執筆:香川睦

(1)日経平均は「トランプ新大統領誕生」を不安視して急落

11月8日に米国で実施された大統領選挙を受け、日本時間の9日午前からその開票速報が報道され、フロリダ州などの大票田や接戦州でトランプ共和党候補の優勢が強まるに連れ、クリントン候補の当選を前提に築かれていたポジション(株高・円安の投資)の巻き戻し(株売り・ドル売り・円買い)が急速に進みました。先物市場で米ダウ先物が大幅に下落すると(日本時間の15:00時点で前日比700ドル安)、為替市場でもリスクオフ(回避)による円買いが進み、ドル円は101.90円まで急落(15:00時点)。日経平均は前日比919円安の16,251円と200日移動平均線を割り込んで急落しました(図表)。

「ブラックスワン」(黒い白鳥)とは、「一見あり得なさそうだが、起きた場合は市場に衝撃(ネガティブサプライズ)が大きそうな事象」を意味します。「今年最大の政治イベント」とされた米大統領選挙が、6月24日の「ブラックフライデー」(ブレグジット=英国のEU離脱を決めた国民投票)と同様、市場の予想や期待に反する驚きの結果となったことで、米国の経済・貿易・外交を巡る不透明感が極まり、円高・株安を加速させることとなりました。

図表:日経平均、米ダウ平均、ドル円相場

(出所)Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2016年11月9日/米ダウ平均は8日時点)

(2)「経済格差」やグローバリゼーションへの不満が募った結果か

昨年から泡沫候補と呼ばれていたトランプ候補は、「ポピュリズム」と揶揄されるほど過激な発言で、既存の政治や経済格差に不満を抱く白人のブルーカラー層(低所得者層)を中心に支持を集めてきました。一見して、反資本主義・反グローバル主義かつ扇動的で非現実的な公約が多かったにもかかわらず、共和党予備選などを勝ち抜き本選挙でも勝利するに至りました。クリントン候補については、早くから国務長官時代の私的メール疑惑で批判されていましたが、10月28日にはFBI(米連邦捜査局)が捜査を再開することを発表。FBIは11月7日に訴追見送りの方針を表明しましたが、有権者の疑惑を払拭することはできなかったようです。むしろトランプ勝利の背景には、資本主義、経済のグローバル化、自由貿易、移民増加などへの一般米国による抵抗感が連鎖した結果と考えられます。

目先の市場については、(1)今晩(11月9日)急落すると想定されるダウ平均がいつどの水準で落ち着きをみせるのか、(2)FRB(米連邦準備制度理事会)による12月の追加利上げを織り込んで堅調であったドル金利の急低下が予想され、日米金利差の縮小観測とリスクオフ(回避)を受けたドル安・円高に歯止めがかかるか否か、などを見極める動きとなりそうです。また、過激発言を繰り返してきたトランプ氏が、当選を機に現実的かつ実利的な経済・外交政策に転換していくとの観測もあります。米国の政治システム上、共和党はもちろん、議会(上院と下院)との承認を経ずに重要政策の実現は困難だからです。トランプ新大統領の言動に落ち着きがみられ、先行きの不透明感が緩和するに従い、市場の恐怖感も後退していくと考えられます。

<参考情報>

米大統領選挙の開票速報:選挙人獲得数

トランプ共和党候補=276対 クリントン民主党候補=218 (総登録人数538人/過半数270)

<日本時間の9日17:00時点/出所:Bloomberg報道による>