむものなど様々なものが90年代前半に出てきましたが、やがて飽きられていきました。

VR機器が大幅に低価格化

今回のVRブームは従来のブームとは異なる特徴があります。まず、ハードウェアとシステムの大幅な低価格化です。1990年代までのVRブームはHMDだけで約300万円、手には擬似触覚を生み出す「データグローブ」をはめ、体には空気圧で体感を作り出す「データスーツ」を着たり、あるいは床をローラーで動かし物理的に「体感」を生み出すものでした。視覚、聴覚、触覚、臭覚などに錯覚を起こさせ現実感を作り出すVR本来の仕組みというよりも、物理的な動きを作り出して体感を作り出すものであり、そのために大掛かりな設備が必要で費用がかかるものでした。

それが、今年からのVRブーム(おそらくブームになると思われます)は、従来よりもコストダウンが進んでいます。サムスンのスマートフォン「ギャラクシー」を取り付けて楽しむ「Gear VR」は約12,000円(2015年発売、スマートフォン別)、今年10月13日発売(日本)のプレイステーションVR(PSVR)は44,980円(税別)。PS4は34,980円(税別)ですので、ソフトを入れて9万円以内で高性能VRが楽しめることになります。画期的なことです。

また、機能面でも大きな技術進歩がありました。これまでのVRはVR感を出すために、眼の錯覚以外に実際に歩くためのローラー床、上述のデータグローブ、データスーツなどの装備品が多く、コストが膨れる要因となっていました。それが、昨年から発売されたVR機器は、基本的に眼の錯覚を利用したものであり、そのため、スマートフォンやゲーム機にHMDを接続すればVRを楽しめるようになっているのです。

視覚以外のVRにも期待

更に、今後の展開にも期待できます。まず触覚では、ゲーム機のコントローラーにこれまでよりも精密な触覚デバイスを組み込むことで、近い将来、触覚のVRを加えることができるようになると思われます。触覚(ハプティック)と言えば、iPhone6sに日本電産などのハプティックデバイス(振動モーター)が搭載され、液晶画面に触覚を与えています。この分野にはアルプス電気も参入する可能性があると報じられています。ゲーム機のコントローラーなら、より複雑なハプティックを実現することが出来る可能性があります。

これ以外にもVRを実現する手法が研究されています。顔面に微弱電流を流すことで、頭部に衝撃を感じることができるようになります。例えば、耳の後ろに電極を張り、微弱電流を流すと、顔の片側が加速度を感じ、体が傾くのです。人体への影響を精査する必要があるため、開発には時間がかかると思われますが、サムスンは今年3月にプロトタイプを公開しています。

VRには大きな可能性があります。ゲームの世界がますます面白くなりそうです。

ソニーのVR戦略

VRブームの主役はソニーになると思われます。しかし、ソニーは熱くなっているようには見えません。むしろPSVRの事業性についてかなり慎重に考えているようです。

今期のPSVR供給数量は、私の予想で100~200万台、多くとも200~300万台と思われます(全世界)。このような画期的な付属品が発売されると、少なめに見積もってもハードウェアの累積販売台数の10%程度の実需があるものです。会社予想の今期PS4販売台数は2,000万台、2016年3月末の累計販売台数は4,000万台なので、今期のPSVRの実需は600万台程度はあるはずです。予約ができない人が続出しているのはこのためです。

ソニーが慎重なのは、VRが人体に与える影響を見定めたいと考えているからです。VRを体験すると「VR酔い」という乗り物酔いの様な症状が出る場合があります。PSVRはVR酔いを極力抑える設計にはなっていますが、出る人には出る症状で、人によって程度も違います。また、VRは両眼を長時間密閉するため疲れます。VR酔いを含むVR疲れは蓄積する疲れと言われていますが、クリエーターはゲームを作る過程で慣れてしまい、この点に気がつかない可能性もあります。ソニーは概ね200万台程度のPSVRを供給して、VR酔いやVR疲れがどの程度のもので、どの程度の数のユーザーに現れるのかを確認して、その対策を立てたいようです。

VRの将来には大きなものがあるため、立ち上げの際に急ぐ必要はないと思われます。本格展開は来期からと思われます。また、来期になると、VR対応ゲームソフト、特にフルVRのゲームソフトが少数ながら発売される可能性があります。これらの動きが続くと、PS4の販売台数が高水準のまま推移し、ソニーゲーム部門の好業績が続く可能性があります。その意味でPSVRはソニーの投資価値に対して強いプラスの影響を与えると思われます。引き続きソニーに投資妙味を感じます。

グラフ1 ソニーのプレイステーション販売台数
(単位:万台、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券)

表1 プレイステーションVR専用/対応ソフトの主なもの

カプコンのVR戦略

VRの醍醐味は、フルCG、フルVRのゲームソフトで遊ぶことにあると思われます(フルVRはゲームの最初から最後までHMDを付けたままプレイする完全VRゲーム)。要するに、臨場感あふれる映画の様なゲームの中で、映画の主人公になりきるのが、VRゲームの真髄ではないかと思うのです(私の個人的見解ですが)。ところがフルCGだけでなく、フルVRとなると開発費がかかります。カプコンの代表作「バイオハザード」シリーズの前作「6」(2012年10月発売)は累計で660万本売れました。来年1月発売の「7」(現時点では世界最初のフルVRソフトになる見込み。ただし、PSVRを付けなくともゲームは出来る)は今期、来期分合わせて700万本程度売れると思われますが、CGの水準が一層上がり、フルVR対応になっていることもあって、開発費はこれまで以上にかかっていると思われます。

このような、根強い人気を持つ半面、開発に手間のかかるソフトを開発するには、日米欧での販売が前提となります。大作ソフトで日本だけで成り立つのは、カプコンの「モンスターハンター」シリーズやスクウェア・エニックスの「ドラゴンクエスト」シリーズぐらいと思われます。ちなみに、任天堂もソニーも自社製ソフトは世界販売が前提になります。

ところが、日本のゲームソフト会社で世界展開できる会社は、今や任天堂、ソニー、カプコン、スクウェア・エニックス・ホールディングスの4社になってしまいました。理由はいくつか考えられますが、ガチャを多用する高額課金型のスマホゲームに依存した会社が、スマホゲームであれ家庭用ゲームであれ、海外展開がうまく行かなくなっています。スクウェア・エニックスだけが例外です。カプコンはガチャ型のスマホゲームも配信していますが、高額課金を否定した運営をしています(これは創業者の現CEOが高額課金型ゲームがいずれ顧客離れを引き起こす可能性があると考えているためのようです)。

私はカプコンに投資妙味を感じています。会社予想では今期営業利益は前期比13%増の136億円です。これまでは、バイオハザードの新作が発売された翌期は減益でしたが、家庭用ゲーム市場が2018年3月期、2019年3月期と成長する期待が大きいこと(成長ドライバーは、PS4+VRとNXと思われます)、世界展開が出来るソフト会社が日本だけでなく世界的に見ても少ないことを考えると、持続的成長が可能になる条件が整ってきたように思われます。PERが13倍と低いことも魅力です。

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ソニー(6758)/カプコン(9697)