執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 米FBIが「クリントン氏の私用メールをすべて調べた結果、問題はなかった」と発表したことを受け、世界的に株高が進みました。これで、反資本主義・反グローバル主義の過激発言を繰り返すトランプ氏が当選するリスクは低下したと判断されました。
  • 米国民は、捜査終了の発表の仕方に、後味の悪さも感じています。クリントン・トランプ両候補の支持率の差は、まだ大きく開いたわけではなく、選挙結果は最後までわからない状況と言えます。

(1)FBIのメール捜査終了発表を受けて、世界的に株高

11月8日に大統領選を控え、ぎりぎりのタイミングで、FBI(米連邦捜査局)コミー長官が、世界の株式市場を驚かせる材料を2つも出しました。

  • 10月28日にヒラリー・クリントン氏の私用メールの捜査を再開すると発表
    FBIは7月5日に、クリントン氏の私用メール調査で問題は見つからず、捜査を終了すると発表していました。これで、メール問題は終結したと思われていたのですが、10月28日に、新たに関連メールが見つかったので捜査を再開すると発表しました。
    この発表を受けて、クリントン候補の支持率が急低下、トランプ候補の支持率が急上昇し、クリントン候補の楽勝と見られていた大統領選の行方がわからなくなりました。FBIの一撃で、反資本主義・反グローバル主義の過激発言を繰り返すトランプ氏が米大統領に逆転当選する可能性も出てきたと解釈され、世界的に株が売られ、為替市場ではリスク・オフの円高が進みました。
  • 11月6日にクリントン氏の私用メール捜査を終了すると発表
    FBIは、投票2日前に捜査終了を発表して、再び市場を驚かせました。「24時間態勢でメールを調査したが、問題は見つからなかった」としています。これを受けて、以下の通り、11月7日は株高が進みました。
    11月7日、日経平均は前週末比271円高の17,177円、NYダウは11月8日の日本時間午前6時20分現在、同371ドル高の18,259ドルでした。同時刻で、為替は1ドル104.48円、CME日経平均先物(12月限)は17,300円でした。

(2)日経平均はとりあえず1万7,000円台を回復

日経平均週足:2015年1月5日―2016年11月7日

今年の日経平均は、おおむね15,000―17,600円のレンジ(水色の線の枠内)で動いています。8月以降は、さらに狭い16,000-17,000円のレンジ(赤い線の枠内)で動いていました。

10月後半には、世界的な投資環境の改善を映して、17,000円を超え、17,600円をトライする直前まで上昇していました。そこで飛び込んだのが、FBIのメール捜査再開のニュースでした。トランプ・リスク復活で、世界的に株が下がり、円高が進み、日経平均は4日に17,000円を割れました。ただし、FBIの捜査終了発表を受けて、7日にすぐ17,000円台を回復しました。

(3)大統領選の結果は、結果が出るまでわからない

本日の米大統領選でクリントン氏が当選すれば、日経平均は再び下値を切り上げていくと考えられます。ただし、選挙は水物です。クリントン候補とトランプ候補の支持率はまだ接近したままで、最終結果が判明するまで、楽観はできません。大勢は、早ければ日本時間の明日(9日)午後に判明する見込みです。

米大統領選の支持率推移:2016年8月1日―11月7日(日本時間23時)

(出所:米政治専門サイト「リアル・クリア・ポリティクス」)

10月28日のFBIのメール捜査再開発表を受けて、一時トランプ氏の支持率が急上昇、クリントン氏の支持率が急低下しました。その後、トランプ氏の支持率は反落していますが、クリントン氏の支持率は上昇していません。FBIの捜査終了の発表の仕方が、いかにも不自然なので、このニュースですぐにクリントン氏の支持率が回復するという流れにはなっていません。

この調査で見る限り、両者の支持率の差はまだ小さいままです。本日の選挙で、浮動票がどちらに動くかにより、結果はどうなるかわかりません。

(4)いかにも後味の悪い幕切れとなったFBIのメール捜査

FBIが大統領選までわずか11日前のタイミングで、ヒラリー・クリントン大統領候補の私用メール問題の捜査を再開すると発表したのはきわめて異例でした。それが、2日前になって急きょ訴追せずと発表したのもまた、異例です。FBIの真意は何でしょう?

メール内容に問題がないとすぐにわかることならば、10月28日に捜査再開を発表したことはきわめて軽率だったことになります。本当にそうなのでしょうか?

米司法省はFBIに対し、大統領選直前の捜査再開発表は、「大統領選に影響を与える行動を禁止するFBIの規定に違反」と警告しています。多方面から「大統領選でトランプ候補を優位にするな」とFBIに政治圧力がかかり、FBIがそれに屈したと解釈されかねない状況とも言えます。米国民もこの決着にすっきりしないものを感じているかもしれません。

クリントン候補のメール問題で、焦点となっているのは何か?

問題になっているのは、ヒラリー・クリントン氏が国務長官時代に、公務にかかる交渉を私用メールで行っていたことです。公務にかかる機密事項は、公的メールでやらなければならないという規定に違反しています。

公的メールに書けないような不適切な内容が、私用メールに書かれている可能性があると疑われていました。メール疑惑については、全米でベストセラーとなり映画化もされたピーター・シュヴァイツァー氏の著作「クリントン・キャッシュ」に詳述されています。「クリントン・キャッシュ」では、ヒラリー・クリントン氏が国務長官時代に地位を利用して、外国政府や海外機関から献金を受け取り、便宜をはかったとされています。

米国の選挙法では、外国政府や海外企業から献金を受け取ることが禁止されています。「クリントン・キャッシュ」の内容によると、クリントン氏は、①クリントン財団という慈善団体への寄付金、および、②クリントン夫妻(ヒラリー・クリントン氏、および夫で元大統領のビル・クリントン氏)の講演に対する法外な講演料の支払いによって、海外から事実上の政治献金を受けていたとされています。

クリントン財団に海外から寄付金が入っていること、クリントン夫妻が高額の講演料を受け取っていること自体は事実と考えられ、そのことについては、クリントン氏は反論していません。

問題は、それが禁止されている海外からの政治献金に当たるのか、また、政治献金の見返りとしてクリントン氏が国務長官時代に、海外政府に便宜を図ったのか否かです。クリントン氏は、当然ながら、ここは否定しています。これは海外からの政治献金に当たらないし、海外に便宜をはかったこともないと主張しています。

果たして、真実はどうなのでしょう。クリントン氏の私用メールを徹底的に調べることで白黒はっきりすると考えられていました。ただし、FBIが「関連メールをすべて調べたが問題ない」と捜査終了を発表した以上、これで幕引きとなる可能性が高いといえます。

米大統領選挙動向については、下記もご参照ください。

特集名:2016年アメリカ大統領選と投資の世界市場をプロが先ヨミ!

リンク:https://www.rakuten-sec.co.jp/web/special/us_presidential_election2016/