(1)2014年11月10日の週の相場概況:衆議院19日にも解散か、円安進行し日経平均株価続伸。

11月10日の週の株式市場は、前週に続き続伸しました。10月31日に日銀が大幅金融緩和を決定してから、日経平均は順調に上値を追ってきましたが、今週もその動きが続きました。先週から降って沸いたような解散総選挙の観測と、それに伴う2015年10月に予定された消費税増税(8%→10%)の先送りが材料になりました。特に、13日には安倍内閣の閣僚から消費税先送りを示唆する発言があったことを受け、日経平均は後場から一段高し、終値で17,392.79円となり年初来高値を更新しました。この水準まで上昇したのは2007年7月振りです。

更に、14日は寄り付きで17,500円台に乗せました。前場終値では前日比マイナスになりましたが、基調には強いものがあります。

また、為替も円安が続いています。11月10日の週は10日に一時1ドル=113円台に入りましたが直ぐに戻し、13日からは1ドル=115円台になり、14日は116円前後で推移しています。

このような環境の中で物色対象も広がっています。円安による業績好調を材料に、トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業、マツダなどの自動車株、デンソー、NOKなどの自動車部品株が引き続き買われたほか、村田製作所、TDK、日本電産などの電子部品株が上昇しました。ソニー、パナソニックなどの電機株も堅調に上昇しました。

また大幅金融緩和で期待される地価上昇や金利低下によるメリットから、大手不動産株(三菱地所、三井不動産、住友不動産)、鉄道株(東日本旅客鉄道、東海旅客鉄道、京浜急行電鉄など)が物色されましたが、これには着工間近いリニア中央新幹線とそれに関連した再開発(品川、名古屋)に関するポジティブな見方があると思われます。

消費税増税の先送り観測から、小売株、食品株も買われました。

衆議院解散、総選挙の日程まで新聞記事になっている状況です。来週17日公表の7-9月期GDP速報を見て、消費税増税の先送りを決め(2017年4月に延期する案が有力)、今月19日にも解散し、これに伴う衆院選は12月2日公示、同14日投開票か、12月9日公示、同21日投開票のいずれかと言われています。大々的に報道されていますので、解散総選挙の確度はかなり高いと思われます。

ただし、率直に言って、衆議院を解散する意味が良くわかりません。政治的意味は安倍政権の延命です。ただし、経済的意味はポジティブ、ネガティブ両方あると思われます。消費税増税先送りは、目先の個人消費にとってはポジティブでしょうが、財政不安から日本円の信認低下を招き、より一層の円安を招くリスクがあります。その場合、日本の多くの産業と家計が「円安不況」に陥るリスクがあります。また、消費税増税は、予定に対して1年半延期する案が有力ですが、いずれ増税するのであれば効果が限定的かもしれません。

また、総選挙の結果、自公両党ともに議席を減らす可能性がないわけではありません。それはそれで変化が起こってよいかもしれませんが、選挙の結果は誰にもわかりません。

いずれにせよ、安倍首相が外遊から戻って判断するようですから、結論は来週まで待つしかありません。

株式市場では、特に業績のしっかりしている大型株は、今後も堅調に上昇すると期待されます。これは日銀の大型金融緩和とそれに伴う円安によるものです。これだけの大型金融緩和は、株式、不動産の価格上昇を強く支援することになるでしょう。

業績好調な自動車(トヨタ自動車、富士重工業、マツダなど)、リストラが終了しかけている電機(ソニー、パナソニックなど)、電子部品、自動車部品の優良企業(村田製作所、TDK、日本電産、NOK、ヒロセ電機、デンソーなど)、不動産株(三菱地所、三井不動産、住友不動産)、大手建設株(大成建設、大林組、清水建設)に注目したいと思います。

グラフ1 日経平均株価:週足

(2)大型株優勢の中で、中小型株の勢い鈍る

中小型株の各指標(東証マザーズ指数、日経ジャスダック平均、東証2部総合指数)を見ると、東証マザーズ指数はやや調整色が出てきました。日経ジャスダック平均、東証2部総合指数は、上昇基調は維持しているものの、日経平均株価に比べて上昇ピッチは鈍くなっています。

これは、中小型株で時価総額が相対的に低い直近上場銘柄を集中的に物色する動きが続いている反面、マザーズなどの主力株から、東証1部上場の大型株に物色が移る動きがあることが影響していると思われます。例えばゲーム株です。業績がピークアウトしたガンホー・オンライン・エンターテイメント、業績の伸びが鈍化してきたコロプラ、業績は好調ですがマザーズの主力株なので逆向きの流れに押されているミクシィなどのネイティブアプリゲームの会社から、自動車、電機の大型株に乗り換える動きがあると思われます。また、ゲーム株の中でもネイティブアプリゲーム、ブラウザゲーム(グリー、ディー・エヌ・エーなど)の会社から、伝統的な家庭用ゲームの会社(任天堂、ソニー、スクウェア・エニックス・ホールディングスなど)に乗り換える動きもあると思われます。ただし、ミクシィのように好業績が続いている会社もあるため、株価が下がったところは選別投資する機会でもあるでしょう。

当面は、大型株優位の動きが続くと思われますが、中小型株の業績とPER、チャートを見比べながら銘柄選別することも重要だと思われます。

グラフ2 東証マザーズ指数:週足

グラフ3 日経ジャスダック平均:週足

グラフ4 東証2部総合指数:週足

グラフ5 東証各指数(2014年11月13日まで)を
2012年11月14日を起点(=100)として指数化

(3)決算コメント:ゲーム

ガンホー・オンライン・エンターテイメント(10月29日発表)に続き、ミクシィ(11月7日発表)、コロプラ(11月12日発表)と、ネイティブアプリゲーム大手の決算が出揃いました。

ミクシィは業績好調

ミクシィの2015年3月期2Q(7-9月期)決算は、売上高222億3,600万円(前年比12.1倍)、営業利益96億9,600万円(前年同期は3億1,300万円の赤字)でした。1Qの売上高127億1,800万円、営業利益46億5,400万円に比べ、営業利益が倍以上になりました。「モンスターストライク」のダウンロード(DL)数は6月24日の900万DLから10月5日の1,400万DLまで500万DL増えましたが、デイリーアクティブユーザー数(DAU、非開示)がこれと比例して伸び、課金率(DAUに対する課金率、非開示)、ARPPU(課金者一人当たり平均課金額、非開示)も会社側によれば安定していました。8月から9月にかけて行ったLINEとのコラボレーションと共同広告も上手く行きました。9~10月の「モンハン 大狩猟クエスト」(カプコン)とのコラボレーションも成功でした。

今後に対する考え方も積極的です。コナミと共同開発で「モンスターストライク」の業務用ゲーム機を来春稼働開始する予定です。また、決算説明会において、「モンスト」の派生版で、対戦ゲーム「モンストスタジアム(仮称)」を開発することを表明しました。これも来春までに配信開始したいようです。

このように、主力ゲームの課金売上高が急速に伸びているときに、他社とのコラボレーション、派生版ソフトや業務用ゲーム機の開発を積極的に行うことは、ガンホー・オンライン・エンターテイメントの「パズル&ドラゴンズ」ではなかったことです。様々な方面に導線を張って、新たなユーザーを取り込みたいという会社側の考えでしょう。ちなみに、このようなゲームを盛り上げる手法は、全部同じではありませんが、家庭用ゲームのやり方と似ています。ミクシィの経営陣、開発陣は、「モンスターストライク」を一時のブームに終わらせないように、相当よく考え工夫しているようです。

「モンスターストライク」の海外展開は、10月に北米での配信を開始した後、11月に韓国で配信開始する予定です。中国での配信は会社側は年内に開始したい意向です。いずれも成否は未知数です。

ミクシィの今後の業績を見ると、今期会社予想は、売上高1,000億円、営業利益450億円、経常利益450億円、当期純利益290億円です。EPSは自己株式を除いたベースで360.6円の予想です。

会社予想では下期も伸びが続くことになります。足元でも約25日間で100万ダウンロードのペースで、ダウンロード数が増加しています。それに比例してDAUが増えており、課金率、ARPPUも引き続き安定している模様です。実は今期会社予想には、10月に行った1周年イベントの成果と、11、12月のクリスマスシーズンに計画している各種イベントの成果を織り込んでいません。これらの効果を織り込みと営業利益で50~100億円程度の上乗せがある可能性があります。

グラフ6 主要なネイティブアプリゲームの累計ダウンロード数
(単位:万DL、出所:各社資料より楽天証券作成、コロプラは特定端末の重複ダウンロードを含む。
ガンホー、ミクシィ、LINEは重複ダウンロードを含まないネット表示)

グラフ7 ガンホー・オンライン・エンターテイメントの四半期業績推移
(単位:百万円、%、出所:会社資料より楽天証券作成)

グラフ8 ミクシィの四半期業績推移
(単位:百万円、%、出所:会社資料より楽天証券作成)

グラフ9 コロプラの四半期業績推移
(単位:百万円、%、出所:会社資料より楽天証券作成)

表1 「モンスターストライク」が課金売上高ランキングで1位になった日数

コロプラは2014年9月期4Qに利益が伸び悩む

コロプラも2014年9月期決算を発表しました。通期では売上高535億7,500万円(前年比219.5%増)、営業利益236億300万円(同310.9%増)の大幅増収増益でした。一方、4Qは売上高158億4,300万円(前年比143.4%増)、営業利益66億3,900万円(同183.1%増)となり、前年比では大幅増加でしたが、3Qの売上高142億9,700万円、営業利益67億5,000万円と比べると、売上高は増加しましたが、営業利益は減少しました。主な要因は広告宣伝費の増加ですが、粗利益率も4Qは3Qに比べて低下しています。7月に配信開始した「白猫プロジェクト」が大成功しましたが、従来からの稼ぎ頭であった「黒猫のウィズ」のユーザーの一部が「白猫」に移ってしまった模様です。「白猫」のヒットで売上高は増えましたが、「黒猫」の鈍化で粗利益率が低下したと思われます。

コロプラの今期(2015年9月期)会社予想は、売上高700億円(前年比30.7%増)、営業利益300億円(27.1%増)、経常利益300億円(27.4%増)、当期純利益175億円(34.4%増)、EPS 141.6円です。今期は広告費等の経費がかかります。開発中の新作は9作です。現在配信中のタイトルと新作で、経費が増えることが予想されます。

ゲーム株のどれを選ぶか

ガンホー・オンライン・エンターテイメントの「パズル&ドラゴンズ」は下降局面に入った模様です。エンタテインメントの世界では、一旦下降局面に入ったコンテンツ(ゲームソフト)が再び立ち直るのは、できないことではありませんが時間がかかります。当面はどのあたりが底になるのか、あるいは減少し続けるのか、ユーザーが「モンスターストライク」など他社ゲームに移るのか、事態の推移を見守る必要があるでしょう。

ミクシィは上述したように急成長が続いています。来期も今のペースでダウンロード数とDAUが伸び続けると、営業利益800億円以上が可能と思われます。来期に入ってダウンロード数の伸びが止まったとしても、イベントや派生版の効果で営業利益600億円前後は可能と思われます。即ち、幅はありますが、来期営業利益は600~800億円が可能と思われます。「モンスト」一極集中を批判されますが、一極集中のリスクをかけている成果は既に出ているのです。

また、「モンスト」の現在のダウンロード数は1,500万DLを達成したところです(10月27日達成、全世界ベースだが主力は日本)。「パズドラ」が1,500万DLを達成したのは2013年6月ですが、2013年4-6月期のガンホー・オンライン・エンターテイメントの業績は、売上高437億1,700万円、営業利益265億3,800万円であり、ここで業績は1回目のピークを着けました。その後の業績は少し調整して、2014年1-3月期の売上高499億900万円、営業利益287億8,900万円が2回目のピークになりました(2014年3月の累計ダウンロード数は2,600万DL)。

累計ダウンロード数1,500万件の時のガンホー・オンライン・エンターテイメントの業績(2013年4-6月期)は、今のミクシィの業績に比べ売上高は約2倍、営業利益は約3倍でした。これは「モンスターストライク」の収益力が低いというよりも、「パズドラ」ブームの凄まじさを表しているといったほうがよいと思われます。逆に「モンスト」は過熱感がなく、順調に成長していると判断してよいと思われます。

また、上述のように、ミクシィは「モンスト」と他社ゲームとのコラボレーションなど、「モンスト」を長続きさせるための施策を連続して打ち出しています。あまりにもブームが加熱してしまった「パズドラ」はそれが出来なかったと思われます。その意味で、ミクシィは、パズドラや家庭用ゲームの経験に学びつつ、中長期的な成長の道を模索しているように思えます。

3社のPERを比較します。ガンホー・オンライン・エンターテイメントの2014年12月期業績は、大雑把に予想すると、売上高1700億円、営業利益900~950億円、経常利益900~950億円、当期純利益620~650億円、EPS 54.0~56.6円となり、11月13日終値450円からPERは8.0~8.3倍となります。PER水準は低いですが、投資するには四半期業績が上向きになるのを待ちたいところです。

ミクシィは上述の会社予想業績から、EPS予想360.6円、11月13日終値5,730円で、PERは15.9倍です。

コロプラは、会社側の2015年9月期EPS予想141.6円、11月13日終値3,160円からPER22.3倍となります。

成長率から見ると、ミクシィが割安に思えます。ガンホー・オンライン・エンターテイメントは業績が下向きになっており、コロプラは業績の伸び鈍化が見られるため、今投資する理由が見出せません。一方で、ミクシィは業績の高成長が続いており、この株価調整は投資する機会ではないかと思われます。

また、前回、前々回の本稿でも報告したように、ゲーム株を見る場合は、家庭用ゲーム大手の任天堂とソニーに注目したいと思います。いずれも、7-9月期業績が好調でした。任天堂は3DS用「大乱闘スマッシュブラザーズ」のヒットで久々に黒字転換しました。営業段階で円安メリットがあり、手元に持っている外貨建て現預金(9月末で20億8,300万ドル、6億3,400万ユーロ)の円安メリットもあります。ソニーゲーム部門の営業利益は、PS4の貢献で日本のゲーム業界のトップでした。ゲーム機を中国で生産して輸入しているため、円安は直接にはネガティブになりますが、グローバルに展開しているゲーム会社は世界でもごく少数なので、この価値を評価したいと思います。ネイティブアプリゲームだけでなく、家庭用ゲームにも目を向けたいと思います。

表2 主要ゲーム会社またはゲーム部門を持つ会社の2014年7-9月期の損益