執筆:窪田真之

6日の日経平均は、前日比290円安の15,378円でした。ウニクレディトなどイタリア大手銀行の財務が悪化していることへの不安から、5日の欧州株が下落した流れを受けました。ドイツ銀行の財務が悪化しつつあることも、不安材料となっています。

イタリアの銀行財務の問題から日本経済が直接受ける影響は、必ずしも大きくありませんが、欧州不安をきっかけに為替市場で、「リスク・オフ」の円買いが進んだことが、日本株が大きく売られる要因となりました。6日は、一時1ドル100.16円まで円高が進みました。

なお、7月7日の日本時間午前7時現在、為替は1ドル101.38円、CME日経平均先物(9月限)は15,370円です。今日は、ついに7,504億円まで減少した裁定買い残高について、コメントします。

(1)リーマンショック以来の低水準に沈んだ裁定買い残高

東京証券取引所が6日に発表した7月1日現在の裁定買い残高は7,503億円と、リーマンショック時以来の低水準になりました。

日経平均と裁定買い残高の推移:2006年4月3日―2016年7月6日

(出所:東証データから楽天証券経済研究所が作成)

(2)裁定買い残高の意味

裁定買い残高の変化は、主に外国人投資家による、日経平均先物の投機的な売買動向を表しています。外国人投資家が先物を買うと、先物が現物に対し一時的に割高になるので、裁定業者(主に証券会社)が、先物売り・現物買いの裁定取引を実行します。すると、裁定買い残高が増えます。

今の説明の意味がわからなかった方は、以下の結論だけ覚えてください。

外国人投資家から先物買いが入ると、裁定買い残高が増加する。

一方、外国人投資家が日経平均先物を売ると、先物が現物に対し一時的に割安になるので、裁定業者が先物買い・現物売りを実行し、裁定取引を解消します。すると、裁定買い残高が減少します。

今の説明がわかりくい方は、結論だけ覚えてください。

外国人投資家から先物売りが入ると、裁定買い残高が減少する。

今の日本株の短期的な動きを決めているのは、外国人です。とりわけ、足の速いヘッジファンドなどによる先物売買が、短期的な急騰急落に大きく影響しています。したがって、裁定買い残が増加するとき日経平均は上昇し、裁定買い残が減少するとき日経平均が下落する傾向が鮮明です。

上のグラフで見ると、リーマンショック時(2008年10月)や、円高ショックに見舞われている現在(2016年6月)の裁定買い残高の減り方が急です。

その意味で、今はリーマンショック並みの規模で外国人が日本株を売ってきているといえます。

(3)投資判断に与える意味

裁定買い残高が大きい時は、外国人による先物の投機的買い残高が大きいので、何らかのきっかけで、外国人が投機的ポジションのアンワインド(売り埋め)に動くことを警戒していなければなりません。

裁定買い残高が1兆円を割っているときは、外国人の投機的買いポジションはほとんど整理され、逆に投機的な売りポジションが入っている可能性もあります【注】。

【注】裁定買い残高はゼロにはならない

裁定買い残高は、外国人の投機的な先物買いをきっかけに作られるものばかりではない。投機でない先物買い(投資信託の買いヘッジなど)も裁定買い残高を増加させる。裁定買い残高が1兆円を割れている時は、経験的には、外国人の投機的買いはほとんど整理されていると考えられる。

裁定買い残高が1兆円を割れたということは、ここからは、リーマンショック並みの危機が起こらない限り、さらに外国人が先物を売りこんでくる可能性は低いと考えられます。

ただし、リーマンショック並みの世界的な危機が起これば、裁定買い残高が2,000~3,000億円まで減ることもあり得ます。裁定買い残高だけを見て、相場の転換点を知ることはできません。