執筆:窪田真之

今日のポイント

  • トランプノミクスへの期待と、世界景気の回復を背景に世界的に株高が続いている。トランプ氏が大統領に就任する来年1月20日まで、トランプ歓迎相場が続く可能性がある。
  • 目先のイベント・リスクとして、12月4日のイタリア国民投票がある。改憲が否決されて、レンツィ首相が辞任し解散総選挙になると、イタリア政局に波乱が起きる。また、12月13-14日のFOMCで米利上げが実現するか否かも、重要イベントとなる。

(1)トランプ・ラリーはいつまで続くか?

トランプ氏の大統領当選で急に米景気および世界景気の先行きに強気の見通しが広がり、世界的な株高につながっていることにとまどっている投資家も多いようです。私は、トランプ当選だけで世界景気の見通しが明るくなったとは考えていません。

トランプ氏が大統領に当選する前から、世界経済に回復の兆しが出ており、そこにトランプ氏の経済政策(トランプノミクス)が伝わり、世界景気の回復が加速する期待が出たことが、世界的な株高の主因と考えています。

世界経済の回復をひととおり織り込み終わるまでは、日本および世界の株高は続くと考えています。外国人投資家は、日本株を世界景気敏感株とみなしており、日本株への外国人の買いは、続くと考えています。

トランプ・ラリーが終了する時期の有力候補は、来年の1月20日です。つまり、トランプ氏が大統領に就任する時です。世界および日本の株が、トランプノミクスのよいところを先に織り込んで大きく上昇してしまい、実際にトランプノミクスが始まる時には、株式市場はピークアウトするという考えです。

相場はなんでも先・先と織り込むもので、トランプ大統領の登場前に、期待を先に織り込んでしまうことは大いにあり得ることです。もし、日経平均がその頃、20,000円に近づいていれば、そこでトランプ・ラリーは一旦織り込み済みとなる可能性が高まります。

トランプ氏の言葉だけに反応して、株式市場に期待が広がっていますが、実際に大統領になれば、実現不可能な口約束が多かったことに、株式市場がだんだん気づいていくことも考えられます。来年1月20日は、要注意の日程として頭に入れておきたいと思います。

トランプノミクスのいいところばかりを見て、世界的にトランプ・ラリーが続いていることに、危うさを感じる投資家もいます。日本株では、外国人投資家の買いが続く中、個人投資家は売りが増えています。信用取引で空売りを増やす個人投資家もいます。いつまでも上昇する相場もないわけで、いずれトランプ・ラリーの問題が表面化してくるとの思惑で空売りを仕掛けていると思います。私は、今、空売りをしかけるのはリスクが高いと考えます。

世界景気の回復を、世界の株式市場がひととおり織り込むまで、日本株の上昇が続く可能性があるからです。

(2)トランプノミクスの問題は、米景気を過熱させる可能性があること

米景気は、トランプ当選前から持ち直しつつありました。シェールガス・オイル革命によって安価な自国産エネルギーを得た恩恵が続いています。米景気回復を映して、去年12月に続き、今年の12月も利上げが実行される可能性が高まっています。

米景気は放っておいても回復局面にあったわけで、ここで財政悪化につながる大型の財政出動を行うのは異例と言えます。トランプ次期大統領は、ここから減税と大型公共投資の両方を実行する方針です。

米国では、景気拡大が続いているにもかかわらず、低所得者層の不満は蓄積していました。資本家や大企業ばかりが恩恵を受け、貧富の差が拡大していることに不満がたまっていたわけです。トランプ氏は、低所得者層の不満の受け皿となることで、当選を果たしました。低所得者層を喜ばせるために、ここからでも、さらに大型の景気対策を打って、雇用拡大をはかろうとしています。好景気下で大型の景気対策を行うのは、究極のポピュリズム(大衆迎合)政策だと思います。本当に大型景気対策を実行すれば、一時的に米景気が過熱リスクを意識した方がいいと思います。

ちなみに、大統領選に敗れたヒラリー・クリントン氏も、大型の公共投資を実行する方針は表明していました。どちらが当選しても、米景気の回復が後押しされるのは同じだったかもしれません。

ただし、クリントン氏は、富裕者層の増税を実施することを表明していました。それに対し、トランプ氏は、減税を表明していました。それで、富裕者層の票も、かなりトランプ氏に流れたと考えられます。ポピュリズム政策を徹底したトランプ氏が勝利した背景がそこにあると考えられます。

米景気過熱リスクが高まったことにより、ドル高(円安)が急伸しました。その恩恵で、これから、今期(2017年3月期)の日本の企業業績モメンタムは強くなってくる見通しです。いろいろ問題のあるトランプノミクスですが、日本株に対しては、強い追い風になりました。今は、その追い風に素直に乗っていく戦略が有効と考えています。

(3)12月前半のイベント・リスク

12月に出てくる経済指標は、世界景気のゆるやかな回復を裏付けるものが多くなると予想しています。今週、注目されるのは、12月2日(金)発表予定の、米11月雇用統計です。12月に発表される経済指標が、世界の株が急落する原因になるとは考えていません。

不安があるとすると、経済ではなく、政治要因だと思っています。12月で注意すべきは、以下の2つと考えています。

  • 12月4日(日)イタリアで憲法改正の是非を問う国民投票

イタリアでは上院・下院(日本で言うと、参議院・衆議院)が等しい権限を持ちます。そのため、与党主導で政策を決定しにくくなっています。今回は、下院の権限を強め、上院の権限を弱める憲法改正の是非を問う国民投票が行われます。

レンツィ首相は、「この憲法改正が否決されれば辞任される」と公言していますが、現時点では、世論調査で改憲反対派が優勢です。もし、4日の国民投票で改憲が否決され、レンツィ首相が辞任するとイタリアの政局に波乱が起こります。

首相辞任後に、議会が解散され、総選挙になると、「反移民・反EU」を掲げ急速に勢力を拡大している新興勢力「五つ星運動」が、大幅に勢力を拡大する見込みで、イタリアが一気に反EUに傾くリスクがあります。

  • 12月13-14日FOMC

次の気になるイベントは、12月13-14日のFOMC(米金融政策決定会合)です。為替市場では、12月に米利上げが行われることを織り込みつつ、ドル高(円安)が進んでいます。これまで利上げに反対していたトランプ次期大統領が利上げを批判するような発言をするか、実際に利上げが行われるか、が注目ポイントです。