執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 11月の米雇用統計は良好。月内の米利上げの確率が高まった。中国の景況も改善。世界経済の回復色が強まりつつある。
  • 世界の政治不安は高まっている。12月4日実施のイタリア国民投票が最初の関門。大勢は今日の昼にも判明する可能性がある。
  • 来年にかけて、欧州各地で、選挙が行われるたびに、反移民・反EUを掲げる極右・極左勢力が拡大する可能性がある。

(1)米11月の失業率は4.6%と、10月よりも0.3%低下

先週末、米労働省が発表した11月の雇用統計は良好な内容でした。完全失業率は4.6%と、9年ぶりの水準に低下しました。非農業部門の雇用者数は、前月比17万8,000人の増加で、事前の市場予想(18万人増)とほぼ同じで、雇用が順調に拡大していることが示されました。平均時給は25.89ドルと前年比2.5%増加しており、好調と言えます。

FRB(中央銀行)は、FF金利を現行の0.25-0.5%から、0.5-0.75%へ0.25%引き上げることが予想されます。

FRBは市場との対話の中で、金融政策の変更を事前に織り込ませることを目指しています。イエレン議長は、近く利上げが行われることを示唆しており、利上げがあっても、既に金融市場で織り込み済みと考えられます。利上げ直後に、すぐに波乱はないと思われます。

(2)中国の景気も持ち直し

中国国家統計局が1日発表した11月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は51.7で、前月から0.5ポイント上昇し、2014年7月以来の高水準となりました。中国政府は、今年に入ってからインフラ投資を増額している模様で、その効果から、中国の景気も持ち直しています。GDP規模で世界トップの米国と、2位の中国の景気がそろって回復しつつあることから、世界景気の回復見通しは強まっていると言えます。

(3)世界景気は改善しているものの、世界の政治不安は高まっている

今の投資環境を端的に述べると、「世界経済は改善、世界の政治不安は拡大」となります。世界に拡大したポピュリズム(大衆迎合主義)は、とどまるところを知りません。世界各国に、過激発言で大衆の人気を集める「・・・版ドナルド・トランプ」が現れています。

フィリピンのドゥテルテ大統領は過激発言で有名になり、「フィリピン版ドナルド・トランプ」と言われます。昨年6月に、過激な演説で英国のEU離脱を可決に導いたボリス・ジョンソン氏(現外務大臣)は「英国版ドナルド・トランプ」と言われます。

フランスでは、急速に勢力を拡大している極右勢力「国民戦線」マリーヌ・ル・ペン氏が、反EUの過激発言で知られ、「フランス版ドナルド・トランプ」と言われます。イタリアでも、スペインでも、ドイツでも、過激発言の極右または極左勢力のリーダーが勢力を拡大しています。欧州の極右・極左勢力は、反移民・反EUを主張して大衆の喝采を受けています。政権を取るまでに成長すると、EU崩壊の危機が拡大します。

韓国では、2018年2月の任期満了前に辞任する意向を表明した朴(パク)大統領の、後任争いが早くも始まっています。ここで、過激な発言から「韓国版トランプ」と呼ばれる城南市の李在明(イ・ジェミョン)市長が、反政府運動の追い風に乗って、急速に支持を拡大しています。激しい言葉で相手を罵倒し、大衆から喝采を浴びる手法は、ドナルド・トランプ氏と同じです。

(4)12月4日実施のイタリア国民投票が最初の関門

世界経済の改善を織り込みつつ世界的な株高は続くと予想していますが、政治要因で世界的なショック安が起こるリスクは、常についてまわります。最初の関門が、昨日、実施されたイタリアの改憲を問う国民投票です。今日の昼にも、大勢が判明する可能性があります。

12月4日に、憲法改正を問う国民投票がイタリアで実施されました。イタリアでは上院・下院が等しい権限を持つために、与党主導で政策を決定しにくくなっています。今回は、下院の権限を強め、上院の権限を弱める憲法改正の是非を問う国民投票が行われました。

レンツィ首相が「この憲法改正が否決されれば辞任する」と示唆しているため、実質、首相の信任投票と見られています。

イタリアに今後、起こり得ることを整理してみました。まず、可能性は低いと思いますが、世界の株式相場にとって最悪シナリオを考えると、以下の通りとなります。

株式市場にとっての最悪シナリオ

憲法改正否決→レンツィ首相辞任→マッタレッラ大統領が後任首相を指名せずに解散総選挙実施へ→解散総選挙で極左勢力「五つ星運動」が第一党に→「五つ星運動」グリッロ党首がイタリアのEUからの離脱を問う国民投票実施を宣言→不良債権をかかえて経営難に陥っているイタリアの大手銀行の救済策がまとまらずイタリアの信用不安が高まる。

実際には、憲法改正が否決されても、レンツィ首相が辞任しない可能性もあります。もし辞任しても大統領が後任を指名し、解散総選挙を行わなければ、すぐに政局波乱におちいることはありません。

また、イタリアで、反EU感情が高まっているのは事実ですが、それが、即、EUからの離脱に結びつくわけではありません。イタリアはEUと通貨ユーロを共有しており、EUからの離脱→自国通貨復活には相当な困難が伴うからです。通貨を共有していない英国に比べると、通貨を人質にとられているユーロ加盟国は、簡単にはEU離脱に進むことはできません。

いずれにしろ、イタリアの政治情勢は、欧州に広がるドナルド・トランプ現象の勢いを見る試金石となります。今後のイタリア情勢から目が離せません。

(5)12月4日実施のオーストリア大統領選にも注目

12月4日には、オーストリア大統領選も実施されました。これは、昨年5月に行われた大統領選のやり直し選挙です。5月の大統領選でリベラル系「緑の党」のファン・デア・ベレン氏が、反難民・反EUを掲げた極右・自由党の候補者を僅差で下しました。ところが、憲法裁判所が開票手続きに不備があったと判断したため再選挙となりました。極右・自由党のホーファー候補が逆転勝利すると、反EUの流れがオーストリアでも拡大する可能性があります。ただし、オーストリアで大統領の政治実権は大きくないので、大統領が変わっても、すぐにオーストリアの政治が変わるわけではありません。

オーストリア国営放送は、出口調査などに基づき、「極右・自由党のホーファー候補の敗北は確実」と報道していますが、最終結果はまだわかっていません。