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決算コメント:トヨタ自動車、富士重工業銘柄コメント:小野薬品工業
今中 能夫
楽天証券投資weekly セクター・投資テーマ編
毎週金曜日夕方掲載。楽天証券経済研究所チーフアナリスト 今中能夫の、今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。注目セクターと投資テーマに重点を置いて、相場と銘柄を…

決算コメント:トヨタ自動車、富士重工業銘柄コメント:小野薬品工業

2016/8/12
トヨタ自動車の2017年3月期1Qは前年比5.7%減収、15.0%営業減益となりました。為替レートは前1Qの1ドル=121円から今1Q108円へと円高になり、円高デメリット(表2の「為替変動の影響」)が2,350億円発生しましたが、これを原価改善の努力、営業面の努力(販売台数の増加、販売構成の向上など)などである程度補いました。タカタのエアバック問題による品質関連費用も今1Qは減少しました。
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本レポートに掲載した銘柄

トヨタ自動車(7203)/富士重工業(7270)/小野薬品工業(4528)

トヨタ自動車(7203)

2017年3月期1Qは15%営業減益

トヨタ自動車の2017年3月期1Qは前年比5.7%減収、15.0%営業減益となりました。為替レートは前1Qの1ドル=121円から今1Q108円へと円高になり、円高デメリット(表2の「為替変動の影響」)が2,350億円発生しましたが、これを原価改善の努力、営業面の努力(販売台数の増加、販売構成の向上など)などである程度補いました。タカタのエアバック問題による品質関連費用も今1Qは減少しました。

地域別に見ると、日本は円高による輸出の利益の減少によって39.0%減益となりました(表3)。ただし、4月以降の国内のトヨタブランドの販売台数は前年比プラスが続いており(表10)、レクサスブランドも概ね同様なので、経費増はあった模様ですが、国内部門の業績は悪くはなかったと思われます。熊本地震の影響は系列のアイシン精機中心にありましたが、車両生産への影響は年内にも生産増加で取り返す目論見です。

北米は、35.2%営業増益でした。金利スワップ取引などの評価損益を除いても、前1Q1,511億円→今1Q1,654億円の営業利益が出ました。会社側の説明では原価改善努力や諸経費減少によるということですが、より重要なことは、北米の新車販売台数におけるライトトラック(SUVとピックアップトラック)の増加が進み、苦戦が続く乗用車の販売台数を恒常的に上回るようになってきたことです(表4)。前期までは、ライトトラックよりも乗用車の主力車種の販売台数が多かったため、乗用車の販売不振、各種の経費増加などの減益要因が大きく、北米の営業利益はライトトラックの増加ほどには伸びませんでした。しかし、今期は経費増加も一服し、その結果、もともと採算の良いライトトラックの伸びが北米部門の営業利益増加に直結するようになってきたと思われます。

アジアも27.4%増益でした。インドネシアとタイは市場とトヨタブランドの両方が回復しており、インドも堅調でした。また、持分法投資損益は前1Q1,009億円から今1Q900億円へ減少しましたが、このうち中国事業からの持分利益は124億円→276億円へ大幅増となりました。中国での自動車販売が22.8万台から29.1万台(小売台数)へ増えたことによります。

なお、1Qの為替感応度(通期も同じ)は、1ドル1円の円高で営業利益に対して通期400億円、ユーロで同40億円のマイナス要因となります。1Qのドル、ユーロ以外の通貨(新興国通貨を含む)の円高デメリットは950億円で、為替影響全体の2,350億円に対して新興国通貨の影響は大きなものでしたが、通期では新興国通貨の影響は薄れていく見通しです。これは、新興国通貨は前1Qに対円で大きく下げましたが、その後回復している通貨もあるため、今2Q以降の影響度は相対的に小さくなるだろうという会社側の見方によるものです。

表1 トヨタ自動車の業績

表2 トヨタ自動車の営業利益増減要因

表3 トヨタ自動車の地域別営業利益

表4-1 トヨタ自動車-アメリカでの主力車種の販売動向:1

表4-2 トヨタ自動車-アメリカでの主力車種の販売動向:2

2017年3月期会社予想営業利益は1,000億円減額し1兆6,000億円の見込み

2017年3月期会社予想業績は、売上高26兆円、営業利益1.6兆円に下方修正されました(前回予想は売上高26.5兆円、営業利益1.7兆円)。為替レートの前提が、1ドル=105円から1ドル=102円(2Q以降は1ドル=100円)に修正されたことに伴い、円高デメリットが増加する見込みですが、これをアメリカ、中南米での値上げ(営業面の努力の「その他」)、品質関連費用など(「諸経費の増加ほか」の中の「その他の経費」)の増加が従来予想を若干下回りそうなことなどで補います。

通期営業利益予想1.6兆円の減益率43.9%は1Qの営業減益率15.0%よりも大きな減益率になりますが、これは、2Q以降に各種経費増加のマイナス要因が発生するからです。

上述したように、北米では採算の良いライトトラック系(特にSUV)が事業の中心になっており、乗用車販売を支えるためのインセンティブを考慮しても、北米の利益の伸びは続く可能性があります。また、2017年夏~秋に北米でTNGA(トヨタが進める新設計生産思想)を全面的に採用した戦略車「カムリ」が発売される見通しです。販売の苦戦も予想されますが、コストダウンが期待できます。

アメリカ市場をどう見るかが重要になっています。一つの見方は、アメリカ市場はこのまま高原状態となり、やがて緩やかな減少トレンドが始まるというものです。2008年のリーマンショック後に販売が急減しましたが、その後、その急減を穴埋めする形で販売が伸びてきました。この動きが止まり始めたという見方です。

一方で、人口から見て、アメリカの新車販売は緩やかな増加が続くと考える見方もあります。アメリカの人口は2008年の3億472万人から2016年IMF推計の3億2,433万人まで増え続けています。アメリカ人の生活にとって自動車はなくてはならないものですから、人口が増え続ける限り自動車販売も緩やかであっても増え続けるという見方です。私もこの見方を採っています。

一方で、アメリカ市場にはリスクもあります。ライトトラックの環境性能をどう上げるかということですが、トヨタはまだ有効な答を見出していないように見えます。規制上は今年冬発売予定の新型プリウスPHVの販売量を増やすことが重要になりますが(カリフォルニア州のZEV規制では、ハイブリッドカーは環境車として採用されず、PHV、EV、燃料電池車が環境車の扱いになる)、将来も乗用車の回復が見込めない場合、ライトトラックのダウンサイジング、例えば、排気量4,000~5,000ccのSUVを3,000ccクラスのダウンサイジングターボに置き換えることも必要なると思われます。

また、中国の伸び、タイ、インドネシアの底打ちは、中国はトヨタの重点戦略地域であり、タイ、インドネシアは伝統的にトヨタのシェアが高い地域であることから、今後の業績に良い影響が出ると思われます。

地域別に見ると、北米、アジア、中国は来期も堅調が見込まれます。来期にこれ以上円高にならないという前提でですが、来期には増益転換すると思われます。

トヨタは自動運転に本腰を入れる

技術面では、大きな変化があります。これまでトヨタは、自動運転に対して、「先進運転支援システム」(ADAS)のようにドライバーの運転を支援するシステムに重点を置いてきました。完全自動運転には消極的であり、まだまだ先の話という認識のように外部からは見えました。

ところが今1Qから方向転換したようです。2020年を目処に、高速道路での自動運転(車線変更や追い抜きが出来る)を実現する方針です。この方向転換の背景は、まず、日本政府が進める、2020年に地域限定での無人運転車両と、高速道路での自動運転を解禁するという政策に呼応したことであり、加えて競争上の理由があると思われます。日産自動車は8月下旬に国内で発売する「セレナ」に、高速道路での部分自動運転(レベル2)が可能になる「プロパイロット」を搭載します。先進運転支援システムの「アイサイト」が富士重工業の業績躍進の一つの要因になったことや、現場でADASだけでなくパーキングアシストシステム(駐車支援システム)が販売するときの「ウリ」になっていることを考えると、販売面で「自動運転」が無視できなくなってきたものと思われます。

このように、トヨタが本格的に自動運転車の開発に注力するとなると、デンソー(ADAS、自動ブレーキ、パーキングアシストシステムを開発、販売)、アイシン精機(パーキングアシストシステムの一部)のような系列メーカーだけでなく、ルネサス エレクトロニクス、本来は別系列の日立製作所(日産、富士重工業が重要顧客、アイサイトを富士重工業と共同開発)、クラリオン(日産へパーキングアシストシステムを供給か?)などの事業展開が前に進むという意味で影響が出てくると思われます。

今回の1Q決算を見る限り、トヨタ自動車を再評価する必要があると思われます。これまでは北米事業に不安がありましたが、ある程度はその不安が払拭されました。中長期での投資妙味を感じます。

富士重工業(7270)

2017年3月期1Qは24%営業減益

2017年3月期1Qは0.5%増収、24.3%営業減益でした。販売台数は24万5,200台(前年比8.9%増)と堅調で、国内はレガシィ、インプレッサ、WRXが好調。アメリカは15万5,000台(10.4%増)で、アウトバック、クロストレック、レガシィが好調でした。一方、損益は、販売構成の改善(表7の売上構成差、採算の良い車が売れた)、原価低減などの寄与はありましたが、タカタのエアバック問題に関するクレーム費(リコール費など)の増加で諸経費が増加し、円高デメリットも292億円あったため、全体の営業利益は24.3%減となりました。

2017年3月期通期は為替がリスクだが、アメリカ工場の増強は業績拡大要因

2017年3月期は、通期為替レートの前提を、1ドル=105円から1ドル=106円へ修正したことで100億円の営業増益要因が発生します。この前提為替レートの修正は、1Qの1ドル=111円に対して2Qを1ドル=104円、下期を1ドル=105円としたものですが、足元の1ドル=101円台が続けば、約290億円の営業減益要因が発生します(営業利益に対する為替感応度は、1ドル1円の円高で通期107億円のマイナス要因)。この部分は今期業績を見る場合のリスクとなります。

また、タカタのエアバック問題に要する費用などで、クレーム費が期初予想よりも300億円増える見込みです。

通期の会社業績予想は、表5の通り、売上高3兆1,900億円(前年比1.3%減)、営業利益4,000億円(29.3%減)です。

上述のように為替については、足元の1ドル=101円台が続けば、下方修正リスクとなると思われます。一方で、今年5月末にトヨタ向けのカムリ受託生産が終了し、その生産ラインで7月からアウトバックの生産を開始しています。次いで、新型インプレッサの生産も開始する計画です。北米のスバル車需要は引き続き強いため、アメリカ生産の増え方次第では、アメリカ工場の増産は上方修正要因となると思われます。また、このアメリカにおけるアウトバック、インプレッサの増産は来期の業績拡大要因にもなると思われます。

今期は為替によっては下方修正のリスクがあるものの、北米でのスバル車需要が強いこと、アメリカ工場の増産が始まったことはポジティブに捉えたいと思います。投資妙味を感じます。

表5 富士重工業の業績

表6 富士重工業の国別販売台数

表7 富士重工業の営業利益増減要因

表8 富士重工業:アメリカの車種別新車販売台数

自動車市場に関するデータとコメント

  • アメリカ市場:アメリカ市場は堅調。SUV・ピックアップトラックへのシフトが進んでいるため、自動車メーカーの採算は改善している。上述のように、先行きについては悲観論と楽観論があるが、人口が増えていることは重要なポイントと思われる。
  • 欧州市場:6月までは堅調だが、それ以降、特に秋からはイギリスのEU離脱の影響が見通せず不透明。ただし、日系メーカーで十分なシェアを持っている会社は日産自動車ぐらいなので、日系メーカーの事業全体に大きな影響はないと思われる。
  • 日本市場:2017年4月の消費税増税がなくなったため、増税前の駆け込み需要もなくなった。軽自動車の減少も続いている。ただし、トヨタ、富士重工業など売れる車種を揃えている会社は伸びているため、車次第と言えよう。
  • 新興国市場:中国が小型車、エコカーへの補助金の影響で順調に伸びている。タイ、インドネシアは市場が底打ちから回復へ。インドも順調。中国を含むアジアは日系メーカーにとって重要な地域である。

グラフ1 各国の新車販売台数:前年比:1

(単位:%、出所:Autodata、各国自動車工業会より楽天証券作成)

グラフ2 各国の自動車販売台数:前年比:2

(単位:%、出所:各国自動車工業会より楽天証券作成)

グラフ3 アメリカの新車販売台数(年率換算)

(単位:百万台、出所:AUTODATAより楽天証券作成)

グラフ4 アメリカ新車販売台数

(単位:万台、暦年、出所:AUTODATAより楽天証券作成、予想は楽天証券)

表9 アメリカの新車販売台数:前年比

表10 日本の新車販売台数:前年比(ブランド別)

小野薬品工業(4528)

CheckMate-026試験で無増悪生存期間を達成できなかった

8月5日、ブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMS)は、PD-L1発現レベルが5%以上の未治療の進行期非小細胞肺がんを対象としたオプジーボ(一般名ニボルマブ)の単剤療法を評価する臨床試験、CheckMate026(国際共同治験、フェーズⅢ)において、主要評価項目である無増悪生存期間を達成できなかったと発表しました。無増悪生存期間(Progression-Free Survival、PFS)とは、治療後がんが進行せず安定した状態である期間のことです。この指標は、進行がんの患者に対する治療効果を見るときによく使われます。この026試験では、無増悪生存期間以外の副次的評価項目として、全生存期間、奏効率、安全性などを測ります。

BMSがこのリリースを出した後、8月9日に小野薬品工業は、改めてBMSのリリースの邦訳と、オプジーボの事業への関連についてのコメントを記載したリリースを公表しました。それによれば、026試験の結果は、現在日本で承認されているメラノーマ(ファーストライン)、非小細胞肺がん(セカンドライン)の使用についての影響はありません。現在日本で申請中の腎細胞がん、頭頸部がん、ホジキンリンパ腫の承認審査に与える影響はありません。現在日本で実施中の単剤、併用剤の臨床試験にも影響はしません。

また、現在進行中のCheckMate-227試験(未治療の非小細胞肺がんを対象としたオプジーボ単剤、オプジーボとヤーボイの併用治療、オプジーボと化学療法の併用治療の可能性を探る、PL-L1陽性、陰性の患者を比較する、2015年8月~2018年1月、フェーズⅢ、ファーストライン)は継続されます。CheckMate-012(2011年12月~2017年11月、フェーズⅠ、ファーストライン)では、オプジーボ単剤と、ヤーボイ、各種化学療法剤との併用との比較を行っていますが、これも継続されます。

非小細胞肺がんファーストラインの申請は先延ばしへ

8月5日、8月9日のリリースは、026試験の速報ですので、今後026試験の他のデータも合わせて解析して結論を出すことになります。非小細胞肺がんファーストラインの申請は、この解析結果によるか、あるいは227試験や012試験の結果を待って行う可能性があります。従って、非小細胞肺がんのファーストラインの申請は当面なくなったか、行うとしても先延ばしになる可能性が高くなったと思われます。

今承認されている効能、効果は、根治切除不能な悪性黒色腫(メラノーマ)と、切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんの2つです。このうち非小細胞肺がんについては、化学療法を施していない患者に対する有効性と安全性は確立されていないことが注意書きに挙げられていますので、事実上、化学療法剤(抗がん剤)による治療を行った後の治療(セカンドライン)になります。また、化学療法剤による治療後のオプジーボの投与に際しては、PD-L1の発現が陽性か陰性かは制限されていません(PD-L1の検査しなくともオプジーボは使えます)。

これに対して026試験は、非小細胞肺がんのステージⅣまたは再発した患者に対する最初の薬(ファーストライン)としてオプジーボを使うための臨床試験です。そしてファーストラインとしてオプジーボを使う場合の条件として、PD-L1発現レベルが5%以上の患者に対して投与することになります(PD-L1はがん細胞の表面に発現し、がんを攻撃するT細胞上のPD-1と結び付くことによって、がんの免疫逃避機構を働かせます。このPD-1に蓋をかぶせる形でPD-L1との連鎖を断つのがオプジーボです)。

今のオプジーボはセカンドラインですが、ファーストラインになると投与対象患者数が増えます。セカンドラインは非小細胞がんのステージⅣの患者3.2万人のうち、遺伝子の状況などで投与可能な人を選別して年間1.5万人が投与可能人数になるというのが会社側の考え方です。これに対して、ファーストラインになると対象患者数5万人(薬物療法をしていないステージⅢ、Ⅳの患者で再発を含む)の中から選別することになります。仮にこのうち半分が投与可能になれば、年間2.5万人となり、セカンドラインよりも年間1万人投与可能患者が増えることになります。

このため、ファーストラインの申請がおそらく当面はなく、先延ばしになるであろうことは、小野薬品工業の業績予想にマイナスの影響を与えます。このことから、8月8日からの株式市場で小野薬品工業株は激しい下落に見舞われました。

一方で、他のがん種への適用拡大は順調に進む見通しです。昨年12月に申請された腎細胞がんは承認される見通しとなりました。9月までに正式承認され、現在の薬価で実際に使用されることになります。今回の腎細胞がん承認はセカンドラインですが、対象患者数は年間4,500人です。また、現在申請中の頭頸部がん(対象患者数約3,000人)、ホジキンリンパ腫(同440人)は今期から来期にかけて承認されると思われます。2017年になると肝細胞がんと胃がんのフェーズⅢが終了する予定です。この2つの臨床試験で良い結果が出れば、2019年3月期に申請→承認となる可能性があります。このように、非小細胞がんファーストラインの承認がなくとも、投与可能患者数は順調に増加する見通しです。

また、後述のような高額医薬品の薬価を巡る議論を考えると、適用拡大を急速に増やしていくことは、オプジーボの採算面にとって、必ずしもプラスではないと思われます。

026試験の不調はオプジーボの当面の競争力を低下させることはないと思われる

オプジーボの競合薬は、現在のところ、メルクのキートルーダ(ペムブロリズマブ)のみです。キートルーダはアメリカと欧州で承認されており、日本でも年内に承認されると思われます。キートルーダはファーストラインですが、PD-L1発現率50%以上が投与の条件です。この条件はかなり厳しいもので、オプジーボとキートルーダのアメリカでの売上高から見ると、キートルーダの対象となる患者数はオプジーボの4分の1程度と思われます。

キートルーダの奏効率はオプジーボよりも高くなりますが、これはキートルーダのPD-L1発現率のハードルが高いため、言わば「決め打ち」になるからです。PD-L1発現率が50%未満の患者は切り捨てられます。これに対してオプジーボは、「All Comer戦略」を採っており、抗がん剤治療を受けた患者であればPD-L1に関係なく投与が可能です。PD-L1の試験をする必要がなく、足切りもないことがオプジーボの優位性だと思われます。アメリカでオプジーボが急速に伸び、キートルーダの伸びが緩やかなのは、主としてこれが要因と思われます。

今回の026試験の不調は、オプジーボとキートルーダの競争関係に影響を与えることはないと思われます。特に日本においてです。キートルーダも非小細胞肺がんについて、複数の併用治療でPD-L1の制約のないファーストラインの臨床試験を行っていますが、結果が出るのは2,018~2019年です。今回の026試験でわかったように、画期的新薬の臨床試験の全てがうまくいくとは限りません。キートルーダの臨床試験も全てうまく行くとは限らないと思われます。

026試験の解析を待ちたい

026試験では、オプジーボ単剤と、現在非小細胞肺がんの1次治療で使っているゲムシタビン、シスプラチン、カルボプラチン、パクリタクセル、ペメトレキシドを比較しました(薬は治験担当医師が決める)。セカンドラインの承認の根拠となった017、057試験では、セカンドラインの標準治療であるドセタキセルと比較しましたが、ゲムシタビン以下のファーストラインの薬はドセタキセルに比べて相対的に効きが良いため、026試験は017、057試験よりも難しい試験だったことは否めないと思われます。

また、PD-L1の発現率が影響している可能性はあります(発現率が高いほうがオプジーボは良く効く可能性があるかもしれない)。

化学療法剤の治療歴がオプジーボの効き方に影響しているのではないかと考える人もいると思われますが、会社側は不明としています。がん治療薬の新薬は、いきなり患者に投与するにはリスクがあるため、最初の承認では、既存の抗がん剤治療を行ったがうまくいかなかった患者に投与することが条件となります。そのため、最初はセカンドラインまたはサードラインで承認されます。

026試験の結果の解析はこれからですので、結果を待ちたいと思います。今回の結果をあまりにネガティブに捉えないほうが良いというのが私の意見です。オプジーボにはわからない点が多く、今回の「失敗」は、オプジーボとは何者であるかを知り、より効くようにするにはどうすればよいかを見出だす糸口にならないとも限りません。

薬価を巡る動きは不透明

小野薬品の当面の業績には、026試験の結果よりも薬価のほうが重要です。7月27日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会において議論されましたが、年内めどにオプジーボの薬価を特例的に引き下げる方向性を決めます。今の流れから行けば2017年4月に特例的に薬価が引き下げられる可能性があり、続いて2018年4月には定時の薬価引き下げがあると思われます。

ただし、一部の報道によると、これまでオプジーボの期中改定の急先鋒だった日本医師会が、オプジーボ値下げ分を診療報酬の値上げに充当してほしいとしている模様です。オプジーボが値下げになるだけで、一方的に国の医療予算が削減されることになることを恐れているようです。この場合、2017年4月にオプジーボの特例的な薬価引き下げをするのかしないのか、する場合の薬価の引き下げ率をどうするのかということに影響があります。

このように、今のところ、様々な議論がある模様であり、オプジーボの薬価引き下げがいつ、どの程度の率で行われるのか、見通せません。

ただし、適応拡大に合わせて段階的に値下げされるのであれば、小野薬品の業績に大きなマイナスの影響は出ないと思われます。オプジーボのアメリカの薬価は、1瓶が日本の約3分の1、患者1人当たりコストは日本の約半分弱です(日本人は標準体重60kg、アメリカ人は80kg)。日米のオプジーボの売上金額を比較すると、投与人数は日本の約5倍と試算されます。日本の今の年間1.3万人の投与人数が5倍になるのは長い時間がかかると思われますが、2~3倍なら2019年3月期~2020年3月期に実現できると思われます。段階的な値下げであれば、一定の利益水準を維持できると思われます。

株価は戻り期待も

私は今回の026試験の不調に対して過剰反応すべきではないと考えています。オプジーボは今もよく分かっていなことが多い薬ですが、特にアメリカの医師、病院、大学などで活発に研究されています。製薬メーカーやバイオベンチャーでも併用剤の開発を行っている会社があります。言わば新薬開発が続いている状態です。抗がん剤の新薬パイプラインを持っている製薬メーカーのPERは40倍以上するケースが多く、それを考えると、小野薬品工業の今のPER28倍(2016年8月10日終値3,010円より)は割安と思われます。少し時間がかかるかもしれませんが、株価の戻りが期待できると思われます。

なお、7月31日までのオプジーボの累計投与人数は9,002人で、半月毎の増加数は鈍化しました。7月下旬にあった日本臨床腫瘍学会に出席した医師が多かった影響と思われます。ただし、継続投与患者が多くなっている模様であり、そのため、月間売上高の推移には変調はないと思われます。実質的には会社側の当初の見方を上回る売上高のトレンドになっている可能性があります。

 

図1 Ⅳ期非小細胞肺がんに対する薬物治療フロー(現在のもの)

表11 オプジーボの臨床試験スケジュール

表12 小野薬品工業:オプジーボの投与人数

本レポートに掲載した銘柄

トヨタ自動車(7203)/富士重工業(7270)/小野薬品工業(4528)

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