執筆:窪田真之
今日のポイント
- 都心の不動産価格上昇を受けて、大手不動産株では、保有する賃貸不動産の含み益が拡大しつつある。
- 不動産ブームの中にあるにもかかわらず、大手不動産株は今年、大きく値下がりした。割安株を見直す流れの中で、大手不動産株にも見直し余地が出ている。
(1)都心の空室率低下、賃料の上昇続く
都心5区オフィスビルの賃料・空室率平均の推移:2013年1月―2016年10月
アベノミクスが始まった2013年以降、景気回復と異次元金融緩和の効果で、都心のオフィス需給は改善が続いています。
三鬼商事の調査によると、2013年1月に8.56%であった都心5区の空室率は、2016年9月に3.70%まで低下しています。平均賃料は、2013年中は低下が続き2013年12月に16,207円/坪となりましたが、そこから上昇に転じ、2016年9月には18,336円/坪となっています。
(2)大手不動産会社で、賃貸不動産の含み益が拡大している
賃貸不動産の含み益上位5社の含み益:2013年3月―2016年3月
銘柄名 | 三井不動産 8801 |
三菱地所 8802 |
住友不動産 8830 |
東日本旅客鉄道 9020 |
日本電信電話 9432 |
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2013年3月 | 8104億円 | 1兆9444億円 | 1兆15億円 | 8617億円 | 6576億円 |
2014年3月 | 9204億円 | 2兆676億円 | 1兆1326億円 | 9193億円 | 6244億円 |
2015年3月 | 1兆2159億円 | 2兆964億円 | 1兆2901億円 | 1兆207億円 | 7328億円 |
2016年3月 | 1兆5644億円 | 2兆1807億円 | 1兆6975億円 | 1兆2693億円 | 8522億円 |
日本では、賃貸不動産に巨額の含み益が存在する会社が多数あります。賃貸不動産の含み益上位5社を挙げたのが、上の表です。上位3社は、大手不動産会社ですが、4位はJR東日本(電鉄会社)、5位はNTT(通信会社)になっています。
近年、金利低下と不動産価格の上昇により、賃貸不動産の含み益がさらに拡大しつつあります。三井不動産には、2013年3月末で8,104億円の含み益がありましたが、2016年3月末にはそれが1兆5,644億円にまで膨らんでいます。
上位5社は、都市部に優良物件を保有しているため、いずれも、含み益が増加しています。含み益の増加率は、積極的に不動産開発を手がけていた三井不動産と住友不動産が特に高くなっています。
(3)REIT(リート:上場不動産投資信託)は堅調だが、不動産株は最近大きく下がってきていた
東証REIT指数と不動産株価指数の動き比較:2012年末―2016年10月26日
アベノミクスがスタートしてからの動きを比較したのが、上のグラフです。異次元金融緩和を導入したことを好感して、最初は、東証REIT指数・不動産株価指数ともに急騰しました。ただし、その後の値動きがまったく異なります。東証REIT指数は、高値圏で堅調な動きを続けていますが、不動産株価指数は、2015年後半から、大きく下がっています。
どちらも主に不動産に投資するものですが、利益の分配方針の違いが、パフォーマンスの差に出ました。REITは、毎期の利益をほぼすべて投資家に分配します。分配金方針のわかりやすさと、相対的に高い分配金利回りから個人投資家に人気となりました。ちなみに、現在、REITの平均分配金利回りは、約3.6%です。
一方、不動産株は、投資家への利益還元方針が不明瞭です。大手不動産会社で、配当金利回りが1%前後と低く、個人投資家の投資ニーズが高まりませんでした。2015年以降、外国人投資家が日本株を大幅に売り越す中で、不動産株は大きく値下がりしています。
ただし、今月に入ってから、不動産株は反発しています。割安株を見直す流れが不動産株にも波及しているものと思われます。
賃貸不動産の含み益増加率が高く、今期(2017年3月期)に、経常最高益を更新する見通しの、三井不動産と住友不動産には、短期的な投資妙味があるように思われます。
(4)傾斜マンションの建て替え問題は未解決
三井不動産・住友不動産ともに、傾斜マンションの建て替え問題が未解決です。三井不動産が横浜で分譲したマンション「LALA横浜」の建て替え関連費用は、総額で300~400億円かかると考えられています。設計施工を担当した三井住友建設、その下請けで杭打ち工事を担当し不正があった旭化成建材(親会社は旭化成)と費用を分担することになりますが、負担がどれくらいになるか、まだ決まっていません。
住友不動産が横浜で分譲したマンション「三ッ沢公園」でも、同じ問題が起こり、建て替え関連費用が100~200億円かかると考えられています。施工した熊谷組と、分担していくことになるでしょう。
このように傾斜マンション問題は未解決ですが、両社とも、足元での賃貸不動産含み益の増加を勘案すると、この問題が残っていても、株価は割安と判断されます。
(5)不動産業は市況産業であるが、不動産市況にやや過熱感があることは要注意
今は、不動産ブームのさなかにありますが、不動産市況は、循環的に上昇下落を続けていることには、注意が必要です。前回の不動産ブームのピークは、2007年でした。2007年にかけて大きく上昇した不動産市況は、2008年以降、一旦急落しました。そうした変化が、東証不動産株価指数に表れています。
東証不動産株価指数の動き:2005年9月―2016年10月26日
2013年から、不動産市況は上昇に転じ、今もブームは続いています。ところが、不動産株価指数だけは、先にピークアウトを織り込み、下落に転じています。
私は、短期的に売られ過ぎの割安株を見直す流れに乗って、大手不動産株の上昇が続くと予想しています。ただし、不動産市況に過熱感があることも意識され始めているので、2013-2014年の高値を超えていくことはできないと思います。