(1)2014年7月28日の週の相場概況

日経平均株価、新興市場ともに上放たれる

今週は決算発表が集中するため、図表の一部を割愛しております。ご了解ください。

7月28日の週は重要な週となりました。7月25日に決算への期待などから日経平均は前日比173.45円高と上昇しましたが、これがチャート上で上放たれるきっかけとなりました。そこから今週にかけて、日経平均はザラ場で15,700円台まで上昇しました。為替の円安基調も支援しました。7月31日木曜日は軟化しましたが、これは急上昇した反動でしょう。

セクター別には、決算発表が接近しているトヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車、富士重工業、マツダなどの自動車セクターや、ソニー、パナソニックなど民生用電機セクターなどが上昇しました。リニア関連の発注が接近しているという見方から、大成建設、大林組、清水建設などの大手建設株も上昇しました。

また、31日にコロプラが30日に出た1Q決算を好感して、700円高のストップ高まで買われました。

新興市場でも重要な動きがありました。日経ジャスダック平均が7月24日木曜日に節目である2,200ポイントを抜き、そのまま上値を追っていきました。東証マザーズ市場も、上値追いの展開となりました。目先、将来、各々の見通しの中で、業績への期待が強い銘柄が買われました。

銘柄では、コロプラと同じく決算への期待からミクシィが大幅高し、CYBERDYNEも同様に値を飛ばしました。ただし、銘柄によって株価の動きには違いが出ており、週初に大幅高したフリークアウト、VOYAGEGROUPなどのアドテクノロジー関連は、週後半に下落するといった具合でした。新興企業は株式市場での評価、決算の評価が定まっていない場合も多く、好相場、好地合いの中でも、個々の銘柄の株価は東証1部銘柄よりも揺れ動くことに注意する必要があります。

後述するように、東証1部、新興市場ともに、決算は良いもの、印象的なものが多くなっています。特に、当面の新興市場はこのまま上値を追う可能性があります。銘柄を選びつつ前向きに対処したいと思います。

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ2 東証マザーズ指数:日足

グラフ3 日経ジャスダック平均:日足

グラフ4 東証各指数(2014年7月31日まで)を
2012年11月14日を起点(=100)として指数化

(2)特集:2015年3月期1Q決算コメント(コロプラ、ガンホー、ソニー、パナソニックなど)

ゲーム

ガンホー・オンライン・エンターテイメントが2014年12月期2Q(4-6月期)決算を発表しました。売上高444億2,400万円(前年比1.6%増)、営業利益249億8,200万円(5.9%減)と前年同期の水準が高いため小幅ながら減益となりました。2014年1-3月期の売上高499億900万円、営業利益287億8,900万円からも減収減益となりました。

高水準の利益が出ていることは評価出来ます。このまま推移すれば、2014年12月期営業利益は1,000万~1,100億円になる可能性があります。ただし、四半期ベースで見ると、伸びが止まっています。会社側は7月29日に現行の「パズル&ドラゴンズ」を活性化させるべく、よりやさしいバージョンである「パズドラW」の配信を開始しました。これによって、ダウンロードランキングも上がり、29日以降3位に後退していたアップストアにおける課金売上高ランキングも1位に戻りました。しかし、2位の「モンスターストライク」、3位の「LINE:ディズニー ツムツム」の追い上げも激しく、顧客の争奪戦が激しくなっている可能性もあります。

ガンホー・オンライン・エンターテイメントのPERは、2014年12月期の予想営業利益1,000億円、当期純利益600億円として、7月31日終値ベースの時価総額が6,750億円なので、11倍と他のゲーム株に比べて割安ですが、決算自体は買いを誘うようなものではなかったように思われます。当面は、「パズドラW」の活性化効果に注目したいと思います。

グラフ5 ガンホー・オンライン・エンターテイメントの四半期業績推移
(単位:百万円、出所:会社資料)

一方で、コロプラも2014年9月期3Q決算(4-6月期)を発表しました。勢いのある決算でした。売上高142億9,700万円(前年比3.0倍)、営業利益67億5,000万円(3.8倍)でした。1-3月期の売上高123億6,000万円、営業利益53億2,600万円と比べても好調でした。主力ゲームの「黒猫のウィズ」「蒼の三国志」の課金売上高が好調でした。

先行きを見ても、7月に配信開始した「白猫プロジェクト」が好調で、表2のように、グーグルプレイの課金売上高ランキングで10位以内に入っています。完成度の高いRPGで、ユーザーからも業界からも高い評価を受けています。

決算以上に注目されるのは会社側の姿勢です。決算説明会において、馬場社長は率直に来期の目標として1位になりたいと表明しました。要するに、アップストア、グーグルプレイの課金売上高ランキングで、「パズドラ」「モンスト」の地位を奪いたいということです。コロプラは新作重視のマーケティング戦略を採っているため、同じソフトを長く育てているガンホー・オンライン・エンターテイメント、ミクシィ、LINEに比べ、従前のやり方で1位になるのは難しい面があります。そのため、1位になるには、やり方を変える必要があるのかもしれません。どのようなソフトで、どのようなやり方で1位を獲得するのか注目したいと思います。

グラフ6 コロプラの四半期業績推移
(単位:百万円、出所:会社資料)

7月31日のゲーム株は、決算と「1位を目指す」発言を受けて、コロプラがストップ高し、ミクシィも改めて1位ないし2位の地位にあることが評価され大幅高し、一時6,020円まで買われました。「パズドラ」の1位の地位を「モンスト」がおびやかしつつあるということが、どういうことなのかということを、ようやく株式市場が理解し始めたということでしょう。つまり、ガンホー・オンライン・エンターテイメントの営業利益1,000億円をミクシィが目指すことになるということ、ミクシィだけでなく、1位を目指し、それを長く維持したいと考える会社が、具体的にどの水準の利益を目指すことになるのかを、株式市場がようやく意識し始めたということでしょう。

もちろん、1位を目指す競争は厳しいものです。表1、2は課金売上高のランキングを見たものです。1~3位は、「パズドラ」「モンスト」「ツムツム」が維持していますが、4位以下は安定していません。ただし、この基本的には良いものを生み出そうという競争の中で、ネイティブアプリゲームの市場は着実に拡大している模様です。それが今回のゲーム決算で確認できました。

この一方で、任天堂は1Qも94億7,000万円の営業赤字となりました(前年同期は49億2,400万円の赤字)。Wii Uはハード、ソフトともに伸びましたが、3DS、Wiiの減少を補えませんでした。ミリオンセラーは、Wii Uの「マリオカート8」282万本のみでした。もし、Wii Uが失速すれば、2~3年後には任天堂は売るものがなくなる可能性があります。アジア展開、健康市場への参入など、従来から計画している動きの成否に注目したいと思います。

グラフ7 ネイティブアプリゲーム大手の主力ゲーム累計ダウンロード数
(単位:万DL、出所:各社資料より楽天証券作成、
コロプラは端末ごとの重複ダウンロードを含む、それ以外はネット表示)

表1 アップストアにおけるセールスランキング(全カテゴリー)

表2 ネイティブアプリゲームの課金売上高ランキング

民生用電機

ソニーの決算が出ました。予想外に良い決算でした。1Q業績は売上高1兆8,099億円(前年比5.8%増)、営業利益698億円(96.7%増)、税引前利益684億円(50.6%増)、当期純利益268億円(8.6倍)でした。営業利益の中には不動産売却益148億円が含まれていますが、これを除いても550億円であり、前年同期の354億円よりも多くの営業利益が出ました。

部門別に営業利益を見ると、表3の様になります。ゲーム&ネットワークサービス(PS4事業など)が黒字転換し、イメージングプロダクツ&ソリューションズ(デジカメ、放送用機器など)、ホームエンタテインメント&サウンド(デジタルAV機器、テレビ)、デバイス(イメージセンサー、電池など)が営業増益となりました。映画は「アメイジングスパイダーマン2」などのヒットが寄与し好調、音楽も堅調で、金融は株式相場が前年同期ほどの活況ではなかったため減益でしたが、利益は高水準でした。

一方、モバイル・コミュニケーションは赤字転落しました。中低価格機市場での対応がうまくいきませんでした。

通期見通しでは、ゲーム、デバイスの営業利益見通しが上方修正されましたが、モバイル・コミュニケーションズは営業利益見通しが260億円から0億円に修正されました。また、モバイル関連資産の減損の可能性も会社側は示唆しました。ただし、2015年3月期見通しは前回の売上高7兆8,000億円(前年比0.4%増)、営業利益1,400億円(5.3倍)、税引前利益1,300億円(5.1倍)、当期純損失500億円(2014年3月期は1,284億円の損失)が維持されました。

モバイル・コミュニケーション部門では営業権(のれん代)1,800億円、無形固定資産700億円が貸借対照表上に計上されています。減損となれば、相当な規模の業績下方修正となります。しかし、キャッシュの流出は伴いません。ソニーの6月末株主資本は2兆2,609億円ありますから、減損できない金額ではありません。この減損を行えば、他の事業の収支が好転していることから、少なくとも減損には打ち止め感が出てくる可能性があります。

モバイル分野での減損の可能性があるとは言え、テレビの黒字拡大など、これまでのリストラの成果は出ています。映画、音楽、デバイスなどの成長分野も伸びています。1Q決算にはサプライズがあり、投資には前向きになりたいと思います。

表3 ソニーの部門別営業利益

パナソニックの決算も順調でした。1Qは、売上高1兆8,523億円(前年比1.5%増)、営業利益823億円(28.2%増)、税引前利益551億円(55.1%減)、当期純利益379億円(64.8%減)となりました。前年同期に年金制度変更に伴う一時的利益を計上したため、税引前利益と当期純利益は減益ですが、営業利益は好調でした。部門別に見ると、エアコン、冷蔵庫、洗濯機、テレビなどのアプライアンスが利益倍増、太陽電池や住宅関連のエコソリューションズが小幅増益、オートモーティブ&インダストリアルシステムズは増収でしたが、全社で合理化のための減給措置が終わったため減益となりました。

パナソニックも、2015年3月期業績予想、売上高7兆7,500億円(前年比0.2%増)、営業利益3,100億円(1.6%増)、税引前利益1,200億円(41.8%減)、当期純利益1,400億円(16.2%増)を維持しています。ただし、上方修正の可能性もありそうです。

表4 パナソニックの部門別営業利益

表5 主要企業の2015年3月期1Qまたは4-6月期決算発表予定日