執筆:窪田真之

31日の日経平均は、166円高の17,234円となりました。出来高は低水準ですが、日経平均は順調に上昇中です。安倍首相が消費増税延期を表明したこと、米景気回復を示す指標が増え、円安が進んでいることが好感されました。まだ確信は持てませんが、消費増税の延期発表を受けて、外国人投資家の一部が日本株の組み入れを引き上げた可能性もあります。

今日は、日本の労働需給が引き締まってきたこと、日本もサービス業優位の時代が続きそうであることについて、コメントします。

(1)有効求人倍率が1.34倍に上昇、完全失業率は3.2%と低水準を維持

厚生労働省が31日に発表した4月の有効求人倍率(季節調整値)【注】は1.34倍と、24年5ヶ月ぶりの高水準となりました。企業の求人が増えたこともありますが、それ以上に、少子化の影響で、求職者数が減ったことが有効求人倍率の上昇につながっています。

【注】有効求人倍率:求人数を求職者数で割ったもの。労働需給がひっぱくし、求人数が求職者を上回ると、倍率は1倍を超える。労働需給が悪化し、求人数が求職者数を下回ると、倍率は1倍を下回る。倍率が高いほど、労働者は職を得やすくなる。

なお、同日、総務省が発表した4月の完全失業率は3.2%でした。事実上「完全雇用」といえる状態が続いています。

完全失業率と有効求人倍率の推移:2012年1月―2016年4月

(出所:完全失業率は総務省、有効求人倍率は厚生労働省、有効求人倍率は新規学卒者を除きパートタイムを含むベース)

ただし、1.34倍という高い求人倍率は、常用的パートタイムなど非正規雇用を含む倍率です。正社員だけで見ると、有効求人倍率は0.85倍と1倍を割り込みます。

派遣社員など非正規雇用で働きながら正社員を目指す人が、正社員になかなかなれないことが社会問題となっていますが、有効求人倍率が1.34倍まで上がっても、すぐには改善されない可能性もあります。

有効求人倍率が高くなると、給与は上昇しやすくなるといいます。政府から民間企業に賃上げを要請するなど、賃上げに追い風が吹いているように見えます。不足が目立つ常用パートタイムの賃金は上がりつつありますが、正社員まで幅広く賃上げが波及するかは、わからない状況です。

(2)雇用のミスマッチが目立つ

有効求人倍率1.34倍は、あくまでも全体の平均を示しているにすぎません。内訳を見ると、企業が求める労働者と、労働者が望む職種には、へだたりが大きいことがわかります。以下は、職業分類別の有効求人倍率です。

職業別の有効求人倍率(季節調整なしの実数):2016年4月時点

  有効求人 有効求職 有効求人倍率
サービスの職業 581,639 217,757 2.67
専門的・技術的職業 446,772 262,794 1.70
販売の職業 286,117 173,268 1.65
運搬・清掃・包装等の職業 211,579 318,386 0.66
事務的職業 209,842 583,339 0.36
生産工程の職業 208,471 178,977 1.16
輸送・機械運転の職業 117,529 66,178 1.78
建設・採掘の職業 95,904 33,734 2.84
保安の職業 62,762 12,584 4.99
農林漁業の職業 16,359 13,682 1.20
管理的職業 8,934 7,336 1.22
分類不能   136,891 0.00

(出所:厚生労働省、平成23年改定の「厚生労働省編職業分類」に基づく区分)

上記を見ると、最も求人数が多いのが「サービスの職業」で、581,639人の求人があります。ところが、この分野での求職者数は、217,757人しかなく、有効求人倍率は2.67倍まではねあがっています。内訳を見ると、接客・給仕(3.56倍)、生活衛生サービス(3.27倍)、家庭生活支援サービス(3.12倍)、飲食物調理(2.81倍)、介護サービス(2.69倍)の有効求人倍率が高くなっています。

一方、最も求職者数が多いのは「事務的職業」で、583,339人の求職者がいます。ところが、この分野での求人は209,842人しかありません。このため、有効求人倍率は0.36倍と、きわめて低くなっています。内訳を見ると、一般事務(0.28倍)、事務用機器操作(0.58倍)の有効求人倍率が低く、外勤事務(3.36倍)は高くなっています。

(3)投資銘柄の選別で考慮すべきこと

日本の景気は停滞局面が続いています。ただし、雇用情勢は、とても強くなっています。人手不足は、構造的になってきています。

モノは大量生産されてすぐに供給過剰になりますが、良質なサービスは大量生産できないので、サービスは構造的に不足します。人手不足がこの傾向に拍車をかけます。医療・介護・保育・警備などの供給不足は相当長期化するでしょう。日本も、ようやくサービス化社会を迎えたといえます。

製造業は、高水準の利益をあげていても、収益が不安定なので、PERなどの株価倍率で高くは買われにくくなっています。一方、良質なサービスの大量供給に成功した、サービス業・情報通信業などの上場企業は、安定成長が可能になっていることから、PERで高い倍率まで買われるようになっています。

銘柄選別においては、時代の流れに乗っているサービス・情報通信などの銘柄と、サービス化社会への対応力をつけつつある製造業に、分散投資することが肝要と考えています。詳しくは、以下のレポートをご参照ください。

5月10日の3分でわかる!今日の投資戦略「二極化するPER サービス化社会への対応力を反映」