執筆:窪田真之

14日の日経平均は、160円安の15,859円となりました。6月23日に行われるイギリスの国民投票で、EU(欧州連合)離脱が可決される懸念が広がり、欧米株の下落が続いている流れを受け、日経平均も続落しました。世界的なリスク・オフ・ムードの復活を受け、安全資産として円が買われ、1ドル105円台後半まで円高が進んだことも、日本株売り材料となりました。

15日の日本時間午前6時現在、為替は1ドル106.08円、CME日経平均先物(9月限)は15,775円となっています。欧米株式はイギリスのEU離脱リスクが高まったことを嫌気して続落しています。

今日は、昨日に続き、イギリスのEU離脱リスクについて解説します。読者からいただいた質問にお答えします。

(1)英国のEU脱退リスクが高まった

イギリスの世論調査では当初、残留派が多数を占めていたのですが、国民投票が近づくにつれ離脱派が増えてきています。13日に発表された最新の世論調査では、離脱支持派の割合は53%と、残留派の47%を6%も上回っています。離脱支持が過半数を占める世論調査が複数出たことから、離脱が現実のものとなりつつあると考えられ、欧州株の下げに拍車がかかりました。

昨日の私のレポートで、「英国がEUを離脱すると何が起こるか?」のところで、「まず、英国経済が深刻なダメージを受ける。EUにも深刻なダメージが及ぶ。EUだけでなく、世界経済全体にマイナス影響が及ぶリスクがある。英国のEU離脱リスクへの意識が、世界的な株安を招いている」と書いたところ、多数の読者の方から、本レポートのタイトルである「英国民が考える離脱メリットは何か」というご質問をいただきました。

今日は、それに回答します。

(2)EU離脱を望むのに、経済的理由と心情的な理由がある

英国民がEU離脱を望むのには、経済的理由と、心情的な理由があります。まず、経済的な理由から解説します。もっとも大きい不満は、EUに巨額の負担金をとられていることです。

EUに取られる巨額の負担金に英国民の不満が蓄積している

EU運営に必要な予算に対し、EU各国に負担が割り振られています。負担は、経済力の強い国が大きく、経済力の弱い国が小さくなる仕組みです。ドイツがもっとも大きな負担金を出しています。英国は、オランダ・フランスなどと並び、大きな負担金を強いられています。EUから離脱すると、負担金を免除されるので、離脱派はそのメリットを訴えています。

EU予算の約半分は、農業対策に使われています。英国は、寒冷な気候が影響し、農業は大きな産業ではありません。EUから受ける農業支援金はほとんどありません。負担金から支援金を差し引いた、ネットの負担額では、ドイツが最大ですが、英国も、同じように大きな負担を強いられています。

これに対し、経済力の弱い国は、負担金が少なく、多くの支援金をEUから受けています。ギリシャは、EUから受けている支援額が最大です。

EUはこれまで、ギリシャ支援に巨額の資金をつぎ込んでいます。将来、ギリシャに追加の支援が必要になった時、英国にも追加負担を求められる可能性があることが、英国民にとって頭の痛い問題となっています。ギリシャだけでなく、ポルトガル・スペインなど、EU内には、対外債務の大きい国が多数あります。英国民は、EUの低信用国を支えるために、英国の税金が使われることに、納得できないと考えています。

EUからの移民流入を規制できないことへの不満

EU内は自由に人が行き来できるようにルールが定められています。その結果、2000年代以降にEUに加盟した東欧諸国から、英国・ドイツなど西側諸国へ移民が増えています。英国にも、年25万人程度の移民が流れ込んでいますが、その約半分がEUからの移民です。

移民は低賃金の労働者となり、英国経済を支えてきましたが、最近は、移民増加のペースが高まったことにより、英国の低賃金労働者と競合が起こっています。さらに最近、欧州および米国で、移民が引き起こす犯罪やテロが問題化していることも影響して、英国を含め、欧州各国で反移民運動が広がっています。

英国のキャメロン首相は、EU改革の一環として、移民への社会福祉を制限すること、EU内から英国への移民流入を制限するルールを作ることを、EUに提案しました。社会福祉の制限は承認されましたが、移民制限のルール作りは承認されませんでした。このままでは、EUからの流入する移民に歯止めがかからなくなるとの危機感から、離脱派は、英国民に離脱支持を訴えています。

欧州では、内戦が続くシリアから大量の難民が流入していることも問題もなっています。イギリスは、EU外の国(シリアなど)から直接イギリスに難民が入っていることは規制できますが、一旦EUに入国を認められた難民が将来EU経由でイギリスに流入する可能性は排除できないとの懸念もあります。

12日に米国で起きた銃乱射事件も、投票に影響する可能性があります。史上最悪となる50人の死者が出た銃乱射事件の犯人は米国生まれのイスラム教徒ですが、両親がアフガニスタンからの移民であったからです。米大統領選では、イスラム教徒の入国禁止を主張する共和党のドナルド・トランプ氏が、改めて入国制限の必要性を説きました。イギリスでは、移民制限を訴える離脱派を勢いつかせる結果となっています。

(3)イギリス人が心情的にEUに反感を持つ理由

英国には、大陸欧州に先んじて市民革命や産業革命を遂行してきた歴史があります。誇り高きイギリス人の言葉の節々に、EUを実質的に支配するドイツへの反感が見え隠れしています。

離脱支持派の演説には、「EUに支配されない真の独立を勝ち取ることが重要」、「EU残留を可決することは、EU官僚に対し無条件降伏を表明するのと同じ」、「EUが国家を超えた国家としてイギリスに君臨するのを許すな」など、大衆の感情をあおる表現がふんだんに散りばめられています。

EUを離脱すると、短期的に英国に深刻なダメージが及ぶことは、離脱派もわかっていると思います。それでもなお英国では、EUを離脱した方が長期的には経済的にもメリットがあるとの意見が増えています。EUの過重債務国を無制限に支えなければならなくなる不安と、移民流入増加への不安が、離脱を望むイギリス人を増加させています。それにドイツに対する反感が加わって、離脱が可決されかねない状況が起こっています。

ただ、過去の英国選挙では、事前の世論調査と異なる結果が出たことも多々あります。6月23日の投票結果が出るまで、思惑で世界の株式が乱高下が続く可能性があります。