(1)2014年8月11日の週の相場概況:お盆休みだが、日経平均株価、新興市場ともに立ち直る兆し

8月11日の週の株式市場は、前週末の下落から一旦回復する展開となりました。

日経平均株価は、前週末の8月8日に、国際情勢の不透明感や円高傾向によって前日比454円安となり、15,000円台を割り込みました。一方、今週8月11日の週に入ると、8月8日に発表されたミクシィの好決算を評価して、同株が11、12日とストップ高し、この動きがガンホー・オンライン・エンターテイメント、コロプラなどの他のゲーム株へ波及しました。更にゲーム株だけでなく、自動車、電機、建設など他のセクターの評価をも上げることになったようです。その結果、日経平均株価も持ち直す形になりました。

ミクシィ株は27日に寄り付きましたが、その後急騰後の調整に入りました。他のゲーム株も下げました。しかし一方で、新興市場ではバイオなど、東証1部では、自動車(トヨタ自動車、富士重工業、マツダなど)、電機(ソニー、パナソニック、村田製作所、日本電産など)、建設(大成建設、大林組、清水建設、鹿島建設、熊谷組、西松建設、ショーボンドホールディングスなど)や建機レンタル会社(カナモト、西尾レントオール)が物色されました。

今週の動きを見る限り、新興市場と東証1部の間でうまく循環物色が成立しているようです。1Q決算の内容は今後の良い動きを予想させるものでしたので、週明けの株価の動きに注目したいと思います。

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ2 東証マザーズ指数:日足

グラフ3 日経ジャスダック平均:日足

グラフ4 東証各指数(2014年8月14日まで)を2012年11月14日を起点(=100)として指数化

(2)特集:ミクシィの決算は株式市場に何を語るか

1)2015年3月期1Q決算で見えてきたこと:今期の業績変化率は大型株よりも中小型株か

2015年3月期1Q決算が終了しました。結果を見ると、会社側の想定、株式市場の見方、業績の絶対水準のいずれから見ても、概ね良好な決算だったと思われます。

ただし、変化率は、1Qも通期見通しでも、セクターによって大きく異なります。自動車は、トヨタ自動車筆頭に、消費税導入後の反動が思ったほど大きくなく、7月には国内販売が前年を上回っています(トヨタ自動車)。ただし、通期を見ると、トヨタ自動車は横ばい、マツダのように増益率が高い会社でも10%台です。今後上方修正も考えられますが、前期の様な円安メリットが当面期待できない現状では、増益率には限りがあると思われます。

グローバル企業の業績変化率はどうしても為替に左右されるところが出てきますが、一方で、内需系セクターは、建設、インターネット、サービスなどのセクターで、好調な内需の恩恵を受ける企業が数多く出ています。

建設の1Qは、大成建設が主に開発事業の利益減少によって減益となりましたが、大林組、清水建設、鹿島建設、熊谷組、西松建設などの大手、準大手建設会社が増益となりました。通期見通しは多くの建設会社が修正しませんでしたが、東京での大型不動産開発とオリンピック関連の工事、今期中に始まるといわれているリニア中央新幹線の建設、全国で頻繁に起こっている異常気象に対する災害対策、東北の復興など、建設工事は沢山あります。建設会社の好業績は今後も続く可能性があります。

また、建機レンタル大手の西尾レントオール(2014年9月期3Q)が好業績を発表しました。同社は1-3Q累計で52.9%営業増益となりました。会社予想では通期は28.2%営業増益の見通しですが、上方修正の可能性がありそうです。西尾レントオール、カナモトのような建機レンタル大手は、建設工事の活況度合いを測る良いバロメーターでしょう。

そして、以下で述べる、ゲーム、インターネット広告のような情報通信、サービスセクターです。会社によって業績は様々ですが、日本経済全体がかつての冷温停止状態から、少しずつ体温が上がってきたようで、好業績の中小型企業が多くなってきたように思われます。国内景気が回復し、国際情勢や海外経済に不透明感がある状況では、グローバル展開している大型株よりも、内需中心の中小型株のほうが業績変化率が大きくなると思われます。

こうして見ると、大型株と中小型株、グローバルと内需の循環物色がうまく成立している中でも、今後の業績と株価の変化率は、中小型株のほうが高くなる可能性があると思われます。

2)新しいインターネット、古いインターネット

インターネットの世界で重要な動きが出てきました。インターネットの世界が、「古いインターネット」と「新しいインターネット」に分かれてきたのです。この傾向は、特にゲームとインターネット広告で見られるようになりました。時間とともにインターネットの他の分野でも「古いインターネット」「新しいインターネット」の分れ道が見えてくるようになるかもしれません。

ゲームの世代交代

ゲーム市場での新旧交代は明らかです。(インターネットではありませんが)家庭用ゲーム(任天堂やソニー向け)、フィーチャーフォンのブラウザゲーム(グリー、ディー・エヌ・エー向け)から、スマートフォンを使うネイティブアプリゲーム(アップストア、グーグルプレイ向け)へ需要が急速にシフトしています。ネイティブアプリゲームは作り方が家庭用ゲーム(パッケージゲーム)やブラウザゲームと違うため、開発要員も同じではない場合が多いです。従って、家庭用ゲームやブラウザゲームから、ネイティブアプリゲームへいきなり人員をシフトしても、ヒット作が生まれるとは限りません。

全く反対に、ネイティブアプリゲームで大成功しているガンホー・オンライン・エンターテイメント、ミクシィ、コロプラの3社を見ると、配信しているソフトは、多くの家庭用ゲーム会社や、グリー、ディー・エヌ・エーに比べてはるかに少数で、開発要員も少ないですが、大きな収益と高い利益率を挙げています。古いタイプのゲーム会社は、家庭用ゲームも、ブラウザゲームも、開発要員の数を会社の力の指標としている場合が多いようですが、新しいインターネットの世界では、単なる人数は問題ではありません。重要なのは「才能」をいかに組織化するかということであり、頭数を増やすことではないということを、この3社の実績は教えてくれています。

また、この3社はネイティブアプリゲームに集中しています。多くのゲーム会社は、家庭用ゲーム、ブラウザゲーム、ネイティブアプリゲームに力を分散しているため、これからの主力になるネイティブアプリゲームに集中できていないようです。その結果、ネイティブアプリゲームの実績が不十分な中で、家庭用とブラウザゲームが減少していくという、厳しい過程に入っている会社が少なからず出ていると思われます。

表1は、2014年4-6月期あるいは直近四半期のゲーム会社の売上高、営業利益、営業利益率を並べたものですが、少なからぬ企業が減益になっていることに注意したいと思います。売り上げ規模が小さい会社やブラウザゲームを手掛けている会社が営業減益になっています。また、利益率が低い会社も多くなっています。

一方で、ネイティブアプリゲーム専業は利益率が群を抜いて高いだけでなく、家庭用ゲームに比べて季節性がほとんどありません。年中万遍なく稼げるため、これも経営効率の高さに繋がっています。

インターネット広告でも世代交代が始まっている

同様の傾向が、まだ小規模の変化ですが、インターネット広告でも起こっています。7月11日付け特集「アドテクノロジー関連」で述べた、リアルタイムビッディング(RTB)によるインターネット広告が、少しずつですが拡大しているのです。逆に、ヤフーの広告枠の単純再販は減少トレンドに入りました。

この中で、ヤフーの大手広告代理店のオプトは、子会社でRTBシステムの大手であるフリークアウトのシステムのOEM販売を手掛けています。また、投資事業を拡大していますが、その対象はまさに新しいインターネットの分野です。DAC(デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム)もRTB関連の会社を何社も傘下に入れています。サイバーエージェントもRTB大手のマイクロアドを傘下に置いています。このほかでは、RTBに広告を出したいという企業を取りまとめるSSP(サプライサイドプラットフォーム)として、VOYAGEGROUPが大手になっています。

ただし、インターネット広告の老舗組は、古い分野が減っていくことを止めることはできません。そのため、新しい分野が伸びていくときに古い分野の減少で成長が減殺されてしまうのです。しかも問題は、古いインターネットが人を大勢使うのに対して、新しいインターネットは人をそれほど多く使わないということです。これはゲームもインターネット広告も同様です。従って、例えば、約3,100人の人員を抱えて、ゲームとインターネット広告の両方を手掛けているサイバーエージェントは余剰人員対策という深刻な問題に直面し始めていると思われます。同社は既にゲームプラットフォーム「アメーバ」のリストラに着手しました。この問題は、他の伝統的なインターネット広告、ゲーム会社も同じと思われます。

結論は、このような「新しいインターネット」が勃興している時代は、新しい成長企業に投資するのが最も効率的であるということです。ゲームならミクシィ、コロプラなど、インターネット広告なら、フリークアウト、VOYAGEGROUPなどでしょう。

表1 主要ゲーム会社またはゲーム部門を持つ会社の2014年4-6月期または直近四半期の損益

3)ミクシィ決算の衝撃度

8月8日にミクシィの決算が出ました。6月20日付けの投資WEEKLY「特集:ガンホーを追いかけるミクシィ」の中で、私は4-6月期のミクシィの営業利益を大雑把に30~60億円の範囲と試算しました。結果は46億5,400万円でした。また、会社側は現時点では算定不能として通期見通しを取り下げましたが、上期営業利益は130億円と予想しました。これに対して、私は2015年3月期通期営業利益を340億円と予想しています。詳細は、8月11日付けアナリストレポート「ミクシィ」をお読みいただきたいと思います。

グラフ5、6,7は、ガンホー・オンライン・エンターテイメント、ミクシィ、コロプラの四半期業績を見たものです。特にグラフ5、6は各々パズル&ドラゴンズ(ガンホー・オンライン・エンターテイメント)、モンスターストライク(ミクシィ)が配信開始された期からグラフを描いています。ミクシィの成長がガンホー・オンライン・エンターテイメントよりも1四半期早いことがわかります。

これを見ると、ミクシィがガンホー・オンライン・エンターテイメントに並ぶこと、あるいはそれを追い越すことは決して不可能なことではないと思われます。

またミクシィは、LINEとの間で、「モンスターストライク」と「LINE POP」のキャラクターを相互に各々のゲーム内で登場させること(8月12日~9月24日)、「モンスターストライク」の広告に「LINE POP」のキャラクターを登場させること(8月13日~9月24日)を始めました。加えて、8月13日~9月24日までLINE、FACEBOOKのユーザー対象にモンストのお友達紹介キャンペーンを行っています。

これらの施策の効果は直ちに現れています。アップストアの無料ダウンロードランキングのゲームカテゴリーでは、8月14日からに「モンスターストライク」が1位になりました(それまでは5~10位以下でした)。6月から7月にかけて多少ダウンロードの増加ペースが鈍っていましたが、8月12日には累計ダウンロード数が1,100万人を突破しました(8月15日付けプレスリリース、海外を含む)。ちなみに6月以降の累計ダウンロード数の推移を見ると、6月4日800万人、6月24日900万人、7月19日1,000万人、そして、8月12日1,100万人です。今後、LINEとのコラボレーションの成果が累計ダウンロード数にどう表れるかが注目されます。

このように、ミクシィは大手ゲーム会社の一角を占めるようになりました。ミクシィの決算の重要性は、単に今後予想される利益の大きさだけではありません。「モンスターストライク」はミクシィの内部でゲーム事業を手掛けていた人たちが発案して、ゲームとしての肉付けを元カプコン専務である岡本吉起氏が外部から加わって製作したものです。岡本氏はカプコンで数々の家庭用ゲーム開発を手掛けてきた人物です。

このような大手ゲーム会社で実績を上げた才能が外部にスピンアウトした例はいくつもあります。もしそういう才能が、ミクシィのような新しい土壌で新しい才能と出会うことで化学反応を起こしたら、第2第3のミクシィが生まれるかもしれません。その時には、ゲーム業界全体が今以上の猛烈な新陳代謝にさらされることになると思われますが、その時に最も困るのは古い勢力と力の弱い会社でしょう。

そういう意味でミクシィの成功は、今後のゲーム株投資、インターネット株投資の方向性、即ち新しい成長企業に投資したほうが効率が良いという方向性を示すものだと思われます。

グラフ5 ガンホー・オンライン・エンターテイメントの四半期業績推移

グラフ6 ミクシィの四半期業績推移

グラフ7 コロプラの四半期業績推移

グラフ8 ネイティブアプリゲーム大手の主力ゲーム累計ダウンロード数

表2 ネイティブアプリゲーム大手3社の業績と株価指標