本レポートに掲載した銘柄

塩野義製薬(4507)/カルナバイオサイエンス(4572)/小野薬品工業(4528)/そーせいグループ(4565)/ペプチドリーム(4587)/村田製作所(6981)/TDK(6762)/アルプス電気(6770)/日本電産(6594)/ソニー(6758)/パナソニック(6752)/コロプラ(3668)

1.相場概況:日経平均株価の動きが不透明な中で個別銘柄に注目したい

ここ数週間、日経平均株価について、「戻るか」「戻らないか」というコメントを繰り返していますが、足元の動きを見ると、依然としてどちらに進むか不透明な状況と思われます。夜間のCME日経平均先物では17,000円を大きく割れる局面がありますが、昼間の日経平均株価の現物市場では、かなり戻しています。主力銘柄の割安感が背景にあると思われます。

一方で、3月16日(現地時間)のFOMCで追加利上げが見送られ、円高が進行した時には、3月17日の日経平均株価(昼間の現物市場)は高く始まり、一時17,200円台に入りました。しかし、結局終値は前日比38.07円安の16,936.38円で引けました。

しかし、17~18日のCME日経平均先物は、円高の進行に伴い一時16,500円を割りましたが、その後は順当に戻りました。夜間の日経平均先物は仕掛け的な売りも多い模様で、昼間の日経平均株価の動きを見ると、先物離れらしい気配も見られます。17日のNYダウは高く、18日の日経平均株価が注目されます。

ファンダメンタルズを見ると、今の為替レートが続くならば、4月中旬から発表される2016年3月期決算では、新年度(2017年3月期)の前提為替レートが1ドル=111円となってしまいそうです。新年度最初の会社業績見通しでは、自動車各社は10~20%の営業減益見通しを出してくる可能性があります。

しかし、同じような輸出・グローバル企業でも、海外生産拡大や日本市場への逆輸入などを行ってきた大手電機メーカー(ソニー、パナソニック)や、生産の海外移転だけでなく、競争力のある製品開発(=値上げ出来る製品開発)に取り組んできた電子部品メーカー(村田製作所、TDK、アルプス電気、日本電産など)などでは、自動車ほど為替感応度は高くありません。来期も増益が続くか、来期が減益であっても来々期の増益転換が期待できそうな会社があります。

このような複雑な相場の中では、個別銘柄に注目したいと思います。

まず、薬品・バイオ株です。この数週間、小野薬品工業、そーせいグループ、ペプチドリームと、このところの薬品・バイオ株の主力銘柄についてコメントしてきましたが、それに加えて、塩野義製薬、カルナバイオサイエンスにも注目してみたいと思います(今回の特集です)。

電子部品では、2016年1-3月期にアップルのiPhoneが減産していると伝えられていますが、春からは9月発売と思われる「iPhone7」の部品商談が本格化すると思われます。また中長期で見ると、2017年以降の新型iPhoneに有機ELディスプレイが搭載されると報じられていますが、これによる部品の変化に期待したいと思います。村田製作所では足元の受注が前年をやや上回っている模様で、北米向けだけでなく、中国スマホ向けの展開が業績にプラスに寄与している模様です。

ゲームでも動きがありました。ソニーがバーチャルリアリティシステム(VR)の「PlayStationVR」を2016年10月に発売すると発表しました。発売地域は、日本、北米、欧州、アジア、希望小売価格は各々44,980円(税抜き)、399USドル(税抜き)、399ユーロ(税込み)、349ポンド(税込み)です。対応ソフトを、2016年12月末までに50作以上発売するとしています。安いマシンではありませんが、VRは新しいゲームの世界を切り開くと期待されているものです。足元のソニーゲーム部門の業績は好調です。また、ソニー全体では対ドル円高はメリットになります。

また、VRについては、コロプラがVRの一つであるオキュラスリフト(Oculus Rift、アメリカのOculus VR社が開発した)向けのソフトを配信しています。

今回のアメリカの利上げ延期はアメリカ経済が順調に成長し続けることをサポートするものであり、歓迎すべきものです。それに伴う円高は、逆に見るとアメリカのグローバル企業にとっては(例えばアップルにとっては)ドル安となってプラスになるものです。この見方をすると、日本企業、特に輸出・グローバル企業の多くはこの円高を受け入れざるを得ません。アメリカ経済の順調な拡大こそが、日本経済と日本の株式市場にとっての生命線だからです。

今の相場の中では、今の為替相場の水準が続く前提で銘柄選択を行う必要があると思われます。

(この相場概況は、3月18日(金)8時までの情報を元に執筆しました。)

グラフ1 日経平均株価:週足

グラフ2 CME日経平均先物:5分足

グラフ3 東証マザーズ指数:週足

グラフ4 ドル円レート:日足

グラフ5 ユーロ円レート:日足

グラフ6 東証各指数(2016年3月17日まで)を
2012年11月14日を起点(=100)として指数化

2.特集:薬品・バイオ株

塩野義製薬

クレストールの特許切れ問題

塩野義製薬のこれまでの主力医薬品は、高コレステロール血症治療薬「クレストール」でした。塩野義製薬が創製しましたが、アストラゼネカに全世界での開発、販売を供与し、そのロイヤリティーを当社が受け取り、日本では共同で販売しています。クレストールの全世界での売上高と塩野義が受け取るロイヤリティー収入はグラフ7、表1のように巨額で、長く当社業績の中核でした。

しかし、2016年にアメリカでクレストールの特許が切れ、2018年3月期には全ての国で特許が切れることになります。その後は後発薬(ジェネリック)との競合になります。いわゆる、「クレストールの特許の崖」問題(クレストールクリフ)に直面することになったのです。

これに対して当社は、2013年にアストラゼネカとの間でロイヤリティー契約を変更することに成功しました。2014年からロイヤリティーの料率を引き下げる代わりに、ロイヤリティーの受取期間を最長7年間延長すること、2020年までに最低受取額(年間数億ドル)を設定することで合意したのです。この契約変更によっても、2017年3月期以降にクレストールの売上高が減少することは避けられません。2017年3月期に前年比20~30%減、2018年3月期に更に同20~30%減となることが予想されます。しかし、新たな収益源が会社を支えるようになるまで時間稼ぎができるようになりました。

表1 塩野義製薬の主要医薬品売上高

グラフ7 クレストール世界売上高
(単位:億ドル、出所:会社資料より楽天証券作成)

ViiVからのロイヤリティー収入増加中、HIV治療薬の将来性は大きい

当社は、HIV治療薬の専門会社であるイギリスのViiV社(ヴィーヴ)に10%出資しており、ここからのロイヤリティー収入と配当金が急速に伸びています。

もともとViiVの大株主はGSK(グラクソ・スミスクライン)でそこにファイザーが出資していました。そして、ViiVと塩野義が50%ずつ出資する合弁会社を作り、その合弁会社でHIV治療薬を共同で研究開発していました。この枠組みを2012年に変更し、ViiVへの出資比率をGSK78.3%、ファイザー11.7%、Shionogi Ltd.(UK)10%とすることとなりました。この結果当社は、ViiVから四半期ベースのロイヤリティーと年間配当金を受け取ることになったのです。

HIV治療薬ではアメリカのギリアド・サイエンシズが世界トップで、ViiVは2番手に位置しています。ViiVのHIV治療薬は、「テビケイ」「トリーメク」の2種類です(いずれも経口剤で毎日服用)。「テビケイ」はもとは塩野義が開発したもので、途中でGSK(グラクソ・スミスクライン)に導出し、同社との共同研究に切り替えたものです。HIVの治療では、ギリアドの「ツルハダ」、ViiVの「エプジコム」の2剤ともう1剤を服用します。その一つが「テビケイ」です。

また、「トリーメク」は「エプジコム」と「テビケイ」を一緒にした配合剤です。この場合は、「ツルハダ」と「トリーメク」を服用します。

グラフ8が「テビケイ」「トリーメク」の四半期ベース売上高です。急速に増加していることが分ります。塩野義は、この売上高から推定で15~20%をロイヤリティーとして受け取っています。グラフ9は塩野義のロイヤリティー収入の内訳を見たものですが、クレストールに代わってHIVフランチャイズ(ViiVのHIV治療薬のラインナップを会社側ではこう呼んでいます)からのロイヤリティーは当社の主力事業になりつつあります。

ViiVからのロイヤリティーは更に増加する見込みです。GSKが公表している2015年12月期の「テビケイ」「トリーメク」の合計売上高は13億ドル(約1,500億円)ですが、これが2016年12月期は20億ドル以上、2017年12月期は30億ドル以上に拡大すると予想されます。その後も伸びが続くと思われます。

これに、ドルテグラビル(テビケイ)とリルピビリンの配合剤(現在臨床試験フェーズIII、2018年上期上市予定)、ドルテグラビルとラミブディンの配合剤(フェーズIII、2019年上期上市予定)の2剤が加わる予定です。

また、注射剤も開発しています。開発番号S/GSK1265744 LAP(一般名cabotegravir、カボテグラビル)がそれであり、当社とViiVが共同開発してViiVに導出したものです。「テビケイ」「トリーメク」は毎日服用しなければならない経口剤ですが、カボテグラビルは2~3カ月に1回の注射で効きます。現在は臨床試験フェーズIIですが、2016年半ばにフェーズIIIに進み、2019~2020年上市の予定です。また、カボテグラビルはHIV予防薬としても開発中で、現在フェーズII、2016年中にフェーズIIIに進み、2020年以降に上市する予定です。

グラフ8 テビケイ、トリーメクの売上高推移
(単位:百万ポンド、出所:会社資料、GSK資料より楽天証券作成)

グラフ9 塩野義製薬のロイヤリティー収入
(単位:億円、出所:会社資料より楽天証券作成)

新型インフルエンザ治療薬を2018年3月期に申請へ

開発番号S-033188はインフルエンザの新型治療薬です。現在、フェーズIIですが、厚生労働省の「先駆け審査指定制度」の対象となっているため、審査期間が大幅に短縮される見込みであり、2018年3月期に申請する予定です。

S-033188を投与すると、インフルエンザのウイルスの増殖に必要なタンパク質の合成が阻害されるため、ウイルス粒子が形成できなくなります(Capエンドヌクレアーゼ阻害剤)。A型、B型両方のインフルエンザに効きます。これ以外にも、これまで分離されたインフルエンザウイルスに対して効果があります。経口剤で1粒飲めば治療完了となり、1~3日でインフルエンザが治ります。

これに対して、今使われているタミフル、リベンザなどはノイラミニダーゼ阻害剤と言われています。インフルエンザウイルスが細胞内に入ってくるときに、遺伝情報であるRNAを細胞内に放出します。その結果、インフルエンザ由来の遺伝子が細胞へ組み込まれ、ウイルスに必要な遺伝子やタンパク質を合成するようになり、ウイルスが大量に作られ、細胞の外へ放出されます。ところが、インフルエンザウイルスが細胞外部へ放出されるときに、ノイラミニダーゼという酵素が働くため、これを阻害することで、ウイルスが細胞外部へ放出されないようにするのです。

ただし、体内でウイルスが増殖してしまった後では効きません。そのため、インフルエンザ発症後48時間以内に服用する必要があります。また、A型、B型には効きますが、C型(子供がかかる)には効きません。1日2回、5日間服用します。

日本では年間約1,000万人がインフルエンザに感染していますが、実際に病院で治療を受ける人はこの半分程度と言われています。S-033188が使われ始めると、治療期間が大幅に短縮されるため、患者が楽になるだけでなく、他人へ感染する可能性も低減することが出来ます。

当社は今年2月に、スイスの大手製薬メーカー、ロシュとの間で、日本と台湾を除く全世界でのC-033188の共同開発について提携しました。当社はロシュから契約一時金、臨床試験から承認取得に至るまでのマイルストン、上市後の販売ロイヤリティーを受け取ります。日本での販売をあわせると、当社にとって重要な大型新薬になると思われます。

表2 塩野義製薬の主要開発パイプライン

疼痛治療薬と感染症治療薬にフォーカス

当社では、主に疼痛治療薬と感染症治療薬の2つの分野にフォーカスを当てています。上述した新薬開発計画以外では、次のようなものがあります。

・サインバルタの適用拡大
現在、クレストールなどとともに戦略3品目の一つとなっている疼痛治療薬サインバルタ(イーライ・リリーからの導入品)の適用拡大による市場拡大が期待できる。

・ナルデメジン(S-297995)
がん等の鎮痛薬として使われているオピオイドの副作用である重い便秘を改善する。グローバルで申請中。

・S-649266
重症感染症治療薬。多剤耐性菌感染症を対象としたフェーズIII試験を2016年3月期内に開始へ。

・βセクレターゼ阻害薬
起源は塩野義だが、ヤンセン(ジョンソン・エンド・ジョンソンの子会社)と共同開発している。早期に治療を始めるとアルツハイマーの症状を抑えることが出来る次世代アルツハイマー病治療薬。グローバルでフェーズII/III。

また当社は、疼痛、感染症という、患者が毎日薬を服用しなければならない分野を扱っているため、比較的低価格で販売できる低分子化合物の開発を専門としています。

業績は2019年3月期から拡大期へ

2016年3月期は、ViiVからのロイヤリティーが好調で2016年1-3月期に配当も入る見込みです。また、会社予想にはロシュとの契約に伴う一時金が織り込まれていないため、会社予想経常利益880億円は上方修正の可能性があります。

一方2017年3月期、2018年3月期は「クレストールクリフ」の影響が本格化する見込みです。インフルエンザ治療薬の様な重要新薬が上市される直前であり、伸びる要因は「テビケイ」「トリーメク」から成るHIVフランチャイズ以外にはあまりない状態になると思われます。「テビケイ」「トリーメク」の好調が予想されるため、業績は高水準を維持すると思われますが、本格的に再成長するのは、2019年3月期からになると思われます。

逆に、2019年3月期以降は、上述のHIVフランチャイズの追加品目、インフルエンザ治療薬S-033188が上市され、あるいはそれまでには上市されているであろうナルデメジンなどが拡大期に入っていることが予想されます。年率で20%以上の経常利益の伸びも予想されます。

このように見ると、塩野義製薬は中長期(半年から1年以上)の投資対象として有望と思われます。

なお当社は3月18日(土)にR&D説明会を開催します。その内容は後日報告します。

表3 塩野義製薬の業績

カルナバイオサイエンス(補足):開発パイプラインの中身

先週お伝えしたカルナバイオサイエンスの補足です。表4が開発パイプラインの中身です。これ以外に非公表のプロジェクトが3~4件ある模様です。

一番上の免疫疾患系のプロジェクトがジョンソン・エンド・ジョンソンの子会社、ヤンセン・バイオテックに導出されたものです(新薬の詳細は非公表)。2015年6月に前臨床(動物実験)の段階で導出されました。契約一時金は推定約6億円。2016年末から2017年初頭にかけて臨床試験に移行する模様であり、その際にマイルストンが入金される予定です。額は非公表ですが、契約一時金以下の金額にはならないと思われます。うまく開発が進めば、フェーズI→II→III→申請→承認と進むにつれてマイルストンを受け取り、上市された後は販売金額に応じたロイヤリティーを受け取ることになります。ここまで5~6年以上かかると思われますが、この新薬開発が成功するものであれば、当社にとって安定収益源となると思われます。

次に、当社が進めているパイプラインで、最も導出に熱心なのがAS-141です。CDC7/ASK阻害剤です。細胞間の情報伝達を司る信号の役割を果たしているのが「キナーゼ」で、細胞内に518種類のキナーゼがあると言われています。キナーゼの一つであるCDC7/ASKが、がん細胞の遺伝子を複製しようとするのを阻害すると、がん細胞のみが死ぬことになります。その結果、副作用が少ない抗がん剤を作ることができるというものです。

NCB-0594も重要な開発プロジェクトです。Wnt-signal(ウイントシグナル)阻害剤(TNIK阻害剤)と言われているものです。がんの再発や抗がん剤に対する耐性獲得には「がん幹細胞」がかかわっています。通常のがん細胞とともにがん幹細胞を標的とするものが、Wnt-signal阻害剤です。がん幹細胞とがん細胞の両方を殺せば、がんは再発しなくなります。すなわち完治することになります。かなり難しい開発になると思われます。

なお、AS-141、NCB-0594ともに、固形がん、白血病など様々な種類のがんに効く可能性があります。いずれも前臨床が終了した時点で導出を検討中です。

白血球幹細胞をターゲットにしたプロジェクトもがん幹細胞をターゲットにしたものです。これはフェーズIIa(フェーズIIの前期)まで進んで価値を上げて導出したいとしています。

神経変性疾患のプロジェクトは、もともとアルツハイマー治療薬のプロジェクトでしたが、現在はパーキンソン病のプロジェクトになっています。これもフェーズIまたはIIに進みたい意向です。

このように、当社の開発パイプラインには抗がん剤が多くあります。それも開発が難しいとされる「がん幹細胞性阻害剤」(NCB-0594、白血病幹細胞阻害剤)が含まれています。難しいがゆえに、大手に導出して開発が成功すれば成果は大きなものになると思われます。当面は、導出の成否、臨床試験の結果が注目されます。

表4 カルナバイオサイエンスの創薬テーマとステージ

表5 カルナバイオサイエンスの業績

本レポートに掲載した銘柄

塩野義製薬(4507)/カルナバイオサイエンス(4572)/小野薬品工業(4528)/そーせいグループ(4565)/ペプチドリーム(4587)/村田製作所(6981)/TDK(6762)/アルプス電気(6770)/日本電産(6594)/ソニー(6758)/パナソニック(6752)/コロプラ(3668)