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任天堂(7974)/日本マクドナルドホールディングス(2702)/ソニー(6758)/村田製作所(6981)/アルプス電気(6770)/小野薬品工業(4528)

特集:任天堂

1.「ポケモンGO」、各国で配信開始

先週お伝えしたように、7月6日、スマホゲーム「ポケモンGO」が配信開始となりました。北米から始まり順次各国で配信開始されており、どの国でも課金売上高1位を獲得しています。大きなブームになっています。先週お伝えしたことも含めて概要は以下のようになります。

任天堂が出資したナイアンティックがポケモンGOを開発した

ポケモンGOは、任天堂と任天堂の持分法適用会社である株式会社ポケモン(任天堂32%出資)、開発会社のナイアンティック(Niantic、グーグルからスピンオフしたベンチャー企業、グーグル、ポケモン、任天堂が初期増資の2,000万ドルを出資、出資比率は不明)の共同プロジェクトですが、開発主体はナイアンティックです。町中にあるスポットでポケモンを見つけ捕らえて、バトルや育成を楽しむゲームです。

位置情報システムとAR(拡張現実)を使ったゲーム

スマートフォンの位置情報システムを使ってポケモンを見つけてスマホのカメラで見ると、ARで画面内を動き回るポケモンが現れます。このポケモンを捕まえるのが基本的な遊び方です。基本プレイは無料で、ポケモンを捕まえるのに役立つアイテム(ポケボールなど)をゲーム内で販売しています。100ポケコインが0.99ドル、2,500ポケコインが19.99ドル、14,500ポケコインが99.99ドルです。ポケボール20個が100ポケコインです。

プレイヤーが急増中

報道によれば、配信開始後1週間でポケモンGOの利用者は6,500万人に達しました。これはツイッターの利用者数を上回るものです。アメリカでの課金収入が1日160万ドル(約1.6億円)になるという予測も出ています。

日本では7月22日に配信開始

日本では7月22日午前中にまずアンドロイド版から配信開始され、次いでIOS版も配信開始となりました。

課金売上高はナイアンティックと株式会社ポケモンで配分されると思われる

ポケモンGOの課金売上高は、アップルとグーグルに決済手数料としてこのうちの約30%を支払った後、ナイアンティックとポケモンとで分け合うことになる模様です(比率は不明)。

広く薄く課金されている可能性

アメリカのSlice Intelligenceによれば、他のスマホゲームの課金ユーザー数の合計に匹敵する課金ユーザーがポケモンGOで遊んでいます。同社の調査対象のポケモンGOプレイヤー25,960人の中で、ポケコインの価格別購入状況を見ると、100ポケコイン(0.99ドル)を購入した人が全体の37.2%と最も多く、次いで550ポケコイン(4.99ドル)が30.7%、1,200ポケコイン(9.99ドル)が21.6%と続いています。また、14,500ポケコイン(99.99ドル)の購入者も0.6%とごく少数ながらいます。

ポケモンGOのプレイヤーの何割が課金ユーザーなのかはわかりませんが、広範囲のユーザー層が小額課金でゲームを楽しんでいる可能性があります。この課金のあり方は、従来の欧米のスマホゲームのように、ごく少数(ユニークユーザーの5~10%以下)のユーザーが、ごく小額(月間数百円から1,000円強)を課金するのでもなく、ごく少数のユーザーが高額課金(月間5,000~1万円から数万円以上)を行う日本のスマホゲームの課金スタイルでもないものです。

2.「ポケモンGO」のブームが任天堂の業績に結びつく道筋

任天堂の業績に対するポケモンGOのインパクト

ポケモンGOの課金収入は任天堂に入金されるわけではなく、ポケモンGOと任天堂の業績は直接関係ありません。持分法適用会社の株式会社ポケモンの業績(最終利益)の32%分だけ任天堂の業績に反映されます。具体的には、ポケモンGOのアメリカにおける課金収入が1日1.6億円(上述)として、ユーザー数が更に増加すると想定すると、今年7月~来年3月までの課金売上高が400~500億円(月間50億円×7カ月+α)、日本では課金単価が高いと予想されることから300~400億円、これに欧州その他の地域での課金売上高を入れると、今期分約1,000億円、来期分2,000億円と試算されます。

このうち、約30%が決済手数料としてアップルとグーグルに支払われ、残りを株式会社ポケモンとナイアンティックが折半すると仮定すると、株式会社ポケモンの取り分は今期分350億円、来期分700億円と試算されます。「ポケットモンスター」の版権は任天堂、クリーチャーズ、ゲームフリークの3社が保有しており、株式会社ポケモンは「ポケットモンスター」の版権管理会社です。従って株式会社ポケモンの最終利益は、この3社が持分に従って分け合うことになります。任天堂の持分32%(株式会社ポケモンの税引き後利益に対する)を試算すると、今期分約80億円、来期分約170億円となります。

また、7月31日にアメリカなどで任天堂が発売する「Pokémon GO Plus」(34.99ドル、3,500円)の利益は任天堂の業績にそのまま上乗せされます。スマートフォンを使わなくともポケモンの位置がわかる玩具です。今期4,000万個、来期3,000万個の販売を想定すると、今期4,000万個、来期3,000万個×3,500円×卸掛け率0.8×営業利益率今期20%、来期30%=営業利益今期約220億円、来期約250億円となります。あくまでも試算ですが、任天堂にとっては少なくない利益寄与となると思われます。

任天堂にとっては巨大な顧客ベースができた

実際にはそうではありませんが、多くのプレイヤーにとって「ポケモン=任天堂」です。そして、ポケモンGOの最大予想ユーザー数は以下のような大きな数字になると思われます。

  • アメリカ:8,000万~1億人
  • 日本:3,000~4,000万人
  • 欧州:1億3,000~4,000万人
  • その他地域:6,000万~1億人
  • 合計:3~4億人

私は、ポケモンGOの大ブームが1年以上続いて、後述の任天堂製スマホゲームと家庭用新型機NXの事業展開を圧迫するようになるとは考えていません。個々人の遊びに対する考え方は多様であるため、3億人以上の人が同じゲームだけを半年以上続けることは考えにくいのです。そもそも「ポケットモンスター」は主力ユーザーが小中学生であり、大人が長期間遊んで楽しいとは考えにくいのです。そのため、3~4億人のうち、2~3億人以上はいずれ新しいゲームを求めるようになると思われます。ユーザーがそう考えたときに、ポケモンGOの次に遊ぶ対象となるのは、任天堂製ゲームだと思われます。

そこで任天堂製ゲームの配信、発売スケジュールを見ると、次のようになります。

  • 2016年秋:任天堂製スマホゲーム「ファイアーエムブレム」「どうぶつの森」配信開始
  • 2016年11月:3DS版「ポケットモンスター サン/ムーン」(ポケモンGOと連動?)発売
  • 2017年3月:「NX」発売
  • 2017年1~6月:スマホゲームの「マリオ」配信開始?
  • 2019年3月期:3DSの後継機発売?

まず今年秋に、任天堂製スマホゲームの実質的第1弾、第2弾である、「どうぶつの森」「ファイアーエムブレム」が配信開始となる予定です。運用はディー・エヌ・エーが行います。

また、2016年冬に3DS版「ポケットモンスター サン/ムーン」を発売する予定ですが、これとポケモンGOとの間で何らかの形で連動(プレミアムアイテムや共通キャラクターを出す)がある模様です。もともと3DS版「ポケモン」シリーズは全世界1,000万本級のソフトであり、ポケモンGOとの連動によって1,500万本以上の水準が狙える可能性があります。

2017年3月には新型機「NX」が発売される予定ですが、この前後に「スーパーマリオ」のスマホゲームが配信される可能性があります。任天堂の新型機が発売されるときには、発売時のキラーソフトとして「スーパーマリオ」が使われています。「ポケモン」に勝るとも劣らない強力なキャラクターです。これのスマホ版を出してNXと連動させれば(特定のキャラクターを相互利用できるようにしたり、プレミアムコンテンツを提供したりする)、NXの販促に効果があると思われます。

2018年3月期はNXの立ち上げ期であり、この期も数タイトルのスマホゲームが配信開始となると思われます。

更に、2019年3月期には、今の3DSの後継携帯機が発売される可能性があります。

このように見ると、任天堂の新しいゲームサイクルの起点がポケモンGOであると言えるのです。

3.任天堂の業績試算

上の見方に沿って2017年3月期~2019年3月期の業績を試算したのが表1,2です。ここでは見通せる範囲での試算ですので、3DSの後継機は考慮していません。より詳細は、アナリストレポートを近日中に発行する予定なので、それをご覧ください。

なお、任天堂の会社予想の為替前提は、期末レート、年平均レートともに、1ドル=110円、1ユーロ=125円ですが、現在は1ドル=105円台、1ユーロ=116円台です。任天堂の業績予想で問題になる営業外収支の為替差損益(手持ちの外貨建て預金の評価損益)は、今の為替レートが続けばマイナスになると思われますが、ポケモンGOによる株式会社ポケモンからの持分利益によってある程度相殺される可能性があるため、とりあえず会社予想通り営業外収支はゼロとしました。

この業績試算によれば、2017年3月期営業利益は会社予想450億円に対して670億円、2018年3月期2,000億円、2019年3月期4,000億円となります。そしてこの利益成長ラインを引き伸ばせば、2020年3月期にも過去最高営業利益である2009年3月期5,553億円を更新する可能性がでてきます。

また、従来の家庭用ゲーム事業にスマホゲームを組み合わせることで、グラフ1、2のような激しい世代交代がより緩やかになる効果が期待できると思われます。

楽天証券EPS試算は、2018年3月期1,282.0円、2019年3月期2,563.9円です。2018年3月期EPS試算に成長性を考慮してPER30~40倍をかけると、目標株価は38,000~51,000円となります。更に2019年3月期予想に20~30倍をかけると51,000~77,000円となり、過去最高値73,200円(2007年11月30日ザラ場)を更新する可能性が出てきます。

もちろん、今秋以降の任天堂製スマホゲーム、3DS用ゲーム、NXの成否を慎重に見極める必要はあります。しかし、日本でポケモンGOが配信されたあとでは、その見極めがより容易になっていることは確かでしょう。

任天堂株の投資妙味は十分に大きいと思われます。

表1 任天堂の業績試算

表2 任天堂の業績試算の前提

グラフ1 任天堂:据置型ゲーム機の世代交代図:ハードウェア
(単位:万台、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券)

グラフ2 任天堂:据置型ゲーム機の世代交代図:ソフトウェア
(単位:万本、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券)

4.任天堂関連銘柄

ポケモンGOは他社にも良い影響を与えると思われます。今注目されている関連銘柄は以下の通りです。

  • 日本マクドナルド:店舗でのポケモンGO関連のタイアップキャンペーンを行う。集客に期待できる。
  • サノヤスホールディングス:ポケモンEXPOジムの運営。
  • イマジカロボットホールディングス:子会社がポケモンアニメの制作を行っている。
  • フジ・メディア・ホールディングス:ポケモンGOを開発したナイアンティックに出資した。
  • フリービット:子会社DTIでポケモンGOのユーザーを優遇する格安SIMサービスを始めた。

ポケモンGOは中高級スマートフォンの買い替え需要を刺激するか

中長期では、スマートフォンの買い替え需要に注目したいと思います。グローバルで見たときにポケモンGOの恩恵を最も受けるのは、スマートフォンメーカーとスマートフォンの部品メーカーかもしれません。位置情報システムとARの組み合わせがポケモンGOとして結実したわけですから、スマートフォンメーカーは、スマートフォンのエンタテインメント性能により一層重点を置くようになると思われます。具体的には、カメラ関連(イメージセンサとアクチュエーター)、通信性能、画面の美しさ、電池の大容量化(長時間使用に耐えることが重要になる)などです。折しも、今年9月発売が予想されるアップルの「iPhone7」は一部機種にデュアルカメラ(外側のアウトカメラが2個になる)が搭載されると言われています。

また2017年秋発売の新型iPhoneから有機ELディスプレイが搭載されると言われています。有機ELは自家発光するため液晶パネルのようにバックライトがいらず、端末を薄く出来ます。そのまま薄くするのか、何かの回路を新たに組み込むのか、今後の論点になってくる可能性があります。

スマートフォン需要を見ると、ポケモンGO、ひいては任天堂製スマホゲームのユーザーが全世界で実際に3~4億人生まれるとして、そのうち20~30%がスマートフォンを買い換えるとすると、6,000万台から1.2億台の買い替え需要が中高級機種に発生することになります。新型iPhoneが発売されるのが毎年9月なので、10-12月期から1年間のiPhone販売台数を見ると、2013年10月~2014年9月(iPhone5s世代)1.7億台、2014年10月~2015年9月(6世代)2.3億台、2015年10月~2016年9月予想(6s世代)2.0億台です。次の2016年10月~2017年9月(7世代)への期待は薄かったので、減収の予想もあったのですが、買い替え需要が発生すると横ばいないし増加が期待できる可能性があります。次の世代でも伸びが期待できるかもしれません。

この方面での注目企業は次の通りです。

  • 村田製作所:スマートフォンの重要部品であるチップ積層セラミックコンデンサ、SAWフィルタでトップシェア。デュプレクサ、トリプレクサなど通信系部品にも強い。
  • TDK:スマートフォン向け大容量電池でトップシェア。
  • アルプス電気:スマートフォン向けオートフォーカスアクチュエーター、手振れ補正用アクチュエーターでトップシェア。
  • ソニー:高級イメージセンサーでトップシェア。

優良ゲームソフト会社にも恩恵

任天堂の顧客層拡大は、単に任天堂製ゲームソフトの需要増だけでなく、他の優良ソフト会社、ソニーやカプコンなどへも恩恵が拡大すると思われます。これは、エンタテインメントの世界では、多種多様な優良コンテンツが好まれるからです。

一方で、従来型のスマホゲーム、特に日本型のスマホゲームについては将来は不透明と思われます。任天堂の優良ソフトが月額数百円から多くても2,000~3,000円で十分楽しめるのに、それ以下しか楽しめないソフトに月1万円以上かけてプレイするでしょうか。特に、ガチャによる数万円以上の課金に頼ったソフトとソフト会社の中には、業績不振に陥るものが出てくる可能性があります。

その点では、ガチャを比較的抑制的に行ってきたミクシィやガンホー・オンライン・エンターテインメントよりも、サイバーエージェント、コロプラ、グリー、ディー・エヌ・エー、LINEゲーム部門、スクウェア・エニックス・ホールディングスのスマホゲーム、バンダイナムコホールディングスのスマホゲームのような高額課金型ゲームの会社の業績に大きな影響が出る可能性があります。

銘柄コメント:小野薬品工業

1.厚生労働省が高額医薬品の適正投与へ指針を作る

7月21日の日経新聞1面で、厚生労働省が高額医薬品の適正投与へ使用ガイドライン(指針)を設けると報じられました。2017年3月末までにまとめ、早ければ2018年3月期中に適用するとあります。これによって医療費抑制を目指すとあります。対象となる医薬品は小野薬品工業のオプジーボとアステラス製薬の高コレステロール血症治療薬「レパーサ」です。

また今後、保険適用の拡大の際に薬価を引き下げることを検討する方針とも報じられました。

この記事の中で取り上げられているオプジーボ向けの指針の案では、オプジーボが投与できるのは、がんの専門医が在籍し、緊急時の対応が可能な病院であること、一定年数以上のがん治療の経験を持つ医師が在籍し、副作用が起きた場合の対処が可能な専門医がいることです。そして投薬の効果が見込まれる患者に投与することです。ただし、これらの条件は、既に小野薬品が実施していることで、小野薬品はこれらの条件を満たしていない病院にはオプジーボを供給していません。

また、投薬の効果が見込まれる患者に投与するということについては、バイオマーカーが完成していないため完全にはいきませんが、遺伝子の状態である程度選別できることはわかってきています。

適用拡大時に薬価を引き下げる案については、やむを得ない面はあると思われます。薬価を引き下げれば使う側(医師や病院)の心理的抵抗感は薄れて使用量が増えるという面はあると思われます。

また、この指針が導入されれば、患者の側で、例えばメディアで声高にオプジーボの薬価問題を唱える医師が在籍している病院には受診しないようになるという、一種の自己防衛は増えると思われます。実際にそのような病院に行ってもまともな治療が受けられない可能性があるからです(患者はそう考えると思われます)。

2.オプジーボたたきは強いが、オプジーボに期待が大きいことに変わりはない

表3のようにオプジーボの最近の新規投与数は、会社側が前提している肺がん向けの年間15,000人(月間1,250人)を下回っています。これは小野薬品側が慎重な投与を呼び掛けているのと、医師、病院側が慎重になっているためと思われます。一方で、会社側が前提している平均6カ月間よりも投与月数が延びる患者が増え(延命する患者が増え)、副作用などで投与中止となる患者が減れば、新規投与人数が計画よりも減っても、オプジーボ売上高は会社計画の1,260億円よりも増えることと思われます。

結局、オプジーボと小野薬品がバッシングを跳ね返すには、時間はかかりますが、オプジーボの延命効果が大きいことを臨床例を積み上げて立証すること、併用剤の開発によってがんが治る道筋を切り開く以外にはないと思われます。また、薬価引き下げがあれば、ある程度バッシングはやむと思われます。ただし、オプジーボたたきをしている勢力の中には、がんが治る世界が到来することによって、能力のない医師と病院が淘汰されることを真剣に恐れている人たちもいると思われるため、これが止むことはないと思われます。

オプジーボたたきが強く、株価の回復には時間がかかりそうです。ただし、8月2日発表の1Q決算には期待できそうなので、当面は決算を待ちたいと思います。業績予想とレーティング「A」、目標株価5,800~6,000円の投資判断は変えません。

表3 小野薬品工業:オプジーボの投与人数

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