執筆:窪田真之

24日の日経平均は、前日比99円高の16,597円でした。薄商いの中、大きくは上へも下へも動きにくい展開が続いています。為替が1ドル100円前後で推移しており、さらなる円高が進むリスクが残っていることが、日経平均の上値を抑えています。

私は、1ドル100円までで円高が一服するならば、日経平均は上値を目指すことができると考えています。1ドル100円を前提とするならば、今期(2017年3月期)の企業業績は、今後徐々に回復に向かうと予想しているからです。

(1)4-6月期は急激な円高が進んだ割りには輸出企業の業績は懸念されたほど悪化しなかった

アベノミクスの最大の功績は、異次元金融緩和により円安を進めたことと言われています。前期(2015年度=2016年3月期)と前々期(2014年度=2015年3月期)は、円安効果が企業業績を押し上げました。ところが、今期(2016年度=2017年3月期)は逆に、大幅な円高が業績を圧迫します。

平均為替レートの推移(ドル円):2013年度―2016年度

  2013年度 2014年度 2015年度 2016年度
1ドル当たり 100.22円 109.91円 120.04円 106.01円

(注:2016年度は4月1日から8月24日までの平均、楽天証券経済研究所が作成)

今期(2016年度)の平均為替レートは、8月24日まででは1ドル106.01円です。足元1ドル100円前後まで円高が進んでおり、このままの為替水準が続くと、今期の平均為替レートは2013年度の平均(1ドル100.22円)に近づいていきます。

ただし、日本の輸出企業は、海外現地生産が進んでおり、円高に対する抵抗力はかなりついています。海外現地生産の効果で、円安が進んだ2014年度・2015年度は「円安が進んでいる割りには輸出企業の業績改善は小さい」と言われましたが、大幅な円高が進んだ今期は、これまでのところ懸念ほど輸出企業の業績は悪化していません。

今期の第1四半期(4-6月期)の決算発表では、「大幅に円高が進んだ割りには、輸出企業の減益幅が小さい」との印象を市場に与えています。減益を発表した輸出企業が、その後株価が上昇している例が多いのは、減益幅が予想よりも小さかったことを評価するものです。その代表例が、トヨタ自動車(7203)です。

(2)トヨタ自動車の底力を感じさせた第1四半期(4-6月期)決算

トヨタの4-6月期業績は、前年比▲1,137億円(▲15%)の営業減益でした。円高が前年比で▲2,350億円の営業減益要因となっていますが、原価改善努力+900億円、営業面の努力(販売増など)+700億円などによって、営業減益幅を押さえています。

トヨタの北米部門だけで見ると、4-6月期は前年比+35%の営業増益でした。採算の良い大型SUVおよびピックアップトラックの販売が好調であることが貢献しています。北米だけ見ると、円高デメリットを吸収して好調を持続しています。

トヨタ自動車は第1四半期の決算発表時に、今期(2017年3月期)通期の業績見通しを下方修正しています。前提とする為替レートを、1ドル105円から100円に変更したことが、下方修正の主因です。

同社の営業利益増減分析によると、1ドル100円の前提では、円高により通期の営業利益が、前年比で▲1兆1,200億円のマイナス影響を受けます。1ドル105円を前提としていた時には、円高が前年比で▲9,350億円のマイナス要因でした。為替前提の変更により、円高のマイナス影響が1,850億円増加したことになります。

トヨタは今回、今期通期の営業利益を、前年比▲40.4%の1兆7,000億円から同▲43.9%の1兆6,000億円に下方修正しました。円高によるマイナス影響が1,850億円ある中で、コストカットや販売増で、下方修正幅を1,000億円まで縮小したわけです。

自動車産業は、円高で今期大幅な減益になりますが、販売好調が続く企業については、減益幅は「円高急伸の割りには」懸念された程には大きくないと言えます。

円高による今期経常減益幅の大きい5社

No コード 銘柄名 前期実績 今期予想 減益額 円高影響 前 提
1 7203 トヨタ自動車 29,834 17,800 ▲ 12,034 ▲ 11,200 100円/ドル
2 7270 富士重工業 5,770 4,100 ▲ 1,670 ▲ 1,586 106円/ドル
3 7201 日産自動車 8,623 8,000 ▲ 623 ▲ 2,550 105円/ドル
4 6301 小松製作所 2,049 1,450 ▲ 599 ▲ 320 105円/ドル
5 7261 マツダ 2,236 1,760 ▲ 476 ▲ 810 110円/ドル

(出所:各社決算説明資料、今期予想は会社予想)

(3)主要1377社の今期業績予想

東証一部上場3月決算主要1337社の今期(2017年3月期)業績予想

  7月25日時点 8月24日時点
連結経常利益(前年比) ▲ 1.3% ▲ 2.4%
連結純利益(前年比) + 8.3% + 7.2%

(出所:楽天証券経済研究所が作成。IFRS・米国基準採用企業は、連結税前利益を経常利益とみなして集計)

今期の企業業績は、連結経常利益で見ると減益見通しですが、連結純利益で見ると増益見通しです。日本では経常利益で業績動向を語ることが多いが、外国人投資家は連結純利益を見ます。外国人の目で見ると、日本の今期企業業績は、最悪期を脱し、回復に向かう見通しとなります。

ただし、第1四半期では、通期業績を上方修正する企業よりも、下方修正する企業の方が多く、第1四半期決算発表後に、今期の業績見通しは、下方修正となりました(上の表を参照ください)。

それでは、今後はどうなるでしょう。第1四半期決算で、トヨタは為替前提を1ドル100円まで円高にしました。ところが、まだ為替前提が1ドル105-110円のままの輸出企業も多数あります。今後、前提レートが1ドル100円に変更されると、輸出企業ではさらなる業績下方修正要因となります。

ただし、主要1377社トータルの業績で見ると、1ドル100円でも、今期の業績は下方修正にはならないと予想しています。円高のマイナスをカバーするプラス要因もいろいろあるからです。今期、米国経済が堅調に推移し、原油価格が安定することが前提となります。

下半期に見込む今期業績の上方修正要因の中でも大きいのは、資源安メリットの発現です。今期の減益要因として円高は大きいものの、今期の増益要因としては、原油など資源価格の安定が大きく寄与します。

資源価格急落は、資源を輸入する日本の景気・企業業績にとって本来プラスのはずです。ところが、前期(2016年3月期)は、資源急落があまりに急ピッチだったために、資源安ショックが日本の企業業績を大きく悪化させる要因となりました。

今期、このまま原油など資源価格が安定していると、資源安ショックのマイナス(資源権益減損や原料在庫の評価損)がなくなり、逆に資源安メリットが企業業績を押し上げる効果が出てきます。

(4)1ドル100円までの円高は織り込み済みだが1ドル95円は織り込んでいない

結論として、私は1ドル100円までの円高で済めば、ここから日経平均が大きく売られることはないと予想しています。今後、1ドル100円を割れる円高がないことが見通せるようになれば、日経平均は上値を追っていくと予想しています。そのためには、米国の利上げが視野に入ってくることが必要です。

ただし、9月が要注意です。9月の日銀金融政策決定会合で大規模追加緩和がなく、9月のFOMC(米金融政策決定会合)で利上げがないと、一時的にさらなる円高が進む可能性が残っているからです。9月の日米金融政策の結果発表を受けてさらなる円高が進む警戒感が残っているため、目先、日経平均は上値の重い展開が続きそうです。

11月の米大統領選でクリントン氏が当選し、12月の米FOMCで利上げが実施されることが視野に入るまでは円高圧力が続く可能性があります。