執筆:窪田真之

先週の日経平均は、1週間で130円上昇し、16,627円となりました。米経済指標・企業業績の改善が続き米国株(NYダウ・S&P500)が史上最高値を更新したこと、日本政府が近く大型の経済対策を発表する期待があること、一時1ドル107円台まで円安が進んだことが上昇の背景となりました。日経平均は21日に一時、16,938円まで上昇しました。

ところが、21日のロンドン市場のラジオ放送で、黒田日銀総裁による「ヘリコプターマネーは必要性もないし可能性もない」という発言が流れると、1ドル107円台にあった為替は1ドル105円台まで円高に反転し、それを受けて22日の日経平均は前日比182円安と売られました。

今週の日経平均で、注意すべきは、日米の金融政策の発表です。日銀が追加緩和を行うとの期待が最近の円安・日経平均上昇に効いていました。追加策が何もないと失望されて円高・株安が進む可能性もあります。また、政府が近く発表される経済対策への期待も、外国人投資家による日経平均先物の買い戻しを誘っていました。経済対策の中身が失望されると、再び、日本株が売られる可能性があります。

今週は、金融政策と財政出動の発表が波乱要因となる可能性に注意したいと思います。

(1)今週の政策発表:市場が期待するベスト・シナリオとワースト・シナリオ

ベスト・シナリオ

20兆円超の内容を伴う財政出動が発表されるとともに、日銀から、国債の買い増しが発表されれば、市場は好感すると思います。それが、日本の未来にとって、ベストシナリオとは思いませんが、少なくとも最近日経平均先物を買い上げてきた外国人の期待だと思います。

ワースト・シナリオ

見かけだけ20兆円超の景気対策が発表されても、真水【注】が3兆円程度しかないと失望される可能性があります。

【注】真水:国の経済対策のうち、政府が直接負担する財政支出のこと。公共投資・減税など。単年度のGDPを直接押し上げる財政出動。

安倍政権は、目先の景気と株価を支えるために、とにかく財政出動の見かけを大きくしようと焦っているように見えます。長年にわたって要望が出され、懸案になってきた公共投資をこの機会に一気に実行するならば即効性が期待されますが、そうではありません。急に公共投資のアイディアを募集しても、すぐには案件が積み上がりません。そこで、即効性のない複数年にわたる対策をいろいろ積み上げて見かけ20兆円超の経済対策としても、短期的な景気底上げに効果が小さいことは、すぐに見透かされてしまいます。

最近は、即効性のあると考えられている公共投資ですら、計画をたててもなかなか実行されない実態があります。建設労働者の不足が問題になっている面もあります。また、地方自治体と共同でやる公共事業については、政府の補助金があっても、地方自治体が財政難で動けない場合もあります。

安倍首相は、伊勢志摩サミットで、欧米諸国に大型の財政出動で協調を要請しました。欧米諸国から同意は得られませんでしたが、それでも提唱国の日本は、大型財政出動で先陣を切る必要があります。少なくとも、外国人投資家には、日本が大型の財政出動をすると期待を広めた効果があります。内容のともなった財政出動を発表できないと失望される可能性があります。

今週29日(金)のお昼ごろに予定されている、日銀の金融政策決定会合にも注意が必要です。日銀が実施しているマイナス金利政策に弊害があることもわかり、日銀は動きにくくなっています。今回は、財政出動に景気対策を任せるということで、日銀は動かない可能性もあります。あるいは、見かけだけの追加緩和で実効をともなわないものを発表する可能性もあります。

ヘリコプターマネーは財政法で禁じられているので、実行できないことはわかっていますが、それでも、「ヘリコプターマネー並みの」追加緩和実施への期待が勝手に一部外国人投資家の間に広がっているだけに、29日は、日銀がどのような内容を発表しても、失望されるリスクがあります。

財政出動が見かけ倒しで、加えて、日銀の金融政策でも特に何の追加策も出なければ、日経平均先物を買い上げてきた短期筋が、売りに転じる可能性があります。

(2)米金融政策の発表にも注目

今週27日(水)に、米FOMC(金融政策決定会合)の結果発表があります。日本時間では28日(木)早朝の発表になります。米景気の回復基調が確認されつつあり、年内に米利上げが見込まれますが、ブレグジットが決まったばかりの7月は、利上げが見送られると考えられています。利上げ見送りは円高要因ですが、事前にコンセンサス通りなので、サプライズ(驚き)とはなりません。FOMC声明文で、先行きの利上げの可能性を示唆する表現があれば、為替への影響は限定的と考えています。

為替市場への影響が大きくなる可能性があるのは、29日(金)の昼頃になる、日銀金融政策決定会合のほうと考えています。

(3)第1四半期(4-6月期)決算発表に注目

今、日本では、ちょうど4-6月期決算の発表が始まったところです。最近、大幅減益を発表した企業の株が大きく上昇するケースが増えてきていることに注目しています。大幅減益でも、株価が先んじて下がっていて、先行き回復の期待が出ていると、株価は上昇します。

日本の企業業績が、1-3月を底として徐々に持ち直す期待が出ていることが影響していると見ています。米景気が1-3月を底として回復しつつあること、昨年10-12月に悪化した中国景気が持ち直していること、足元、原油価格が反発していること、為替が円安に戻ってきていることなどが、日本の企業業績の持ち直しに寄与します。

今週は、金融政策・財政出動の発表で、一時的に円高・株安が進む可能性もありますが、下がったところは買い場になると考えています。円高が進んでも、1ドル105円前後までならば、今期の企業業績へのマイナス影響は、織り込み済みになると考えています。

ただし、1ドル105円を超える円高が進む場合には、企業業績の下方修正幅が大きくなるので、注意が必要です。