執筆:窪田真之

1日の日経平均は、前日比279安の16,955円でした。1ドル110円割れまで円高が進んだことが嫌気されました。この日、消費税増税の延期が正式に発表されましたが、これは織り込み済みで、材料となりませんでした。同時に財政出動を伴う経済対策が発表されるとの期待もありましたが、安倍首相は経済対策を「この秋講じる考え」と語りました。1日の経済対策発表を期待していた向きには肩透かしとなりました。

1日の海外市場に入り、1ドル109円台前半へさらに円高が進んでいます。今月は、為替を動かすイベントがたくさん控えており、円高が再燃するリスクもあります。足元の日経平均は16,500-17,000円でやや膠着していますが、いずれ円高または円安に大きく動き出すときに、日経平均の動きも大きくなりそうです。

なお、2日の日本時間午前6時30分現在、為替は1ドル109.52円です。同時刻のCME日経平均先物(6月限)は16,850円です。

今日は、為替に影響を与える可能性がある今月のイベントについて、まとめました。

(1)日経平均は16,500―17,000円のレンジに収束しつつある

日経平均週足:2015年1月4日―2016年6月1日

(出所:楽天証券マーケットスピードより筆者作成)

上の週足チャートでピンク色の矢印をつけたところをご覧ください。日経平均は5月31日に、1ドル111円台まで進んだ円安を好感して、17,234円まで上昇しました。三角もち合いの上抜けを試した形です。ところが、6月1日は1ドル110円割れまで円高が進んだことを嫌気し、16,955円まで下落しました。三角もち合いの上値抵抗線できっちり打ち返された形です。円安トライが続かなかったので、日経平均も再び三角もち合いのレンジ内に戻された形です。

ただし、上のチャートを見ていただくとわかる通り、三角もちあいは、徐々に狭いレンジに収束しつつあります。何かきっかけがあれば、上か下へ抜ける時期が、近づいている印象です。鍵を握るのは、為替です。1ドル109-110円中心のもち合いから円安方向へ抜け出すか、円高方向へ抜け出すかにより、日経平均の動きも決まりそうです。

(2)円高再燃のリスクはまだ払拭できない

ドル円為替レート週足:2016年1月1日―5月27日

(出所:楽天証券マーケットスピードより筆者作成)

上の週足チャートを見るとわかる通り、まだ13週・26週移動平均線とも円高方向を向いています。足元1ドル111円まで円安を試しましたが、その後、円安の勢いがやや落ちつつあります。

(3)ドル円為替を動かす6-7月中のイベント

日程が決まっている主要なものだけ、以下に掲げます。

  • 6月2日:米ADP社が発表する5月のADP雇用統計→強ければドル高(円安)要因

    米労働省の発表する雇用統計と似た方法で「非農業者部門の雇用者増加数」を推計し、労働省発表の1~2日前に発表しています。労働省が発表する「非農業部門の雇用者増加数」の先行指標とみなされています。ちなみに、4月のADP雇用統計での非農業者部門の雇用者増加数は15.6万人増で、労働省発表の16万人増とほぼ同じでした。集計対象が同じではないので、もっと差が大きくなることもあります。ただし、方向性(増加・減少)は概ね一致しているので、先行指標として注目されています。
  • 6月3日:米労働省が発表する5月の雇用統計→強ければドル高(円安)要因

    米国の短期的な景況変化をよく表す「非農業者部門の雇用者増加数」が特に注目されています。4月の速報値が前月比16万人増と、景気好調と判断される20万人増を下回っていたことが、ネガティブ視されました。5月は改善が見込まれていますが、事前の市場予想は17万人増と、20万人増には届かない予想となっています。よほど強い数字が出ない限り、6月の利上げはなく、7月に利上げが実施されるというのが、現時点での市場コンセンサスとなっています。
  • 6月14-15日:米FOMC(金融政策決定会合)→利上げあればドル高(円安)要因

    利上げの有無が発表されます。利上げがなくてもサプライズとはならないが、その場合、FOMC声明文の中身が重要となります。7月にも利上げがあることを示唆する内容かどうかが注目されます。
  • 6月15-16日:日銀金融政策決定会合→追加緩和あればドル高(円安)要因

    追加緩和の有無が注目されています。黒田総裁は、必要なときに追加緩和に動くとの発言を変えていないことから、6月にも追加緩和があるとの見方が出ています。ただし、日銀が導入したマイナス金利に弊害が多いことがわかってきており、追加策の発動は難しいとの見方もあります。
  • 7月8日:6月の米雇用統計
  • 7月18-21日:米共和党全国大会→トランプ人気が高まればドル安(円高)要因

    ドナルド・トランプ氏が、11月に行われる米大統領選挙の共和党候補者に、正式に指名される見通しです。トランプ氏は、ドル高を招く利上げに反対で、利上げを実施した米FRBを批判していることから、トランプ氏の支持率が高まることは、ドル安(円高)要因となります。
  • 7月26-28日:民主党全国大会→クリントンの支持率が高まればドル高(円安)要因

    ヒラリー・クリントン氏が、民主党の大統領候補者に正式に指名される見通し。トランプ氏と同様に、日本の円安誘導を批判しているので、クリントン氏が大統領に近づいても、円安材料とはならないとの見方もあります。ただし、クリントン氏は、トランプ氏ほど強烈なドル安誘導論者ではないこと、また、民主党はこれまでの日本の円安誘導を容認していたので、民主党政権が続く見通しとなることは、円安要因と考えられます。
  • 7月26-27日:米FOMC
  • 7月28-29日:日銀金融政策決定会合