執筆:窪田真之
22日の日経平均は、前日比52円高の16,598円でした。1ドル100円台でやや円安が進み、日経平均は上昇したものの、日中は薄商いで小動きに終始しました。材料待ちで大きくは動きにくくなっています。日米金融政策が9月にどう動くか、あるいは、動かないか、それでドル円がどう動くか見極めるまで、日本株も方向感が出にくくなっています。
日本株をさらに動きにくくしているのが、日銀の年6兆円ETF買い付け宣言です。日経平均が大きく下がると、日銀の買いが出ると考えられるので、売りを仕掛けにくくなっています。一方、日銀は、日経平均を押し上げるようなETF買いはこれまでやっていないので、現時点では、上値追いの主体としては期待しにくくなっています。
(1)日本株ETFの買い主体として日銀の存在がどんどん大きくなっている
日本銀行は、これまで累計で約9兆円の日本株ETFを買い付けました。2015年から買い付けペースが上がっています。2016年7月の金融政策決定会合で年3.3兆円のETF買い取りを、年6兆円に増額することを決めましたので、2016年8月以降は、さらに買い付けペースが速くなる見込みです。
日本銀行による日本株ETFの累積買い付け額推移:2011年1月―2016年7月
ここから年6兆円のペースでETFの買い取りを続けると、保有残高は1年後に15兆円、2年後に21兆円、3年後に27兆円に達します。巨大な日本株の買い手となります。それだけに、「どのような買い方をするのか」に注目が集まっています。
(2)日経平均が「下がると買いを増やし、上がると減らす」パターンは維持されるか?
日本銀行のETFの買い方に、明確なルールはありません。これまでの買い方を見ると、日経平均が下がった時に買いを増やし、上がると減らす傾向が鮮明でした。
日銀のETF月次買い取り額と、日経平均の月次騰落率:2015年1月―2016年8月(22日まで)
年 月 | 買付額 | 日経平均騰落率 |
---|---|---|
2015年1月 | 3,443 | 1.3% |
2015年2月 | 1,322 | 6.4% |
2015年3月 | 2,464 | 2.2% |
2015年4月 | 2,907 | 1.6% |
2015年5月 | 2,170 | 5.3% |
2015年6月 | 4,431 | -1.6% |
2015年7月 | 2,592 | 1.7% |
2015年8月 | 3,020 | -8.2% |
2015年9月 | 2,556 | -8.0% |
2015年10月 | 336 | 9.7% |
2015年11月 | 2,870 | 3.5% |
2015年12月 | 2,583 | -3.6% |
2016年1月 | 3,185 | -8.0% |
2016年2月 | 2,640 | -8.5% |
2016年3月 | 672 | 4.6% |
2016年4月 | 3,228 | -0.6% |
2016年5月 | 2,301 | 3.4% |
2016年6月 | 4,462 | -9.6% |
2016年7月 | 2,928 | 6.4% |
2016年8月 | 2,288 | 0.2% |
ただし、年間6兆円買い付けるとなると、下がった時だけに買っているのでは、足りなくなると考えられます。これまでのように「下がったら買う」だけでなく、「日経平均を押し上げるような買い方もするようになる」という見方も出ています。
(3)8月に入ってからのETFの買い付けペースは、年6兆円ペースに足りない
年6兆円のETF買いを宣言した日銀が、8月に入りどのような買い方をするか、注目されています。今のところ、下がったら買いを増やし、上がると減らすパターンが概ね維持されています。
日銀による日々のETF買い取り額:2016年8月1日―22日
約定日 | "ETF買取額 (億円)" | "日経平均騰落 (円)" |
---|---|---|
8月1日 | 12 | +66 |
8月2日 | 359 | ▲ 244 |
8月3日 | 359 | ▲ 308 |
8月4日 | 719 | +171 |
8月5日 | 12 | ▲ 0 |
8月8日 | 12 | +396 |
8月9日 | 12 | +114 |
8月10日 | 719 | ▲ 29 |
8月12日 | 12 | +184 |
8月15日 | 12 | ▲ 50 |
8月16日 | 12 | ▲ 273 |
8月17日 | 12 | +149 |
8月18日 | 12 | ▲ 259 |
8月19日 | 12 | +59 |
8月22日 | 12 | +52 |
合 計 | 2,288 | +28 |
8月第1週(1-5日)は、円高急伸を受けて、日経平均が急落しました。この週、日銀は1,461億円のETFを買っています。「下がったら買い付けを増やす」これまでのパターンが維持されています。
8月第2週(8-12日)は、日経平均が急反発しました。上がったところではETF買いが無くなるのがこれまでのパターンでしたが、8月10日に、719億円の買い取りを行い、驚かれました。ここで、「日銀は日経平均が上がったところでも、買う」との思惑が広がりました。
ところが、8月10日以降は、ETFの大口買いを出していません。日経平均が少しずつ下がっているのに、8月22日まででは、大口買いはありません。その結果、8月は22日までで、2,288億円しか買っていません。8月1-22日の買い付けペースを1年間続けても、年3兆7,960億円の買いにしかなりません。年6兆円買うためには、どこかで買い付けペースを上げなければなりません。
(4)日銀の今後のETF買い方に関する思惑
日銀はどこでETFの買い取りを増やすのか、さまざまな思惑があります。9月に円高が進んで、日経平均が下がるリスクを警戒しているという考え方もあります。
9月に米利上げがなく、日銀が大規模な追加緩和を実施しなければ、円高が進む可能性があります。そこで、日経平均が下がったら、大規模な買い付けを実施するという見方です。
あるいは、機械的に、1ヶ月5,000億円くらいのペースで、淡々と買い付けを続けるという見方もあります。
いずれも、市場参加者の思惑に過ぎず、日銀がどういう買い方をするかは、今後の動きを見ているしかありません。