本レポートに掲載した銘柄

任天堂(7974) /アルプス電気(6770)/村田製作所(6981) /小野薬品工業(4528)

任天堂(7974)

2017年3月期1Qは営業赤字

7月27日、任天堂は2017年3月期1Q決算を発表しました。1Qは決算説明会がないため、詳細は訪問取材の後で報告します。今回は決算の概略をコメントします。

任天堂の2017年3月期1Q(2016年4-6月期)は表1の様に31%減収で51億円の営業赤字でした。また、営業外費用として為替差損350億円を計上した結果、経常損失387億円、当期純損失245億円となりました。

大幅減収で営業赤字となったのは、Wii U事業を今期で終了するため、ハードウェアの出荷削減を行っていることと、円高によります。また営業外費用の為替差損は、手元に持っている外貨建て預金、外貨建て短期有価証券に対して3月末の為替レートと6月末の為替レートの差によって発生する評価損であり、今回は円高になったため発生しました(2016年3月末1ドル=112.68円、2016年6月末102.91円)。これは最終的には期末レートで評価し直して年度決算に反映されます。

会社見通しは変更されていません。為替前提も、1ドル=110円、1ユーロ=125円で変更されていません。他社を見ると、今回取り上げた村田製作所、アルプス電気も業績見通しとともに為替前提も修正していませんが、これはよほどの業績変動がない限り1Q決算では業績修正を行わないとしているからです。任天堂にとっては、1Qはゲームの不需要期であり、重要性が低い四半期であるという事情もあると思われます。

表1 任天堂の業績

表2 任天堂:各ハード、ソフトの販売台数、本数:四半期ベース

任天堂は9月から大勝負をかける

今回の1Q決算の中身は任天堂の投資評価に何の影響も与えないと言うのが私の考えです。7月6日の「ポケモンGO」の配信開始からゲームの世界の全てが変わった、ゲームの歴史が変わったというのが私の意見です。この考え方は、7月22日付けの楽天証券投資WEEKLY「特集:任天堂」と、7月27日開催のネットセミナー「ポケモンGOで話題の任天堂関連銘柄を徹底解説」で述べました。これに付け加えるならば、次のようになります。

1.任天堂の基本戦略-家庭用ゲームをスマホゲームで補完する-

任天堂の家庭用ゲーム事業は「世代交代」モデルを採っています。今販売しているハードの中身が古くなると、新しいハードに切り替えるのです。以前は新旧のハードに互換性を付けていましたが、今はコストがかかるのでしていません。よりよいソフトを作り、より大きく成長するために全てを一新するという考え方です。

しかし、この世代交代にはリスクもあります。新型機の発売タイミングが難しく、往々にして旧型機との喰い合いが起こるのです。

一方、スマホゲームは世代交代がありません。良いソフトは安定して売れます。またポケモンGOでわかったことですが、優良キャラクターを使った場合の集客力が家庭用ゲームを遥かに凌駕しています。ただし、欠点はだらだらと衰退するソフトも多いということです。そこで、家庭用ゲームとスマホゲームを組み合わせて、ゲーム人口拡大と面白いゲームの開発を同時に目指そうというのが任天堂の今回の新戦略だと思われます。

2.今年9月から来年3月までが任天堂の新しい「スーパーサイクル」の起点になる

「ポケモンGOプラス」の発売が7月末から9月に延期になりました。システム対応の問題ということですが、これだけ大きなブームになっているゲームに対して、関連製品を一度に発売することは普通しません。通常は、ブームを長引かせるために、間隔を開けるものです。

任天堂の今後のスケジュールを見ると、9月のポケモンGOプラス発売、秋のスマホゲーム2作の配信開始(「どうぶつの森」「ファイアーエムブレム」)、11月の3DS版「ポケットモンスター」新作発売、2017年3月までのスマホゲーム2作配信開始、2017年3月のNX発売と、次のニンテンドー・スーパーサイクル(グラフ1)を立ち上げるためのスケジュールがびっしりです。要するに9月から任天堂は次の成長のための大勝負に出るのでしょう。そして、このスーパーサイクルの起動力がポケモンGOになるというのが私の見方です。

3.任天堂にとってのポケモンGOの意味

任天堂にとって、ポケモンGOの直接の収益寄与は、今期の持分法利益(営業外収益)に60~80億円、ポケモンGOプラスからの利益が推定約200億円と、小さくはありませんが大きくもありません(先週号を参照)。ポケモンGOの任天堂にとっての新の意味は、実際にはそうではありませんが、現時点で1億人以上、早晩2億人を超えると思われるゲームユーザーがポケモンGO=任天堂と思っていることです(実際に画面に現れるポケモンは=任天堂です)。そして、これだけの数のゲームユーザーが任天堂製ゲームの潜在ユーザーになるということです。ポケモンGOに飽きた人も既に出ていますが、任天堂製スマホゲームが配信されれば、その人たちの多くがユーザーになる可能性があります。

4.ポケモンGOはいつまで続くか

これはわかりません。ただし、今の株価下落の背景にあるポケモンGO短命説(飽きたと言う人が多くなっている)については結論を出すのは時期尚早だと思います。スマホゲームは最初から力を入れて運営するわけではありません。配信直後の運営は様子を見ながらになることもあります。ちなみに、アメリカでも日本でも、かつてなく多くの人が遊んでいます。そして、今後は新興国でも配信開始される予定です。例えば、インドやインドネシアで配信された時に何が起こるか興味深いものがあります。

5.ポケモンGOは極めて多くの新しいゲームユーザーを作り出した

ポケモンGOのダウンロード数は全世界で1億5,000万ダウンロードを超えていると思われます。アメリカでは8,000万~1億と思われます(アメリカの人口は約3億人ですから、ここからの累計ダウンロード数の伸びは鈍くなると思われます)。これに対して、アメリカでデイリーアクティブユーザー数(1日1回遊んだ人の数、DAU)が配信開始後にピークの2,500万人から2,200万人に減少したという調査があります。

2012年に配信開始となった「キャンディクラッシュ」の配信開始後約1年後のダウンロード数は5億件、2013年のDAUが9,300万件となっています。キャンディクラッシュはダウンロードした人の19%がDAUとなり、ポケモンGOはアメリカだけでダウンロードした人の推定で22~28%の人が毎日遊んでいることになります。DAUの減少は人の好みの問題ですから仕方がありませんが、今も極めて多くの人が熱心に遊んでいることになります。

日本も同様で、DAUの実際の数字はアメリカ同様不明ですが、一人当たり課金額がゲームの性質上少ないと思われることから、ミクシィのモンスターストライクのDAUの2~3倍になっていると思われます(課金売上高がモンストを抜いて1位)。

このように、ポケモンGOは非常にアクティブ率の高いゲームと言えます。後は、長続きさせるための運営の問題です。またゲームをしている人は、普段ゲームをしない新しいゲームユーザーが多いように思われます。

6.ポケモンGOには問題もある

ポケモンGOは外を歩き回る新しいタイプのゲームであり、様々な問題もあります。任天堂が表立ってこのゲームに関与しなくて良かったと思われます。広告効果と潜在ユーザーの獲得で、任天堂にとって十分な成果がでると思われます。

株価は割安圏にあると思われる

急騰後の調整は仕方がありませんが、次の再成長を考えた時に今の任天堂の株価は割安圏にあると思われます。

グラフ1 任天堂のゲームサイクル;据置型ハードウェア

(単位:万台、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券)

アルプス電気(6770)

2017年3月期1Qは大幅減益だが、会社計画は上回った模様

アルプス電気の2017年3月期1Qは表3のように、10.0%減収、62.4%営業減益となりました。1Qの全社営業利益50億円のうち、電子部品事業は30億円(前年比70.3%減)でしたが、この中で車載市場向け(自動車向け)は増益となり、営業利益率が上昇した模様です。車載市場向けは、自動車の運転席周りの部品、モジュールを、国内、海外の自動車メーカーに供給していますが、これまでは採算が悪く、利益率向上は経営課題の一つでした。

一方で、スマートフォン向けが収益の中心になる民生その他市場向けは、中国スマホ向けは堅調に推移しましたが、北米向けは振るいませんでした。

また、子会社アルパインも大幅減益となりました。

この結果、上記のように1Qは全社で大幅減益となりましたが、会社側のコメントによれば、会社計画は上回った模様です。特に、電子部品事業の中の車載市場向けの損益好転が計画外だった模様です。

表3 アルプス電気の業績

表4 アルプス電気のセグメント別損益:四半期ベース

表5 アルプス電気のセグメント別損益:通期ベース

2017年3月期通期の会社予想は維持、下期から増益転換へ

会社側の2017年3月期通期見通しは修正されませんでした。後述しますが、米アップルの2016年4-6月期決算において、会社側のガイダンスとして、2016年7-9月期は増収増益となる予想と示されました。9月にiPhone7発売と言われていますので、当面はiPhone6sに対して「7」は減少することはなさそうです。

当社のような電子部品メーカーは顧客名と取引内容をコメントしませんが、当社の強みは高級スマホ向けのカメラ用アクチュエーター(絞り機構、オートフォーカス(AF)用と手振れ補正用がある)と各種のセンサー類です。iPhone6sシリーズでは「6sPlus」(5インチサイズ)に光学式手振れ補正用アクチュエーターが採用されています。巷間言われていることですが、iPhone7では、手振れ補正アクチュエーターが全面採用される模様です。また、一部機種がデュアルカメラになると言われています。その場合、もし当社製アクチュエーターが採用されるならば、従来に比べて2倍以上のアクチュエーター需要が見込まれます。

また、中国スマホでもAF用アクチュエーターの採用が中高級機種で活発になっています。

例年、新型iPhoneの生産が始まる7-9月期から大手電子部品メーカーの売上高は増加する傾向があります。大手電子部品メーカーにとってアップルは大口顧客と思われるため、次の7-9月期決算に注目したいと思います。

ただしリスクもあり、2017年3月期通期会社見通しの為替前提は、1ドル=110円、1ユーロ=125円で、期初予想から変更していません。1ドル1円当たり1カ月で営業利益に0.8億円のマイナス要因、ユーロでは0.2億円のマイナス要因が発生します。足元の1ドル=104円台、1ユーロ=116円台が2Q以降も続くと、59~60億円の営業利益に対するマイナス要因が発生します。ただし、車載市場向けやスマホ向けの上ブレがあれば取り返せる金額です。

大手電子部品メーカーに投資妙味を感じる

私はポケモンGOを起点とする任天堂関連のスマホゲームのブームを予想しています。そして、このブームがスマートフォンの買い替え需要を引き起こす可能性があると考えています。株価を見ると、村田製作所、TDK、アルプス電気などの大手電子部品メーカーは、株価が十分に調整しPERも十分に下がっています。

特に、アルプス電気の場合は、スマホカメラ用アクチュエーターの市場シェアが高いことが注目点です(推定で70%以上、品種によって異なる)。アップルがiPhone7から手振れ補正用アクチュエーターを全面採用するといわれていますが、これをきっかけに高級スマホ市場で手振れ補正用を採用する動きが拡大すると思われます。スマートフォンの中でカメラは最も遊びに使う機能であり、高級スマホメーカーは各社ともカメラ機能の高度化に注力しています。投資妙味を感じるところです。

村田製作所(6981)

2017年3月期1Qは24%営業減益

2017年3月期1Qは表6のように、7.1%減収、23.9%営業減益となりました。1年前の2015年4-6月期は2015年9月発売のiPhone6s向け商談が始まった期であり、1Qとしては高水準の業績でした。今1Qは円高による営業利益に対するマイナス要因120億円が発生しており、iPhoneの減産も続いているため、23.9%営業減益は比較的良好な結果だったと思われます。

これは、まず、アップル向けが振るわないと思われる中、中国スマホメーカーへの営業を強化したことによります。会社側の予想では、2016年暦年の中国メーカー製LTEスマホの生産台数は前年比30%増の5.3億台になる見通しです。iPhoneの年間販売台数が約2億台なので、大きな数字です。中国メーカーを成長企業中心に幅広く開拓したことが業績に寄与したと思われます。

また、部品別には需給が逼迫しているSAWフィルタ(回路内のノイズを除去するためのフィルタ)が好調でした。

2QからはiPhone向け商談が本格化すると予想される

会社側は今期業績見通しを変更していません。当社も顧客名と取引についてはコメントしませんが、2Qは例年通りiPhone向け商談が活発になると思われます。前提レートは1ドル=110円で据置ですが、1ドル=1円の円高で年間約35億円の営業利益に対するマイナス要因が発生します。1ドル=104円台が続けば、約158億円の営業利益に対するマイナス要因が発生します(2Qからの9カ月間で)。アルプス電気に比べ円高デメリットが大きくなりますが、これはチップ積層セラミックコンデンサ、SAWフィルタなどの主力製品の工場が日本にあるからです(アルプス電気は生産拠点の海外展開が進んでいる)。当面は中国スマホとiPhone7の売れ行きに注意したいと思います。

表6 村田製作所の業績

グラフ2 村田製作所の用途別売上高

(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成)

グラフ3 村田製作所の製品別売上高

(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成)

ソニーから電池事業を買収する

7月28日付けでソニーから電池事業を買収することに関して意向確認書を締結したことを公表しました。これから資産査定(デューデリジェンス)を行います。そして、10月中旬を目処に本件について法的拘束力のある確定契約を締結し、2017年3月末の買収完了を目指します。

ソニーの電池事業は1975年から始まっており、1991年にはリチウムイオン2次電池を世界で初めて商品化しました。しかし最近は、スマートフォン向けの商品戦略を誤り(高速充電機能を優先して、大容量化(長時間使用)の市場の流れを見誤った)、TDKに大きく差をつけられてしまいました。採算も赤字続きで、最近では2014年3月期、2016年3月期に長期性資産の減損を行っています。

一方の村田製作所は、スマートフォン向けだけではなく、自動車、パワーエレクトロニクス、ヘルスケアなどの新規分野で電池の開発が必要になっています。スマートフォン向けにも関心があるようですが、家庭用小型蓄電池、急速充電機能、新材料を使った全固体電池、IoTに組み込んで使う超小型電池などの開発に関心があるようです。ソニーの技術に村田製作所の販売力を組み合わせることで拡販したい意向です。

赤字事業を買収するため、買収後直ぐに黒字化することは難しいと思われますが、新しい分野としては注目できます。特に、IoT向け電子部品に超小型電池を組み込むというアイデアはどのような形で実現するか、興味深いところです。

株価の戻りを取りたい

村田製作所の場合、業績回復の兆しは見え始めていますが、まだ再成長の方向性が確認できているわけではありません。iPhoneの動き、中国スマホの動きをしばらく確認したいと思いますが、業績には底打ち感がでています。株価の調整が進み、PERも15~16倍と過去のトレンドよりも低い水準にあります。リスクはソニー電池部門の買収をネガティブにとらえる向きがあるということですが、私は参入分野が拡大することをポジティブに捉えています。投資妙味を感じます。

Apple

2016年4-6月期は減収減益ながら、ガイダンスの上限に近い数字

米アップルの2016年4-6月期は、表7のように、売上高423億5,800万ドル(前年比14.6%減)、営業利益101億500万ドル(28.2%減)、純利益77億9,600万ドル(27.0%減)となりました。減収減益でしたが、4月の1-3月期決算発表時に会社側が提示したガイダンス、売上高410~430億ドル、営業利益92億7,500万ドル~103億4,000万ドル、純利益71億3,300万ドル~79億2,700万ドル(会社側のガイダンスを元に楽天証券が試算したもの)の上限に近い数字になりました。

表7 Appleの四半期業績

表8 Appleの製品別売上高

表9 Appleの地域別売上高

2016年7-9月期ガイダンスは、4-6月期比増収増益

アップルが提示した2016年7-9月期ガイダンスを元に業績を試算すると、表7のように売上高455~475億ドル、営業利益110億1,300万ドル~119億ドル、純利益84億6,500万ドル~91億2,600万ドルとなります。前年同期比では減収減益が続きますが、これは1年前の2015年7-9月期のiPhone6の販売水準が高かったためです。

一方、2016年4-6月期に比べると増収増益となります。これは、9月に発売されると思われるiPhone7の初動で、会社側がiPhone7は現行の6sに対して販売が伸びると見ているためと思われます。

iPhoneは日本の大手電子部品メーカーの業績に大きな影響を与えています。7-9月期ガイダンスを見ると、大手電子部品メーカーの高級スマホ向けビジネスは4-6月期が底で、7-9月期にはある程度持ち直す可能性が高いと思われます。

グラフ4 iPhone販売台数

(単位:万台、出所:Apple社資料より楽天証券作成)

ティム・クックCEOがポケモンGOに言及

4-6 月期決算の電話会議の席上で、アップルのティム・クックCEOはポケモンGOについて、驚くべきことが起きているとして、AR(拡張現実)に対して積極的に投資していくことを表明しました。これは当然の反応で、ポケモンGOの課金売上高の約30%がアップルとグーグルに決済手数料として入金されており、アップルはポケモンGOの恩恵を被っているからです。そして、このような新技術を使ったエンタテインメント機能の強化は、スマートフォンを拡販するときに大きなアピールポイントになると思われます。

ARだけでなく、エンタテインメント系の技術がスマートフォンに搭載されることが、電子部品メーカーのビジネスにとって重要になってきます。通信系機能、カメラ機能、描画性能、加速度センサー、磁気センサーなどのセンサー、長時間使用可能な電池と急速充電技術などが重要になってくると思われます。村田製作所(通信系部品の大手)、TDK(スマホ用電池の大手)、ソニー(イメージセンサ、高級スマートフォン)、アルプス電気(カメラ用アクチュエーター、各種センサ)などの銘柄が挙がってきます。これまでも取り上げてきた銘柄ですが、改めて注目したいと思います。

銘柄コメント:小野薬品工業(4528)

中央社会保険医療協議会でオプジーボの薬価引き下げへの議論が始まる

7月27日、厚生労働大臣の諮問機関である中央社会保険医療協議会(中医協)の総会が開催されました。その議題の一つが「高額な薬剤への対応について」であり、市場規模の極めて大きな薬剤を対象として、現状の薬価制度が想定していない効能拡大、用法・用量の拡大による大規模な市場規模拡大に対応した新しい薬価制度に向けた改革を行うこと、市場規模の極めて大きな薬剤について、医薬品の最適使用の推進、健康保険の給付の適正化、費用対効果評価の試行的導入などの対応を行うことが討議されました。薬価の在り方全般について抜本的見直しを行うと言うことです。

この総会で、今後の対応(案)として、平成28年度薬価改定における再算定の検討に間に合わなかった薬剤で、効能・効果等の拡大により大幅に市場が拡大したもの(オプジーボ)についての特例的な対応について、年内を目途に一定の結論が得られるよう、検討を進めてはどうか、ということになりました(資料が厚生労働省のホームページに掲載されています)。

また、新規作用機序医薬品について、最適使用のガイドラインを策定することとし(患者の選択基準と医師・医療機関等の要件を定める)、これも年内を目途に検討を進めることになりました。今年度の対象は、試行的に、オプジーボ及びその類薬と、レパーサ(抗PCSK9抗体製剤(高コレステロール血症治療薬)、アステラス製薬)及びその類薬となりました。

いつ薬価引き下げになるのか

2015年9月にオプジーボがメラノーマ向けに薬価収載された時のピーク予測は、年間投与人数470人、予測販売金額31億円でした。これで決まった薬価(100mg1瓶72万9,849円)が非小細胞肺がん(年間新規投与人数15,000人、会社側の今期予想売上高1,220億円、メラノーマ向けを合わせて15,450人、1,260億円)でも適用されています。市場が40倍になったにも関わらず価格が同じというのは、論理的にはおかしな話です。従って薬価引き下げ自体はやむをえないと思われます。

また、値下げをした場合、オプジーボに対する圧力、医師、病院の間にあるオプジーボ使用への心理的抵抗感が薄れる可能性があります。

ただし、今回の討議はオプジーボを狙い撃ちにしたものです。制度がないところに特例を作って薬価を引き下げる場合、どのようなルールでどの程度引き下げられるのか、中医協(薬価専門部会で討議される模様です)での結論が出るまで何とも言えません。特例拡大再算定の基準、即ち、年間販売額が1,000〜1,500億円で予想の1.5倍以上のものについては、薬価を最大25%引き下げ、同1,500億円超で予想の1.3倍以上では薬価を最大50%引き下げる、に従えば、会社予想ベースなら最大25%の引き下げになると思われますが、薬価引き下げに先だって行われる市場調査の結果次第です。

年内を目途に一定の結論を得ると言うことになれば、来年春の薬価引き下げがありうると思われます。薬価引き下げ率を出来るだけ低くするために、小野薬品がオプジーボを積極的に拡販しない事態も想定されます。薬価引き下げの業績へのインパクトと投資判断は8月2日発表の1Q決算を見た後に検討します。

いずれにせよ、このような形で薬価制度の抜本的改革とオプジーボに対する特例的な薬価改定を行うことになると、日本での新薬開発リスク、医薬品事業の事業リスクが大きくなると思われます。小野薬品に対してだけでなく、薬品・バイオセクター全体の投資リスクとしてこの動きを見る必要がありそうです。

本レポートに掲載した銘柄

任天堂(7974) /アルプス電気(6770)/村田製作所(6981) /小野薬品工業(4528)