1.2015年7月6日の週の相場概況:ギリシャ問題に続き、中国の株価急落で日経平均は大幅安となったが、その後反発へ。

7月6日の週の株式市場は、大荒れとなりました。ギリシャ問題では、EUが求める緊縮策をギリシャの国民投票が大差で否決する事態となりました。ギリシャ政府は9日にEUに対して具体的な緊縮策を提出しましたが、これに対してEU側は12日が合意の最終期限としています。ギリシャ問題は欧米諸国の安全保障にも繋がる問題だけに、これがどう落ち着くか予断を許しません。

一方、中国問題は、今後、中国株安が中国景気に影響する可能性もあります。上海総合指数を見ると、6月12日に5,166.35ポイントだったものが、7月8日には3,507.192ポイントに下落しました。売買停止を選択する上場企業も増えています。ただし、中国の金融当局が各種介入を行っており、7月10日昼には3,900ポイント台まで上昇しました。

これらの動きを受けて、日経平均株価は、6日に427.67円安の20,112.12円となり、7日は一旦反発したものの、8日は再び大幅安となり、前日比638.95円安の19,737.64円で引けました。安値引けで2万円台を割りました。一方、9日は安く始まり一時19,100円台まで下げたものの、その後は割安感が台頭し広範囲に買戻しが入りました。終値は前日比117.86円高の19,855.50円で引けました。自動車、電機、金融、建設、不動産、ゲームなどが幅広く買われましたが、特に電機の中で電子部品、金融、不動産などで前日比プラスの銘柄が出てきました。日経平均株価も主力銘柄もチャートを見ると、長い下ひげが付いた陽線が現れ、かつ、重要な移動平均線に接触しているものが多くなっており、当面の株価底入れを示唆しているように思われます。10日は12時半過ぎの段階で19,900円台、前日比プラスとなっており、20,000円回復まであと一歩のところです。

12日に最終合意期限が来るギリシャ=EUの交渉がどうなるか、中国の株式市場の問題からは目が離せませんが、ギリシャは小国で日本には直接の影響はないと考えられること、中国上海市場はもともと個人投資家が大半の投機的な市場であることを考えると、いずれの問題も日本にとっては深刻な問題にはならないのではないかと思われます。

この下落したところは、銘柄を選んで投資を考えてみたいと思います。重要セクターから選んでみると、自動車では富士重工業、マツダなど。自動車セクターでは、一時期よりも円高になってきたので、問題のない銘柄を選びたいと思います。富士重工業は日本とアメリカが主力市場なので、中国市場が変調した場合でも影響はほとんどありません。アメリカではレガシィなど主力車種の好調が続いています。マツダもアメリカが順調で、日本でよく売れています。

9月発売と言われるアップルの「iPhone6s」の好調が観測されている電子部品大手では、村田製作所(チップ積層セラミックコンデンサ、SAWフィルタなど世界シェアトップの製品が多い)、日本電産(触覚デバイスに使う振動モーターでトップ)、アルプス電気(オートフォーカス用と手振れ補正用アクチュエータのトップ)、日本航空電子(コネクタ大手)、TDK(EMI除去フィルタ、リチウムイオンポリマー電池のトップ)、NOK(極薄のフレキシブル回路のトップ)、ソニー(高性能画像センサーのトップ)など。

「iPhone」に関しては、7月8日付けウォールストリートジャーナルが、アップルが年内に8,500~9,000万台の新型「iPhone」の生産を発注したと報じています。前年同期の発注数は7,000~8,000万台なので、平均値を取ると、16.7%増となります。20%以上の増産になる可能性もあると思われます。足元の大手電子部品メーカーの稼働率はどこも高水準なので、予想される「iPhone6s」の好調は電子部品大手の業績に大きく寄与すると思われます。

また、日経平均株価急落とファイナンス発表が重なったために大幅安となった結果、割安感が大きくなったミクシィなどに投資妙味を感じます。

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ2 東証マザーズ指数:日足

グラフ3 東証各指数(2015年7月9日まで)を
2012年11月14日を起点(=100)として指数化

グラフ4 ドル円レート:日足

グラフ5 ユーロ円レート:日足

2.銘柄コメント:ミクシィの資金調達について

7月7日付けで、ミクシィは海外での公募増資、海外での自己株式の売り出し、創業者で取締役会長の笠原氏の持ち株の海外での売り出しを発表しました。

資金調達と売り出しの内容

今回の資金調達と売り出しの内容は以下の通りです。

  • 海外募集による新株式発行

    欧州、アジアを中心とする海外市場で、109万2,500株を募集する。発行価格は7月23日から27日までに決定し、払込期日は7月30日から8月3日までのいずれかの日で、発行価格等決定日の5営業日後の日とする。

  • 海外募集による自己株式の処分

    7月7日現在、当社は自己株式256万6,500株を保有しているが、このうち250万7,500株を欧州、アジアを中心とする海外市場で売り出す。発行価格、払込期日等は上述の海外公募と同一とする。

  • 海外売り出し

    当社創業者で現取締役会長の笠原健治氏の持ち株3,917万8,000株から270万株(引受人が引受ける売り出し株数180万株に対して、追加できる上限が90万株)を、欧州、アジアを中心とした海外市場で売り出す。

  • 調達資金の使途

    海外公募と自己株式売り出しを合わせた360万株、手取り概算額約203億円のうち、約133億円をフンザ(チケットのオンライン買取と販売)、ミューズコー(会員制ファッション通販)の買収に当てた借入金の返済に充当する。残りの約70億円を2017年3月末までにエンターテインメント事業(ゲーム事業)に関わる広告宣伝費に充当する予定。

なお、ミクシィのプレスリリースによれば、今回の資金調達の意義を以下のように強調しています。

「本海外募集による調達資金は、手元資金の水準と既存事業に必要な運転資金を考慮して、前述の株式会社フンザ及びミューズコー株式会社の株式取得費用に係る借入金の返済並びにエンターテインメント事業に関わる広告宣伝費に充当する予定であります。」

「なお、本海外募集と同時に、当社主要株主による本海外売出しの実施についても決議しております。当社は、本海外募集と同時に本海外売出しが実施されることにより、海外株主層の拡大を軸とする株主構成の最適化及び株式流動性の向上が期待できることに加え、一般株主をより重視した株主還元等を含む柔軟な資本政策の実施が可能になると考えています。」(いずれも7月7日付けミクシィプレスリリース2ページ目)

今回の資金調達と売り出しの意義

今回の資金調達と売り出しの意義を、私なりに考えてみたいと思います。

まず、海外公募と自己株式の売り出しによる資金調達計約203億円については、合理性を感じません。2015年3月末の手元資金654億円で充当できる金額です。M&Aの資金を全て公募に頼るならば、際限なく資金調達が必要になります。広告費を資金調達すると言う考え方も、前回の公募はリストラ直後で財務内容が不安定な中で、「モンスターストライク」という成長ドライバーが見つかったため、十分な広告費が欲しいという理由がありました。しかし、本来広告費のような経常的経費は収益の中から支出するものです。十分な収益力があるにもかかわらず、広告費を資金調達でまかなうのであれば、これも際限のない資金調達に繋がるでしょう。もし、今回の公募、売り出しの主目的がM&Aの費用と広告費の調達であれば、「筋」が違う話でしょう。

また、2015年4-6月期に入って業績が急速に鈍化しているか、悪化している場合は、手元資金を大事に使うために、資金調達ニーズが出てくると思われます。ただし、その場合には、同プレスリリースに書いているような「中長期的な持続的な成長」は一旦見直しになるため、プレスリリースの記述そのものに疑問が生じることになります。なお、私の観察では、ミクシィの業績は、2015年4-6月期に多少の鈍化はあるとは思いますが、1-3月期に比べ、4-6月期も売上高と営業利益の伸びは続いていると思われます(表1参照)。従って、特別な損失がない限り手元資金も増加していると思われます。

資金調達前の発行済み株式数(自己株式を除く)8,063万6,500株に対して、公募株数と売り出す自己株式、合わせて360万株を比べると希薄化率は4.5%となります。希薄化率は小さくはありませんが大きくもなく、資金調達としては適正水準の範囲内と思われます。ただし、目的がどこにあるのか、見極める必要があります。

株式流動性の向上が目的か

プレスリリースでは創業者の売り出しの目的を、「海外株主層の拡大を軸とする株主構成の最適化及び株式流動性の向上」としています。全くの私見ですが、これが今回の資金調達と売り出しの主目的と思われます。

四季報によれば、ミクシィの浮動株比率(2015年3月末)は16.0%です。発行済み株式数8,320万株の中で1,331万株が浮動株ということになりますが、7月9日の出来高は402万株、浮動株に対する出来高の比率は30%になります。この比率は、6月以降最低の出来高の時で2~3%でした。ちなみに、ソニーの場合、かなり出来高があった7月9日の1,144万株でも浮動株数1億9,067万株に対する比率は6%です。これも6月以降の最低の出来高では2~3%です。

ミクシィの場合、浮動株が少ないため、大口投資家がある程度の買いポジションを持とうとすると株価が跳ねてしまい、求めるだけのポジションが確保できない可能性があります。あるいは、空売りをしている大口投資家が反対売買しようとするときに、相場によっては思うように株が買い戻せない可能性もあると思われます。

今回の海外公募、自己株式の売り出し、創業者持ち株の売り出しを合わせると、630万株が市場に放出されることになります。浮動株数1,331万株に対する比率は47%となり、株式の流動性はかなり改善されることになると思われます。もし、業績拡大が続くようなら、成長性とPERの低さに着目した大口投資家の保有が、今よりは容易になると思われます。

このように考えると、大口投資家の所要株数を満たすために、創業者の売り出しだけでなく、公募や自己株式の売出しも必要になったと見えなくはないのです。

もちろん、実際に、会社側がM&A費用と広告費の資金調達が必要と考えているとすると、即ち、今回のファイナンスの重点が、私が感じているような株式流動性の向上ではなく、資金調達にあるのであれば、今後も際限のない資金調達が起こる可能性はあります。その結果、ミクシィは利益成長を実現できても、それが株高を通じて株主・投資家の利益に結びつかない万年割安株になってしまう恐れがないわけではありません。ただし、2015年3月末で17.6%の外人持ち株比率が上昇するならば、仮にそのような資金調達を会社側が目論んだときに一定の牽制が期待できると思われます。

株価については、2016年3月期の会社予想営業利益が800億円(前年比51.8%増)、EPS 645.1円、楽天証券予想では営業利益1,050億円(99.3%増)、EPS 846.0円となり、7月9日終値5,620円より、会社予想PERは8.7倍、楽天証券予想PERは6.6倍です。この割安感から、今回の株価下落後は、戻りの相場が期待できると思われます。

また、2015年4-6月期(2016年3月期1Q)決算が良好で、会社側が十分な手持ち資金と収益力があるにも関わらず、M&Aや広告費のファイナンスを繰り返すのでなければ(会社の成長に寄与するであろうM&Aで、手持ち資金から見て新たな資金調達の必要性、合理性がある場合は別です)、成長性と低PERを評価した上昇相場が期待できると思われます。

表1 「モンスターストライク」が課金売上高ランキングで1位になった日数:日本

グラフ6 ミクシィ:日足