1.2015年9月7日の週の相場概況:日経平均株価は底値固めの展開か

9月7日の週の株式市場は、週初は軟調な展開から始まりました。日経平均株価は、7日は前週末比68.31円高となったものの、8日には再び中国経済への不安が高まり前日比433.39円安となり、17,400円台に入りました。

しかしその後は、8日の上海株式市場の上昇と欧州株、米国株の上昇、日本株の下落によってPER面で投資妙味がでてきた銘柄が業種を問わず多くなったこと、中国の景気刺激策への期待などによって、9日の日経平均株価は寄り付きから大きく上昇しました。引け値では前日比1,343.43円高の18,770.51円となり、9月3日以来4日ぶりに18,000円台を回復しました。グラフ3の日経平均株価月足を見るとわかりますが、18,000円は重要な節目です。この節目を割り込まないようなら、日経平均株価は大底を入れた可能性があります。

ただし、10日は再び前場に大幅安となり、一時18,000円を割りました。直ぐに18,000円台を回復し、引け値では前日比470.89円安の18,299.62円となりましたが、相場はまだ病み上がりと思われます。当面は、各セクターの主力銘柄中心に底値固めをする動きと思われます。

もっとも中期的には、大きく下がった東証1部の主力株中心に戻りの相場が期待できると思われます。また、成長株が単に相場全体の下落によって連れ安しただけの場合もありますので、その場合はバーゲンハンティングになると思われます。

具体的には、自動車では、アメリカでの販売が順調に伸びており株主還元に積極的な富士重工業、トヨタ自動車のTNGA(新設計生産思想、今年末発売の新型プリウスから導入される)によって部品のコストダウン効果が期待できることから、フォード、本田技研工業などから大型新規受注を相次いで獲得しているデンソーに注目したいと思います。

電子部品は、今回の特集のテーマですが、新型iPhoneの効果を期待して、村田製作所、日本電産、ソニー、アルプス電気、TDKに注目したいと思います。

ゲームでは、成長期待のある任天堂と、低PERのミクシィに注目したいと思います。ミクシィの場合はマザーズ市場の代表銘柄ですが、マザーズが大きく下落したため、その戻りも期待できると思われます(グラフ4)。

また、「iPhone6s」シリーズが9月25日に発売されることが決まりました。「iPhone」はゲーム機としての性能が優れており、特に、「6」シリーズから画面が大きくなったこと、高速CPUによって動作が速くなったことなどから、ネイティブアプリゲームの愛好家にはiPhoneユーザーが多くなっているようです。後述のように、「6s」シリーズも基本性能が高くなったほか、様々な機能が付加されており、総合的なエンタテインメントマシンとして優れたものになっています。

更に、アップルのAppleTVの新製品が10月下旬から発売される予定ですが、テレビ用のコンテンツとして映画、ドラマとともに、ゲームが入る見込みです。AppleTVでゲームをプレイすることができるようになります。仮にミクシィの「モンスターストライク」のようなゲームがAppleTVのラインナップに入れば、「モンスト」がテレビで家族で遊べるようになるということです。AppleTVのAppStoreの中にどのようなゲームが入るのか、詳細はまだわかりませんが、ネイティブアプリゲームの会社の株価には刺激材料になると思われます。要するにネイティブアプリゲームが家庭に進出するというシナリオです。

また、内需に関心がある向きには大手建設会社に投資妙味があると思われます。清水建設、大成建設、大林組です。

小型株にも投資妙味がありそうです。通常小型株は、大型株に比べてPERが高くなる場合が多いので、相場が大きく下がったときに連れ安してPERが下がったときには、買い場になることがあるのです。小型株は業績変動が大きく、景気に対して敏感な会社もあるので、大型株に比べてリスクはありますが、中長期的な成長期待が大きい会社に投資したい投資家にとっては今は買い場になっている可能性があります。アニコム ホールディングス、アミューズ、アルファポリスを挙げておきます。

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ2 日経平均株価:週足

グラフ3 日経平均株価:月足

グラフ4 東証マザーズ指数:週足

グラフ5 ドル円レート:日足

グラフ6 ユーロ円レート:日足

グラフ7 東証各指数(2015年9月10日まで)を
2012年11月14日を起点(=100)として指数化

2.特集:アップルの新製品が電子部品セクターとゲームセクターに与えるインパクト

  • 新型iPhone、9月25日発売へ

9月9日(水)、アップルは新製品発表会を開催し、新型iPhoneをはじめとする新しい製品群を発表しました。新型iPhoneである「iPhone6s」「iPhone6s Plus」、12.9インチディスプレイ搭載の「iPad Pro」、「AppleTV」の新型です。今回は、これらアップルの新製品が日本の電子部品メーカーとゲーム会社に与える影響を考えてみたいと思います。

まず、「iPhone6s」シリーズですが、9月12日予約開始で、9月25日に発売されます。色は、これまでの「iPhone6」シリーズのシルバー、ゴールド、スペースグレーに加えて、ローズゴールドが加わります。ストレージメモリの容量は、「iPhone6」「6 Plus」と同様の16、64、128GB。サイズは、「6s」が4.7インチ、「6s Plus」が5.5インチとなります。

日本での販売価格(SIMフリー版)は、最も安い「iPhone6s」16GBが8万6800円、最も高い「iPhone6s Plus」128GBが12万2800円です。従来の「iPhone6」16GBは発売時価格6万7800円、2015年3月の値上げ後8万6800円(2014年11月にも値上げ)、「iPhone6 Plus」128GBが発売時9万9800円、5月の値上げ後12万2800円となっており、今回は値上げはありませんでした。

当面は、「6s」「6s Plus」と平行して、「6」「6 Plus」(16GB、64GBのみ、128GBは廃止か)、「5s」(16GB、32GB)の販売も続ける模様です。

なお、「iPhone6s」シリーズのテレビCMに、セレーナ・ゴメスなどの海外アーティストとともに、日本のPerfume(アミューズ所属)が起用されています。

  • 全般的に性能を向上させ、新機能も搭載した

「iPhone6s」シリーズの特徴を下に示します。

  • 1)CPUを強化

CPUは64ビットのA9チップを搭載しています。アップルによれば、これまでに比べてタスク処理が70%早く、GPUは90%早くなりました。また、M9モーションコプロセッサをA9チップに組み込んだのでパフォーマンスが向上しました。

  • 2)カメラの性能が大幅に向上

iSightカメラ(背面)がこれまでの8メガピクセルから12メガピクセルへ、FaceTimeカメラ(前)が同1.2メガピクセルから5メガピクセルへ、性能が大幅に向上しました。4K映像の撮影にも対応しています。

なお、手振れ補正用アクチュエーターは、静止画では「6」シリーズ同様、「6s Plus」のみに装備されています。ビデオの手振れ補正機能は、「6s Plus」から装着されるようになりました。

  • 3)3D Touch

これが今回の「6s」シリーズの目玉です。「感圧デバイス」「触覚デバイス(ハプティックデバイス)」とも言われており、アップルウォッチで初期のタイプが導入されました。画面の押し方を強くしたり弱くしたりすることで画面が変わります。あるいは、振動モーターを組み込んだ「Taptic Engine」を装着していますが、これによって微細な振動をユーザーに送り、情報を伝えることができます。ユーザーとiPhoneとの情報のやり取りが複合的になります。

  • 4)連続通話時間、ネット接続時間は「6」シリーズと同じ

連続通話時間は「6s」が14時間、「6s Plus」が24時間で、これは変更ありません。

  • 「iPhone6s」シリーズは売れるか

「iPhone」は、日本の大手電子部品メーカーの業績に大きな影響を与えていると思われます。電子部品メーカーは顧客のことは何もコメントしませんが、日本の電子部品最大手で、世界シェアトップの重要部品を数多く生産販売している村田製作所の、四半期ベースの用途別売上高、製品別売上高、営業利益と、アップルが開示しているiPhone販売台数とを比べると、トレンドがかなり似ています。ここから、iPhone=アップルの電子部品メーカーに対する影響力がわかります。

グラフ8 iPhone販売台数
(単位:万台、四半期ベース、出所:Apple社資料より楽天証券作成)

グラフ9 村田製作所の用途別売上高
(単位:百万円、四半期ベース、出所:会社資料より楽天証券作成)

グラフ10 村田製作所の製品別売上高
(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成)

グラフ11 村田製作所の営業利益
(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成)

「iPhone6s」シリーズの部品メーカーへの影響を考えるには、まず、販売台数がどの程度増えるかがポイントになります。

中国を発端に、世界の株式市場が動揺している中での発売になりますが、「6s」シリーズはスマートフォンとしてだけでなく、映像、音楽、ゲームがスムーズに出来る総合エンタテインメントマシンとして高性能化が進んでいるため、購入希望者は「6」シリーズ発売時よりも多くなると思われます(私はそう考えています)。「6」シリーズの販売台数、約2.2億台に対して、業界では「6s」シリーズは約2.5億台と言われているようですが、2.5~2.6億台程度、即ち「6」シリーズに対して10~20%増が可能と思われます。

地域的に見ると、この1年間で急成長した中国での売れ行きがポイントになると思われます。経済不安の問題はありますが、お金に余裕のある国民も多そうな国なので、伸びは鈍化するとは思われますが、売れ行きに関して大きな心配をする必要はないのではないかと思われます。また、欧米と日本では順調に売れると思われます。

また、iPhoneに限らず、電子機器、通信機器が高度化、高級化するに連れ、搭載される電子部品は高級化し、かつ搭載個数が増える傾向があります。加えて、新しい機能が付加される時には新しい部品が装着されます。これらのことも電子部品メーカーの業績を左右すると思われます。今回は、3D Touchが採用されましたが、このため日本電産などの振動モーターが採用された模様です。

個別の機能、部品では、カメラも重要です。スマートフォンの機能で使う人が最も多いのが静止画、動画を含むカメラです。カメラの性能が向上するにつれ、イメージセンサーも高級化しています(高級品はソニーが世界シェアトップ)。2016年9月に発売されるとされる「iPhone7」(仮称)ではデュアルカメラ(レンズが2つ並んでいるカメラ)が採用されるとも言われていますが、その場合、イメージセンサーの性能向上と個数増加が同時に期待できることになります。これが実現すれば、ソニーだけでなく、オートフォーカス用、手振れ補正用のアクチュエーターメーカー(アルプス電気がトップ)にも良いニュースです。

電池も重要です。スマートフォン用電池は、リチウムイオン電池からポリマー電池にシフトしています。ポリマー電池は薄く、積み重ねて容量を増やすことが可能で、液漏れや爆発のリスクがありません。スマートフォン用ポリマー電池では、TDKが世界シェアトップです。

スマートフォンの機能が、通信からエンタテインメントまで多機能になるほど、電力消費が大きくなります。個々の部品を省エネ化しても、多機能化が進む中では限界がありますので、電池の技術革新が必要になります。スマートフォンにおける電池の重要性が低下することは当面考えられないでしょう。

このようにスマートフォンの多機能化が続くと、各種電子回路が複雑になり、回路の数も増えて、その結果、チップ積層セラミックコンデンサ(電圧制御に使う一般的な電子部品、村田製作所がトップシェア)など、従来から搭載されている一般電子部品の個数が増える傾向が出てきます。

また、世界の高級スマートフォン市場でのiPhoneの存在感が強くなる一方で、中国スマホメーカーは、従来のように中国国内向けに中低級スマホを生産販売するだけでなく、成長するために中級クラスのグローバルモデルを新興国中心に中国以外に販売するようになってきました。その結果、日本の電子部品メーカーの中国スマホ向けビジネスでも、部品の上級シフトと装着個数の増加が起こっているようです。これは、村田製作所、TDKのような一般電子部品の大手にとって業績拡大要因になると思われます。

表1 アップルの地域別売上高

表2 スマートフォンに搭載される電子部品の個数

表3-1 主なスマートフォン用電子部品の概要:1

表3-2 主なスマートフォン用電子部品の概要:2

  • 電子部品セクターの注目銘柄

「iPhone6s」シリーズの売れ行きが好調だった場合に好影響を受けると思われる電子部品メーカーを推定すると次のようになります。

  • 村田製作所

チップ積層セラミックコンデンサを筆頭に、多くの重要部品で世界シェアトップ。

  • 日本電産

触覚デバイスに使われる振動モーターで中国AACテクノロジーズに次ぐシェアを持つ。振動モーターの生産能力を拡大中。

  • ソニー

高級イメージセンサーで世界シェアトップ。iPhoneはカメラを重視しており、スマートフォン用カメラの高度化の恩恵が大きい。

  • アルプス電気

スマートフォンに使うオートフォーカス用、手振れ補正用アクチュエーターのトップ企業。

  • TDK

村田製作所に次ぐ一般電子部品の大手。スマートフォン用ポリマー電池で世界トップ。

表4 主要電子部品メーカーの四半期業績

  • 新型iPhoneのゲームセクターへの影響

今のスマートフォンは、通信機器としてだけ使われるものではありません。特にiPhoneは、映像、音楽、ゲーム、カメラなどユーザーに楽しみを与える機能を充実させてきました。その傾向は、「6」シリーズで強くなっており、「6s」も同じ傾向です。来年の「7」(仮称)も楽しみです。

日本ではゲームの好きな人たちの多くがiPhoneを使っているようです。特に「6」シリーズは「5」「5s」に比べて画面が大きく、CPUの処理速度も速くなっており、ゲームに向いているのです。

今回の「6s」シリーズも、画面の大きさは「6」と変わりませんが、CPUの能力は高くなっています。また、3D Touchは将来何かの形でゲームに使えるかもしれません。そこで、「6s」発売はネイティブアプリゲーム市場への刺激材料と考えられるのです。

また、「6s」シリーズと同時に発表された新型AppleTVは、10月下旬から発売される予定ですが、映像コンテンツを視聴するだけでなく、ゲームも遊べるようになります。AppleTVの画面に専用のAppStoreが表示され、映像、音楽コンテンツとともに、ゲームも配信される模様です。ゲームをプレイするのに向いた専用コントローラも付属しています。配信されるのは家庭に向いたゲームのみになるようですが、この試みがネイティブアプリゲームの家庭進出に繋がるとしたら、ネイティブアプリゲーム会社にとって好材料でしょう。

例えば、ミクシィのように4人で遊ぶ=家族でも遊べるゲーム「モンスターストライク」を作っている会社にとっては、もし「モンスト」がAppleTVのAppStoreに掲載されれば、家庭をユーザーとして取り込む大きなきっかけになると思われます。実際に、スマートフォンでも家族で「モンスト」をプレイしているケースが増えています。またミクシィにとっては、世界展開する際に、「家庭」という切り口ができるということでもあります。

一方、アップルのこの試みが成功すれば、家庭用ゲーム会社、任天堂、ソニー、マイクロソフトの今後の戦略に影響が出ることが考えられます。特に、ハードウェアを高性能化することでゲームのコアユーザーを獲得しているソニーやマイクロソフトよりも、スマートフォンゲームへの進出を計画し、「家庭」が地盤の任天堂に影響が出る可能性があります。その場合、任天堂がどう行動するのか、注目されます。

このように、今回のアップルの新製品はゲームの世界にも様々な影響を与えそうです。まずは、9月12日からの「iPhone6s」シリーズの予約状況、9月25日からの販売動向を見定めたいと思います。