(1)2014年6月2日の週の相場概況

日経平均株価は続伸

6月2日の週の日経平均株価は続伸しました。アメリカ景気の回復期待などからのNYダウ上昇、ドル円レートの円安(6月2日に1ドル=102円台乗せ)などから6月2日に日経平均は前週末比303.54円高となりました。その後も順調に上がり続け、6月3日には3月11日以来の15,000円台を回復しました。今後を見ても、6月5日のECB(欧州中銀)のマイナス金利政策の採用と、それを受けたNYダウの高値更新が、日本株にも好影響をもたらすと思われます。

物色の対象を見ると、前週から円安傾向を背景に自動車セクターが買われていますが、6月2日の週は、株価が先行して上げたトヨタ自動車、本田技研工業が一旦休み、日産自動車、富士重工業、マツダが買われる展開となりました。

また、中国のスマートフォンメーカーの2014年出荷台数が、従来の予想よりも増加しそうという一部の報道から、シャープ、村田製作所、ジャパンディスプレイ、ヒロセ電機のようなスマートフォン関連のディスプレイメーカー、電子部品メーカーが買われました。

NTT、ソフトバンクなどの通信株も買われました。ソフトバンクはアメリカのTモバイル買収に目処がついたことが材料になっています。NTTはPBR1倍割れ、PER12倍台と出遅れ感が強く、また、スマートフォンブームが大きく進行する中で、そこから生み出される巨大な通信トラフィックが通るのはNTTの光ファイバーであるという、スマホ関連の本命的な扱いで物色されているようです。

大手建設会社も前週に続き強い展開でした。大成建設、大林組、清水建設などです。2014年3月期決算で最も印象的な決算の一つが清水建設の決算です。前期は営業利益が約2倍になり、今期は約50%営業増益になるという見通しです。建築、土木の人件費、資材費上昇を吸収できるような選別受注をすれば、このような大幅増益を実現できるということを清水建設が示して見せたのです。この決算をきっかけに、それまで懐疑的な向きもあった建設株に対する評価替えが起こったと考えられます。

大手不動産株の動きも興味深いものでした。三井不動産、三菱地所、住友不動産の株価は三井不動産が3,000億円超の大型増資を発表(5月27日)した後、一時下落しましたが、既に発表前の株価を回復しました。三井不動産だけでなく、他社も大型増資の可能性が指摘されていますが、目的が大型再開発なので、株式の希薄化よりも大型再開発による地価の上昇、業績の向上に対する関心が株式市場で強くなっているようです。

日経平均のチャートを見ると、日経平均は5月26日に三角保ち合いを上方にブレイクし、そのまま上昇し続けています。一押しあってもおかしくはないと思われますが、相場の基調は強いと思われます。自動車、電子部品、大手建設株に注目したいと思います。

グラフ1 日経平均:日足

新興市場は活況続く

新興市場と東証の中小型株は日経平均以上に活況でした。マザーズでは引き続きミクシィが活況で、株価は15,000円手前まで上昇しました。

東証マザーズ指数は、ミクシィの急騰もあり急上昇しているため、一押しあってもよいところではあります。しかし、前回の「特集:ゲーム株」でも指摘しましたが、ファンダメンタルズを見ると、ネイティブアプリゲームの主力企業、ミクシィとガンホー・オンライン・エンターテイメントの株価には依然として割安感があり、ここで終わるとは思えません。新興市場は押し目を挟みながらも、ある程度角度が高い上昇が続く可能性があります。

ミクシィの「モンスターストライク」は、6月4日に5月に配信開始した台湾を含めた累計ダウンロード数が800万ダウンロードに達しました。台湾が入っているとはいえ、ダウンロード数の拡大ペース(月間100~150万DL)は衰えていないようです。また、ガンホーの「パズル&ドラゴンズ」も5月30日に累計ダウンロード数が2,800万DLに達しました。依然として1カ月約100万DLのペースでの拡大が続いています。いずれの数字も両社の業績の拡大が続いていることを示すものです(特にミクシィについて)。

スマートフォンの関連銘柄も引き続き上昇しました。LTE用をはじめとした通信用計測機器のアルチザネットワークスや、モバイル用メモリーの検査に使うプローブカードの大手メーカーで、ウェアラブル端末に使えそうな新型電池の開発が株価材料となっている日本マイクロニクスなどが継続的に物色されています。ガンホー、ミクシィでわかるように、スマートフォンとネイティブアプリは遊びの世界を大きく変え始めています。そして、スマートフォンは世の中をより大きく変えようとしています。ゲーム、電子部品、通信会社、計測機器などまでの、広い意味でのスマートフォン関連は、有力な投資対象として継続的に注目する必要がありそうです。

ロボット関連ではCYBERDYNE(サイバーダイン)、菊池製作所が上昇しました。ロボット分野では、ソフトバンクがロボット市場への参入を決めました。今後の展開が注目されます。

広い意味での自動車関連も物色されました。6月3日、アマゾン・ドット・コムは中古車販売に参入すると発表しましたが、アマゾンのウェブサイト内で中古車販売を開始するネクステージが大幅高しました。また、中古車販売業者のガリバーインターナショナルも上昇しました。この試みがうまくいけば、自動車販売のあり方が大きく変わる可能性があります。

グラフ2 東証マザーズ指数:日足

グラフ3 東証各指数(2014年6月5日まで)を2012年11月14日を起点(=100)として指数化

表1 楽天証券投資WEEKLY

(2)特集:自動車セクター

自動車各社とも2014年3月期は大幅増益

今回の特集は「自動車セクター」です。今回は乗用車メーカーの業績動向を中心に分析し、有望銘柄を探したいと思います。

2014年3月期の自動車各社の業績は大幅増益となりました。各社の増益要因を見ると、円安効果によるものが最も大きく、続いて合理化効果、販売増加による効果が続いています。これらの増益要因が労務費、減価償却費の増加などを吸収する構図でした。

グラフ4 自動車各社の営業利益合計
(単位:億円、乗用車メーカーの合計で連結子会社を除く)

グラフ5 自動車各社の営業利益:四半期ベース
(単位:億円、出所:会社資料より楽天証券作成)

表2 自動車各社の営業利益

トヨタ自動車は大幅増益

トヨタ自動車を例に取ると、2014年3月期営業利益は2兆2,921億円と前期比9,712億円の増益になりましたが、このうち為替の円安メリットが9,000億円を占めました(9,000億円のうち、対ドル円安メリットが7,100億円、対ユーロが1,150億円、新興国通貨などその他通貨に対する円安メリットが750億円)。また、原価改善が2,900億円、営業面の努力(台数増加や車種構成のメリットなど)が1,800億円ありました。

一方で、経費増加要因もありました。トヨタ自動車は2009年、2010年に当時アメリカで起きたトヨタ車の「意図せぬ急加速問題」について、「アクセルペダルの戻り不良」及び「フロアマットのアクセルペダルへの引っ掛かり」に関するリコールを実施しましたが、これに関連した米国ニューヨーク州南地区連邦検事局の調査について、トヨタ自動車は12億ドル(約1,200億円)の和解金を支払うことに同意、これが2014年3月期に計上されました。またオーストラリアからの生産撤退費用(約850億円)、労務費、研究開発費の増加などもあり、これらを合わせて4,800億円のマイナス要因がありました。

本田技研工業は増益だが他社に比べ低い伸び

本田技研工業は、営業利益7,503億円(前年比37.7%増)と増益ではありましたが、他社に比べ低い伸びとなりました。税引前純利益は2,400億円の増益であり、この増益要因としては、為替の円安メリット2,887億円、売上変動・構成差等が533億円(販売台数増加、売上構成の改善など)、コストダウン150億円などです。減益要因としては、販売費及び一般管理費の増加が1,023億円で、この中には広告宣伝費の増加、前年度にあったタイの洪水にかかる保険金収入がなくなった要因と、前下期に発生した「フィット」「ヴェゼル」のリコール費用約300億円が入っています。また、研究開発費の増加も493億円の減益要因となりました。

グループ販売台数(持分法対象子会社の販売を含む)は、4輪車432.3万台(前年比7.7%増)、2輪車1,702.1万台(9.9%増)。業績への影響が大きい4輪車のグループ販売台数は、日本は81.8万台(18.2%増)、アジアも128.6万台(14.6%増)と新車効果があり好調でしたが、北米が175.7万台(1.5%増)と低い伸びに留まりました。

各国で生産能力を増強しており、減価償却費が892億円増加したことも、増益率が比較的低い要因です。

富士重工業とマツダが大幅増益

今回の決算で特徴的だったのが、富士重工業、マツダの中堅です。富士重工業の営業利益は2.7倍、マツダは3.4倍となりましたが、これは突出した伸びです(表2)。両社とも日本と北米に重点を置いた生産体制を構築しているため、円安メリットを満喫した決算となりました。また、これも両社とも特徴的な新車でファンが増えていることも好業績を後押ししました。特に富士重工業の営業利益は日本の業界3位の日産自動車の営業利益に接近してきました。

2015年3月期は各社とも慎重な見通し

一方、今期(2015年3月期)見通しは各社ともに慎重なものになりました。まず、会社の為替の見通しはドルについては1ドル=100円、1ユーロ=135~140円としており、これだけなら為替に関して大きな利益損失はないはずです。しかし実際には、トヨタ自動車が2015年3月期見通しにおいて為替による営業減益要因を950億円としています。これは、アメリカで生産した自動車をカナダ、ブラジルに輸出する時に、ドル高カナダドル安、ブラジルレアル安となって目減りが発生することを想定していること、欧州で生産した自動車をロシア、トルコに輸出する時も、ユーロ高ルーブル安、トルコリラ安となって同様に目減りが発生することを見込んでいるためです。

本田技研工業も、為替影響が670億円の減益要因になっています。円ドルで若干円高デメリットが発生する前提で、タイバーツ、ブラジルレアルの円高やアメリカ-カナダ間の部品供給に伴うマイナス要因が発生すると前提しています。

通貨、特に新興国通貨の問題は、最後まで結果を見なければわかりません。ただし、大手ほど新興国での生産販売が増えるに従って新興国通貨の扱いが増えているため、為替リスクも増えているということは認識する必要があります。これは、生産販売体制を世界規模で拡充する時に避けられないリスクと言えるでしょう。

ただし足元の為替レートを見ると、1ドル=102円台で推移しており、ドル円レートがこのまま推移すると、ドルだけでトヨタ自動車で約800億円(為替感応度は1ドル1円の円安で400億円、1ユーロ1円で40億円のメリット)、本田技研工業で約240億円(同120億円、5億円)の営業利益上乗せ効果が発生します。為替次第では、業績には上乗せが見込めると思われます。

トヨタ自動車は販売台数の見通しも慎重

トヨタ自動車は販売台数見通しも慎重で、2015年3月期見通し910万台(2014年3月期911.6万台)と微減の見通しです。一方で、本田技研工業の4輪車は、グループ販売台数が483万台の見通し(同432.3万台)で前年比11.7%増ですが、これは日本とアジアの伸びが大きくなり、北米の伸びが低くなる見通しです。マツダはグローバル販売台数142万台(6.7%増)、富士重工業は91.6万台(11.0%増)の見通しと、各社ともにまちまちの見通しになっています。

各市場の動きを見ると、日本は消費税導入前の駆け込み需要の反動減が概ね想定以内に収まっており、5月からは回復に向かっています。

北米は冬の雪の影響から脱したところであり、特にSUV系の伸びが続いています。ただし、北米は特に大手メーカーにとっては最重要市場なので、競争も厳しくなる傾向があります。

また中国市場の伸びが続いており、日本車も回復してきました。欧州も緩やかな回復過程に入ってきました。

ただし、中国を除くアジアは厳しい状況が続いています。タイは2011年9月から2012年12月までの「ファーストカー・バイヤー・プログラム」(自動車の新規購入者に補助金を出す制度)が終了したことに政治的混乱が加わり、新車販売台数が前年比40%以上減る状況になっています。インドも振るわずマイナス成長が続いています。インドネシアは立ち直ってきましたが、補いきれていません。今期はアジアには期待できそうにありません。

グラフ6 主要国・地域の新車販売台数
(単位:台、出所:アメリカはオートデータ、欧州はACEA、中国、アジアはフォーリン、 日本は日本自動車販売協会連合会、日本軽自動車協会連合会より楽天証券作成)

グラフ7 主要国・地域の新車販売台数:前年比
(単位:%、出所:アメリカはオートデータ、欧州はACEA、中国、アジアはフォーリン、 日本は日本自動車販売協会連合会、日本軽自動車協会連合会より楽天証券作成)

中長期投資として、トヨタ自動車、富士重工業、マツダに注目したい

このように、今期は自動車各社を取り巻く状況は必ずしも良いものばかりではありません。また、省エネ(ハイブリッドカー、電気自動車、燃料電池車、超低燃費エンジンなど)、自動運転、部品の共通化などの経営上の大きな課題も多く、研究開発費は各社ともに増える傾向にあります。世界の自動車市場は中長期的には持続的に成長すると思われるため、各社とも車種と生産能力を増やす必要があり、そのため設備投資と減価償却費の増加も予想されます。車種が増えれば販売費も増えます。このように今期は販売台数の伸びが前期よりも低くなるにもかかわらず、コストが先行的に発生する傾向がありそうです。

ただし、自動車各社のPERを見ると、割安感が強いものがあります。トヨタ自動車は11倍台、本田技研工業、日産自動車、富士重工業は10倍台、マツダは税務上の累損があるため法人税を払わない前提とは言え8倍台です。

この中で、中長期投資の対象として、トヨタ自動車、富士重工業、マツダに注目したいと思います。営業利益に対する円安感応度の大きさ(1ドル1円の円安でトヨタ自動車400億円、富士重工業92億円、マツダ23億円)、収益源である北米での伸びと、今後の新車計画に注目したいと思います。

トヨタ自動車は今期に北米で主力車「カムリ」のマイナーチェンジを実施する予定です(マイナーチェンジとは言ってもかなり大掛かりなモデルチェンジになります)。また、2015年春に「プリウス」のフルモデルチェンジが予想されます。燃費はJC08燃費で現行の32.6km/ℓから35~40km/ℓ以上に向上することが予想されています。日本と北米で主力車種の一つであり、いずれは世界展開も目論む戦略車なので、展開を注目したいと思います。

富士重工業は、6月20日に新車「レヴォーグ」を発売します。自動危険回避装置「アイサイト」の第3世代版を搭載しており、売れ行きが注目されます。また、北米で夏に旗艦車種である「レガシィ」の新車を発売する予定です。これも売れ行きが注目されます。

マツダは、前期までに発売した、CX-5、Mazda6(アテンザ)、Mazda3(アクセラ)が好調です。今期はMazda2(デミオ)のフルモデルチェンジが予定されています。

各社のアメリカでの販売台数の伸びを見ると、トヨタは前年比で3月4.9%増、4月13.3%増、5月17.0%増、富士重工業は同じく21.2%増、21.7%、10.7%増、マツダは同じく3月9.0%増、4月12.8%増、5月22.5%増となっています。春になって回復しており、今後の伸びが期待されます。

表3 アメリカの新車販売台数:前年比