本レポートに掲載した銘柄

ソニー(6758) /小野薬品工業(4528)

ソニー(6758)

2017年3月期1Qは42%営業減益

ソニーの2017年3月期1Q営業利益は、前年比42.0%減の562億円でした(表1)。セグメント別に見ると、半導体部門(主にイメージセンサー、従来のデバイス部門を半導体とコンポーネント(電池、記録メディアなど)に分離した)の営業利益が前1Q327億円の黒字から今1Q435億円の赤字になったのが響きました。4月に起きた熊本地震の影響です。

イメージセンサーのAV向け生産に地震の影響で支障がでたことによって、イメージング・プロダクツ&ソリューションの高級カメラの生産が滞ったため、この事業も大幅減益になりました。

映画は赤字でした。映画興行の一部が予算未達でした。音楽は大幅減益でしたが、これは、後述のオーチャードメディアの持分再評価益が前1Qに計上されている反動です。

営業利益全体では、前1Qに音楽部門の持分法適用会社オーチャードメディアを100%子会社化する際の持分再評価益181億円、ロジスティックス事業売却益123億円、プレイステーションネットワークがサイバー攻撃を受けたことによる保険収益47億円が営業利益に計上されていることの反動がありました。

表1 ソニーの業績

表2 ソニーのセグメント別営業利益:四半期ベース

表3 ソニーのセグメント別営業利益:通期ベース

好調な事業も多い

一方、半導体以外の事業を見ると、好調なものがあります。

ゲーム&ネットワークサービスの営業利益は前1Q195億円から今1Q440億円へ2倍以上になりました。プレイステーション4のハード、ソフトが好調です。5月発売の「アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝(アンチャーテッド4)」は発売後1週間で270万本出荷しました。現時点での店頭販売は341万本(VGChartz調べ)で、なお伸びる余地があります。11月には「グランツーリスモSPORT」が発売される予定です。下期にはPSビューの広告宣伝費を増やす予定ですが、今の傾向なら、営業利益の上方修正があり得ると思われます。

モバイル・コミュニケーション(スマートフォン)は、229億円の赤字から4億円の黒字となりました。エクスぺリアの販売が好調で黒字の日本に集中して、欧州などの不採算地域を縮小しました。高級品を増やして中級品を削減したことで、製品ミックスも改善。また、前1Qは円安デメリット254億円が出ましたが、今1Qは逆に円高メリット44億円がありました。通期の営業利益見通しは50億円で変わりませんが、長らく赤字が続いていたモバイルコミュニケーション事業が黒字転換しつつあることは、ソニー全社の損益にとって重要なことです。

ホームエンタテインメント&サウンドは、109億円の黒字から202億円の黒字へ大幅増益でした。テレビが好調でした。

金融は、一桁増益でしたが、営業利益は485億円と高水準でした。前4Q(2016年1-3月期)はマイナス金利の影響で営業利益が172億円に落ち込みましたが、今1Qは回復しました。金融部門は利益水準が高いため、これも全社営業利益にとって重要です。

グラフ1 ソニー:ゲーム&ネットワークサービス部門の業績

(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券)

2017年3月期は地震の影響がなかったら実質上方修正

2017年3月期通期の会社側営業利益予想は3,000億円(前年比2.0%増)で据置です。

まず、地震の影響は前回見込みの1,150億円(営業利益に対する地震のマイナス要因)から800億円に減少しました。イメージング・プロダクツ&ソリューションの影響(機会損失)が450億円から260億円に減少するほか、半導体でも600億円から480億円に影響が少なくなる見込みです。

会社側のセグメント別営業利益予想を見ると、半導体は円高デメリットが加わったことにより前回見通しに対して大幅下方修正となりました。コンポーネントは電池事業の減収、記録メディア事業の長期性資産減損があること、映画は前回見通しに対して売上高が未達となりそうなので、これも下方修正となりました。

また、為替前提を、当初前提の1ドル=110円前後、1ユーロ=120円前後から1ドル=103円前後、1ユーロ=114円前後(ただし、2Q~4Q)へ変更しました。この変更による前回見通しに対するマイナス影響は約480億円になります(新興国通貨を含む)。

一方で、イメージング・プロダクツ&ソリューション、ホームエンタテインメント&サウンドが上方修正されました(表3)。

このほか、「その他、全社及びセグメント間取引消去」のマイナス部分が300億円減少しています。地震のマイナス要因の減少と下方修正された部門の本社配賦費用が減少する見込みであることなどによります。

このように、仮に地震がなかった場合、通期見通しは上方修正されていたと思われます。

なお、後述のように村田製作所へ電池事業を売却する交渉に入りました。売却が実現すれば、売却時に損失が発生する可能性があります。一方で、ゲーム事業については上方修正の可能性があります。したがって、今期の営業利益3,000億円は確度が高い予想であると思われます。

2018年3月期は営業利益4,000億円台か

来期2018年3月期に向けて各部門の業績を無理のない形で引き伸ばしてみると、2018年3月期営業利益は4,000億円以上となる見込みです(表3)。

特にゲーム&ネットワークサービスの好業績が予想されます。任天堂とは競合する一方で、任天堂のスマホゲーム進出はゲーム人口の拡大を通じてソニーへの好影響が期待されます。また、私の見方では、任天堂の新型機NXはVR対応をしない可能性が高く、その場合、ソニーと任天堂はゲーム市場でうまく棲み分けると思われます。

また、ポケモンGOのグローバル配信、特にインド、インドネシアなどアジアの大国での配信開始がスマートフォン需要を刺激する可能性があります。即ち、日本で起こっているように、ポケモンGOのアジアでの配信開始が、アジアで低級スマホから中級スマホへの買い替えを促進する可能性があります。そして、中級スマホから高級スマホへの買い替えをも引き起こすかもしれません。高級スマホ需要が刺激されると9月発売と言われるiPhone7の売れ行きにも好影響があると思われます。その場合、ソニー半導体部門が息を吹き返すかもしれません。イメージセンサー事業の動きを注視したいと思います。

ソニー株には十分な投資妙味があると思われます。

村田製作所に電池事業を売却する交渉に入った

先週の本稿で書いたように、ソニーと村田製作所は電池事業売却の交渉に入りました。2017年3月末を目処に村田製作所がソニー電池事業を買収することになります。価格はこれからの交渉で決まりますが、買収価格によってはソニーに損失が発生する可能性があります。

ただし、この売却はソニーにとっても村田製作所にとってもよい取引となるでしょう。先週も書きましたが、ソニーは電池に関して優れた技術を持ちながら、小型薄型化、急速充電性能を優先したために、大容量化に対応できず、TDKに大きなシェアを取られてしまいました。それに対して、村田製作所は、ソニーが持つ小型化薄型化技術と急速充電技術に関心があるようです。例えば、IoT関連の電子部品に超小型電池を組み込むなどです。今後の動きに注目したいと思います。

小野薬品工業(4528)

2017年3月期1Qはオプジーボの寄与で48%営業増益

小野薬品工業の今1Q営業利益は前年比47.7%増の172億円でした。研究開発費、販管費が各々大きく伸びましたが、免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」が前1Q14億円から今1Q252億円に伸びたことで吸収しました。

売上総利益率は前1Q74.1%に対して、今1Qは72.4%でした。オプジーボの様な抗体医薬品(バイオ医薬品)は、低分子化合物などの他の医薬品に比べ原価率が高い(売上総利益率が低い)のですが、オプジーボがメラノーマから非小細胞肺がんに適用拡大され、市場規模が約40倍に拡大したにも関わらず、高い薬価(会社側によれば1カ月間の平均投与費用は266万円(薬価ベース))が維持され、その状態で大幅増収となったため、全体の売上総利益率はほぼ維持されました。

2017年3月期通期の会社側業績予想(営業利益725億円、前年比137.7%増)、オプジーボの売上高予想(1,260億円)は維持されました。オプジーボ売上高の推移は、私の予想を下回るものですが、これは、会社側、医師・病院側ともに副作用、費用の両面で、オプジーボの販売、投与に慎重になっていること、副作用が出たり効果が出なかったためにオプジーボの投与を中止する患者が毎月出ているためと思われます。

ちなみに、オプジーボを投与すると、最初の約3カ月間で約半数の患者で腫瘍が増加するため、その患者に対しては投与中止となります。また、約10%の患者に重篤な副作用(入院して専門医が治療しなければ命にかかわるような副作用。間質性肺炎など)が出るため、これも投与中止となります。ただし、軽い副作用の場合は投与を続けます。患者の状態は一様ではないため、どのようなトレンドでオプジーボの売上高が伸びるのか、1-3月期、4-6月期だけの売上高だけでは分析には不十分です。より詳細を知るには7-9 月期決算を待つ必要があります。

表4 小野薬品工業の業績

表5 小野薬品工業のオプジーボ売上高

表6 小野薬品工業:オプジーボの投与人数

2017年3月期は会社予想に若干上乗せの可能性も

オプジーボの四半期ベース売上高は、2016年1-3月期154億円、4-6月期252億円と増えています。月次の新規投与人数1,000~1,100人に加え、継続投与患者が増えていると思われることから、当面は四半期ベースでの伸びが続くと思われます。

会社側が想定している今期の四半期ベース売上高をイメージすると、実績値の2016年1-3月期154億円、4-6月期252億円に対して、概数で7-9月期300億円、10-12月期350億円、2017年1-3月期400億円と思われます。2017年3月期合計では約1,300億円となり会社予想の1,260億円を若干上回りますが、副作用が出ない患者が増えたり、継続投与人数が増えれば、会社予想以上の売上高になる可能性は十分あると思われます。

ただし、非小細胞肺がん向けの臨床試験では、2年以上延命する患者が統計上は投与者数の20~30%いることになっていますが、実際にどうなのかは、非小細胞肺がんの承認が降りた2015年12月から2年たたないとわからないというのが会社側の考え方です。オプジーボは、腫瘍が縮小して長期延命するだけでなく、腫瘍は縮小しないが大きくもならない状態で長期延命することがあります。時間をかけて臨床例を積み上げなければ、解明されないことも多い模様です。

今1Qのオプジーボ売上高252億円に対して、新規投与分が毎月計上され、翌月から継続投与になる一方で、新規投与と継続投与分の中から副作用や腫瘍の増大で投与を中止する患者が出てきます。基本的には、新規投与と継続投与分が中止分を上回るため、四半期ごとに増収になる見込みです。また、非小細胞肺がん向けでは1-3月期には3rdライン、4thラインの投与が多かったですが、4-6月期は2ndラインが多くなりました(2ndラインの投与は、年初は20~30%、最近1~2カ月では60%以上。別の抗がん剤治療を行った後にオプジーボを投与するのが2ndライン。2~3種類の抗がん剤治療を行ってからオプジーボを投与するのが3rdライン、4thライン)。2ndラインの患者は、3rdライン、4thラインよりも使用期間が長くなるため、このことも2Q以降のオプジーボ売上高増加に結びつくと思われます。

会社側の前提では、平均投与月数は6カ月です。これが延長されると今期売上高は増えることになります。医師・病院側、小野薬品側ともに副作用を懸念して慎重な投与を行っているため、月間平均投与人数が約1,100人、年間約13,000人と、会社側前提の月間1,350人、年間15,000人(非小細胞肺がん向けのみ、メラノーマを含めて15,450人)を下回るペースです。ただし、会社側は売り上げ見通しを変えておらず、実質的には会社予想を上回るペースでオプジーボの売り上げが拡大していると言えます。

これらのことを考え合わせると、今期のオプジーボ売上高は会社予想の1,260億円を若干上回り、50~100億円の上乗せがあり得ると思われます。通期営業利益予想725億円についても20~50億円程度の上乗せがあると思われます。ただし、よりクリアに見通せるようになるのは、7-9月期のオプジーボ売上高を確認してからになると思われます。

2018年3月期の投与人数は増加へ

2018年3月期の新規投与人数は更に増加すると思われます。今期は肺がん向けに慎重な投与を行っていますが、非小細胞肺がんで投与できる患者は年間15,000人というのが会社側の見立てです。今期にオプジーボの臨床例が大きく増え、医師・病院もオプジーボの扱いに慣れると思われるため、来期は実際に1万5,000人の投与が可能になると思われます。

また、現在申請中で今期中に承認が予想される腎細胞がん(2ndライン)はオプジーボの対象患者数が年間約3,500人、今期中か来上期に承認が予想される頭頸部がんは同約3,000人が投与対象になると思われます。後述のメルクのキートルーダが上市された場合の非小細胞肺がん向けのシェア低下を考慮しても、来期のオプジーボ投与人数は1.8万人程度になると思われます。

加えて、2018年3月期中か2019年3月期上期に胃がん向けに適用拡大が見込まれます。推定で5千~1万人投与者数が増えると思われます。従って、2019年3月期は、中外製薬の参入を考慮しても、最大2.5万人のオプジーボ新規投与が予想出来ます。

競合相手としては、メルクのキートルーダ(ペンブロリズマブ)が今年年末から来年早々にメラノーマと非小細胞肺がんで日本で承認されると思われます。中外製薬=ロシュのアテロリズマブは2,017~2018年に非小細胞肺がん、腎細胞がんなどで承認されると思われます。ただし、効能が同程度であれば、臨床例が多いオプジーボが有利なので、オプジーボの新規投与患者数は増え続けると思われます。また、小野薬品工業とブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMS)は欧米でメルクに対して特許違反の訴訟を起こしていますが、キートルーダが日本で上市される場合は同様の措置をとると思われます。

薬価が最大の問題

薬価については不透明です。先週の本稿で書いたとおり、中央社会保険医療協議会(中医協)で高額医薬品の薬価についての議論が本格化します。そしてオプジーボについては、メラノーマから非小細胞肺がんへ適用拡大になったときに薬価改定が行われなかったとして、特例で薬価を引き下げる方向の議論が始まります。議論の中身にもよりますが、年内に方向性が決まり、2017年4月に薬価引下げになる可能性があります。引下げ率は分りませんが、市場規模が会社予想通りの年間1,260億円ならば、特例拡大再算定を使えば最大25%引下げ、用法用量の変更に伴う薬価引下げの場合は、56%引下げとなります。

仮に、新規投与人数が2017年3月期見込みの約1.3万人から2018年3月期1.8万人(シェア低下を織り込んで)に増えるとして、2017年4月に薬価引き下げがあると想定して、薬価引下げ率を20~30%とすると、オプジーボ売上高は20~30%増えると予想されます。その場合、全社営業利益が800億円台に乗せることも考えられます。一方、薬価引下げ率が40~50%ならば、利益横ばい、あるいは減益になるリスクも出てきます。オプジーボの薬価を巡る議論の結末を見るしかありません。

ただし、薬価引下げが実施されれば、一部の医師、病院にあると思われるオプジーボを使用する際の費用面での抵抗感は薄らぐと思われます。

なお、オプジーボに関する医師主導臨床試験を、当社とBMSは支援しています。日本赤十字社医療センターなど全国約35の医療機関が始めたオプジーボが効く患者を見極める研究(約300人の肺がん患者を対象に経過を約2年間観察する。肺がんの実態調査であり、投与期間の検証ではない)や、国立がん研究センターなど約44の医療機関が計画している、効果がある肺がん患者に対し、やめどきを探る研究(2017年末開始予定)などです。継続投与ではなく、期間を区切った投与法の開発は場合によっては患者の命に関わる問題になりかねないことから、製薬メーカーが主体となって実施するのは難しいため、医師主導臨床試験を全面的に支援する形を取ります。

また、併用剤の開発は、BMSの免疫チェックポイント阻害剤「ヤーボイ」(イピリムマブ)とオプジーボの併用についての臨床試験を日本でも行っており、これを優先しています。協和発酵キリンのモガムリズマブとの併用試験も行っており(固形がん向け)、日米欧でフェーズⅠです。

2018年3月期業績は不透明だが、オプジーボの普及は進む

7月14日付けのアナリストレポートは、2017年4月に実施される可能性のあるオプジーボの薬価引下げを想定しておらず、副作用の発現や投与中止になる患者の比率も不十分な形でしか織り込んでいません。1Q業績を検討した上で改めてアナリストレポートを作成し直すつもりです。

2018年3月期業績は薬価次第となりますが、上述のように投与人数自体は順調に増えると予想されます。副作用は重篤な副作用が累計投与人数の約10%に現れていますが、従来の抗がん剤に比べ低い比率であり、これがオプジーボ普及の足かせになることはないと思われます。

株価は下落していますが、会社予想ベースの今期予想PERは34倍です。がん領域に熱心な製薬メーカーのPERは40倍を超えていることが多いため、小野薬品工業のPERが高いわけではありません。また、オプジーボは投与法、併用剤の開発が続いている発展途上の新薬です。株価が落ち着けば、4,500~5,000円程度までのまでの戻りがあってもよいと思われます。

表7 小野薬品工業:オプジーボ(ONO-4538)の主な開発状況(単剤のみ)

表8 オプジーボの主な併用試験

グラフ2 免疫チェックポイント阻害剤のアメリカ売上高

(単位:百万ドル、出所:各社決算リリースより楽天証券作成)

グラフ3 免疫チェックポイント阻害剤の欧州その他売上高

(単位:百万ドル、出所:各社決算リリースより楽天証券作成)

注:オプジーボの欧州その他には小野薬品からのロイヤルティが含まれる。

グラフ4 オプジーボの日本その他売上高

(単位:億円、出所:小野薬品工業資料より楽天証券作成)

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