執筆:窪田真之

今日のポイント

21日に、日銀の金融政策決定会合の結果と、これまでの金融政策の「総括検証」が発表されます。今日は、発表直前ですが、その内容を、事前に窪田が検証します。

  • マイナス金利を導入しても、インフレ期待のない日本では、設備投資を活性化する効果はない。ただ、円高進行の抑制には一定の効果がある。
  • マイナス金利導入で、年金の財政が悪化。保険・銀行など金融機関の収益にもマイナス影響がある。一方、「日本国」は、国債の利払い負担が減少するので、恩恵を受ける。
  • 日銀は、追加緩和はマイナス金利深堀りを軸に考えると示唆。このため、21日にマイナス金利深堀りが発表されるとの思惑あり。追加緩和がないと円高が進む可能性も。

(1) マイナス金利導入の効果は?

日本銀行は、1月の金融政策決定会合で、マイナス金利の導入【注】を決定しました。これを受けて、日本の国債の利回りは大きく低下し、10年国債の利回りまでマイナスとなりました。

30年・10年・5年・2年国債の利回り推移:2016年1月4日―9月16日

金利をマイナスまで引き下げることで、設備投資の活発化を狙ったと言います。ところが、その後、設備投資は活発化していません。

インフレ期待がない中で、金利を引き下げても、設備投資は拡大しません。マイナス金利の導入で、30年国債の利回りまで大きく低下し、デフレ心理が拡大したため、設備投資マインドは一段と冷え込んでしまいました。

それでは、マイナス金利導入はまったく無駄だったのでしょうか?私は、マイナス金利を導入しなければ、さらに円高が進んでいたと考えられます。マイナス金利は、円高を抑えるには効果があったと考えられます。

円高防止がマイナス金利の主要な目的になっていることを、日銀も自覚していると考えます。ただし、対外的に、「円高を防ぐ(円安に誘導する)目的で、マイナス金利を深堀りする」とは言えないので、今回も、「マイナス金利は、いずれ設備投資拡大に効果を発する」と総括せざるを得ないと思います。

【注】マイナス金利の導入

民間の金融機関が日銀に新規に預ける当座預金の金利を▲0.1%とマイナスにしました。それまでは+0.1%でした。当座預金に年率0.1%の金利をつけていたのを、逆に0.1%の金利を取ることにしたものです。

日銀は民間の金融機関から国債などの債券を年間80兆円以上買い取る量的金融緩和を実施しています。国債の買い取りによって民間の金融機関が保有する資金を拡大することで、銀行融資が拡大し、民間の設備投資が活発化することを狙ったものです。

ところが、有望な貸出先のない民間銀行は、国債の売却代金をそのまま日銀の当座預金に預けて0.1%の金利を受け取っていました。日銀が民間金融機関から80兆円国債を買い取ると、民間金融機関が日銀に預ける当座預金がそのまま80兆円増加するような状態でした。新規に預ける当座預金に対しペナルティとなるマイナス金利を課すことで、民間金融機関が資金を日銀当座預金に滞留させずに、融資などに活用することを狙ったものです。

(2) マイナス金利導入の弊害は?

マイナス金利の弊害で最大の問題は、年金の財政悪化です。公的年金の一部は、国内債券で長期的に年率3%のリターンが得られることを前提として、資金計画を作成しています。マイナス金利が長期化すると、運用利回り低下によって財政状態が悪化し、年金給付の引き下げや掛け金の引き上げを検討せざるを得なくなる可能性があります。

企業年金でも、既に、長期金利の低下によって、積み立て不足の拡大の影響が出ています。

マイナス金利の弊害として、次に意識されるのは、保険・銀行など金融機関の収益悪化です。

黒田日銀総裁は、マイナス金利の弊害も認識していると率直に述べています。ただし、年金の問題にふれると日銀への批判が高まる恐れがあります。日銀の総括検証では、年金の問題にあまりふれず、金融機関の収益悪化をマイナス金利の弊害としてあげると思います。

(3)21日にマイナス金利深堀りは、発表されるか?

日銀は、これまで、サプライズ型(市場を驚かせる)の金融政策を行ってきました。緩和期待がない時に大型の緩和を行い、緩和期待がある時に行いませんでした。新たな緩和手段(マイナス金利など)を導入する際も、巧みに隠蔽し、発表してからサプライズを起こすやり方を採っていました。

その結果、日銀金融政策決定会合の発表後は、いつも為替や株が乱高下して、市場が荒れていました。日銀は今回、サプライズ型の金融政策の問題を率直に認め、金融政策の方向性について、市場と対話する姿勢を打ち出しています。

その中で、今回、「追加緩和はマイナス金利の深堀りを軸に考える」と示唆しています。このため、21日の金融政策決定会合でマイナス金利の深堀りが発表されるとの思惑が広がっています。現在、民間金融機関が日銀に新規に預ける当座預金にペナルティ金利(▲0.1%)が課せられていますが、それが、▲0.2%となるとの予想も出ています。

ただ、日銀は、いつマイナス金利を深堀りするかについて、何も言っていません。21日には何もしない可能性もあります。ただ、もし何もしないと、それがサプライズとなって、円高が進む可能性もあります。

(4)米FRBの利上げは実施されるか?

21日には、米FOMC(金融政策決定会合)の結果も発表されます。日本時間では22日午前3時の発表となります。私は、今回、米利上げは発表されないと考えています。8月の経済指標が冴えないからです。

ただし、FOMC声明文やイエレン議長の記者会見で、年内利上げの方向性が示唆されると予想しています。9月の利上げがなくとも、年内利上げの思惑が残れば、事前の市場予想通りなので、大きな波乱要因とはならないと思います。