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英EU離脱のソフトランディング・シナリオ
窪田 真之
3分でわかる!今日の投資戦略
楽天証券経済研究所の窪田真之と香川 睦が、日本株市場の分析と投資戦略を毎営業日レポートします。 ともに元ファンドマネージャーであり、国内外のマーケット動向に精通。運用者、分析者と…

英EU離脱のソフトランディング・シナリオ

2016/6/30
29日の日経平均は243円高の15,566円でした。ブレグジット(英のEU離脱)可決ショックで急落した世界の株式が、足元、落ち着いてきたことを反映し、日経平均も続伸しました。
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執筆:窪田真之

29日の日経平均は243円高の15,566円でした。ブレグジット(英のEU離脱)可決ショックで急落した世界の株式が、足元、落ち着いてきたことを反映し、日経平均も続伸しました。

英国のEU離脱がどういう形になるのか、2つのシナリオが考えられます。1つは、英国とEUがけんか別れとなる「ハードランディング・シナリオ」です。もう1つは、話し合いによって双方が受ける経済的ダメージが最小となるような形を見つける「ソフトランディング・シナリオ」です。6月24日は、ハードランディングへの恐怖から、世界の株式は急落しました。その後、ソフトランディングの可能性もあることがわかり、世界の金融市場はやや落ち着きを取り戻しています。

(1)英国は本当にEUを離脱するか?

わざわざ国民投票まで実施したわけですから、投票結果に従い、英国は離脱手続きを速やかに開始すると考えるのが普通です。ただ、国民投票の結果に法的拘束力はありません。2015年7月にギリシャで行われた国民投票【注】では、チプラス首相が投票結果と逆の選択をしました。

【注】EUが求める緊縮財政への賛否を問う国民投票を実施。投票結果は、緊縮財政受け入れに反対61.3%、賛成38.7%でした。ところが、チプラス首相は、その直後に国民投票の結果とは反対の「緊縮受け入れ」を決断しました。

EU離脱を問う今回の英国民投票では、賛成51.9%・反対48.1%と、僅差で離脱を可決しました。ところが、離脱に投票した英国民に、「離脱に投票したことを後悔」の声も広がっており、再投票を求める署名が多数【注】集まっています。

【注】署名数が正確にわかりません。一時「400万人に迫っている」と報道されていましたが、1人で3万回以上署名したという不正も見つかっており、実数がわかりにくくなっています。ただ、再投票を求める署名が多いことは、事実です。

こうした状況を受けて、すぐ離脱をEUに通告していいものか、英政府に迷いがあります。英国の世論がどう変化するか、英政府はしばらく様子見しながら考えることになりそうです。

(2)離脱交渉がまとまらないまま、2年後にEU離脱が確定するハードランディング・シナリオ

EUからの離脱プロセスを定めるリスボン条約50条では、英政府がEUに離脱を通告してから、離脱の条件交渉を始めると規定されています。離脱の条件を、英国とEUで話し合います。とても難しい交渉で、交渉は長期化が予想されます。

交渉を開始してから2年たっても話し合いがまとまらず、交渉期間の延長が合意されない場合は、その時点で、英国へのEU法の適用が停止されます。これが、ハードランディング・シナリオです。

英国とEUの間に、新たに包括的な自由貿易協定を結ぶことなく離脱が決定すると、英国とEUの間の貿易には、すべて関税がかかるようになります。人の行き来も遮断されます。そうなると、英国経済もEU経済も、深刻なダメージを受けることになります。こうなると、英国では、離脱に反対していたスコットランド・北アイルランド・ロンドン市などで、英国からの独立を求める運動が広がると考えられます。

英国に積極的に投資してきた日本企業は、ハードランディングの可能性が残るうちは、英国への新規投資を停止せざるを得ません。最終的にハードランディングが確定すれば、英国から脱出を図らざるを得なくなります。

(3)ソフトランディング・シナリオが実現するためのハードル

EU離脱の条件交渉で重要となるポイントに、以下の①―⑤があります。交渉は難航するでしょうが、相互に妥協して交渉をまとめることができると、ソフトランディングの可能性が出ます。

英国・EU間の人の移動の自由について

年間30万人もの移民が英国に流入していること、そのうちの半分がEU域内から来ていることに、英国民の不満が高まっています。離脱派の主張を入れるならば、EUからの移民や出稼ぎを制限する必要があります。ただし、そうなると、困る人が英国の残留支持派に多数います。たとえば、ロンドン市もそうです。EUから優秀な人材が取れなくなると、国際金融都市としての競争力が低下します。

英国民投票で、離脱派と残留派の差はわずかだっただけに、英政府は、残留派と離脱派の両方の主張を考慮して、EUと交渉しなければなりません。移民と出稼ぎを制限する方法を、EUと交渉することになると考えられます。

移民に対する反感は、EU主要国全般に広がっています。これになんらかの形で対処をしないと、反移民・反EU勢力がEU内にどんどん拡大することになりかねません。英国が、「移民・出稼ぎに対する一定の制限」だけを目指して交渉するならば、EUと合意できる可能性もあると思います。

英国・EU間のモノの移動の自由について

英国・EU間の貿易取引に関税がかかるようになると、英国にもEUにも深刻なダメージが及びます。そうならないように、英国・EU間で、新たに包括的な自由貿易協定を結ぶことは、両者にとってメリットがあります。その意味で、自由貿易協定の締結交渉は進み易いと考えられます。EU加盟の英国を除く27カ国と個別に交渉すると、時間がかかり過ぎるので、EU諸国全体と、包括的な協定を結ぶことを目指すと考えられます。EUは、本音では、英国との貿易関係をそのまま維持したいわけですから、交渉がうまく進む可能性はあります。

ただし、EUには複雑な事情があります。EUを離脱する英国に、無条件で加盟国の特典(人とモノの行き来の自由)をすべて残すわけにはいかないのです。そうなると、EU加盟の主要国に、英国だけを特別扱いすることへの不満が高まるからです。

英国に、これまで通り、EUへの拠出金を負担させるなどの条件を課し、英国がそれを呑むならば、包括的協定の締結を進めるという形で、交渉を進めることになるでしょう。

EUへの負担金

ドイツやフランス、英国などが、EUへの拠出金の多くを負担しています。英国は、これまでに負担金が多い割りに恩恵が少ないと、EUに負担金削減を、繰り返し求めています。EUは、英国を繋ぎ止めておくために、英国だけに負担金の一部返還制度を作っています。英国は結果として、経済規模の割りには、返還金差し引き後の負担金の額が少なくて済んでいます。英国が、離脱後、この負担金をまったく支払わなくなるのならば、EUは、英国にEU法の特典をそのまま認めることはできなくなります。離脱後も、なんらかの形で、英国が負担金を拠出することを、EUは求めてくると考えられます。

ここが、非常にむずかしい交渉となります。英国は、なんらかの形で負担金を支払い続けることで、EUとの経済関係を維持することを目指すと思います。その時、英国内の離脱派をどこまで説得できるかが鍵です。国民投票で可決したのは、「EUを離脱すること」だけで、具体的な条件まで投票で決めたわけではありません。人やモノの行き来の自由や、負担金を残すことで、EU離脱の効果を実質的に骨抜きにすることは、可能です。英国内の、離脱派を残留派、双方の主張のぶつかりあいを経て、どこまで離脱の実効を「骨抜き」にするか、英政府は手探りしながら、EUと交渉していくことになるでしょう。

英国内の世論もまとまらず、EU内の意見統一もできなければ、英国の離脱交渉は、2年どころか、延長されて5年以上かかるとの見方もあります。

EUの意思決定に参加する権利、新規加盟国に対する拒否権が鍵

EUを離脱する英国に、EUの意思決定に参画する権利がなくなるのは当然です。ただし、EUへの負担金が残り、離脱の実効が骨抜きになる場合は、英国としては、EUの意思決定に参画する権利も一定範囲で、確保するよう主張せざるを得ません。

特に、重要なのは、EUへの新規加盟国に対する拒否権です。トルコやウクライナをEUに加盟させようとする動きが、EU内にあることが、英国内で重大な懸念を生じています。EU内には、ロシアへの対抗上、ウクライナとトルコをEUに取り込むことを重要とする議論があります。ただし、英国内のEU離脱派は、これを重大な脅威ととらえています。

財政状態の悪いウクライナをEUに加入させれば、ギリシャと同様の支援を行う必要が生じます。そうなると、将来、英国の負担も増す可能性があります。トルコをEUに加盟させると、トルコ在住のイスラム教徒が、英国に入国する可能性が高まるとの懸念もあります。トルコからの移民や、出稼ぎが増えることに、英国内の離脱派は不安を感じています。

英国内のEU残留派は、EUに残留する限り、トルコの新規加盟を阻止する拒否権が英国にあると主張してきました。ところが、EUを離脱すると、その権利はなくなります。EU離脱後も、EUへの負担金を含め、EUと密接な経済関係を維持する場合、EUの意思決定に、一定の拒否権を確保することは、EUとの交渉での重要なポイントとなります。

EUサイドとしては、EUを離脱する英国に、EU内の意思決定に拒否権を持たせるのは言語道断となります。交渉は、長期化が予想されます。

EU内のパスポート制度の適用

ロンドンで営業認可を取得した金融機関は、現在、EU域内で自由に支店開設など営業活動が行える。EU内のパスポート制度の恩恵を受けるからです。ところが、英国がEUを離脱すると、その恩恵がなくなります。そうなると、ロンドンを拠点とする金融機関は競争力を失い、ロンドンの国際金融都市としての競争力は低下します。ロンドン拠点の金融機関は、フランクフルト(独)や、ダブリン(アイルランド)に拠点を移す動きが出るかもしれません。

この問題は、簡単には解決できません。「英国はEUを離脱するが、ロンドンだけ特別区としてEU域内と同等の地位を維持する」という交渉が進めばいいが、そんな虫のいい話をEUが呑むとは思えません。

(4)英国・EUの離脱交渉が10年を超えるという極論にも現実味

難問が多すぎて、EUとの離脱交渉が2年でまとまるメドはありません。ただし、2年の交渉期限が切れて、そのままハードランディング離脱となることは、英国もEUも避けようとするでしょう。

そうなると、だらだらと5年10年にわたり、離脱交渉が続くという可能性もないとは言えなくなります。その内に、英国でもう一度、国民投票を実施しようとの機運が高まるかもしれません。

英国のEU離脱可決で、世界の金融市場は一時的に、ハードランディング離脱を織り込みにいきました。これからは、ハードランディングとソフトランディングのどちらに向かっていくか見ながら、世界の金融市場は動いていくことになるでしょう。結論が出るのに最低で2年、場合によってはさらに長い年月がかかりそうです。

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