1.2015年6月1日の週の相場概況:円安続く、日経平均株価は揉み合い。

6月1日の週の株式市場は、前週5月28日ザラ場で年初来高値20,655.33円をつけた後、20,300~20,600円のレンジで揉み合いました。上値は伸び悩みましたが、下値も限定的でした。

為替レートが6月2日に一時1ドル=125円台に入ったことを受け、自動車(トヨタ自動車、富士重工業、マツダ、デンソーなど)、電機(ソニー、パナソニックなど)、電子部品(村田製作所、日本電産、TDKなど)など円安メリット関連が引き続き上昇しました。円安関連である任天堂も物色され、それにつられてスクウェア・エニックス・ホールディングス、カプコンなどのゲーム株が上昇しました。為替レートは、対ドルだけでなく、対ユーロでも円安になっており、6月4日には一時1ユーロ=141円台に入りました。

輸出・グローバル関連との比較感から建設などの内需関連も買われました。清水建設と大林組が上値を取ってきました。

新興市場でも上値を取る動きがありました。ガンホー・オンライン・エンターテイメントが現在のジャスダックから東証1部へ市場変更を申請すると言う報道から上昇し、同様の申請をいずれ行うと思われるミクシィも上昇しました。これまで上昇してきた日経ジャスダック平均だけでなく、東証マザーズ指数にも動きが出ており、物色対象が大型株から中小型株に広がっている模様です。

ただし、短期的には為替に影響を受け易い相場になっていることは否めないと思われます。6月5日(金)前場は、ドル円レートが1ドル=124円台で揉み合い、ユーロ円レートが1ユーロ=139円台へやや円高になったこと、4日に長期金利が上昇したことなどから、日経平均株価は下落し、20,300円台に入っています。

ただし、足元の円安が続けば、自動車、電機中心に好業績が期待できるセクター、銘柄は多くなっていくと思われます。輸出・グローバル関連の大型株や、ゲームなど好業績の内需関連などに前向きに投資したい相場と思われます。

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ2 東証マザーズ指数:日足

グラフ3 東証各指数(2015年6月4日まで)を
2012年11月14日を起点(=100)として指数化

グラフ4 ドル円レート:日足

グラフ5 ユーロ円レート:日足

2.特集:自動車セクター-トヨタ自動車、富士重工業、マツダ、デンソー-

世界で最重要の産業は「自動車」である

今回の特集は「自動車セクター」です。今の株式市場の主力の一つは自動車だと思われます。自動車は道路と燃料さえあればどこへでも移動できます。先進国から新興国まで、都市から辺境まで使えます。個人でも購入できる最も重要な移動手段です。産業としては世界的な産業で、世界経済にとってなくてはならない産業です。

技術革新でも重要産業です。低燃費車、低公害車の開発だけでなく、自動ブレーキ、自動運転の技術革新が進んでいます。完成車メーカーだけでなく、自動車部品メーカーも巨大化しており、近年では、自動車の電子化に伴って、電機メーカー、半導体メーカーがこの産業へ熱心にアプローチしています。

自動車セクターは、日本の株式市場にとっても重要です。なによりも日本は世界最大の自動車メーカー、トヨタ自動車以下、本田技研工業、日産自動車、富士重工業、マツダ、三菱自動車、スズキ、ダイハツの乗用車メーカー8社、いすゞ自動車、日野自動車、三菱ふそうトラック・バス(未上場)、UDトラックス(未上場)の商用車メーカー4社を抱える、世界最大規模の自動車産業を持つ国です。また、デンソー、アイシン精機など、完成車メーカーを支える重層的な自動車部品産業を持っています。自動車産業こそは日本が世界に誇る産業なのです。

グラフ6 世界の自動車販売台数
(単位:万台、暦年ベース、出所:OICAより楽天証券作成)

安定成長中

自動車の世界市場を見ると、安定成長しています。グラフ6は、OICA(国際自動車工業連合会)による暦年ベースの世界の自動車販売台数(商用車を含む)の動きを見たものです。2014年は8,824万台で、前年比3.0%増でした。小さい成長率のように見えますが、2011年の7,820万台から約1,000万台増えています。3年間でトヨタ自動車1社が生まれた計算になります。2014年と2013年を比較すると、260万台増えていますが、これはマツダ2社分、富士重工業3社分に相当します。毎年世界のどこかで中堅自動車メーカーが2~3社生まれている計算になります。

つまり自動車産業は安定成長とは言え、巨大な成長産業なのです。

また、国別、地域別に販売動向を示したものがグラフ7~9です。グラフ7は2014年までの各国販売台数と今後の予測です。

世界最大の自動車市場は中国ですが、全体の生産能力が販売台数に比べ過剰になっており、値引き販売が増えている模様です。数字上は緩やかに増えていますが、数字ほど実態はよくないようです。

2番目に大きい市場はアメリカです。現在世界で最も収益性の高い市場です。これは、アメリカ景気が順調に拡大していること、低金利で自動車ローン金利が下がっていること、昨年半ばから原油価格下落に伴いガソリン価格が下落していること、株式市場が順調に上昇していることなどによります。特に昨年年初からの特徴として、小型(排気量1.5~2.0ℓ)のセダンよりも、排気量2ℓから5ℓクラスのSUV、ピックアップトラックが好調です。自動車の粗利益率は、価格と排気量にほぼ比例すると言われていますが、価格の高い中大排気量のSUV、ピックアップトラックが売れていることが自動車各社の業績に大きな影響を与えています。

3番目の市場は欧州です。昨年からの大規模金融緩和によって欧州の自動車市場が回復しています。ただし、日系自動車メーカーの多くは欧州でのシェアが低く、マツダなど一部を除いて、この市場の回復から大きな恩恵は受けていません。また、ロシア、東欧などのリスクもあります。

4番目は日本です。日本市場は国別に見ると世界3番目の市場です。日本メーカーにとっては、為替リスクがなく、ハイブリッドカーなどの低燃費車、運転支援システムのような安全技術を世界でもいち早く受け入れる市場です。反面、日本でしか売れない660ccの「軽自動車」規格の存在感が大きい市場です。

市場としては、2014年4月の消費税増税前の駆け込み需要の反動減が続き、また2015年4月からの軽自動車税増税前の駆け込み需要の反動が始まっています。特に軽自動車需要が減退しています。反面、普通車、小型車は、回復の兆しがあります。特にレクサスのようなプレミアムカーの市場が、株高、土地高の資産効果のプラスの影響を受けている可能性があります。

中国を除くアジア市場は日系メーカーの市場シェアが高く、日系にとって重要市場ですが、主力市場であるタイ、インドネシアの低迷が続いています。一方で、インドが回復しており、長期的に大きな市場になる可能性があります。

グラフ7 自動車の世界販売予測
(単位:万台、出所:各種資料より楽天証券作成、予想は楽天証券、
欧州は乗用車のみ、他は商用車を含む)

グラフ8 各国新車販売台数:月次前年比1
(単位:%、出所:アメリカはAUTODATA、
その他は各国自動車工業会より楽天証券作成)

グラフ9 各国新車販売台数:月次前年比2
(単位:%、出所:各国自動車工業会より楽天証券作成)

表1 日本の新車販売台数:前年比(ブランド別)

表2 アメリカの新車販売台数:前年比

業績動向-2015年3月期は順調、2016年3月期は円安で更に上乗せへ-

自動車メーカー各社のうち、グローバルに事業展開している、特にアメリカで事業展開している登録車メーカー5社の営業利益と営業利益率を見たものがグラフ10~12です。前期2015年3月期はトヨタ自動車、日産自動車、富士重工業が順調でした。反面、本田技研工業が減益、マツダが横バイでした。

今期(2016年3月期)は各社とも順調と思われます。会社側の為替レートの前提は、1ドル=115~120円、1ユーロ=125~130円ですので、今の為替レート(6月5日13時現在の1ドル=124円台、1ユーロ=139円台)が続けば、会社予想に対して上乗せが見込まれます。その結果、どの程度の増益率になるかを試算したものが、表3です。トヨタが前期並みの増益率になると思われるほか、日産自動車、富士重工業が30%以上の営業増益になると試算されます。また、対ユーロ円安になることで、マツダが10%以上の増益になると試算されます。

このように、アメリカの販売動向と足元の為替レートを前提すると、自動車各社の今期業績は二桁の増益率になると思われます。

円安は自動車部品大手にもメリットがあります。デンソー、アイシン精機の会社予想業績も上乗せされると試算されます。

グラフ10 自動車の営業利益1
(単位:億円)

グラフ11 自動車の営業利益2
(単位:億円)

グラフ12 自動車各社の営業利益率
(単位:%、出所:各社資料より楽天証券作成

表3 自動車、自動車部品会社の円安メリット(試算)

自動車セクターの重要トピックス

1.アメリカ販売が好調

アメリカ市場が自動車メーカーの業績に大きな影響を与えています。日系では、車種構成に余裕があり、大排気量車のラインナップを揃えているトヨタ自動車、2.0~3.6ℓのスポーティセダンやSUVに重点をおいた富士重工業の売れ行きが好調です。日産自動車も2ℓクラス以上のSUVが好調です(表2)。

反面、主力車種が小型のセダンに偏っている本田技研工業は、アメリカ販売が伸び悩んでいます。トヨタ自動車でも、プリウスやカムリが伸びていません。トヨタ自動車は、今年秋に日本とアメリカで新型プリウスを発売すると言われています。本田技研工業も秋にシビックの新型がアメリカで予定されています。二つの車種ともに、両社の主力車種です。これが実際にどのような売れ行きになるかが注目されます。

2.「安全」が大きなテーマに

日本では富士重工業の運転支援システム「アイサイト」を代表とする、自動ブレーキ、運転支援システムが普及してきました。富士重工業の国内販売における「アイサイト」の搭載比率は90%以上になっています。軽自動車メーカーを含む各社の主力車種にも自動ブレーキが搭載されるケースが増えています。

海外でも自動ブレーキの普及が進んでいます。アメリカでの富士重工業のアイサイトの搭載率は、SUVの「アウトバック」で67%に達しています(2015年3月)。昨年夏までは約20%程度でした。アメリカでは自動ブレーキを含む運転支援システム搭載車の自動車保険料が割安になっていると言われ、これが普及の要因と言われています。

一方、トヨタ自動車の自動ブレーキへの取り組みは遅れていました。世界市場を見ると、欧州系自動車メーカーが自動ブレーキの搭載に熱心で、日系は富士重工業など一部を除き遅れている印象は免れませんでした。

しかし、この動きが変わろうとしています。トヨタ自動車は、今秋に日米で発売すると言われている新型プリウスに、自動ブレーキを含む運転支援システムを標準搭載すると言われています。その後、主力車種に標準搭載されると思われます。運転支援システムの供給はデンソーが行うことになります。これまで、デンソーにとっては、技術的にはボッシュ、コンチネンタルといった世界的自動車部品メーカーに負けない自信があっても、実際の生産量では見劣りがする状況でした。これが、トヨタ自動車が積極姿勢に転換することによって、状況が変わってきます。

なお、「安全」の問題では、タカタのエアバック問題が長引いています。タカタのエアバックについては全量がリコールになる模様ですが(全米で3,400万台分)、この費用負担がどうなるかという問題があります。完成車メーカーでは本田技研工業の負担が最も重くなる可能性があります。

3.トヨタの「TNGA」始動

トヨタ自動車は、2015年秋と言われる新型プリウスに新設計生産思想「TNGA」(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)を適用します。新型プリウスでは一部の部品に適用されるのみですが、2017年夏と言われる北米向け「カムリ」のフルモデルチェンジから本格的に適用される計画です。その後2019年の「ヤリス」「ヴィッツ」に適用される計画です。この流れに沿って、2020年までに全生産台数の約半分を占めるFF(前輪駆動)車種にTNGAを適用していきます(一部FR車種も含まれます)。FF車種への適用が終わると、その後5年以上かけてFR(後輪駆動)車種に適用されると思われます。

トヨタが公表したところによるTNGAの骨子は以下の通りです。

  • 部品共通化の推進で、従来に比べて20%以上の開発リソースを削減する。
  • エンジンや変速機も一新し、燃費は約25%、動力性能は15%以上向上。またハイブリッドシステム(エンジンを含むシステム全体)でも燃費を15%以上向上。
  • 新開発のプラットフォームでは、クラストップレベルの低い重心高を実現するとともに、ボディ剛性を従来比30~65%向上させる。

要するに、自動車で目に見えるところは差別化し、目に見えないところは出来るだけ共通化する思想です。

TNGAが成功すれば、トヨタは開発効率と生産効率の向上という、大きな果実を手に入れることができると思われます。

また、自動車部品メーカーにとっては、部品の集約化による価格低下というデメリットがある反面、集約化による生産コスト削減という果実が期待できます。また、よりコストダウンした部品をトヨタ以外の自動車メーカーに拡販する期待も持てます。

このように、TNGAはトヨタ自動車のみならず、部品メーカーにも大きな影響をもたらすものになると思われます。まずは、今秋発売予定の新型プリウスの成果を見たいと思います。

注目銘柄-トヨタ自動車、富士重工業、マツダ、デンソー-

今回の注目銘柄はこの4銘柄としました。トヨタ自動車は、巨大さが魅力です。この巨体で今の為替レートが続くならば今期営業利益が3兆2,000億円に達すると思われます。前年比17%増となりますが、この伸び率はトヨタとしては十分魅力的なものです。

富士重工業は、これも今の為替レートが続くならば、30%以上の営業増益が期待できます。PERも低く、成長企業としての評価が必要と思われます。

マツダは、他社に比べ増益率は低いですが、超低燃費技術「SKYACTIV」を開発した技術力は評価してよいと思われます。メキシコ工場の稼働率が上がっており、世界展開が進んでいます。

デンソーは、低燃費技術、安全技術の両面から活躍が期待される企業です。欧州のボッシュ、コンチネンタルとともに自動車部品セクターの世界3強の1社です。

表4 注目銘柄の業績
トヨタ自動車

富士重工業

マツダ

デンソー