執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 33業種別に今期最高益を更新する見込みの銘柄をスクリーニングした。最高益更新見通しの銘柄がない業種が8業種あり、残り25業種から銘柄を選んだ。
  • 円高が進んだため、今期は、輸出産業に最高益更新企業が少ない。ニッチ分野を手がける内需企業に、地味な安定成長企業が多い。

(1)33業種別に最高益を更新見込みの銘柄を探してみました

今日は、投資の参考銘柄として、最高益更新銘柄をご紹介します。まず、33業種別に営業利益、経常利益、または、純利益のいずれかで最高益更新を見込む(会社予想ベース)銘柄を、探してみました。

最高益を更新する銘柄をまったく見つけられないセクターもありました。鉱業、石油石炭製品、鉄鋼、非鉄金属、電気ガス業、海運業、銀行業、証券商品先物の8業種では、今期最高益更新を予想する銘柄はありませんでした。

残りの25業種から、最高益更新を予想する銘柄を選びました。1業種から1銘柄、原則、時価総額が一番大きいものを選びました。業績予想を公表していない企業は対象外としました。

売上高・営業利益・経常利益・純利益で過去最高となる部分を赤字で表示しています。過去最高に達しないところは黒字になっています。

 

最高益更新を見込む企業の、今期売上高・営業利益・経常利益・純利益の前年比変化率(会社予想ベース)

業種 コード 銘柄名 売上高 営業利益 経常利益 純利益
水産・農林業 1333 マルハニチロ -1.7% 29.6% 22.6% 168.5%
建設業 1925 大和ハウス工業 8.4% 15.2% 16.4% 75.7%
食料品 2502 アサヒグループHLDG 0.9% 4.1% -5.1% 4.7%
繊維製品 3402 東レ -2.1% 0.3% 3.2% 5.4%
パルプ・紙 3950 ザ・パック 2.8% 2.7% 2.0% 3.3%
化学 4452 花王 0.4% 10.0% 10.2% 14.1%
医薬品 4507 塩野義製薬 7.8% 6.7% 4.6% 14.0%
サービス業 4661 オリエンタルランド 3.1% 1.6% 1.2% 4.0%
ゴム製品 5122 オカモト -2.7% 14.1% -5.8% 28.3%
ガラス土石製品 5344 MARUWA 2.0% 14.1% 20.2% 24.6%
金属製品 5975 東プレ 10.7% 4.7% 7.2% 10.3%
機械 6367 ダイキン工業 -2.1% 1.9% 5.0% 5.9%
電気機器 6594 日本電産 1.8% 14.7% 13.5% 11.2%
輸送用機器 7201 日産自動車 -3.2% -10.5% -7.2% 0.2%
精密機器 7747 朝日インテック 1.3% 0.5% 5.0% 0.3%
その他製品 7832 バンダイナムコHLDG 2.5% 14.8% 12.3% 12.8%
卸売業 8001 伊藤忠商事 -9.5% 17.0% 47.2% 45.6%
その他金融業 8566 リコーリース 3.3% 2.1% 1.5% 4.1%
保険業 8766 東京海上HLDG NA NA 2.4% 10.0%
不動産業 8801 三井不動産 11.6% 8.7% 8.5% 6.2%
陸運業 9022 東海旅客鉄道 -0.1% -0.3% 1.7% 7.6%
倉庫運輸関連 9058 トランコム 4.3% -1.4% -3.4% 17.1%
空運業 9202 ANA HLDG -2.9% 6.3% -0.6% 2.3%
情報・通信業 9433 KDDI 5.2% 6.2% NA 9.2%
小売業 9843 ニトリHLDG 9.1% 8.2% 6.7% 9.4%

(注:今期とは、アサヒグループ、ザ・パック、花王は2016年12月期、ニトリは2017年2月期、朝日インテックは2017年6月期、その他の銘柄は2017年3月期、米国基準・IFRS採用企業は連結税前利益を経常利益とみなした)

(出所:各社業績予想に基づき楽天証券経済研究所が作成)

大和ハウスのように、売上高・営業利益・経常利益・純利益がすべて最高益を更新する見通しの銘柄もあります。一方、日産自動車のように、純利益だけわずかに最高益を更新する見通しの銘柄もあります。赤くなっている部分だけが過去最高となっています。また、会社が予想を公表していない部分はNAと表示しています。

(2)最高益を更新する企業には、何かキラリと光るものがある

上記の25社を、成長テーマ別に分けて、簡単に解説します。

  • ここに挙げたのは、いずれも人気の高成長株ではありません。いずれも地味な安定成長株です。成長率は必ずしも高くないが、他企業が手がけないニッチ分野を押さえており、少しずつ最高益を更新しつつあります。

    派手さはないがニッチ事業が安定的に伸びている:マルハニチロ、ザ・パック、オカモト、東プレ、朝日インテック、リコーリース、トランコム
  • スマホの成長続く 料金引き下げは骨抜きに:KDDI

    日本の携帯電話市場という巨大な市場を、ドコモ・ソフトバンクとともに実質3社で独占しているメリットをフルに享受します。スマホ化の進展で、月次利用料の拡大が進む傾向があることは追い風です。総務省主導で料金引き下げが進む懸念がありましたが、これまでの進捗を見る限り、料金引き下げは骨抜きとなる見込みです。

  • 旅行需要の拡大:JR東海、ANA

    JR東海は新幹線が成長事業となっています。かつて新幹線がビジネス客ばかりに利用されていた時代もありますが、今は国民の足として、観光客に幅広く使われています。訪日外国人観光客の増加も追い風です。ANAは、羽田便の増便が収益拡大に寄与しています。燃料費の減少も増益を牽引しています。

  • 都心部不動産の空室率低下が続く:三井不動産

    都心部で空室率低下と賃料の上昇が続いています。都心部に優良物件を保有する三井不動産に追い風となっています。

  • 自動車電装化の恩恵で成長が続く:日本電産

    日本電産は、自動車の電装化が進展する恩恵を受け、車載用モーターが拡大しています。スマホ向けの触覚デバイスも、新たな成長源として期待されます。

  • 国内サービス産業の成長:オリエンタルランド

    東京ディズニーリゾートを経営するオリエンタルランドは、景気の影響を受けず、安定的に高収益を稼ぐことが評価されています。夜の稼働率を高めるなどの工夫で入場者1人当たりの収入を伸ばし続けており、少しずつ最高益を更新しています。

  • HIV治療薬のロイヤリティ収入が拡大する:塩野義製薬

    エイズ発症を生涯にわたって抑えることも、可能になりつつあります。塩野義が開発したHIV治療薬がその扉を開きつつあります。同社は、そこから得られるロイヤリティ収入が成長を牽引しています。

  • 航空機向け炭素繊維で成長:東レ

    堅くて軽い炭素繊維がボーイングなど航空機メーカー向けに拡大しています。炭素繊維メーカーは多数ありますが、航空機向けの炭素繊維は高い技術が必要で、東レは技術で差別化ができています。将来は、自動車の車体にも使われる可能性があります。炭素繊維車を、世界の自動車メーカーと共同で開発しています。

  • 商業施設・物流施設・賃貸住宅の建設で競争力:大和ハウス工業

    大和ハウスは住宅メーカーですが、商業施設(小売店舗など)建設で競争力があります。建設・住宅業界が不況の時も、商業施設が利益を支えてきました。商業施設・物流施設・賃貸住宅の拡大が、最高益更新のドライバーとなっています。賃貸住宅は、相続税引き上げで、相続対策の建設が増えている面もあります。

  • アジア(および欧米の)消費拡大を取り込む:アサヒグループHLDG・花王・ダイキン工業

    アジアで消費が安定的に成長する時代に入っています。アジアで成長する日本企業も、生産財を作る企業から、消費財を作る企業にバトンタッチされています。

    アサヒはビール事業、花王は化粧品トイレタリー事業・ダイキンはエアコンで、国内でも海外でも競争力を有します。各社とも少子化が進む国内の利益が伸び悩む中、海外が新たな成長の源泉となってきています。

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