1.2015年11月24日の週の相場概況:好業績を背景に中小型株が好調。

11月24日の週の株式市場は、2万円にあと一息の展開となりました。大きな節目である2万円を目前にして動きはやや鈍ってきましたが、急に跳ね返されることもなく、日経平均株価は19,800~900円台を行き来する展開となりました。重要な節目を前にして相場がもたつくことはよくあることですが、株式市場が2万円突破のエネルギーを十分蓄積している過程ではないかと思われます。

この中で、出遅れ物色の一環と思われますが、時価総額1兆円未満の中小型株が上昇してきました。私が見ている銘柄の中では、ミクシィが上値を追う展開となりました。11月中旬の4,200~4,300円台から、11月26日終値5,040円まで上昇しましたが、会社予想ベースのPERはまだ約7倍です。割安感だけでなく、新作ゲームの配信開始時期が接近していることも材料になっていると思われ、更に上値の余地があると思われます。

東証マザーズ指数も跳ねており、11月16日終値の783.68ポイントから11月26日終値は870.06ポイントへ11%上昇しました。グラフ3の東証マザーズ指数日足とグラフ6の各指数の相対インデックスを見ると、東証マザーズ指数にはまだ上値余地がありそうです。

また、マザーズだけでなく、東証1部やジャスダックの中小型株も動いています。先週の本レポートで取り上げた、東映アニメーション(ジャスダック)、アミューズ(東証1部)、アルファポリス(マザーズ)、アニコム ホールディングス(東証1部)のうち、アニコム ホールディングスを除く3社の株価が上昇しています。いずれも時価総額が1,000億円未満の小型株ですが、会社としては、有力なエンタテインメント会社かこの分野の成長企業です。

来週11月30日の週から12月相場に入ります。掉尾の一振(とうびのいっしん)へ向けた動きも出てきそうです。引き続き銘柄を探して投資したい局面と思われます。

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ2 日経平均株価:週足

グラフ3 東証マザーズ指数:日足

グラフ4 ドル円レート:日足

グラフ5 ユーロ円レート:日足

グラフ6 東証各指数(2015年11月26日まで)を
2012年11月14日を起点(=100)として指数化

2.特集:薬品株事始:小野薬品工業

今回は薬品株を取り上げます。小野薬品工業の新薬、がん免疫療法剤「オプジーボ」の医薬品市場に対するインパクトと、今後の投資の可能性を探りたいと思います。

  • 世界と日本の医薬品市場

グラフ7は世界の医薬品市場の伸びを見たもの、グラフ8は日本市場を見たものです。いずれも堅調に成長しています。人口増加、高齢化、新薬開発によってこれまで治らなかった病気が治療できるようになったことなどが成長の背景にあります。

グラフ7 世界の医薬品市場
(単位:10億ドル、出所:アステラス製薬ホームページより楽天証券作成、
元出所は日本製薬工業協会「DATABOOK2015」)

グラフ8 日本の医薬品市場
(単位:億円、出所:アステラス製薬ホームページより楽天証券作成、
元出所は平成24年薬事工業生産動態統計調査より、出荷金額-輸出金額)

  • 医薬品会社の世界ランキング、日本ランキング

表1は世界の医薬品メーカーランキング、表2は日本のランキングです。一目でわかるのが、世界の大手製薬会社の巨大さです。実質的にトップのノバルティスファーマが1ドル=107円(2014年の平均レート)で換算すると約6.2兆円の売上高です。上位15社が日本円換算で年間売上高が2兆円を超えていますが、この中に日本企業はいません。日本企業のトップは18位の武田薬品工業です。その下に、21位の大塚ホールディングス、23位のアステラス製薬などが続きます。

研究開発費を見ても、研究開発費ランキングトップのロシュや2位のノバルティスファーマが年間1兆円を超える研究開発費を新薬開発に投じているのに対して、日本企業は武田薬品工業でも4,000億円未満の開発費です。

また表2は日本の医薬品メーカーの売上高ランキングです。年間売上高が1,000億円以下の、医薬品メーカーとしては小粒な企業が多いのが日本市場の特徴と言えるでしょう。

表1 2014年度世界の医薬品企業:総売上高ランキング

表2 日本の製薬会社:売上高ランキング(2015年4~9月)

  • 「免疫チェックポイント阻害剤」とはなにか

このように、世界の医薬品市場の中で日本市場は堅調に成長しているものの、個々の企業を見ると医薬品メーカーとしては小粒な企業が多いのが特徴です。

ところが、この中から日本だけでなく世界でも注目される新薬が出てきました。それが小野薬品工業のがん免疫療法剤「オプジーボ」です。「免疫チェックポイント阻害剤」とも言う、新しいタイプの抗がん剤です。

免疫チェックポイント阻害剤の効き方は以下の通りです。人間の体には「免疫」があり、免疫細胞(T細胞)が体外から入ってきた異物、病原菌や、体内で細胞が変化して出来た「がん細胞」を検知して、これらを取り囲んで殺したり、動かなくしたり、体外に排除する働きをします。

ところが、T細胞の働きが悪く、がん細胞を抑え込むことが出来なくなると、がん細胞がT細胞の「PD-1」という因子に働きかけ、免疫が働かなくなるようにします。がん細胞の表面にある「PDL-1」あるいは「PDL-2」という因子が、T細胞のPD-1と結合するとT細胞が動作を止めてしまい、免疫が効かなくなってしまうのです。これを「がん免疫逃避機構」と言います。この結果、がん細胞が増殖し、画像でも明らかな「がん」となるのです。

これに対して、がん細胞がT細胞(免疫細胞)の働きを止めるのを防ぐには、T細胞のPD-1に蓋を被せ、がん細胞のPDL-1、PDL-2と結合出来なくすればよいというアイデアが出てきました。そうすれば、免疫が再び元に戻り、がんを撃退することが出来ます。これが「免疫チェックポイント阻害剤」の考え方です。この発見は、京都大学の本庶佑(ほんじょ・たすく)教授(現客員教授、静岡県公立大学法人理事長)によってなされ、小野薬品工業と本庶教授とが共同研究して、「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)が完成しました。

「オプジーボ」の開発は、従来のがん免疫療法剤とは異なる全く新しいアイデアによるものです。がん免疫療法剤のアイデアは以前からあったのですが、免疫を強める薬の開発が主流でした。しかし、免疫を強めても、がん細胞がT細胞の免疫にブレーキをかけて効かなくしてしまうため、あまり効果が見られなかったのです。免疫を強めるタイプのがん免疫療法剤がうまくいかないため、これまでは日本や世界の薬品メーカーはがん免疫療法剤に消極的でした。

「オプジーボ」の効果には大きなものがあります。日本でメラノーマ(皮膚がん)の第Ⅲ期、第Ⅳ期の患者、即ち、がんの周辺への転移が始まっているか(第Ⅲ期)、他の臓器への転移が進んでいる患者(第Ⅳ期)で、手術ができない部位にがんがあり、抗がん剤しか治療法がない患者に対してオプジーボを投与したところ、明らかにがんが小さくなり、あるいは画像から消えてしまうケースがありました。臨床試験に参加した人の20~30%に効果がありました。投薬効果も持続しています。従来の抗がん剤による延命効果は、余命2~3カ月の患者に対して概ね2~3カ月の延命に限られていましたが、オプジーボが効く場合は、1~2年以上の延命効果が得られます。

また、他の免疫チェックポイント阻害剤や抗ガン剤と併用することで、がんの種類によっては効果が大きくなることも確認されており、臨床試験が進んでいます。

もちろん、効かない人、悪化する人もあり、重い副作用が出る場合もあります。また、どれだけの期間投与すればよいのか、まだわかっていません。オプジーボにはこのように問題もありますが、効果が出た場合の効果が大きいことが注目されているのです。

  • 2014年7月に日本で「オプジーボ」の製造販売承認が下りた

「オプジーボ」は、2014年7月に日本で、皮膚がんである「メラノーマ」(悪性黒色腫)の2次治療(最初に他の投薬や手術を行ったにもかかわらず効果がなかった患者に対する治療)に対する製造販売承認を得ました。2014年9月に日本で発売されましたが、売上高は2015年3月期25億円、2016年3月期の会社予想は55億円です。

また、小野薬品工業は2005年にアメリカのバイオ企業、メダレックス社とこの分野で提携しており、メダレックスがブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMS)に買収されてからは、BMSとこの分野で全面的な提携関係にあります。すなわち、日本、韓国、台湾は小野薬品工業が「オプジーボ」を販売し、BMSに対して売上高の4%、粗利益から営業経費を除いた利益の20%を支払う契約です。また、北米、欧州はBMSが販売し、北米での売上高の4%、欧州での売上高の15%を小野薬品工業が受け取ることになります。一見すると小野薬品工業にとって不利な提携ですが、日本の中堅医薬品メーカーである小野薬品工業が「オプジーボ」を世界市場で拡販するには必要な提携でした。

この提携の成果として、アメリカでは2014年12月にメラノーマの2次治療薬として、2015年3月に非小細胞肺がん(転移性肺扁平上皮がん)の治療薬としての承認を得ました。2015年6月には、欧州でメラノーマに対する1次治療薬、非小細胞肺がん(肺扁平上皮がん)の治療薬として承認されました。

この結果、BMSではオプジーボの売上高が急速に伸びており、全世界向けで2015年4-6月期1億2,200万ドル、7-9月期3億500万ドルとなっています。

表3 オプジーボ売上高

表4 小野薬品工業:主要製品の販売状況

  • オプジーボの可能性

オプジーボの現在の開発状況を表5に示します。

当面の注目点は、申請中の非小細胞肺がん(肺がんの85%がこのタイプ)の2次治療への承認がいつ下りるかです。11月30日(月)に開催される予定の薬事・食品衛生審議会において、審査される可能性があると思われますが、承認されると、概ね1カ月以内に薬価収載(薬価が決まる)となり、その後保険適用となります。肺がんで死亡する人は日本だけでも年間約7万5,000人います(表6)。メラノーマの年間死亡者数約700名に比べて市場が大きいため、2017年3月期はオプジーボの売上高拡大が予想されます。

表5 小野薬品工業:オプジーボ(ONO-4538)の主な開発状況

表6 主ながんの年間患者数、死亡者数

オプジーボは、異例に高い薬価が認められた新薬でもあります。「オプジーボ点滴静注20mg」は1瓶15万200円、「同100mg」は1瓶72万9,849円です。メラノーマの治療には、体重1kg当たり2mgを3週間間隔で点滴します。体重60kgの患者で1回120mg使いますので、1回88万円となります。計算すると、1年で17回×88万円=約1,500万円になります。ただし、保険適用なので患者負担は30%です。更に、高額医療費制度を使えばかなり戻ってくるので、患者の負担は軽減されます。従って、実際に効能が高いという認知が進むと、処方を希望する患者が増えることが予想されます。

また、肺がんに使う場合は、体重60kgの患者で180mgを2週間に1回使います。1回133万円、1年続けると、133万円×26回=約3,400万円になります。30%負担でも年間約1,000万円必要ですが、1~2年以上の延命が可能ならば、希望する人は少なくないと思われます。2017年3月期に1,000人に使えば肺がんだけで340億円、メラノーマと合わせて約400億円、肺がんで5,000人が使えば、年間売上高は1,700億円となります。

2017年4月にはオプジーボの薬価改定があると思われます。少なく見積もっても年間数100億円、普通に見積もって1,000億円を超える薬ですから、半分以下の薬価になる可能性があります。ただし、肺がんへの効能の認知が進み、現在申請準備中の腎細胞がん(2次)やフェーズⅢの胃がんが2018年3月期に承認されれば、仮に年間1,000万円の薬価になったとしても2~3万人が使うことになる可能性があります。その場合、年間売上高2,000~3,000億円の、日本国内ではかつてない超大型薬になる可能性があります。

仮に、オプジーボの売上高が年間1,000億円になると、BMSへのロイヤルティなどを考慮すると、営業利益で300~400億円程度の寄与が見込まれます。2,000億円の場合は、700~800億円程度の今の業績への上乗せ効果が期待できると思われます。

また、BMSが担当する欧米での売上高も、今後大きく増えると思われます。BMSのオプジーボ売上高は、2015年7-9月期に1ドル=120円換算で366億円、年間ベースで約1,500億円になっています。今後は特に欧州売上高が増えると、売上高の15%が小野薬品工業の取り分になるため、業績への寄与が大きくなります。仮にアメリカだけで年間売上高3,000億円、欧州は現状維持とするとロイヤルティは約120億円と試算されます。欧州でも3,000億円の売上高になると、ロイヤルティは欧州分で450億円、アメリカと合わせて570億円になると試算されます。

要するに、2016年3月期の小野薬品工業の営業利益予想152億円に対して、2018年3月期以降に、オプジーボの日本部門が300~800億円、BMSからのロイヤルティが120~570億円加わり、営業利益が合わせて600~1,500億円の水準になることが、ある程度合理的に予想されるのです。

もし、営業利益1,500億円が目指せるとなると、当期利益は1,000~1,100億円となり、これをPER30~40倍で評価すると、想定時価総額は3兆円以上となり、今の時価総額2.3兆円を上回ります。

もちろん、これらは現時点ではあくまで試算です。実際にオプジーボがどの程度の売上高になるのかは、肺がんに保険適用されてからでなければわかりません。

また、競争は激しくなりそうです。メルク、ロシュなど世界的大手がこの分野に参入しています。日本では中外製薬が親会社ロシュの後ろ盾を得て参入しようとしています。

ただし、これまで見てきたように、オプジーボは大きな可能性を秘めている新薬です。今は中堅医薬品メーカーの小野薬品工業が、近い将来、日本の医薬品市場の中で大手の一角を占める規模になるかもしれません。

表7 小野薬品工業の業績試算