執筆:窪田真之

先週の日経平均は、1週間で98円上昇して16,834円となりました。強弱材料が拮抗し、上下とも大きくは動きにくい展開が続いています。日経平均の変動に、もっとも影響の大きい為替レートが、1ドル110円前後でやや膠着していることも、日経平均が動きにくい理由です。

今週の日経平均も、為替をにらみながらの動きとなりそうです。為替に大きな動きがなければ、17,000円を中心としたボックス相場となるでしょう。ただ、米景気が回復基調にあり、為替の円高リスクが低下していることを考えると、徐々に下値を切り上げる展開となる可能性もあります。

(1)先週出た相場材料を検証

伊勢志摩サミットが閉幕

特に、相場を大きく動かす議事内容はありませんでした。安倍首相は、世界経済が危機的状況にあることを強調し、財政出動で各国が協調することを提案しましたが、それには賛同が得られませんでした。メルケル独首相は引き続き、財政出動に否定的でした。オランド仏首相は、世界経済が危機的状況にはないと、現状認識に隔たりがありました。

日本の主張に配慮し、首脳宣言に「財政戦略を機動的に実施する」という文言が入りましたが、各国協調しての財政出動は、事実上、否決されたに等しいです。ただし、こうなることは、事前の交渉でわかっていたことです。

オバマ米大統領は、通貨安競争を批判し、日本の円安誘導をけん制しましたが、これも事前の予想通りです。

近年のサミットは何かを決める場というよりは、G7各国がそれぞれ自国の事情に応じて、意見を表明するだけの儀式になっています。意見の対立があっても、対立をきわだたせることなく、当たり障りない首脳宣言を採択するのが、慣例になっています。今回も、そうなりました。

各国が一致して賛同したのは、「EU(欧州連合)に残留することが英国の国益になる」というキャメロン英首相の主張です。英国では、6月23日にEU離脱の是非を問う国民投票が実施されます。賛否が拮抗して、結果はどちらに転ぶかわからない状態が続いていましたが、最近になってEU残留派がやや優勢となってきました。EU離脱が決まると、英国だけでなく、世界経済にとってもネガティブな影響が及ぶと考えられており、サミットでは、EU残留を目指すキャメロン首相に、各国が賛同を示し、援護射撃した形です。

イエレンFRB議長は「数ヶ月内の利上げが適切」と発言

米景気が4月から回復基調にあることを受けて、米国の地区連銀総裁から、利上げを示唆する発言が増えています。そんな中、先週末(5月27日)に、イエレンFRB議長がハーバード大の討論会に出て発言することが注目されていました。

イエレン議長は、「米経済は改善しており、数ヶ月以内に利上げするのが適切」と発言しました。利上げ時期を、「数ヶ月以内」としたため、6月14・15日のFOMC(米金融政策決定会合)で利上げがあると予想している向きには、肩透かしとなりました。

ただ、FRB議長が利上げ時期を特定するような発言をすることは、もともとあり得ないことであり、6月の利上げの可能性がまったくなくなったとは言えません。

重要なのは、6月3日(金)(日本時間で21時30分)に発表予定の5月の米雇用統計です。4月の米景気指標は総じて改善を示しましたが、4月の雇用統計のみ弱くてネガティブでした。雇用統計は、米FRBが金融政策を決める上で、もっとも重視している指標です。5月の雇用統計が弱いままならば、利上げは7月以降に先送りされる可能性が高まります。一方、5月の雇用統計が強ければ、6月利上げの思惑が復活する可能性があります。

いずれにしろ、6月3日(金)の日本時間21時30分には、5月の米雇用統計発表を受けて、為替やNYダウが大きく動く可能性もあります。6月3日の発表に注目です。

安倍首相が消費税延期を表明

安倍首相は、来年4月に予定されている消費税増税を、2年半、延期する方針を表明しました。正式発表は6月1日となりますが、ほぼ延期決定で間違いないと考えられます。安倍首相は早くから延期に傾いていたようですが、麻生財務相など自民党内に延期に強く反対する勢力があり、なかなか決断できなかったようです。

安倍首相は、サミットで現在の世界経済の状況を「リーマンショック前と状況が似ている」と発言しました。唐突にリーマンショックが出てきたことに違和感がありましたが、これは増税延期の理屈付けと考えられます。

安倍首相はかつて、リーマンショック並みの経済危機か東日本大震災並みの災害が起こらない限り、2017年4月に予定されている消費増税は実施すると発言していました。増税延期の根拠として、「熊本震災を東日本大震災並み」と言うか、「現在の世界経済の危機がリーマンショック並み」と言う必要があったわけです。震災を政策判断の道具にするのは適切でないとの判断から、世界経済の危機に言及したと考えられます。

(2)今週の注目材料

景気対策の発表

安倍首相は、サミットで財政出動での協調を提案しました。提案国の日本は、率先して財政出動を発表する見込みです。5~10兆円の財政出動の発表が見込まれます。消費増税の延期と、10兆円規模の財政出動が同時に発表されれば、日本株にとって、追い風となります。

6月3日発表の5月米雇用統計

前述した通り、為替や世界の株式に影響する可能性があり、注目です。

5月の米ISM景況指数

1日発表予定のISM製造業景況指数、3日発表予定のISM非製造業指数も、重要です。4月以降の米景気回復を裏付ける内容となるか注目されます。