(1)2014年9月8日の週の相場概況:円安進行で日経平均は続伸。

9月8日の週の株式市場は、先行き日米金利差が拡大するという観測から、ドルが円に対して高くなりました(ドル高円安)。前週末に1ドル=105円台だったドル円レートは、8日に1ドル=106円台に入り、11日には一時107円台に入り、12日も午前中は107円台になっています。

これを受けて株式市場では、自動車、電機中心に輸出・グローバル関連企業が買われました。特に9月11日は、日経平均株価が前日比120.42円高の15,909.20円となり、16,000円台回復まであと一歩のところまで来ました。自動車、電機ともに、今期(2015年3月期)の為替前提が1ドル=100~101円の企業が大半であるため、1ドル=106~107円台が続けば、ある程度の利益上乗せが期待できるという見方があると思われます。また、先週お伝えしたように、アメリカでの自動車販売が順調で、富士重工業やマツダなどの販売が好調だということも、輸出株の動きを後押ししたと思われます。

電機株では、ソニーがクラウドテレビでアメリカのCATV大手バイアコムと提携すると報じられ発表し、ソニー株も上昇しました。アメリカ景気が良いので、新しい分野で様々な動きが出ています。

このほか、9月19日にアップルの「iPhone6/6プラス」が、来年「アップルウォッチ」が発売されることが決まったため、村田製作所、ジャパンディスプレイなどの電子部品メーカーも動意付きました。

日経平均株価のチャートを見ると、上値を志向しているように見えます。為替の動きには注意が必要ですが、一段高の地合いが整いつつあるように思われます。

グラフ1 日経平均株価:日足

(2)中小型株は持ち直す。9月11日にミクシィがストップ高。

中小型株を見ると、東証マザーズ指数が8月26日ザラ場高値993.48ポイントから、9月10日ザラ場安値926.70ポイントまで6.7%小幅下落しました。これを追って日経ジャスダック平均、東証2部総合指数も小幅下落しました。

特に、主力株の一つであるミクシィは、8月27日のザラ場高値6,380円から9月10日のザラ場安値4,525円までほぼ一直線で下げました。下落率は29.1%に達しており、この下落の途中で信用買い残の整理も行われたと思われます。

しかし、9月11日の日経平均株価の上昇により、中小型株にも割安感が台頭した模様です。特にミクシィは、11日終値で700円上がりストップ高となり、5,000円台を回復しました(11日終値5,300円)。11日朝からアップストアのセールスランキング(課金売上高ランキング)で1位になったことも材料になったと思われます。8月29~31日に1位になって以来の1位ですが、1位滞留の時間が長くなっているため、今回はどこまでいけるか注目されます。ちなみに、12日午前中も「モンスト」が1位です。

他の中小型株も、コロプラ、ガンホー・オンライン・エンターテイメントなどのゲーム株、日本通信、ワイヤレスゲートなどの格安スマホ関連、フリークアウト、VOYAGEGROUPなどのネット広告関連、アドウェイズ、メディアドゥなどのLINE関連、CYBERDYNE、菊池製作所などのロボット関連など広い範囲で買われました。

チャートを見ると、東証マザーズ指数は上下変動の多い動きですが、日経ジャスダック平均、東証2部総合指数は、日経平均株価以上に上値を志向する形になっています。今回の調整は小幅で終了する可能性もあります。

中小型株、大型株にかかわらず、投資する銘柄を探したいと思います。

グラフ2 東証マザーズ指数:日足

グラフ3 日経ジャスダック平均:日足

グラフ4 東証2部総合指数:日足

グラフ5 東証各指数(2014年9月11日まで)を
2012年11月14日を起点(=100)として指数化

(3)特集:自動車セクター

今回の特集は自動車セクターです。

アメリカ市場が順調に伸びる

自動車市場の最近の動きを示したのがグラフ6、7です。日本は消費税導入後の反動が少し長引きそうな状況です。消費税導入前の駆け込み時期に見られたような高価格帯の車の販売増加が一服して、価格帯が下がってきたという指摘もあります。メーカーにもよると思われますが、今後の動きを見極めなければならない状況です。

一方で、アメリカ、欧州、中国の各市場が順調に伸びています。特にアメリカは、金融緩和と好景気の恩恵で、自動車メーカーにとって採算が良いSUVやピックアップトラックが良く売れる市場になっています。これに最近のドル高円安が持続すれば、前期に続いて今期もアメリカ市場が日本の自動車各社の業績の牽引役となると思われます。

中国も堅調で、日系メーカーの販売台数も回復していますが、市場シェアが低いこと、参入するのに現地資本との合弁会社設立が要求されるため、稼いでも取り分は半分になってしまいます。将来性のある市場ではありますが、先行している日産自動車を除けば、本格的な収益市場になるには時間がかかると思われます。

欧州は、景気動向を反映して自動車販売も回復してきたようです。日本メーカーのシェアは低いですが、トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、マツダなどが、小型車、ディーゼル車、プレミアムカーなどでシェア拡大を図っています。人口約4億人の大きな市場なので、日系メーカーの今後の展開が期待されます。

アメリカ、欧州、中国はポジティブですが、アジア市場は問題が多いです。特にタイ市場は政治不安が続いているため、大幅なマイナスが続いています。インドネシアは6月まで堅調でしたが、7月に二桁マイナスになりました。今後が注目されます。インド市場が回復していることが救いです(8月のインドの新車販売台数が前年比8.7%増、7月は2%増)。インドでは本田技研工業が3位に順位を上げました。小型セダン「シティ」やミニバン「モビリオ」が評価されました。

もっとも、アジア市場は短期的には問題がありますが、中長期では経済成長に伴い所得増加が見込まれるため、有望な市場です。

グラフ6 各国の新車販売台数
(単位:台、月次、出所:AUTODATA、日本自動車販売協会連合会、欧州自動車工業会、マークラインズ自動車産業ポータルより楽天証券作成)

グラフ7 各国の新車販売台数:前年比
(単位:%、月次、出所:AUTODATA、日本自動車販売協会連合会、欧州自動車工業会、マークラインズ自動車産業ポータルより楽天証券作成)

グラフ8 アメリカの新車販売台数:前年比
(単位:%、月次、出所:AUTODATA、ライトトラックはSUV、ピックアップトラックなど)

来年からトヨタ自動車が新しい新車サイクルに入る

自動車セクターでは新車サイクルと、それに伴う技術進歩が需要です。来年2015年春から秋冬にかけて、トヨタ自動車がプリウスの新型を発売すると思われます(現在の3代目プリウスは2009年5月発売)。焦点は日本とアメリカになると思われます。今回は、本田技研工業の新型「フィットハイブリッド」が現行「プリウス」と「アクア」に匹敵する燃費性能を出しているため、「フィットハイブリッド」を抜く燃費性能が求められます。ハイブリッドカーやノーマルエンジンの超低燃費車などのエコカーの燃費基準を塗り替えるぐらいの燃費改善があるのかどうかが注目されます。

次いで、2016~2017年に「アクア」(1代目は2010年12月発売)、2017年頃に北米で「カムリ」(現行の北米版カムリは2011年10月発売)のフルモデルチェンジが予想されます。その後も「レクサス」を含め主力車種のフルモデルチェンジが予想されます。「プリウス」「アクア」は日本と北米で、「カムリ」は北米で、各々旗艦車種です。

燃費・環境性能と並んで重要なのが、「安全」です。自動運転ないし自動危険回避装置の仕組みを新型「プリウス」とそれに続くフルモデルチェンジの車種に導入するのかしないのかが一つの焦点になると思われます。日本の軽乗用車の市場では、燃費性能とともに自動危険回避装置の装着有無が売れ行きを左右する要因になっています。また、自動運転技術自体は、実用段階に入りつつあり、今後は様々な法的制度的社会的問題をクリアする段階に入ると思われます。このように、次の新車サイクルはトヨタ自動車にとって重要なサイクルになると思われます。なおこれに関して、9月に米国トヨタ自動車販売の上級幹部が記者団に対して、2017年までに「衝突回避ブレーキ」をトヨタ自動車がアメリカで販売するほぼ全車種に搭載する方針を表明しています。

トヨタ自動車にとって重要な問題は、他の日系メーカーにとっても重要な問題です。

例えば、富士重工業は2014年6月に日本で「レヴォーグ」を発売した後、7月に北米で旗艦車種「レガシィ」のフルモデルチェンジを行いました。「レヴォーグ」「レガシィ」は2015~2016年の業績にフル寄与すると思われます。

その後も、2016~2018年頃に「インプレッサ」「XV」「フォレスター」などのフルモデルチェンジが予想されます。また富士重工業にとっては、日本では装着率が100%近くになっている自動危険回避装置「アイサイト」(現行はバージョン3)が北米で受け入れられるかどうかということも重要です。

マツダは、新型「デミオ」を9月26日から順次発売します。ガソリン車は9月26日から、ディーゼル車は10月23日からです。新型デミオの「売り」は1,500ccディーゼルエンジン搭載車です。燃費性能は30km/ℓ(JC08燃費)と、旧型デミオ1,300ccガソリン車の25km/ℓを上回る燃費性能を出しています。

また、新設のメキシコ工場が順次フル生産に移行しつつあります。

このほかでは、本田技研工業が2016年春に予想される北米版「シビック」のフルモデルチェンジに成功するかどうかが注目されます。「シビック」はホンダの主力車種の一つですが、2011年4月の現行シビックは競合車種に対して優位に立てず、現在は前年割れになっています。同じく主力車種である「アコード」の伸びで補っていますが、「シビック」の不振が北米でホンダが伸び悩んでいる要因になっています。2016年に予想されるフルモデルチェンジでこの状況をどう変えるのかが、本田技研工業の評価に影響すると思われます。

このように、次の新車サイクルは、販売台数や、環境、安全、両方の技術を通じて日本の自動車メーカーの業績に大きく影響すると思われます。

更に重要なのが為替の動きです。足元のアメリカ景気の拡大が今後も続いて、日米金利差の拡大期待が続くか、実際にアメリカの利上げという状況が起これば、為替レートのドル高円安が持続する可能性があります。特に、トヨタ自動車、富士重工業、マツダの3社は、アメリカでの伸び、円安メリットの大きさ、事業に対する積極姿勢が注目されるため、販売台数、技術、為替の3方面から次の新車サイクルでの業績動向が注目されます。表2は足元のドル高円安が今期業績にどう影響するかを単純に試算したものですが、これらの3要因がうまく噛み合えば、富士重工業、マツダで年率15~20%以上の営業増益率、トヨタ自動車が5~10%程度の営業増益が続く可能性があります。このような観点から考えると、自動車セクターは中長期投資の対象になりうると思われます。

表1 アメリカの新車販売台数:前年比

表2 自動車各社の円安メリット(試算)