本レポートに掲載した銘柄

ソニー(6758)/任天堂(7974)/カプコン(9697)/スクウェア・エニックス・ホールディングス(9684)/村田製作所(6981)/TDK(6762)/アルプス電気(6770)/小野薬品工業(4528)/カルナバイオサイエンス(4572)

銘柄コメント

ソニー(6758)

ソニーが今期見通しを開示した

5月24日に、ソニーが熊本地震の影響で延期していた2017年3月期の業績見通しを開示しました。それによれば通期営業利益見通しは前年比2.0%増の3,000億円です。熊本地震の影響額は1,150億円でしたので、もし地震なかりせば、4,000億円台の営業利益が可能だったということになります。当期純利益は前年比45.9%減の800億円となる予想ですが、これは前期にあったオリンパス株の売却益がなくなることなどによります。

セグメント別の今期見通しで最も伸びが大きいのがゲーム&ネットワークサービスで、営業利益は2016年3月期887億円から2017年3月期1,350億円へ大きく伸びる見通しです(表3)。プレイステーション4(PS4)販売台数が前期1,770万台から今期2,000万台へ増加へ増加する見込みです。

テレビを中心とするホームエンタテインメント&サウンドは506億円から360億円へ減益となる見込みですが、上乗せ余地がありそうです。逆に不振部門は、カメラや放送用機器などを手掛けるイメージング・プロダクツ&ソリューションで、自社製イメージセンサーやカメラモジュールが不足する影響で693億円→160億円へ利益が急減する見込み。デバイス部門は292億円の赤字から400億円の赤字となる見込みです。イメージセンサーのフル稼働は、ウェハの投入ベースで8月末からになりそうです。

また、4月28日の決算発表時の見通しですが、映画は業績がある程度回復する見通しです。音楽は前期に子会社化した持分法適用会社の株式評価益が計上されており、今期は反動で減益の見通しですが、基調は拡大が続いています。一方、金融は1,565億円から1,500億円へ横ばいとなっていますが、前4Qの営業利益がマイナス金利や株式市場低迷の影響で急減しており、注意が必要と思われます。

表1 ソニーの業績

表2 ソニーのセグメント別営業利益:四半期ベース

表3 ソニーのセグメント別営業利益:通期ベース

ソニー・ゲーム部門に注目したい

今回の見通しを見ると、ソニーをゲーム会社として見たときに中長期的な投資妙味を感じます。会社側はPS4販売台数を前期1,770万台に対して今期2,000万台と予想しており、任天堂のNXが2017年3月に発売される予定であることを考えると、世界のゲーム市場で、家庭用ゲームの存在感が大きくなっていくことが予想されます。

PS4市場は、今期から3年以上の間、ソフトの豊作期を迎えると思われます。PS4は2013年11月にアメリカで発売され3年目に入りましたが、発売後2年経過するとゲームクリエーターの人達がハードの特性を理解してソフトの作り方に慣れてきます。そのため、ハード発売後3年目からソフトの豊作期が到来することが多いのです。

ソフト豊作期に期待される一作が5月10日発売の「アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝」(ソニー・インタラクティブエンタテインメント製)です。「アンチャーテッド」シリーズはソニーの旗艦ソフトの一つで、2011年11月発売の前作「アンチャーテッド 砂漠に眠るアトランティス」は全世界で累計681万本売れました(VGChartzによる)。今回はPS4市場の勢いから見て900~1,000万本の可能性があり、そうなれば今期のPS4用ソフト市場の牽引役となる可能性があります。

PS4市場には、この他にも楽しみなことがあります。今年10月にソニーは「プレイステーションVR(PS VR)」を発売する予定です。VRへの関心は特に欧米で強く、ゲームだけでなく、映画、音楽を含むエンタテインメント市場を大きく変えるものとして注目されています。ゲームでは、シューティング、アクション、ホラー、RPG、パズルなど多くのジャンルでの応用が考えられます。ゲームの世界でリアルな臨場感が重要なのは、例えば任天堂のWiiで実証済みです。

今期のPS VR供給台数は今のところ200万台程度と思われ、品不足の懸念があります。PS VR専用ソフトの供給が本格化する来期は500万台以上の需要が予想されるため、供給体制がソニーの課題となりそうです。PS VRが成功すると、PS4は長期ブームになる可能性があります。

グラフ1 ソニー・プレイステーションの販売台数

(単位:万台、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券)

グラフ2 ソニー・ゲーム部門の業績

(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券、一部楽天証券推定)

今期、来期のセグメント別営業利益を予想してみた

5月24日開催の業績見通し説明会での会社側説明を元に、私なりに今期、来期のセグメント別営業利益を試算してみました(表3)。注目点はやはりゲーム&ネットワークサービスであり、今期予想1,350億円から来期(2018年3月期)は2,000億円に達する可能性があります。

ゲーム以外の事業も順調に伸びると思われますが、金融部門は注意が必要です。ソニーは米国会計基準を採用しているため、金融部門(ソニー生命が中核です)の営業利益には有価証券の含み損益が反映されます。金融部門の2016年3月期4Qの営業利益は171億円であり、それまでの400~500億円台に比べて大きく減少しました。マイナス金利の影響で運用損益が悪化したことと、特別勘定の有価証券の含み損益が株式市場の下落などで悪化したことによります。今期会社予想の営業利益1,500億円(前年比4.2%減)には、市場要因による変動を見込んでいません。今1Q以降、金融部門の四半期営業利益がどうなるかは、その都度見ていく必要があります。

ただし、金融部門を除けば、会社側が熊本地震の影響を公表し、今期見通しを出したことで、視界がクリアになってきました。今期に下方修正懸念があるのは、とりあえず金融部門だけのようです。実際に下方修正になれば今期減益の可能性が出てきますが、イメージセンサーの生産が回復して、外販や社内でカメラや放送用機器に使う分が増えれば、来期にかけてイメージング・プロダクツ&ソリューションが大きく回復すると思われます。それ以外の部門も順調に回復し、特に上述のようにゲーム&ネットワークサービスの営業利益が2,000億円に達すると、全社営業利益が4,000億円以上(表3の試算では4,500億円)となります。

このように見ていくと、ソニーの今の株価水準には中長期的な投資妙味が感じられます。

ソニーの業績回復は様々な分野と企業に影響を与えよう

ソニーは様々な分野で際立った会社であり、ソニーの業績回復と再成長は様々な分野、企業に影響を与えると思われます。

まずゲームです。PS4のブームはPS VRで更に大きなものになると思われます。欧米で大きなブームが起こるとともに、日本でも家庭用ゲーム市場が盛り返す可能性があります。ネイティブアプリ(スマホゲーム)が成熟期に入ってきたのと対照的な動きになる可能性があり、ゲームの世界市場がスマホゲームから家庭用ゲームへ大きく流れが変わる可能性があります。

この流れの変化が起こったときには、投資対象も変わると思われます。家庭用ゲームの大きなブームがおこれば、それは本来ならばソニーと競合するはずの任天堂の新型機「NX」(2017年3月発売予定)の普及を後押しすると思われます。ゲームソフト会社では、カプコン、スクウェア・エニックス・ホールディングスなど、世界市場に展開する力のあるゲームソフト会社に注目したいと思います。

また、イメージセンサーのフル稼働が下期になることは、今秋発売予定の新型iPhoneに影響する可能性があります。関連業界での新型iPhoneの販売台数見通しはかなり慎重です。アップルの決算リリースから計算すると、iPhone2014年10月~2015年9月(iPhone6世代)の販売台数は2.3億台ですが、2015年10月~2016年9月予想(iPhone6s世代)は2億台で、2016年10月~2017年9月は2億台を下回る可能性があると言われています。ただし、仮に次期iPhoneの需要が弱くとも、イメージセンサー不足でiPhone生産台数が不足することが起こりうると思われます。5月25、26日と、高級スマホ向け部品の比率が高い村田製作所の株価が下落したのはこの影響と思われます。ただし、TDK、アルプス電気の株価は堅調であり、株式市場は下期のイメージセンサーフル稼働の後、高級スマホの生産が盛り返すかもしれない期待を持っている可能性もあります。

このように、ソニーの業績回復は様々な分野に影響を与えると思われます。今後のソニーの動きに注意したいと思います。

小野薬品工業(4528):補足

オプジーボの会社予想売上高の根拠

小野薬品工業の調査を続けており、近々アナリストレポートにまとめる予定です。新しい業績予想はその際に提示します。今回もオプジーボの今期売上高予想についてですが、会社予想の根拠がわかりました。会社側は今期中の値下げを前提しているのではなく、一種の統計的な確率論によって今期売上高を試算しています。

今期(2017年3月期)の会社予想売上高1,260億円の前提は、年間新規投与人数15,000人、月間平均金額266万円(薬価ベース)、平均投与月数6カ月です。オプジーボを1年間投与するときには、6カ月13回(月平均約2回)の投与になります。非小細胞肺がんの臨床試験によれば、非扁平上皮がんの1年生存率は51%、扁平上皮がんは42%です。ここから、非小細胞肺がんの1年生存率を単純に50%としています。

会社側の計算の仕組みは、私の理解では概ね表4の通りです。まず、今年4月から来年3月まで毎月平均1,250人に、月間平均費用266万円から流通マージンを差し引いた金額(楽天証券推定で247万円)を掛けて月間売上高を算出します(30.9億円)。それを12カ月間、各月について並べます。更に、その数列の今期分について確率50%(つまり半分)として推定売上高を計算して、その合計を算出しているようなのです。この「今期分」というところがこの計算のやり方のポイントです。表4の2016年4月から2017年3月までの欄の黒の太線で囲った部分の合計の半分として計算している模様です。更に3月末のオプジーボの累計投与人数4,888人について延命中の患者への投与分を若干加算しています。このやり方で計算すると、会社予想の数字1,260億円前後の数字になります。

この計算の根拠は、結局のところ臨床試験の結果は統計的に処理されたものであるということだと思われます。図1は、カプランマイヤー曲線といって、抗がん剤などの薬の生存率や奏功率などを示す際などに使われるものですが、これは臨床試験に参加した患者のデータを統計処理して導き出されるものです(ここでは実際のグラフの模式図)。これが代表例ですが、臨床試験の結果はこのように統計処理されたもので成り立っているため、会社側がオプジーボの売上高予想を示す際に確率論を持ち出す理由はある程度は理解できます。また、このやり方で予想売上高を算出すると、私が行っている単純な積み上げ計算よりも数字が小さくなります。

表4 オプジーボ売上高:楽天証券試算

筆者の試算ならオプジーボの今期予想売上高は1,800~2,000億円になる

実際に、オプジーボの売上高がどのように推移するかは、四半期ベースの決算を見るしかありません。今1Q、2Qの決算を見れば、トレンドを把握出来ると思われます。

ただし、今の段階ではトレンドがまだ把握できません。そこで予想(試算)が必要になります。私自身が予想を立てる際には、会社側が提示した前提数字を使って月間売上高を出し(上記と同じ30.9億円)、それを6カ月ずつ並べて、今期分を合計する積み上げ計算をします。同じ表4の2016年4月~2017年3月の欄の黒字の部分のみを合計します。

後述しますが、新たな薬価ルールを作ることは難しく時間がかかりますので、今期中の薬価改定は無理と思われます。また、2017年4月の消費税増税がなくなれば、それに対応して予定されていた薬価改定はなくなると思われます。そのため、2018年4月まで薬価改定はないことになります。

2018年4月まで薬価改定がない場合の売上高を積み上げ計算したものが、表4の右端「積上げ計算による年度合計」です。今期、来期ともに、薬価改定がない場合、月間売上高の積算だけで、2017年3月期1,700~1,800億円、2018年3月期2,200~2,300億円になります。直前期の投与人数のうち一定割合が6カ月以上延命する可能性(平均6カ月の投与期間に1~2カ月加わると仮定)を考慮すると、2017年3月期は約1,800~2,000億円、2018年3月期は2,300~2,400億円になると思われます。また、2018年3月期は適用拡大で年間投与人数が増加すると思われますので、その分も増加するはずです。

ただし、2018年4月には薬価改定が予想されます。今の制度では50%かそれ以上の薬価引下げがあり得ます。一方で投与人数も引き続き増えると思われます。試算すると、50%引下げで、投与人数が増えた場合、年間売上高は2,200億円程度になると思われます。

営業利益の予想はアナリストレポートで示しますが、2017年3月期は900~1,000億円(会社予想は725億円)、2018年3月期は1,200~1,500億円のレンジと思われます。その後は売上高に応じて上下すると思われます。

注:図1の非小細胞肺がん(扁平上皮がん)の全生存率曲線を見ると、オプジーボを投与された患者のうち、約30%の患者が1年半以上の長期延命を実現しています(非扁平上皮がんでは20%弱)。これは統計処理後の結果ですが、実際にどうなるかはここから約1年たたないと臨床データがまとまりません。長期延命する患者が実際にどの程度の比率になるのかは、オプジーボの売上高予想だけでなく、薬価の問題、投与法の研究に影響を与えると思われます。

図1 オプジーボの治療成績:模式図(非小細胞肺がん(扁平上皮がん)のⅣ期)

(横軸は全生存期間(月)、縦軸は全生存率(%)、N Engl J Med 373:123,2015をもとに楽天証券で模式化したもの)

薬価改定はどうなるのか

小野薬品工業の株価にはオプジーボの薬価引き下げが織り込まれていると思われます。問題はいつ実施されて、どの程度の引き下げ率になるかです。

薬価改定には様々な手順が必要になります。通常、薬価改定は2年に1回です。まず、薬価改定がある年の前年9月に薬の実勢価格と市場規模を調査します。これは厚生労働省が医薬品の卸業者や病院に聞き取り調査する形で行います。ここで調査した各医薬品の実勢価格と市場規模が、そこから年明けまで行われる薬価審議(中央社会保険医療協議会薬価専門部会で行われる)での議論で使われます。なお、この市場規模は、メーカーの会計上の医薬品売上高とは異なる厚生労働省の推計値になります。ここで調査された薬の実勢価格と市場規模は外部には公表されません。このようにして決まった薬価は、薬価改定年の3月に厚生労働省から告示され、4月から実施されます。 

薬価について新しいルールを作る場合には、1~2年程度の議論が必要になります。関係する業界の意見聴収も必要になります。今は期中の薬価引き下げルールがないため、当面は期中の薬価引き下げはないと思われます。

前回の薬価改定は2016年4月でした。通常なら次の薬価改定は2018年4月ですが、2017年4月に予定されている消費税増税に合わせて、増税分を調整する(引き下げる)名目で薬価改定が予定されています。通常の薬価改定と同じで特例拡大再算定(注)も行われます。この場合は、今のところ2018年4月の通常の薬価改定も行われるため、3年連続の薬価改定となります。

ただし、消費税引き上げが延期されれば、2017年4月の薬価改定も取りやめになります。この場合、次の薬価改定は2018年4月になります。

消費税増税が中止になった場合でも国が薬価改定を行いたい場合は、8月までに議論を立ち上げて、9月に市場調査を行わなければなりません。でなければ年明けまでに個々の医薬品の価格を決めるスケジュールが間に合いません。実際にはスケジュール的に難しいと思われ、そのため、もし消費税増税がなくなれば2017年4月の薬価改定はなくなると考えられます(8月まで注意しなければなりませんが)。

6月1日に安倍首相が消費税増税を先送りするかどうかを決める模様ですが、この結果で当面の薬価改定スケジュールが決まります。

小野薬品工業の投資判断は維持

オプジーボは日本の医療行政、医療政策を巡る議論のど真ん中にある薬です。オプジーボの効能は主に末期がんの患者を延命させることですが、併用療法などの使い方次第でがんを治す突破口になるものです。高額な薬であり、医療財政への影響を不安視する意見もありますが、これをどう扱っていくかで、日本ががんを克服できる国になるかどうかが決まると言ってよいでしょう。そして、現場では5月13日付けの本稿で書いたように、オプジーボの欠点を克服しようとする動きが始まっています。小野薬品工業の投資判断は変える必要はなく、中長期で投資妙味のある銘柄と思われます。

注)特例拡大再算定:年間販売額が1,000億円超1,500億円以下で、かつ予想額販売額の1.5倍以上となるものは、最大で25%の価格引き下げ、年間販売額が1,500億円超で、かつ予想販売額の1.3倍以上となるものは、最大で50%の価格引き下げを行う。

カルナバイオサイエンス(4572)

米プロナイ・セラピューティクスへ低分子キナーゼ阻害薬 AS‐141を導出

5月27日付けでアメリカのバイオベンチャーであるプロナイ・セラピューティクスへ低分子キナーゼ阻害薬「AS‐141」を導出したと発表しました。AS-141はCDC7/ASK阻害薬と言われ、がん細胞のみを選択的に殺し、副作用の少ない抗がん剤です。現在前臨床(動物実験)の段階です。

このライセンス契約条件では、プロナイ社は契約一時金90万ドル(約1億円)を支払います。また、開発状況、承認、上市などの進捗に応じて最大270百万ドル(約300億円)のマイルストンを支払うことになります。上市後の売上高に対しては一ケタの段階的ロイヤリティを支払う契約です。臨床試験入りは2017年下期になる見込みです。

今期も黒字の可能性

当社は前期(2015年12月期)に米ヤンセン・バイオテック(J&J子会社)へ新薬候補1種類を導出した結果、黒字決算となりました。今期はこのヤンセン社に導出したパイプラインが臨床試験入りする可能性があります。これに今回のプロナイ社向け導出が加わるため、黒字化の確度が高くなりました。また、来期にプロナイ社が臨床試験入りするため、マイルストン収入の可能性が出てきます。投資妙味があると思われます。

本レポートに掲載した銘柄

ソニー(6758)/任天堂(7974)/カプコン(9697)/スクウェア・エニックス・ホールディングス(9684)/村田製作所(6981)/TDK(6762)/アルプス電気(6770)/小野薬品工業(4528)/カルナバイオサイエンス(4572)